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武井浩三氏×麻生要一氏『自然経営』地元対談型読書会(全7記事)

ノーマルな経済のあり方は、成長ではなく「定常」 持続可能性への世界的潮流

「資本主義社会のその先」を追求する令和の革命家こと、武井浩三氏と、起業家・投資家・経営者としての顔を持ち、「資本主義社会のど真ん中」で大活躍するイノベーター、麻生要一氏によるオンラインイベントが開催されました。本パートでは、武井氏による講演の内容をお届けします。起業で大変な苦労を経験した武井氏は、社長・役員を毎年選挙で決めるユニークな会社を立ち上げ、ホワイト企業大賞を受賞。本講演では、成長よりも持続可能性を優先する世の中にしていくための3つの要素について語りました。

世界でも例のない三重苦に直面する日本

武井浩三氏こういう動きも世界的にどんどん進んでいるし、その一方で地方創生とか地域経済が今、厳しいと言われている。

なんだろう……。日本って「人口減少」と「少子化」と「高齢化」という3つの問題が同時に生じている国で、これって本当に世界でも日本ぐらいなんですよ。

少子化と高齢化はそもそも別の問題ですし、そこに加えて人口がここまで減少している先進国は本当にない。もう最近は「先進国と呼んでいいのか?」と疑問を感じます。日本はどうなっちゃうんだという話です。

それで、経営などの面でこの『ティール組織』という本が、一昨年(2018年)の1月に出て、8万部売れているんですよね。めちゃくちゃ売れている。僕の本は確か5,000部ぐらいしか売れてないんじゃない? 3冊全部合わせて1万部いってないんじゃないかな。ちょっとマニアックすぎて売れないね。

この本では、僕がさっき話したみたいに「働く時間・場所が自由な会社が、世界的にもちらほら出てきている。その会社の特徴をまとめると、この3つぐらいで説明できそうだ」ということを、フレデリック・ラルーさんが言っています。

3つというのは、全体性・自主経営・進化する目的。

自律分散的な組織の3つの特徴

全体性というのは、全人格性と表現したほうがわかりやすいんですけれども、営業マンとしてその会社にいる人は、「俺は営業マンだ」だけじゃなくて、その人に家族がいたらお父さんという役割でもいいし、旦那さんという役割でもいいし、友達という役割でもいいし、いろいろあるわけです。「その人のすべてがその人なんだから、そのままでそこにいてもいいじゃん」という考え方ですよね。

さっきも娘が「おやすみ」って言いに来ましたけど、奇しくもこのコロナの影響で、みなさんも仕事とプライベートが混ざり始めていますよね。これは全人格性が発揮され始めているということなんです。これはめちゃくちゃいい影響だと、基本的には思っています。もちろん役割としての顔をその時々で使い分けてもいいけれども、基本的にはその人が存在するということが喜びです。そういう生き方です。

それから自主経営。セルフマネージメントとは分散化の話ですね。それぞれ現場が一番現場のことをよく知ってるんだから、現場に意思決定させればいいじゃんというものです。権限移譲というよりも、そもそも現場が決定権を持っているという感じですかね。俺はけっこう日本の事例として好きなのが、餃子の王将で、彼らは店舗ごとにメニュー開発とかやっているわけですよ。

餃子の王将は、店舗毎に味が違うわけですよ。あれは本部が「1個1個の店舗の味をああだこうだするのは無理でしょ」という話で、「その所々である程度好きにやっちゃって!」と言って、基本的なメニューは一緒だけれど「メニュー開発もやっていいよ」「味付けを変えていいよ」としているんです。ああいうのが自主経営。セルフマネジメントと呼ばれているものです。

最後に、進化する目的。ティール組織については、おもしろい特徴として本に書かれていることがあります。こういう自律分散的な組織って、そもそも理念を明文化しないんです。ちなみにこの『ティール組織』の本では、25社ぐらい研究をしています。そのうちの半分ぐらいが、そもそも理念を掲げず、明文化していない。残りの半分ぐらいも、定期的にころころ理念が変わっているんですよ。

だから今さっきの話じゃないですけど、理念って人生や人間と一緒なので変わってしかるべきだし、ころころ変わるものを明文化する必要もあまりない。業種業態によってはそんなに仕事の内容も変わらないから、「そういうものはいらないよね」というのもある。

本来は仕事自体が理念そのものだと思うので、そこにフォーカスすることが本質だと思います。補助線として言語化するかしないかという話ですね。そういう捉え方をしています。

資本主義は、所得・収入・資産の格差が広がっていくシステム

次。トマ・ピケティさんはみんな知っているかな? 『21世紀の資本』という本を書いた人です。経済成長よりも資本成長のほうが早い。つまり資本主義というのは格差、とりわけ所得・収入・資産の格差が広がっていく経済システムだということを、数字的に証明した人です。

これが資本主義の本質的な問題なんですけれども、彼も「もう社会を変えようよ。具体的にやっていきましょうよ」と言い始めています。

そして、永守さんもそういうことを言い始めた。「利益を追求するだけじゃだめだ」「間違っていた」と言ったのは、俺はけっこう経済界にはインパクトがあるなと思っています。本当にすばらしいと思うんですけれどもね。

こういう方向感は昔から言っている方々もいたりしますけれども、やっぱり高度成長期においてはマイノリティになってしまいがちです。やっぱり「会社の規模を大きくした人が成功者」みたいな前提があったりします。

資本主義における成功者は「所有者」

資本主義の中での成功者の定義って、基本的には資本家になった人のことですからね。GDPは人口とほぼ正比例するので、人口が増えていたら経済は伸びるという、すごくシンプルな話なんです。

その中で、資本主義は所有者が強い経済システムなんですよね。僕は不動産が専門でもあるので、ずっとやってきてわかったのが、世界の大金持ちは株主か地主のどっちかです。強いて言うなら、プロ野球選手やNBAなどのスーパースター。あとはミュージシャンとか。

だから、けっこう知っている方もいると思いますけれども、ロバート・キヨサキの『金持ち父さん 貧乏父さん』という本がありますが、あの本で何を言っているのかというと、「資本家になりましょう」ということなんですよね。「スモールでもいいからビジネスを持ちましょう」「不動産を持ちましょう」「所有権・著作権を持ちましょう」ということなんです。

あれは間違っていないし、俺も読んですごくわかりやすいと思いました。悪い言い方をすると、「今の資本主義という経済システムを、効率的にハックするための考え方」です。ハックというのかな? ……取扱説明書みたいなものですよね。

与沢翼(注:日本の実業家、投資家)とかは、こういうことがめちゃくちゃ得意なんでしょうね。でも、与沢翼も最近はもうタイとかに移住して、月3万円ぐらいの暮らしをしていますからね。「お金は意味がない」とか言い始めています。

成長よりも持続可能性を優先すべき

(スライドを指しながら)これが今日話したいことのすべてなので、これが言えたら、あとはぐだぐだでもいいかなと自分なりには思っています。世界が今、どっちの方向に向かっているのかということです。持続可能社会。持続可能性は成長よりも優先されるもので、これが世界中の合い言葉になってきたということです。

(これまでの傾向としては)成長が大事だと思われがちです。内面ではなく、規模的な成長の話ですね。そもそも、経済がこんなにバカみたいに成長したのはこの50年ぐらいで、人類の発展もこの200年ぐらいなんですよね。だから最近「ニューノーマル」という言葉が生まれていますけれども、昔からニューノーマル・エコノミーという言葉があるんですね。

今までが普通じゃなかった。ノーマルのエコノミーは何かと言うと、成長経済じゃなくて定常経済なんですよ。ちゃんと安定的に循環して、巡っているということです。

持続可能性は「自律分散・循環・つながり」から生まれる

じゃあこの持続可能性は、どうやったら生まれるのか。僕は関係性のデザインを研究してわかったのが、自律分散という「かたち」と、循環している「流れ」と、分散している者同士がつながっているというConnectedな「状態」です。この3つがあると、勝手に持続可能になるんですよ。

持続可能性って、結果として生まれる現象だし、そもそも短期的に切り取ってもわからないので、時間軸の中で測らないといけないんです。どうやったらその流れが生まれるのかと言うと、これなんですよね。自律分散・循環・つながり。

自律分散の反対は、中央集権ですよね。ヒエラルキー。それで、循環の反対は搾取です。1箇所で奪っちゃう。そして、つながっている。つながりの反対は分断。

そんなところで、最近どんな活動をしているかと言うと、コミュニティ活動ばかりですよ。(スライドを指しながら)これは世田谷系ですね。用賀Blue Hands。今日もゴミを拾いましたよ。ゴミを拾っていたら、それを見ていた2歳ぐらいの赤ちゃんもゴミを拾い始めて、そのお父さんとお母さんがちょっと困っていましたけれども(笑)。こんな感じでやっています。

あとは不動産系のこととか、官僚とかとやっていることとかですね。官民協働フォーラムの山田崇さん。むしろここは、彼が運営しているんですね。

金融系の団体だったり、いろんなことをやっています。けれども、結局すべてはつながりです。人間関係、集合体、もの。そういう話になってくるんですよね。

地方創生を勝ち組・負け組にしない方法

ちょっとここも話そうかな? 会社も、別にオフィス自体が会社というわけじゃないし、ビジネスモデルが会社というわけじゃない。大学も、キャンパスが大学というわけじゃない。街も、建物が街というわけじゃなくて、そこに集っている人間関係がそれを形成しているわけです。

人間関係って、あまり「線引き」ができないじゃないですか。例えば最近だと会社を見たって、雇用関係にないけどフルコミットしている人だってぜんぜんいるわけです。それって地方創生で言うと定住者と交流人口、観光客とその間の関係人口みたいなもので、関係人口はグラデーションがあるから定量的に線引きできないんですよね。

定住人口は住民票を置いている人。交流人口は置いていないけど来る人。……だったのが、地方創生も移住政策をそれぞれの自治体でやると、結局は奪い合いになっちゃうわけで、勝ち組と負け組が出ちゃうんですよね。

だから「シェアしよう」という感じで、2拠点3拠点と関係する人を増やしていくんです。じゃあ「関係している人」って何かって言うと、その人が「自分は関係者だ」と思っているか・思っていないかでしか判断できないんですよね。

例えばそこへ行ったときに「ただいま」と言うのか、「お邪魔します」と言うのかぐらいの主観的なもので、外から他人が判断できない。「あなたは関係者」「あなたは関係者じゃない」という判断ができないんですよね。

「ふるさと納税」も、関係人口を増やす素晴しい取り組みだと思います。そこの出身の人とか、そこにすごく仲のいい知り合いがいるとか、関係の持ち方って自由ですよね。それと一緒で、会社も「この会社のメンバーの人?」と言ってみたときに手を挙げる人がメンバーであって、そこに雇用関係というのは関係がない。

雇用という概念自体がそもそも……。会社って辞めることができるのに、なんで雇用という概念があるのか、意味がわからないじゃないですか。

この辺も紐解いていくと、全部「税金とか社会保障をどうやって提供するか」という旧来の仕組みに則った作られ方なんです。その辺は、ちょっと今日はどこまで掘れるかわからないですけどね。

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