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武井浩三氏×麻生要一氏『自然経営』地元対談型読書会(全7記事)

これから世界を良くするのは「GDPを下げる政策」 資本主義の呪縛を解くための道筋

「資本主義社会のその先」を追求する令和の革命家こと、武井浩三氏と、起業家・投資家・経営者としての顔を持ち、「資本主義社会のど真ん中」で大活躍するイノベーター、麻生要一氏によるオンラインイベントが開催されました。本パートでは、武井氏による講演の内容をお届けします。起業で大変な苦労を経験した武井氏は、社長・役員を毎年選挙で決めるユニークな会社を立ち上げ、ホワイト企業大賞を受賞。本講演では、日本の不動産業界に関する構造的な問題や、自律分散型の運営を進めている海外の国々の事例を通して、世界的な変化の潮流を解説しました。

日本の空き家問題は「家の建てすぎ」

武井浩三氏:ようやく、街の話にいきます。今、日本は2010年くらいから人口が減っています。

空き家率は15パーセント。1,000万戸の空き家があります。なのに、世帯数が増えている。これはなぜかと言うと、ディベロッパーがワンルームマンションやワンルームアパートを作って分断していくからです。

学生や新卒の子がよく言うのが、「社会人になると出会いが減る」ということなんですけれども、みんなワンルームマンションなどに住んでいるから、人間と出会う機会が失われているんですよね。

なのにディベロッパーは「日本はまだ世帯数が増えていてワンルームマンションのニーズがあるから、我々は建てます」とか言っちゃうわけですよ。いやいや、俺から見ると逆なんですよという話です(笑)。

でも、やっぱりみんな気づいているので、シェアハウスとか、シェアオフィスとか、そういう「人とつながる空間」を求めていますよね。みんな、わかっていますよね。

でも悲しいのが……。次にいこうかな。日本ってなんで空き家問題が出ているかって、家を建てすぎなんですよ。全部が不必要という話ではなくて、もちろん必要な建て替えもありますけれども、人口が2010年から減っているのに、いまだにずっと、毎年70万戸~80万戸の新築住戸がずっと供給され続けているんですよ。

でもフランスとかヨーロッパでは、もう新築の建物は基本的に建てられないんですよ。アメリカでさえも中古の不動産が中心。家は100年は建て直さずに住む国です。木造住宅を20年とか30年で壊して建て直しているのは日本ぐらいで、「それって、誰が得をしているの?」という話です。

住宅の供給量に規制をかけない先進国は日本だけ

これは本当に重要な話なんですけれども、ここからは不動産業界を通じて、資本主義の闇に言及します。先進国で住宅の供給量、新築供給量に対して規制をかけていないのは日本だけです。(他国では)基本的には法律で建てられなくなっているんです。

だってそうしないと、空き家問題が出ちゃうでしょ? だから、日本の空き家問題は供給過剰の問題。なぜ供給過剰かと言うと、政治家がそこに規制をかけないからです。政治家はやっぱり、不動産の業界団体などと結びついているわけですよ。

そういう業界団体が、具体的に言うと自民党などとやっぱり強く結びついていて、「献金をいっぱいするから、規制をかけないでくれ」と働きかけるわけですよ。そういう政治家しか、やっぱり上に上がれないわけですよ。

それで民間企業は「土地活用しませんか?」「相続対策しませんか?」「節税対策しませんか?」と不動産を提案する。でも(よくよく考えれば)「全部の法律が資産を不動産に流したほうが優遇されるようになっていませんか?」という話ですよ。相続税も不動産に変えると、現金で持っている場合に比べて税額を1/3に圧縮できるんですね。基本的には全部、そういう構造になっているんです。

日本で一番家を供給しているのは大手アパートメーカーT社です。次はR社です。申し訳ないけどこの2社は、悪いうわさのほうが多いです。もちろん彼らの仕事が全部悪いわけじゃないですけど、彼らは基本的に建てることがビジネスのコアになっちゃっています。

がんばればがんばるほど社会悪になってしまう構造

30年前は住戸が足りていなかったので、彼らの仕事は社会にとって絶対的に健全でした。だけど、人口が減っても同じペースで建てていて、大東建託なんて去年(2019年)の決算は過去最高の売り上げで、過去最高の利益ですよ?

これは、どう考えたっておかしいんです。だって、人口が減っていて家が余っているのに、がんばって営業して売り続けているんですよ? また、彼らは本当に表に出ているのと出ていないのと、いろいろありますけれども、とんでもない社会問題を起こしまくっているじゃないですか。

R社だってものすごい数の……60~70パーセント? そのぐらいの建築が建築基準法違反で、とんでもない不良施工だったわけですよ。

それからTATERUという企業も、スルガ銀行と組んで書類を改ざんしてローンを組んだりしています。あとは「かぼちゃの馬車」(注:女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」のサブリースを行っていた株式会社スマートデイズが経営破綻し、オーナーへの賃料が未払いとなった事件)とかの問題もありました。

「かぼちゃの馬車」は置いておいて、みんな東証1部ですよ? いまだに上場を維持している。「これはどういうことだ!?」という話です。

やっぱり株式市場というものは、よくも悪くも企業に対し、無限成長を求めるわけですよね。売り上げの増大、利益の増大。ITやAIとかみたいにバーチャルな世界だったらまだまだ成長する余地があると思うんですけれども、不動産は成長する余地がないんですよ。2010年から人口減少で余地がなくなっているのに、それをやり続けるから悪いことをしちゃうわけですよ。

言ってしまえば、彼らががんばればがんばるほど、社会悪になってしまう。また、僕はそういう会社がお客さんだったのでわかることですが、切ないことに、中で働いている人たち、役員さん、社長さんに会って話をすると、普通にめちゃくちゃいい人なんですよ。上場企業の社長さんも、やっぱり基本的には優秀だし、人格者だし、責任感が強い。だから、市場の期待に応えようとがんばるわけですよ。

不動産業界の枠組みをアップデートする

その取り組みが、社会全体においては別の問題を生み出してしまっている。この構図がもう心苦しくて……。中の人たちは悪い人たちじゃないから責められない。

でも、そう考えると、やっぱりこの枠組み自体がアップデートされなければ、問題は根本的に解決されない。「じゃあもう俺はそっちに気づいちゃったし、いろいろご縁もあるからやるしかないな!」と、今こういう活動をしているわけです。

だから、不動産の業界団体をいくつか立ち上げて、住宅総量規制を敷くためのロビー活動などをしていたりするわけです。俺にとってはそれが金になるかならないかというのは二の次、三の次。「社会にとって必要なことをする」ということで、やっているわけです。

この辺は、流通についてです。

現代の都市開発は社会問題をいっぱい引き起こしています。結局は今のように、「お金をどうやって稼ぐか」「増大させるか」を中心に街を作ると、街が壊れていくということですよね。だって、「公園があって、そこで遊んでいて友達ができて……」という具合に、コミュニティってやっぱり「余白」から生まれるわけですよね。

社会関係資本は「人がたむろす場所」から生まれる

これは都市学で言われることなんですけど、「人だまり」と言って、「人がたむろしてしまう場所」というのが必要なんですよね。

例えば、用賀の駅はけっこうよくできていると思うんですけど、特に段差がけっこう高い階段があると、人間って座っちゃうんですよ。座ると、そこにたむろしてコミュニティができるんです。そこで人間関係が育まれるわけですよね。

横浜では、僕の時代はコンビニにみんなでたむろしていたわけですけれども、やっぱりそこで僕らはソーシャル・キャピタルを築いていたわけなんですよ。

僕らは、資本にはエコノミック・キャピタル以外にも2つあるとよく言うんですけれども、1つはソーシャル・キャピタルと呼ばれる社会関係資本で、もう1つはヒューマン・ファンダメンタル・キャピタルという、精神資本や知的資本、人間の心の豊かさ。どれも同じぐらい大事です。

すみませんが、ここでは特に不動産になぞらえると、今のこういうときに経済性だけを優先して建てると、他の2つを毀損してしまっていませんかということなんです。今はやっぱりお金が存在する世界なので、経済性を完全に無視することはできないです。けれども、やっぱり他の2つも同じぐらいに扱うという営みを僕らがしていかないと、次の社会は生まれないんです。

本来の経済は「人間同士の営み」であり、貨幣ではない

次の社会は貨幣経済に頼りすぎない、貨幣以外の経済を重視した世界だと僕は思っています。だって、専業主婦も経済活動をしているわけですよ。専業主婦の仕事を全部アウトソースしたとしたら一体いくらかかるのかという話じゃないですか。1,500万円から2,000万円と言われているわけですけれどね。

つまり経済ってお金の話じゃなく、人間同士の営みの話であって、そこにたまたま貨幣が介在しているんです。だって、人間関係がよくなればなるほど、取引にお金は介在させないじゃないですか。家族間でお金の取引をするのは、勉強のためではありますけど、基本的に奥さんにお金を払っているような人はいないですよね?

友達同士で本を貸し借りして、「この本はよかったよ」とか、TSUTAYAみたいに「1週間いくらで、延滞料金がいくらで……」とかやらないですよね、という話です。

人間関係が豊かになると、GDPが下がっていく

つまり、これからの社会は人間関係が良くなる方向に向かっていくわけで、そうすると、貨幣の流通量は必然的に下がっていきます。GDPは下がる。これからは、間違いなくGDPが下がる世界になる。

だって人口も減るし、テクノロジーが発達すればするほど、メルカリみたいなCtoCが発達して中間流通が減っていくから、GDPは減るわけですよ。

住宅を建てるというのもなぜやめられないかというと、建築によってGDPがめちゃくちゃ上がるからなんですよ。資材の調達とか、加工とか、中間流通も全部計上するから、最終的な小売価格のだいたい3倍ぐらいのGDP計上になるんですね。

だから、今のように「GDPを600兆円にしよう」と言っている限り、建築ってやめられないんですよ。逆に「GDPを下げていきましょう」と言って政策を組むぐらいに変えていかなきゃ、日本というか世界はよくならないという話です。

僕は街作りを研究していて、すごいデータに出会いました。街に対する満足度は、その街における知り合いの数と正比例するんですよ。

これは「そりゃそうだよ!」という話ですけど、もうデータで証明されたんです。つまり友達が多いと、「この街はいいな、引っ越したくないな」となる。会社も一緒じゃないですか、という話なんです。「俺はこの会社が好きだな」というのには、やっぱり「待遇がいい」とかもありますけど、(重要なのは)「そこにいる人間の関係が豊かかどうか」です。

だって、転職理由の第1位が「人間関係」じゃないですか。結局、これからは人間関係をよりよい方向に向けてデザインしていかないといけないんです。

ちょっとスライドを飛ばしましょう。

自律分散型の国の運営を進めるエストニアやノルウェー

今、世界で何が起きているのか。なぜこんな状況になっているのかという外的な状況の説明をすると、こういう「ティール組織」と呼ばれるものを世界中で調べていたときに、僕はある共通点に気づいたんですよ。

まずは「人口が頭打ちになっている」という国なんですね。それから「国土が限られていて経済成長が頭打ちしている」。そして、「ITが社会インフラ化している」というところです。

こういうところで新しい組織とか、新しい教育とか、福祉、金融、経済、政治、ひいては新しい国家が出現しています。エストニアとか、ベラルーシとか、ノルウェーとかです。ああいう国は、国の運営自体が自律分散化のほうに向かっていっています。

エストニアはe-Residency(イーレジデンシー:電子居住権)を発行していて、僕の友達でもけっこう持っている人がいます。今、日本人でエストニアのイーレジデンシー、つまり準国民みたいな資格を持っている人が6,000人ぐらいいます。すごい国家戦略です。分散化しまくっています。

エゴシステムからエコシステムへ

これはパーマカルチャー(注:永続、農業、文化の英単語Permanent、Agriculture、Cultureの3語を組み合わせた造語。持続可能な建築や、自己維持型の農業システムを取り入れることで、社会・暮らしを変化させるためのデザイン科学概念)で言われる資本は8つあるよというものです。

すべてを定量的なものとかお金に換えると、やっぱり全部が金融資産、金融資本、物的資本の方に引っ張られてしまいます。なので、数字で測れないものが重要です。人間は感じる力があるわけで、それを大事にしていきましょうということです。

「エゴシステムからエコシステムへいきましょう」ということで、パーマカルチャー界隈でよく言われていますね。この図はわかりやすくて好きですね。

こういうシナリオも、研究結果でいろいろと出ています。分散化していかないと出生率も上がらないし、幸福度も上がらないというものです。京大の教授が言っています。

この辺も飛ばしていきますね。……これだ!

これからは組織や社会や国のための個人ではなくて、個人のための組織や社会になる。これはもう必然です。

今後10年で金融経済は根本的に変わる

まとめ。これが最後です。世界は「自律分散型」の方向に向かっていきます。その上での「つながり」と「循環経済」。この3つによって持続可能性が生まれる。そしてビジネスは人間関係のデザイン。人間関係がよりよい方向に育まれるようにすべては向かっていくので、仕事もそういう意味合いを持たないと、人から必要とされない。

そして、もうこれから10年ぐらいで金融経済が根本的に変わっていきます。これは間違いないですね。金融系のコミュニティで活動もしていたりするんですけれども、ヨーロッパなどはすごく進んでいます。

例えば、ソーシャルバンクという銀行があって、預けたお金の用途を預金者が銀行に指定できるんですよ。みなさん、知っていますか? 世界で一番原発にお金を融資しているのは、みずほ銀行ですよ? 実は僕らの預金は、本当は銀行に対してお金を貸し付けている状態なんですよね。そのお金が意図せずそういうところに使われちゃっているって、やっぱり不本意ですよね。

とはいえ銀行も、やっぱり急にはビジネスモデルを変更できない。でも、みずほ銀行は2030年、2050年に向けてそういうものを全部、是正していこうという方針を打ち立てています。

ヨーロッパはこういうことがすごく進んでいます。3.11(2011年3月11日)で東日本大震災の原発事故が起こってから、ヨーロッパのソーシャルバンクの預かり残高が急激に伸びたらしいです。

教育、働き方、企業、政治、街のあり方。新しい方向性として、そういうものがこれから10年ぐらいの間、ほぼ同時ぐらいのタイミングで大きく変わっていくと思います。今までの法定通貨がいきなりなくなることもないですし、国家という概念は僕らの生きている間はたぶん残ると思います。

でも、方向性としては、重なり合っていきます。重なり合っていくと、組織が個人よりも強くなることはありえなくなる。だって、副業人材が増えると企業って人を強制的に縛り付けていられないんだから、みんなに選ばれる風土作りや仕組み作りをするしかないんですよね。

納税が「義務」ではなく「ギフト」になる制度へ

国家も一緒で、e-Residencyなどが広がっていくと、納税する場所を選べるようになっちゃうわけです。

実際に僕の友達はエストニアで法人を作っていたりしますし、世田谷区との勉強会でしゃべってもらったBlockhiveの日下くんなんかは、e-Residencyを持っている人が5分でエストニアに法人を作れるサービスを作ったりしています。

法人税を向こう(エストニア)に納めることが、簡単にできちゃうわけですよね。そうするとやっぱり国も、「義務」じゃなくて、「ここの国が好きだから納めたい」と思われるような税金の制度に変えていかないといけない。

そうしたら、納税が「義務」じゃなくて「ギフト」になると思っています。ふるさと納税って、そうじゃないですか。「義務」じゃなくて、俺らがその自治体に納めたいからやっていますよね。

「馬事公苑のあれで!」とか言って、けっこうみんなタイルが埋まっていますよね(注:世田谷区上用賀にある馬事公苑界隈整備を目的とした「うままちプロジェクト」を指す。ふるさと納税を活用して行われたクラウドファンディングで、一定額以上の寄附をすると馬事公苑界隈の道路・公園等に敷設するタイルに氏名を刻印してもらえるという返礼品内容だった)。麻生要一のを、よく見かけますけど(笑)。

今、世界がそういうふうに向かっていて、変わっていっています。……というところで終わろうかな。ありがとうございます。

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