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SDGs100人カイギ vol.12:世界を変える、サーキュラー・エコノミーの挑戦。(全4記事)

廃棄される米のもみ殻から、いかに新素材は誕生したか? ソニーが「トリポーラス」で目指す、循環型社会への貢献

2030年までに本気で世界を“変える”ことを目標として、さまざまな活動をしている「100人の話」を起点に、クロスジャンルでゆるやかな人のつながりを生むプロジェクト「SDGs100人カイギ」。2020年11月25日に開催されたVol.12では「世界を変える、サーキュラー・エコノミーの挑戦。」をテーマに4人のスピーカーが語りました。本パートでは、ソニー株式会社 知的財産センター知的財産インキュベーション部ストラテジーGp技術・サステナビリティ推進リーダー 田畑誠一郎氏のお話を公開します。

もみ殻を原料とした多孔質なカーボン素材、トリポーラス

田畑誠一郎氏:それではトリポーラスについてお話しさせていただきます。

トリポーラスとは、お米のもみ殻を原料とした多孔質なカーボン素材です。多孔質カーボンといいますと世の中に色々ありますが、有名なのは備長炭や活性炭といったものだと思います。

今、世界で年間1億トン以上、日本でも約200万トンの米のもみ殻が廃棄されていますが、ソニーはこのもみ殻を使ったオリジナルな多孔質カーボン素材で、循環型社会やサーキュラーエコノミーの実現に貢献したいと考えています。

はじめに、私の自己紹介をさせていただきます。私は大学院でエネルギー変換材料の研究を行なった後、2006年に入社し、研究所のほうで「バイオマスを使ったリチウムイオン電池の高性能電極材料の開発」に従事しました。

もともとソニーには、バイオマスを使った技術や商品の実績が多数ありまして、その例として、植物原料プラスチックを使った商品や、オレンジの皮の成分を使ったプラスチックリサイクル、バイオセルロースを使ったヘッドホンなどが挙げられます。このような背景と、当時のリチウムイオンバッテリー事業への展開を志向して、高機能な電極材料をバイオマスで作るという開発テーマが決まりました。

「リチウムイオン電池」とカーボンの関係について説明させていただきます。最近、吉野(彰)先生がノーベル賞を取ったことで注目されておりますが、様々なモバイル機器を支えるリチウムイオン電池の電極材料には、カーボン材料が使われています。(スライドを指して)カーボン電極と書いていますが、ここに弊社はバイオマスを原料としたカーボンを使おうと考えました。

もみ殻は「天然のシリカ樹脂複合体」

では、なぜもみ殻にたどり着いたのか? というお話をさせていただきます。

私が入社した当初、微細な球状シリカの結晶である「オパール」を鋳型に製造される「逆オパール型カーボン」というカーボン材料が、アカデミアで非常に盛り上がっていました。この材料は非常に長い製造プロセスで、多くのエネルギーを消費しながら作られる材料なのですが、様々な分野に応用展開できる「夢の材料」といわれていました。

このような素材を、バイオマスから低コストかつ環境負荷を下げて作れないかということで、私は「シリカと石油由来樹脂の複合体とみなせるもの」を捨てられている天然物の中から色々探索を進めました。(スライドを指して)ここにいくつかの植物を挙げていますが、これらはシリカを含有する植物です。その中で米のもみ殻が特異的にシリカを多く含有し、他の植物とは大きく異なる原料であることがわかりました。

(スライドを指して)つまり、上に示しますこの「人工のシリカ樹脂複合体」に対して、もみ殻は「天然のシリカ樹脂複合体」であることがわかりました。

自然の力で土の中のガラスの元となるケイ酸を吸い上げて、もみ殻が細胞間や細胞の表面に高い濃度のシリカを蓄積するというユニークな特徴を知った時「これを使って、石油由来の原料と同じような多孔質なカーボン材料ができるに違いない」と考えました。

製造方法は、もみ殻を炭化してシリカを除去して、賦活という水蒸気による高温処理を行います。

シリカを除去することで、大きなマクロ孔ができ、顕微鏡でも見えるメソ孔や、さらに顕微鏡でも見えないマイクロ孔が空いた構造を形成できます。現在、我々はこのトリポーラスを作るだけではなく、そこから出てくるシリカの廃液を使った高機能な素材開発も進めています。

トリポーラスと活性炭・備長炭との違い

従来の活性炭や備長炭との違いを示した、細孔分布を示します。トリポーラスの名前の由来にもなりましたように、もみ殻由来の多孔質カーボンは、3つの領域に細孔が空いています。従来の炭というのは、小さい1ナノ前後の「マイクロ孔」と呼ばれる細孔が空いているのに対して、トリポーラスはそれに加えて「メソ孔」と呼ばれる2~50nmの細孔と、1μmにピークを持つ50nm以上の「マクロ孔」と呼ばれる大きい細孔の、3つの領域の細孔が特徴です。

模式的に表すと、一般的なヤシガラ活性炭は小さいマイクロ孔が多く空いていますが、顕微鏡で見るとほとんど平らな表面に見えます。一方トリポーラスは、メソ孔が空いていることで顕微鏡の見た目も活性炭とは全く異なります。トリポーラスは模式的に描くと、(スライドを指して)このような大中小の穴が階層的に空いているような素材です。

ある日、このもみ殻由来の多孔質カーボン材料が、従来の炭・活性炭では吸着しづらい物質があることを見つけました。(スライドを指して)こちらの写真で見ますように、従来の活性炭を加えてもほとんど色が変化しなかった水溶液が、トリポーラスを加えると完全に色が消えるまで色素が吸着されるという現象を発見しました。

当時は電池の電極材料としての開発を行っていましたが、この現象の発見がきっかけで「この素材を様々な環境浄化応用ができるのではないか?」という機運が、研究所で高まりました。それ以降、電池用途から一転、吸着技術を軸とした環境浄化応用を志向した検討を進めることになりました。

トリポーラスの3つの特徴

ここで、このトリポーラスの基本的な特徴を、3つご紹介させていただきます。1つは吸着スピードが非常に速いということです。

一般的な活性炭に比べて、アンモニアを6倍、(スライドを指して)水の中のメチレンブルーという色素を2倍以上の速さで吸着することが可能です。

2つ目は、トリポーラスはメソ孔やマクロ孔が多く存在するため、従来の活性炭では吸着できないような大きな有機分子やタンパク質、更にはウイルスやバクテリアも、水中でしっかり吸着できる特徴があります。

もう1つ、この穴の中に様々な機能性物質を充填することによって、トリポーラスにプラスアルファの機能をつけた使い方もできます。たとえば薬剤を多く添着可能なトリポーラスは、空気浄化分野において従来の活性炭よりも長寿命なケミカルフィルターの実現が可能になります。

トリポーラスの特徴を活かした、さまざまな事業展開

我々は、このようなトリポーラスの特徴を活かし、さまざまな分野に事業展開したいと考えています。今、実際に世の中に出ている実例をいくつか挙げさせていただきますと、(スライドを指して)ロート製薬様よりトリポーラスを配合したボディケア製品や、昭和薬品様の石鹸があります。

弊社本社の1階に、創業者の井深(大氏)が書いた設立趣意書のショーケースの中がありますが、その中にトリポーラスを入れることによって、酸性ガスを吸着し、この設立趣意書の劣化を抑えています。また、世界遺産である平等院の倉庫においては、貴重な文化財の劣化を促進するガスをトリポーラスで吸着除去して、それらを保護する取り組みも行っております。

また、トリポーラスを繊維の中に入れることによって、消臭効果や抗菌性を持たせた繊維や生地を製造し、これを使ったアパレル商品も展開されています。(スライドを指して)こちらは、EDIFICE様より販売されたトリポーラスのパーカーやソックスの写真です。最近の商品ですと、MOON-X様より洗顔剤も展開しております。少し長くなりましたが、ここまで、トリポーラスの素材や基本的な機能と実用化のお話をさせていただきました。

トリポーラスが貢献できるSDGsについて

ここからは、このトリポーラスが貢献できるSDGsについてお話させていただきます。

まず1つは、世の中で捨てられているもみ殻を使って、循環型社会やサーキュラーエコノミーの実現に貢献したいと考えております(12番への貢献)。また現在、日本だけでなく世界で、米の収穫後のもみ殻やわらの野焼きが問題になっています。野焼きは大気汚染だけでなく、温室効果ガス発生原因の1つにもなっていることが多くの専門家から指摘されています。ソニーとしましては、もみ殻の新しい使い方としてのトリポーラスを世界に広げることで、野焼きを減らし気候変動への緩和に貢献したいと考えております(13番への貢献)。

もう1つは、このトリポーラスは水中のウイルスを99パーセント以上除去できる特性や、あとはPM2.5の原因でもありますVOC(揮発性有機化合物)の吸着にも優れます。このような特長を活かして、環境改善、地球環境の改善にも貢献していきたいと考えています(3、6、11番への貢献)。

我々の活動は、基本的にオープンイノベーションで進めております。作る部分と使う部分のそれぞれにおいて、さまざまなパートナー様と力を合わせて、このトリポーラスを広げていきたいと考えています(17番への貢献)。

ソニーとして注力しているのは、トリポーラスの求心力を高める活動です。特に、トリポーラスの機能価値を高める取り組みについては、国内外の学会発表を進めながら、アカデミアや企業の専門家の方々と積極的に交流させていただき、認知度や信頼性を高めております。更に、第三者視点でのライフサイクルアセスメント(LCA)も行うことで、環境価値も高めたいと考えております。

社会課題解決への、2つの側面からの貢献

最後になりますが、我々のトリポーラスの社会課題解決への貢献をまとめますと、2つの側面で貢献できると考えています。

1つはトリポーラス製造による貢献です。捨てられているもみ殻を使うことで、サーキュラーエコノミー実現への貢献と、野焼きや埋め立てに替わるもみ殻の新しい使い方を推進することで、気候変動緩和への貢献が可能です。世界で年間1億4,000万トン発生しているもみ殻のすべてをトリポーラスに変換すると、最大で1400万トンのトリポーラスが製造可能です。

もう1つは、トリポーラスの機能による貢献です。トリポーラスの優れた吸着特性を活かして、汚れた地球の環境改善や、さまざまな水や空気に関する社会課題の解決および、人々の生活の質の向上に貢献することができます。

最後になりますが、トリポーラスのWebサイトもありますので、ぜひご覧になっていただければと思います。トリポーラスに関する最新ニュースや、技術の基本的な説明など、色々な情報を掲載しておりますので、ぜひ見ていただけると幸いです。

ご清聴ありがとうございました。

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