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パネルディスカッション ~2020年のスタートアップ業界を振り返る~(全3記事)

「個人の時代」は裏を返せば、孤独を感じる社会 家入一真氏が語る、これから必要とされる場

新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、スタートアップ業界にもさまざまな影響をもたらしました。「fabbit Conference」では、フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長兼CEOの志水雄一郎氏、East Ventures マネージングパートナーの衛藤バタラ氏、株式会社サイバーエージェント・キャピタル ヴァイス・プレジデントの北尾崇氏、株式会社CAMPFIRE 代表取締役の家入一真氏らとともに、歴史的な転換期となった2020年のベンチャー業界を振り返ります。 本パートでは、コロナショックで暴落した株価が急回復を遂げた背景や、注目する企業について語りました。

株式市場のコロナショックからの回復の速さの理由

那珂通雅氏(以下、那珂):またみなさんに聞きたい質問で、これは私も本当に興味があるというか、疑問に感じているんですが。実は今おっしゃった3月、確か日本(の株価の底値)が……アメリカの底値が3月19日と、週末をまたいで3月22日なんです。

そこがもう2020年の暴落した底値の日で、ご存じのように、気づけばもうナスダックとダウもそこを遥かに超えて、史上最高値になっているわけです。アメリカや中国もそうだと思うんですけど、その3月20日前後からの株の戻りの早さがすごいなと感じたんです。

その辺りで、IT業界だからとか、そういったことで何か感じたことはありますか? バタラさん、アジアなどでどうですかね。まぁ、アメリカの株も含めて。

衛藤バタラ氏(以下、衛藤):たぶん全体で言うと、株が上がったというよりも、通貨が下がったとは思うんですよね。それはどんどんお金をプリントしているから当たり前にそうなると思うんですけれども、行き先がなくて結局株に行っちゃう。でも、たぶんコロナがなかったら「どれが上がるか?」というのはけっこう当てにくくて、コロナがあるからこそ当てやすくなってるんじゃないかなという感じ。

要するに、売上はたぶん落ちてないだけで株価が倍になっているという感じですよね。なんでかと言ったら、周りはみんなマイナス30パーセントぐらいなので、という。そういうことなのかなと思ってるんですよね。特に一番最初の3月、まぁ5月6月ぐらいの間はそういう現象が起きているんじゃないかなと思います。

那珂:北尾さん、どうですか? 3月前後ぐらいは、どういう思いでマーケットを見ていらっしゃいましたか?

北尾:やっぱり3月前後はうちも、僕の担当だと「Timee」など、飲食店側の人手不足を助けるようなサービスもそうですし、「favy」や「Retty」 もそうなんですけど、旅行や飲食などの投資先がたくさんあったので、もうなんか毎日……(笑)。もちろん起業家の方が一番胃が痛かったと思うんですけど。

ただ、思っていた以上にオンラインがあるよねというか、バタラさんが言っていた「逆に当てやすくなった」という意味で言うと、明確にNoが言える事業がわかったので、逆にYesもはっきりしたかなというところがありました。3月だとあまりわからなかったんですけど、4月にECがすごく伸びてきているとか、「確かに外に出ないからそこで買うしかないわ」というのを経験してから「確かに、これはもうオンラインが明らかにチャンスだな」と。

振り返ると、逆にバットが振りやすくなって、こういう銘柄だったらどんどん投資していこうということがはっきり決まったのは、すごく投資家としてもやりやすかったですし、マクロの上場銘柄もやっぱりそうだったのかなという気がしています。

底値から20倍まで回復した「BASE」

那珂:家入さんは今年の3月ぐらいはどういうお考えだったでしょうか?

家入:まさに調達をしていたところで、そのあとにBASEが底値から20倍ぐらいまでどんどん上がっていって、最高で3,000億円ぐらいまでいっていたので。あとは、いわゆるクラウドファンディングだとMakuakeさんが上場されていて、Makuakeさんもどんどん伸びていったので、正直ありがたいなという感じではあって。

僕らも1回調達を仕掛けていたところ、いったんストップしてバリュエーションを再度作り直してやり直したので、僕らみたいなところにとっては、すごく底からの上がりはありがたかったなという感じ。

那珂:いや、本当にもうBASEもすごいですよね。底値から20倍ですか。

家入:そうですね。今はちょっとまた落ち着いてますけど、すごかったですね。

那珂:我々も今振り返ると、もう本当に「ニューノーマル」という言葉も出てきて、気づけばZoomなどがもう5倍ぐらいになったり、Netflixなども上がっていって、いわゆるコロナ銘柄という感じで出ていって。たぶん本当にBASEもそういうところだったと思うんですけど。

「コロナからSaaS」へ、toBのビジネスが注目を集める理由

那珂:上場後でもいいし上場前でもいいと思うんですけど、今年1年間で「やっぱりこの銘柄がすごかったな」と、感じられている具体的な企業があったら、それぞれ出していただきたいんですけど。当然、フォースタートアップスもそうだと思うんですけれども。

志水雄一郎氏(以下、志水):そうですね。Post-IPOの件に関しては、もうみなさまにお任せするとして、Pre-IPOのマーケットで言えば、やはり私たちが応援したチームの一部は、SaaSビジネスの会社さまやオンラインサービスの会社さまがすごく伸びる可能性を秘めていて。かつ、KPIの進捗などを見ていても、一瞬下がったものの、そのあと一気に伸びた会社が多数出てきたので、やはりそういう企業群ですよね。

今テレビCMをやっていらっしゃる、アンドパッドさんやベルフェイスさんといった、強いSaaSビジネスの会社がどんどん生まれたりしてますよね。ですので、やっぱり私たちが注目すべきチームは、過去はtoCのビジネスが多かったと思うんですけど、直近ここ2年間ぐらいだとやっぱりtoBのビジネスでは注目すべき銘柄が増えたなと思っていますね。

那珂:今年は本当に「コロナからSaaS」というのが1つ、すごく大きなキーワードだったと思うんですけど、投資家の立場から見て、なぜSaaSのバリュエーションが上がっていくんですかね。

志水:もうすでにバリュエーションの計算方法が違いますからね。アナリストの方や機関投資家のみなさまの一部の中での議論で「なぜ投資市場、株式市場の中では、SaaSか非SaaSで計算方法を変えるんだ?」という議論がなされるぐらいで。そこで1つのビジネスモデルが計算方法が違い、通常のビジネスの数倍ぐらいの企業価値がつくチャンス、可能性があるという。まぁ、新しいルールが生まれたということだと思うんですけど。

投資家から見た、コロナで一気に伸びた会社

那珂:バタラさんのところは、有名な話ですけどメルカリやBASEもそうですし、やっぱり投資されて大成功を収められたと思うんですけど、「コロナで一気に変わったな」とか「活躍している会社はこんな会社だな」というふうに、具体的に挙げられるような会社はありますでしょうか?

衛藤:上場後だったらやっぱりBASEなどですよね。これはたぶん日本だけじゃなくてアメリカを見ても、Shopifyなども何倍かになっていますし。上場前の会社も、実はインドネシアなどでも日本のBASEみたいな会社に投資していまして。そこもすごくGMV(流通取引総額)などは上がってますね。やっぱりEコマース系などは一番、見て分かるぐらい上がっているんじゃないかなと思いますね。

那珂:EコマースもAmazonを筆頭に全般的に大幅に伸びたという業界で、今年を振り返ると、もちろんSaaSもそうですし、ECも思った以上に、ここまで伸びるのかという感じになってきているので、非常に大きなテーマだったと思います。

北尾さんは今年を振り返ってみて、「この銘柄は」というものは何か具体的にありますでしょうか?

北尾:続けてあれなんですけど、僕らも「藤田ファンド」でBASEに出資していたのと、あとサイバーエージェント・キャピタルではコイニーを投資していた流れで、ヘイの株を持っているので、そこで言うとSTORESがBASEと似たモデルなので、同じような伸びをしています。本当にECのところはやっぱり(伸びたなと)感じているのと。

SaaSで言うと、ちょうど去年で言うとSansanなどは上がったんですけど。僕らが今投資しているその次のSaaSというと、今シリーズA前後で、まだチームができていないので、爆発的にトランザクションが伸びたというのはなく、堅調にいってるんですけど、やっぱり投資家のバリュエーションのところはあって。

直近までで言うと、ARR(年間経常収益)の10倍ぐらいがSaaSのなんとなくのバリュエーションなので、「MRR(月次経常収益)を見ておけば、だいたい時価総額がわかる」と言っていたのが、最近は10倍とかじゃなくて20倍とか、「それぐらいのMRRでそんなバリュエーションがつくんだ」ということを投資先に対してすら思ったりするぐらい。上場企業のSaaS銘柄もやっぱり上がっていることもありますし、いろんな投資家の方から期待いただいているんだなとは思ったりもします。

あと、そもそもダメージを受けたんだけれども回復したということで言うと、それこそタイミーなどは飲食が大打撃を受けていたんですけど、とはいえ日本は人手不足という大きなところはやっぱり変わらなくて。主に物流やECの倉庫周りはすごく人手が足りないので、逆にそちらに思いっきりシフトをかけて大きく変わったこともあって、物流などに合わせて伸びたと。

シューマツワーカーという副業をやっている会社が、どちらかというと地方の会社さんが「ネットはいいや」と言っていたのが「ランディングページ作らなきゃ」とか。「ECはやらなくてもいい」と言っていたパン屋さんが「ECやらなきゃ」というので、副業でWebのシステムインテグレーターの方やECサイトを立ち上げられる方が欲しいというニーズがすごく強くなったり。そういうかたちで副次的に追い風になった投資先が何社かありました。

「個人の時代」は拠りどころのなさと表裏一体

那珂:もう家入さんにこの質問をするのも失礼なので。やっぱり傍から見ても話題になっていますけど、たぶん家入さんのところはもう今年の一番はたぶんCAMPFIREだなと思うので。ほかに気になった会社や、意外とコロナで一気に変わったなと感じる会社はありましたでしょうか?

家入:上場企業で言うと、僕もBASEが今年で一番伸びたなと思っていて。何かというと、やっぱり圧倒的に個の力を信じきっている会社やサービスが今伸びているんですよね。個人やスモールチーム、SMB(中堅・中小企業)の可能性を本当に信じている会社やサービスが伸びていて。

そういった意味で言うと、投資先では、例えば「食べチョク」という農家の方の農作物のEコマースマーケットプレイスだったり、オンラインヨガのSOELUという会社があったり。

あとは違う観点から言うと、オンラインのカウンセリングでcotreeという会社。これは投資先ではなくどちらかというと経営の顧問のようなかたちで関わらせてもらっているんですけど、やはりコロナ自体が大きく価値観を変えたり。

あとは、よくニュースにもなっていますけれども、やはり心を病む方も増えているという不安な時代のなかで、すごくカウンセリングの需要が伸びていると。特に日本人は(メンタルの悩みで)病院に行くことに抵抗感があったり、ハードルが高いと感じている人も多いので、オンラインで受けられるといったところですごく伸びていて。

この数年ずっと「個人の時代だ」と言われてきたわけですけれども、その個人の可能性はどちらかというと、「個人でも稼げる時代」という扱われ方をしてきていて。個人の時代というのは、裏を返すと、孤独を感じてしまう社会でもあると。要は「会社から飛び出して1人でなんでもやれる時代だと、YouTuberにだってなんにだってなれるよ」というのは、裏返すと「拠りどころがない」という側面を持っているわけですよね。

そういったなかで、やはり個人で生きていく、個人で働いていく時のケアや寄り添う場所がこれからはより必要とされていくんじゃないかなというのは、なんとなく感じています。

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