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パネルディスカッション:「高度情報化社会で成長するための戦略とは何か」(全4記事)

メルカリ・小泉氏「業績予想を出すことには、基本的に懐疑的」 企業のサスティナブルな成長を支える資本市場の在り方とは?

昨今、ビジネス環境の破壊的変化の中で「既存のビジネスは衰退し新ビジネスが急速に成長する」といった現象が、さまざまな分野で起きています。そしてこのような変化は、新型コロナウイルスの影響で加速しています。そんな中、新刊『なぜ、それは儲かるのか: 〈フリー+ソーシャル+価格差別〉×〈データ〉が最強な理由』にて、日本企業が今後とるべき新しいビジネス戦略を提案された山口真一氏が、講演およびパネルディスカッションを行いました。本パートでは、株式会社企(くわだて)代表取締役 クロサカタツヤ氏、株式会社メルカリ 取締役President 小泉文明氏が参加された、パネルディスカッションの様子をお届け。「日本の人材流動性の低さ」などについて語ります。

四半期開示は人類のためになるのか?

渡辺智暁氏(以下、渡辺):もう一つ。企業の経営のトップのマインドとかビジネスの見直しとか、そもそもの事業の再定義、アイデンティティの再確認みたいな。今いただいた組織内の話ではなくて、今度は組織の外的なところを考えた時に、じゃあ日本の政府としてこのプロセスを後押しするために何かやるべき政策課題があるか? というところ、もしご意見があれば伺いたいんですけれども。

例えば、それは資本市場のあり方についての何かかもしれないですし。あるいはその具体的な人材育成に関する政策かもしれませんが。何かそういった点で、政策課題として意識されているところはございますか? 

小泉文明氏(以下、小泉):じゃあ、私から2つ。1つは資本市場で言うと、僕は業績予想を出すことに対しては、基本的に懐疑的だなと思っていまして。ちなみに言うと、メルカリは出していないです。特にグローバルなアメリカにおいても、基本的にみなさん出していないですね。

やはり業績予想を出すことによって、資本市場へのコミットメントが強すぎるがあまり、新規事業の投資であるとかそういうものに対して、非常に短期的になっていて。私自身はむしろ、企業の本質的な優位性を失わせるんじゃないかなとさえ思っています。

これは実はBlackRockをはじめ、いくつかの会社なんかも同じようなことを最近言い始めているんですが。四半期開示であるとか、業績予想みたいな短期的なところに対しては、私は本当にそれが人類のためになっているのか。

企業がサスティナブルに、今はESGなんかも言われていますけれども、サスティナブルな成長のために本当に意味があるものかというのは、エンロン事件からきてるガバナンス改革的ないろんな反動はあるんですけれども。そこは短期すぎる、バランスが悪くなっているというようなかたちを、ちょっと危惧しています。

日本は「人材の流動性」が明らかに低い

小泉:2点目。私が常にネット業界で感じているのは、やはり人材の流動性ですね。流動性が明らかに、日本は低いなと思っておりまして。それはやはり、競争力がなかなか産まれてこない原因なんじゃないかなと思っています。

これは「民」だけの話ではなくて「官」も含めてだと思っていまして。いろんな多様性がある組織であるとか、人材の流動性を確保することによって、競争力を得ていくことは非常に重要かなと思っています。

まぁ当然、セーフティネットとのバランスがあると思っているんですが。やはり人材の流動性、インターネット企業は流動性が高い中で伸びてきている部分が、多分にあるんじゃないかなと思っていますし。

最近、徐々に大企業にいくネット企業出身者が増えてきていて。かなり大企業の方々も意識して、ネット系の方々やテクノロジーの人材を採っていると思うんですが。ただ一方で雇用……なんでしょうね。年功序列が残っていたりであるとか。働く上での制度にいろんな課題があって、過渡期かなと思っているんですが。

やはり人材の流動性を高めないと、クリエイティブにおいては競争力が上がっていかないと思っていますので。もう少しセーフティネットを含めた上で、バランスのいい雇用の流動化についての議論がなされるといいかなと思っています。

ダイバーシティと“えこ贔屓”の必要性

渡辺:ありがとうございます。クロサカさんは、いろいろな政府委員会で政策課題について議論することも多いと思うんですが。この点はいかがでしょうか? 

クロサカタツヤ氏(以下、クロサカ):はい。2つあると思っていて、1つはダイバーシティと“えこ贔屓”をもっとしたほうがいいんじゃないかということです。

ダイバーシティって、年齢であったり性別であったり、文化的なバックグラウンドであったり人種であったり、いろいろな切り口があって。どうそれを定義してもいいんですけれど。とにかくダイバーシティが足りないなということは、すごくあちこちで感じるんですね。

普通の我々の生活空間の中はダイバーシティで満たされているはずなのに、例えば企業経営であるとか、あるいは政府の委員会とかももちろんそうですけれども。そういったところで「なんでこんないびつなの?」って、40半ばのおじさんの私が言うのが一番説得力がないんですけれども、思っちゃうわけです。

それって結局、現実社会からどんどん乖離した議論になってるんじゃないの? 経営もそうなんじゃないの? ということを最近強く感じることが、生活の中であちこちであって。そう考えると、もっとダイバーシティをちゃんと考えて意識してやるべきだし。

もっと言うと、その中で明らかに「この人はこの世代である」とか、こういう属性である人たちに、もっとスポットライトを当てると言うんだったら、えこ贔屓しちゃっていいと思うんですよね。そういうことが、あまりにも不足しすぎているかなというのは1つあります。

「みんな、もっと勉強した方がいい」

2つ目は、さらにオーディエンスのみなさんに喧嘩を売るみたいな話なんですけれども、でも今日は勇気を持ってあえて言っちゃいます。山口先生に敬意を払って言いたいんですけれど、みんな、もっと勉強したほうがいいですね。いや、マジで。

勉強が足りないですね、正直。勉強が足りないのを、いろんなところで無理やり補おうとするんで、インチキになっていたり。もっと言うと「みんなでキャッチアップしましょう」と言って、キャッチアップだけで終わっちゃってるんですよ、正直。

FSP-Dモデルも実は僕、そういうところがあるんじゃないかなと思って。やっぱり時間がかかるということも含めてなんですけれど、フリーミアム1つとってみても、実は奥深いものじゃないですか。

何をどうやってまいていけばいいかとか、どこでどういうふうに、今なのか、もうちょっと先なのか。回収の方法とタイミングは何なのかということって、やっぱりやり続けないとわからないし。それってやった人がまとめることによって、勉強できたりもするわけですよね。

勉強する教材があるんだったら、勉強しようぜという話で。やっぱりそういうものを、もっと僕らは家でも外でも積み重ねていかないといけないんじゃないかなって。なんか自分のことを完全に棚にあげていますけれども、思っています。

渡辺:ありがとうございます。ということは、そういったフリーミアムならフリーミアム1つとっても、もっと情報がオープンに流通するようにとか、議論が盛んになるようにというところにも、政府の役割があるかもしれないということですかね? 

クロサカ:はい。政府の役割ってやっぱり、リファレンスを示してエンドースしていくことだと思うので。これを言うと、ブラック企業経営者の極みって言われそうですけど。「寝ないでいいから勉強して、もうじゃんじゃんアウトプットしていこうよ」ということを、気持ちだけは言いたいです。

最近、やっぱりこれが言えなくなってる世の中って、ちょっと変だなと思うんですよね、正直。もっとガツガツ、夜中でも朝でも勉強してアウトプットをして「これどうなの? ってみんなで話そうよ」ということが言えない世の中なんてPOISON、みたいな感じになっていますね。

(一同笑)

「上位1パーセントの法則」への質疑応答

渡辺:なるほど。ありがとうございます。そろそろ終わりを意識しなければいけない時間になってきました。みなさんから、すでに20問近いご質問をいただいているので。その中から僕は「これは」と思ったのを、いくつか取り上げてみたいんですが。

1つは価格に関して。価格付けの時に、山口さんが、確か「上位1パーセントが実はものすごい購買力を発揮しているんだ」というデータを見せながらお話ししていましたが。これはパレートの法則では従来「2:8の法則」。「2割の人が8割の売り上げをあげる」みたいなかたちで言われてきたものがあり。

これは、パレートの法則を置き換えるようなものなのか? というご質問があったし。僕はそれとの関連で思い出したのが、山口さんも本の中で、フリーに関してはフリーミアムの名付けの親でもあった、クリス・アンダーソンの『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』という本の枠組みを引用したりもしていますが。同じアンダーソンが書いた、ロングテールのほうはあまり言及がないなと思って、僕は疑問に思っていたんですね。

つまりロングテールは逆に、頭はちっちゃくても尻尾のほうが長いので。ちっちゃい売り上げが積み重なって、結局ほとんどのマジョリティの売り上げになっていくような世界があるという、ぜんぜん別の……でもそれはそれでまた、データベースを活用した情報社会らしいビジネスモデルだなという感じが、僕はしているんですが。

そういったいろいろな、パレートだったり1パーセントだったりロングテールだったりという概念がある中で。どれか1つは正しいのか? 何かの棲み分け・使い分けがあるのか?

そういったあたり、山口さんの考えがあればそれもお聞きしたいですし。小泉さん、クロサカさんのご経験、ご知見の中から、何かおっしゃっていただけることがあれば、それも。というのを1つ、思います。

山口真一氏:じゃあ私のほうからお話ししますと。質問いただいている中の「パレートの法則を置き換えるものなのか?」ということで。実は書籍の中では、パレートの法則も引用してこのお話をしているんですけれども。

結論から申し上げると、全部が正解っちゃ正解で。ものによって違うだろうという話は間違いないと。今回取り上げたのは、多段階価格差別における上位1パーセントの法則であると。多段階価格差別においては、基本的に上位1パーセントの法則というのは必ずきくわけですけれども、1番には「2:8の法則」というのは、通常財の時は働いてくるわけですよね。

「(全体の)2割の商品が、売り上げの8割を占めている」みたいな話というのは、まぁマーケティングで言われたりしますけれども。それが普通の製品なら出てくると。

さらに、クリス・アンダーソンは『フリー』という本の中で「フリーミアムのサービスでは、全体の5パーセントが全体を支える」と表現しているんですね。さらに今回の私の本では「多段階価格差別においては上位1パーセントだ」と書いているというところで。

それはフリーに加えて、多段階価格差別によって支払時額をすべて吸収できるからという特性が効いているということで。結局、何を生かしているかということによって変わってくると。

先端的なFSP-Dモデルであれば、上位1パーセントの法則というのはかなり効いてくるのではないかな? と考えております。あれ? 他に何を言おうとしたんだっけな。ま、いいや。まぁ、とりあえずここまで。

渡辺:他のパネルの方、コメントがあれば。思い出したらまた山口さん、なんか追加で。

小泉:いや、もう本当そのとおりだなと思っていますね。だから、自社のモデルをどのビジネスモデルであるとか、ロングテールなのかブロックバスターなのかとか、いろんな戦略の議論がありますけれども。何がそれにマッチしているのかということを、正しく理解して。クロサカさんから「もっと勉強したほうがいいよ」という話もありましたけれども。本当にそういう中で、自分たちとして何を大事にしていくのか? というか、どれで戦っていくのかをまずちゃんと見極めることが大事ですよね。

なので、僕らは例えばメルカリのモデルをやっている時に、競合他社が本当に20社ぐらい参入している中で言うと、あきらかにWinner-takes-allなわけですよね。もう1社が走りきらなきゃいけないという中で、僕らは思いっきり赤字になりながらも、もう資金を突っ込んでいったんですけれども。それがわかってない会社なんかは、けっこうゆったりやってたんですよね。

やっぱりその辺は、モデルによってぜんぜん戦い方が違ってくるので。そこの理解を経営者が本当にわかっているのか? というのが、けっこう勝負のあやだったんじゃないかなと思っています。

渡辺:なるほど。ありがとうございます。

クロサカ氏流の「ロングテールの捉え方」

クロサカ:じゃあ私から。ロングテールの捉え方というふうに、ちょっと再解釈してお話をすると。けっこうこれ、難しい問いじゃないかなと思っているんですね。いわゆる「パレートの法則の8対2」みたいな捉え方というのを、スタティックに考えれば理解することができますし。多段階価格モデルで、これが1対99になるということもあるのかもしれないと。

一方でロングテールって、消費者による何らかの先行であるとか消費行動の表れだと考えるんだとすると、これには必ず何らか変異している要素があるはずなんですね。

例えば時間軸が当然違うだとか、その時の外部環境の条件が違うとか購買条件が違うだとか。たぶんいろいろな要素が入っている中での、特異値の表現なんだと思うんですよ。つまりこれをどういうふうに、スタティックに見れば「ずらーっと並んでっているね」というふうには言えるんですけれども。この1つひとつの特異値をどう評価するのかということも、実はロングテールではけっこう問われるところがあるかなと思っていて。

それが、なんかちょっと理屈っぽいことを言っていますけれども。どういうところで現象として現れるかと言うと、それこそ最近ちょっとアレですけれども、例えばコロナ前のエアラインのダイナミックプライシングとか、たぶんそういうことだと思うんですよね。条件によって状態によってプライスが違うということを、そこにいる消費者が受容することで、そこで購買行動が起きているということで。

それはやっぱり、再現性が必ずしもある話ではなくって。つまり、必ずしも打率がいいとも限らないみたいなところもあり。こういうものを捉えながら……ただいろいろ、なんて言うんだろう。多段階であるとか、あるいは無段階なのかもしれませんね。リニアにシーケンスな感じで、変化していくものかもしれませんけれども。

こういうもので変化させていきながら、先ほどの面積をひたすら埋めていくというようなことというのが、たぶんこれこそ実は、チャレンジしたり仮説を立ててそのシミュレーションベースでビジネスをしたりということも含めて、テクノロジーでできる、特にデジタルテクノロジーでできることなんだと思うんです。

なので、すごく理屈と言うか、若干数学っぽいものかもしれないんですけれども。そういうことを意識して「ロングテールって単に何かを代表しているものだよね」というだけじゃなくて、捉え方を考えていくということが必要で。

なんでダイナミックプライシングの話をしたかというと、つまりこれってAIの話ですよねということなので。次のテクノロジーを考えていく時には、必ずそういう視点が必要になってくるんじゃないかなと。最後なのにお前は話を膨らませるのか、という感じで言ってみました。

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