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こんな時代だからこそ考えたい「人生を打開する好奇心」の持ち方(全11記事)

KPI・リターン・前例など、最近の企業文化は“サイエンス偏重” そんな中、イノベーションの成就率を高める「好奇心のお砂場」

ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、執筆や講演、SNSでの情報発信を積極的に行うかたわら、キャリアコンサルティング技能士資格も持つ、心療内科医の鈴木裕介氏。そして、広告会社で人の好奇心を刺激するクリエイティブ開発に従事するかたわら、若者研究や「物事を好きになる気持ち」について研究する考好学研究室を主催する吉田将英氏。そんな両者が登壇されたイベント「こんな時代だからこそ考えたい『人生を打開する好奇心』の持ち方」の模様を公開します。

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好奇心のお試しとしての“試食”

吉田将英氏(以下、吉田):若者研究とかしてると、情報社会学みたいな領域にちょっと重なってきて。「地球を飛び交っている情報の総量は、去年、44ゼタバイトになりました! 10の21乗です!」みたいな。要は死ぬほど情報が多いし、大げさなことじゃなくても、人間って1日でめちゃくちゃ意思決定してるとかっていうじゃないですか。1万回か2万回ぐらい意思決定してるとかって、なんかで読んだ記憶がありますけど。

意思決定って、脳みそを疲れさせて好奇心も疲れさせるから、本当にやりたいことに好奇心が発動する前にもう、些末な情報をこうやって選り分けてるうちに疲弊しちゃって。で、その中の“一握の砂”みたいな好奇心を信じろって言われても「これもおもしろくないことかもしれない」って。「あぁ、今捨てた。もったいない!」みたいなことをやりがちなのかなぁ? とか思っちゃうんで。僕はだから、1回「情報の総量を減らす」っていうことは。

鈴木裕介氏(以下、鈴木):あぁ、確かに。いいですね、具体的ですよね。

吉田:見るもの・聞くものの量を。僕の入院がその最たるもの。リサーチで「違背実験」というリサーチ方法があって。好きなもの、例えば裕さんから『スプラトゥーン』を取り上げます、みたいな(笑)。

鈴木:はいはい(笑)。

吉田:2週間、取り上げた期間に日記を書いてもらって、そこから深層心理を探って企画に活かす「違背実験」っていうのがあるんですけど(笑)。

鈴木:(笑)。

吉田:なんか殴られそうとか、首にひっかき傷が! とかなりそうですけど(笑)。「取り上げる」っていうと他人軸ですけど、1回ちょっと距離を置いてみて。それ(取り上げたもの)が本質的に何を自分の中で意味してたのか? をクリアにするというか。そういうことは、やってもいいのかもなぁなんて。ちょっとまだノイジーだから信じられない、みたいなところもあるのかなとか。

あとはやっぱり、さっき言っていただいたみたいに、そんなにリスキーじゃないちっちゃいことで、ちょびっと試食してみるみたいなこと。「丸ごと買って、ホールで全部食え」じゃなくて、店先で試食。要はそのリスクをヘッジするために、好奇心のお試しができるために試食ってあると、僕は思うので。 何か小さく疑似体験できることはないだろうか? とか、こういうのはすごく思うことですよね。

「一世一代の一大決心です」ってならない方法。それはけっこう工夫とか情報収集とかで、今の世の中いろいろ方法がクリエーションできる気もするので。「信じて飛び越め、清水の舞台だ!」までいかない、もうちょっとちっちゃい1歩みたいなのを考える。

「小さい実験をし続けるための予算」を枠として決めておく

鈴木:それ聞いてて今、思いついたんですけど。製薬会社とかって研究とか開発、Research&Development(R&D)予算みたいなのを、売上の2割とか取ってるじゃないですか。あれって「新しいものを生み出さないと死ぬビジネスだからだ」ってことだからなんですけど。今言ったような「小さい実験をし続けるための予算」を枠として決めとくって、けっこうおもしろいんじゃないかなと。

吉田:確かにね。

鈴木:5パーセントでもいいから、そこはもう無駄づかいしていいし、無駄なことしていいしっていうような。なにか枠組みを設けておくと、けっこう安心かもしれないし。そういう「自分の中でのR&D」みたいなものが仕組み化されるっていうか。あるかもなっていうのを、この場で思いつきました(笑)。

吉田:天才じゃないですか(笑)。

鈴木:いやいや(笑)。でも体験ってそういうことでしょ。違う荷物があって、これとこれくっつけたらぜんぜんこうで、っていうことだと思うんだけど。

吉田:そうですね。やっぱりサンドボックス「お砂場を持ちましょう」って言ったりとか。あとは、弱いじゃないですか。さっきの即物性との戦いになっちゃうと「好奇心のお砂場」って弱くて。「(試すことに)2割も面積使ってられないから、5パーセントに減らして、残りの15パーセントで現業を優先しろ」みたいな。そのほうが今期の株主総会は覚えがめでたい、みたいなことにどうしてもなる(笑)。

鈴木:そう、今期のね(笑)。

吉田:立場が弱いから。ある種、強制的に「絶対死守の20パーセント」とかって、砂場とか公園の面積を最初に決めておかないと、すぐ宅地開発されちゃうということはあるからね(笑)。そこはやっぱり会社の場合は、もう経営意思として。経営者が守らないと、現場はやっぱり短期を追い求めちゃうから。経営意思として死守ってしないとなかなか(難しい)。

個人も企業も持っておきたい“好奇心のお砂場”

吉田:僕の会社のOBの山口周さんという人がいますけど。彼は「アート」と「サイエンス」と「クラフト」。この3つが経営というか企業、仕事の3要素って言ってて。アートがやっぱり一番分が悪いと。説明不可能だし直感だし好奇心だし、即物的なリターンが見えない。でもだから、それをちゃんと守れる会社が、一番センスを持ったアウトプットができる(と言っている)。

でも最近の企業文化は、サイエンス偏重なんですよと。「それ説明できんの?」「KPIは何なの?」「リターンは何?」「前例は?」「近い事例は何ですか?」「Excelで見せて」とか(笑)。それはそれで大事なんだけど、やっぱり好奇心のお砂場みたいなのを、個人もそうですよね、確保しておく。

鈴木:結局でも「それを持ち続けているほうが絶対、豊かでいられる可能性が高いよね」ってまず理屈で思えたら、その枠は「やっぱり設けておこうか」ってなりますよね。

吉田:「理屈じゃない」みたいに言いましたけど、理屈でもそれはね、中長期的に見たらそのほうが。会社でも確かそのほうが、イノベーションみたいなことの成就率が、そういう砂場を持ってる企業のほうが高いっていうのはもう、理屈でも(分かる)。

鈴木:その時に刺さる、予算の名前とかになってますよね。

吉田:そうそう。なので自分の中に、例えば「金曜午後はあんまりミーティング入れないでブロックしておく」とか。

鈴木:確かにね。そこの時間をとっておくっていうのもいいですね。

吉田:決めちゃって、スケジューラーをもうブロックしておくみたいな(笑)。「そこミーティング、どうにかなんない?」って言われても「どうにもなんないっす」って言い張るみたいなことはね(笑)。人間弱いからね、それぐらいしてもいいのかな、なんて思いますね。

鈴木:あと「テーマを決めない雑談の枠を持っておく」とかね。

吉田:そうそう。それは別に決めなくても、呼吸をするように地で大事にできるスタイルの人もいるとは思うんですけど。やっぱり流されがちだったり。あとは「正解」とか「正しさ」とか「べき論」に、どうしても優先順位が絡め取られがちだなって思う人は……これ僕なんですけどね(笑)。だから僕みたいな人は、ブロックしてもいいのかな、なんていう気はしますけどね。

鈴木:本当に。で、僕みたいに「べき」だけで生きてる人が、どんだけしんどいかっていうのを、いっぱい見てきてると……(笑)。

吉田:(笑)。

鈴木:自分のことを本当に豊かにしてくれる「べき」って、そんなに多くないですからね。

吉田:なるほど、確かにな。

好奇心と“課される仕事”を別物にしすぎてしまう

吉田:そんな感じで、じゃあ(スライドを指して)3つ目?

鈴木:でも「行動に移す」まで言えたんじゃないですか?

吉田:確かにね。これはもう、要はちっちゃく試食から始めてみるとか、情報を減らしてみるとか。

鈴木:その中でのR&D予算なり、時間なりを作っておくっていう。

吉田:ブロックしちゃうとか。そのへんは確かに、そうかもしれないですね。で、もうちょっと話を進めて。

(スライドを指して)上(「社会や他者と接続して、誰かの役に立てる方法」)は、なんかもう、今までの話ができた先の話かもしれない。最初から「役に立てなきゃ」とかって思うと、またちょっと「べきべき」しちゃうと思うので(笑)。できたらというか、やりたければみたいな話かもしれないっていうのと。

これ書いた意図は、やっぱり仕事がイメージとしてあって。好奇心と、いわゆる“課される仕事”とを別物にしすぎちゃって。「会社は別に自分がやりたいことをやる場所じゃない」とか。上司も上司で、さっき言った「お前がやりたいだけだろ」みたいなことを言ってしまったりとか。それでどんどん客観偏重になっていったり、外発的動機偏重になっていったりとか。「言われたんでやります」みたいな感じになっていって。

そうするとどんどん、好奇心を自分から出すのが怖くなっていくと思うので。「どうして『やろう』って起案したの?」って聞かれた時に「やりたいからです」じゃなくて「これはナントカ部長も良いと言ってて、世の中的に正しそうだからです」みたいな、外的要因でロジックを組んで説明する。そのほうが自分を晒さずに仕事が進みそうじゃないですか。晒したくない、傷つきたくないし。そういう時に、どうやって(好奇心を)押し殺して、存在ごと否定せずに接続できるのかな、なんてイメージでこれ書いたんですよね。

鈴木:あぁー……若者を愛してますね(笑)。

吉田:僕もそうだったし、後輩を見てても、これで苦しむ人はいっぱいいるので。

「純粋な知的好奇心の先にあるもので飯が食えている」状態

鈴木:でもわりと身も蓋もないけど、本当にやりたいことをやりたかったら「自分がオーナーとか経営者になっちゃう」ってことが、やっぱり一番いいよねっていうのが、僕は自分のクリニックっていうグラウンドを持ってみて本当に思ったところなんですよね。でも、そうなる前の工夫っていうのはすごく必要だなと思ってて。だから自分の本当の興味と、組織が求めること、身の回りの他人が求めることを合わせていくような工夫は、それこそいろいろあるだろうなぁとも思うんですけど。

ちょっとだけマッチョなこと言うかもしれないんですけど、結局「将来的に好き嫌いだけで仕事ができるようになるために力をつける」ってことなんじゃないか? とも思うんですよ。理想的なキャリアって「自分の純粋な知的好奇心の先の先にあるもので飯が食えている」って状態で。この状態を目指していくことが、やっぱりキャリアの本質なんじゃないかなと思ってて。

で、それって履歴書をきれいに埋めていくことだけじゃなくて、内面のこととかも理解しないと。自分の内側にあるキャリア観のこととかをデベロップしていかないと、たぶんできないことで。僕はでも、たまたまメンタルヘルスっていう、飽きっぽい自分が「たぶん10年ぐらいは飽きないでやっていけるだろうな」って領域を見つけたから、すごいラッキーなんですよ。

吉田:ラッキーね。

鈴木:すごいラッキーなんですよ。しかも30代でそういうのを見つけたっていうのは、すごくラッキーなことだと思ってるし。それと経済性っていうのが、たまたま今ちょっとだけかみ合ってる。厳密に言うと、かみ合ってはないんですけど。ものすごく経済性のない医療をしてるので。

吉田:(笑)。

鈴木:かみ合ってはないけど、でもそこで足りない部分をほかの仕事で埋めたりっていうことができていることは、かなりラッキーな状態だなぁとも思うし。でもこういう状態をやっぱり、目指してはきたよなっていう。

吉田:完全なラッキーではない、ということですよね。

鈴木:意図はしてたなって。さっきの「計画的偶発性理論」とかだけど。

吉田:プランドハップンスタンスでここまできたってことですよね。「神棚を磨いとく」っていう、さっきのやつですよね(笑)。

鈴木:(笑)。そういうのはあって。でもこの言い方もちょっとイヤですね。「俺はこうしたよ」みたいなの、すごいイヤだ。ナシです、今のは(笑)。

吉田:みなさん、ちょっと今のはイヤだそうですので(笑)。

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