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基調講演(全2記事)

「戦略という概念は死んだ」 冨山和彦氏が語る、コロナショック後の経営に必要な組織の"変容力"とは?

2020年5月に開催され、好評を博した特別講演会『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』。経営共創基盤CEOの冨山和彦氏が、コロナショック後の日本が生き残るためには古い日本的経営を脱し、ローカルとグローバルの双方で構造改革を行う必要がある、といった意見を述べました。そして6月、前回よりもさらに多くのオピニオン・リーダー、ビジネス・リーダーをパネリストに迎えた『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画2』が緊急開催。堀内勉副所長の司会の下、冨山氏が危機後の日本経済・社会の再生に向けたビジョンを徹底的に議論しました。本記事では、冒頭の基調講演を公開します。

“日本的経営”の成功とピークアウト

冨山和彦氏:まず、私の方から今回の2冊目の本『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』で書いたこと、概要をパッとお話をして、できるだけみなさんとの議論を長くしたいと思います。

まず、最初に書いたのは日本的経営と言うんでしょうかね。日本の会社とか経営の在り方、これが私の理解では長い間すごく成功して、ちゃんと合理的に形成されて合理的に機能した。

三種の神器で言えば、終身年功制とか企業別組合とか新卒一括採用とかそういう要素で、いうなれば同質的な集団、連続的な集団、固定的なメンバーで営々と改善、改良して、いいものをたくさん安く作るという、そういうモデルで長年日本は「戦後の復興をなしとげた」ということなんですけど。

これがおそらくピークを迎えたのが1990年頃ですね。「ジャパンアズナンバーワン」と言われたのが1978年で、ピークアウトしたのが1990年。ちょうどバブルのピークですよね。堀内さん(社会的投資研究所副所長 堀内勉氏)と我々の世代、ちょうどその頃にアメリカに留学しているんですよね。チヤホヤされていい気分で(笑)、留学していたわけですけど。

今、考えるとそれが光と影になりまして。むしろ、青木(昌彦)先生なんかと当時「日本的経済システムの合理性」みたいなことを、科学的に検証していたわけですけれども。

同時にこれも同じように青木先生が「ある種のこういったガチガチにでき上がった制度というのは、経路の依存性があって脱却しにくくなるので、それが課題です」ということを提起されてきたところ、その通り、罠に嵌っちゃったというのが1990年以降の話です。

あちこちで起きる“チャンピオンの交代”

さんざん言われているように、1990年代以降にグローバル化、市場経済圏への全世界化という、ある種の不連続の変化。それから、デジタル・トランスフォーメーションという不連続の変化が起きて、かなり激しい破壊的な変化、イノベーションが起きる時代になってきたということです。

そうすると、あっという間に既存の強烈な会社が破壊されたり、チャンピオンが交代をする。チャンピオンが同じ種目で交代するというよりは、種目を替えられちゃって交代するという。典型的には、IBMがマイクロソフトとかインテルに潰されそうになるとかそういう現象です。

そういったことがあちこちで起きる。そういう時代に入っていったというのが1990年代以降で、残念ながら日本の多くの、典型的には電機メーカーというのは、そのときにむしろ破壊される側に回ってしまいました。

ただ、銀塩フィルムの世界では、むしろアメリカのコダックが破壊されて、富士フィルムが生き残っているわけなんで。これは必ずしも日本の会社が負けてきたわけではないんですけれども、そういうことが起きている。

私自身、産業再生機構で扱った案件は意外とこの手の、覇者の交代劇に付き合ったケースが多くて、ダイエーって実は前の時代の破壊者なんですね。百貨店という業態を破壊したプレーヤーなんですけど、今度それがもともと同じことをやっていたイトーヨーカドーがセブンイレブンを始めることによって、コンビニ、さらにはEコマースによって破壊されていくわけです。そんなことがいっぱい起きてきました。

「両利き力」が問われる時代

そうなってくると、こういう破壊的イノベーションの時代というのは、一方で既存の事業で、これはちゃんと事業があるわけですから。既存のプレーヤーにとっては既存の事業を改良して、より収益力を深めていくということと、同時に破壊的なイノベーションの波をうまく掴むという、この2つの種類の経営力が必要になります。昔の多角化というのは、例えばパナソニックが、もともと白物家電をやっていたものがテレビに出ていくとかというのは、本質的にはゲームは同じなんですよね。

電気製品を大量に生産するモデルなので、同じ種目の中での多角化だったんですけど。今の多角化というのは違う種目、要するに野球をやっていた会社がサッカーやりなさいとか、野球やっていた会社がバトミントンやりましょうってそういう話になってくるのです。

したがって、改良型のイノベーションにフィットした同質的・連続的な組織特性に加えて、破壊的イノベーションにフィットした多様性とか、非連続性を組織の中に持っていく。要するに「両利き力」というのが問われるという時代になってきているわけです。

そうなってくると、実はこういう時代の戦略的な転換というのは、昔に私がBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)に入った頃ののどかな戦略とはぜんぜん違っていて、戦略が良い悪いというよりは、そのやるべき戦略を書くのは良いのですができない、という問題がほとんどになります。

結局、野球30年、40年やってきた会社が、次の「今の野球、サッカーに変わっちゃうよ」と。あるいは、成長しようと思ったら「サッカーやんなきゃいけないでしょ」といった時に「野球選手1万人揃えている中でサッカーできないじゃん」という、そういう問題なんです。

日本的経営はめちゃくちゃ脆弱

ですから、むしろ戦略の出来・不出来、あるいは実際に実行できるかどうかは、圧倒的に組織能力の従属変数になります。今度、戦略は組織に従うのかというとこれまた違っていて、既存の組織能力を前提にした戦略はだいたい負け戦になるんですよ。破壊されてしまうので。

だから、戦略は組織に従わないで、組織も戦略に従わなくて。結局、組織能力をどう変容できるかというのが本当の勝負だということになるわけです。

そうすると、組織能力の変容力が真の競争力ということになるので、ある意味、私は昔これで飯を食っていましたけれども、はっきり言って戦略という概念は死んでいるんですね。

戦略は死んじゃったとすると、どうやって組織が変容力を身に付けられるか? ということが問われるわけです。その意味では結局、同質性・連続性・固定性を特徴とする企業体、要は日本的経営ってめちゃめちゃ脆弱なんですよ。

そうすると、それをかなり根本的にひっくり返す、要するに憲法大改正に近いような転換、コーポレート自身をトランスフォーメーションしていかなければなりません。デジタル・トランスフォーメーションとはほとんど、むしろ破壊領域とか探索領域になるので。そうすると「サッカーを世界のトップレベルでできるやつがいない」という問題に必ず直面するわけです。

そうするとみんなサッカーできるような、あるいはサッカー選手と野球選手が、ある種、反発しあわないで共存できるような組織にしていくのかというのがチャレンジになるんだと思います。

書籍に書いた古い憲法と新しい憲法を比較してみますと、要は、かなり間逆な組織能力、組織形態。難しいのは全部、新憲法です。

新憲法でやるんだったら、むしろベンチャーを始めちゃった方が速いんですけど、既存の企業体って旧憲法の中で動いていて、旧憲法の中で飯を食っていますから。この旧憲法で稼いだ稼ぎを、新しい領域に投入していくんですよね。

そうなると、旧憲法の世界が言うなればオペレーショナル・エクセレンスで、改善・改良で稼いでいくというスタイルのゲームをやっているとすれば、そこはちゃんとそれでできるだけ稼げるだけ稼いで、その稼ぎを新領域としてのサッカー・テニスに投入していくということをやっていかないといけないんです。

これをどう両立させるかというのは、見ればわかるように、ある意味では相反する要素がいっぱいあるので。これが一番、経営者が苦労している難しいところです。これは日本だけじゃなくて世界、どこ行ってもヨーロッパに行ってもアメリカに行っても、みんな苦労しているところだと思います。

組織の新陳代謝は40年

比較の大項目としては5つかなと思います。項目としては人事、ヒューマン・リソース・マネジメントですね。それから、同質性・閉鎖性・固定性と、多様性・開放性・流動性。

日本の終身年功制、組織の新陳代謝って40年なんですよ。定年でしか辞めないので。40年のサイクルだと、やはりそれは今は殺されます。はっきり言って。

40年サイクルで回っている世界、改善、改良で大量生産する世界はこれでいいですが、それと10年くらいでどんどん入れ替わっちゃうサイクル、それをどうやったら両方持てますか、あるいはどのくらいの比率にするんですか、という話です。あるいは、組織構造と運営でいうと、年功階層制って合わないんですよね。こういうITやデジタルの領域って。

それから、事業戦略経営でいうと、先程から言っているように、連続的改良・改善で戦うんじゃなくて、自前主義と戦うんじゃなくて、両利きで非自前でいかなきゃいけない。

財務経営に関しても、今どきの財務戦略の一番肝心なところは、結局、成長投資の性格を見極めないと財務が破綻するということです。すなわち、昔のパナソニックや日立がカラーテレビの工場を拡張するなら借金でやればいいんですよ。回収見えているので。

一方で、今どき新しいタイプのサービスモデルの会社を買うとか、AIの会社を買うというのはもう売上のない会社を1千億円で買うわけですから、これはやはり借金でやったらヤバいですよね。

そうすると、やはり自分の会社の本業の営業のキャッシュフローでやっていかなければいけなくなるので、財務と戦略というのは本当に表裏になっていく。そういう感じです。

当然、コーポレートガバナンスもサラリーマン共同体主義では保てないので、ステークホルダー主義の外部ガバナンスに依存していくということになります。

例えば、会社のかたちがどう変わっているかというのをCXポートフォリオマトリックスで表してみますと、もし本当にデジタル革命の波を被ったところで生き残ろうと思うと、大幅にポジションを変えないとたぶん生き残れないです。これってかなり大変な話で、要するに組織の中の人間が、7~8割入れ替わるくらいのことやらないとできないんですよね。では、これをどうシフトするのかということになります。

要は、すごく長期戦ということになります。大変なだけに時間がかかるのです。「これ、やるぞ!」と言ってやってもたぶん何も動かなくて、実はこういう長期戦の大きな変革にはトリガーが大事です。

長期戦の大きな変革におけるトリガーの存在

書籍に7つのトリガーを、私の経験上、比較的起こしやすいものを書いてあります。ある種のインパクト性とかそれなりの塊となっていて、かつ、チェーンリアクションを起こしやすい。

「ガバナンスと社長指名のセット改革」を1番目に挙げていますが、実はけっこうやりやすいんです。というのは、「社長指名の仕組みを変えることには」って偉い人は抵抗するけど、一般の社員は抵抗しないんですよね。はっきり言って。これは一般の社員は賛成します。

会社の中で言うと、反対するのは10人か20人かな。「そろそろ俺は社長になれるんじゃないか」と思っているくらいの人は反対するんですけど、要はあまり反対する人はいないです。

これを変えていこうと思うと、実はいろんなチェーンリアクションが起きてきます。ガバナンスのかたちを変える。あるいは、社長を選ぶ基準が変わる。社長を選ぶ基準が変わると、どういう人を育成して選抜するかという基準が変わる。

そうすると当然のことながら、今や多くの場合、オペレーショナル・エクセレンスの延長線上の人は社長にならなくなるので、年功制って「?」マーク付いちゃうんですね。こういうチェーンリアクションが起きるようなことをやっていく。

あと、6番目にあげているM&Aなんかもそうなんですけど、M&A自体の戦略と重要性をうんぬんとよく語られるんですけど、実はM&Aの成否って組織能力で決まっちゃうんですよ。

結局、うまくいかないって言うんだけど、うまくいかない理由の最後の説明は「M&Aをしたあと経営する能力ありませんでした」。あるいは「M&Aをする能力自体がありませんでした」というのがほとんどです。

そうすると大事なことは、M&AをきっかけにしてM&AをうまくPMI含めてやっているような組織の力を、どう強化していくかということを考えていくことです。当たり前ながら海外の会社、あれだけバンバン買収していて経営陣が日本人だけっていうのは、ありえなくなるので。

結局、チェーンリアクションを起こしていくということが、本当のコーポレート・トランスフォーメーションとなると思います。

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