2024.10.10
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西村創一朗氏(以下、西村):ありがとうございます。そう考えると、この10年間、2010年が1回ぐっと下がっていますけれども、そこからの10年間は本当に右肩上がりという感じですね。
伊藤羊一氏(以下、伊藤):そうですね。ここが、僕にとってすごく大きいのは、それまでは他人の人生……マンション案件で27の頃に目覚めたとは言いながら、サラリーマンとして貢献できることがすごく楽しかったので、それをがんばっていたんですね。会社の仕事を淡々と。
でもそれって結局、上司の言うことを聞くとか、会社から指示があったからやるみたいなことの域をまったく出ていなかったんですね。
そこを、2011年に何があったかというと、東日本大震災。震災があった時に会社の言うことを聞くとか聞かないとかより、1番大事なのは「この大変な状況下で、俺は何がしたいんだ」と、毎日問うて、実行していた。
だから今のコロナショックもまったくそうなんですが、これからもうちょっとしばらくすると「結局お前は何をするんだ」みたいなことを問われるときがやってくるんですね。そのときに「会社の言うことはいろいろあるけれど、俺が思ったことをやっていかないと、これは世の中がよくならないわ」ということです。
僕1人がそんなことを言ったって、別に世の中は、僕がシャカリキにがんばったところでやれることって本当に鼻くそみたいなもんなんですけど。自分の人生を生きるということが大事なんだな、と気づいたのが2011年ですね。
別にそれって怖いことでも辛いことでもなく……。辛いんだけど、これが人生だということがそのときわかったという。今も楽しいだけではなく、割と絶望の日々ですよ。
「これ書類としてまとめないと! でもなんのことやらさっぱりわからない!」とか「これどうすんの、明日までに考えなきゃ」とか。「これ正直無理じゃん!」とか毎日絶望してるんですけど、結局、絶望したところでなんとかなるので、楽しいなと。そうすると、どんどん右肩上がりになっていくという、そんな感じですよね。
西村:ありがとうございます。じゃあ、さっそく僕からもいろいろお聞きしていきたいんですが。Q&Aのところからさっそく1人、ツヅキさんが質問をくれていますが。
これはぜひ僕もお聞きしたいのですけど、ファーストキャリアで日本興業銀行を選ばれた理由。これはどんなところにあるんですか?
伊藤:はい。これはあまり外では言っていないんですけれども、実は僕は銀行に行くつもりはなくて、テレビ局の青田買いセミナーに行ったんですよね。
それで青田買いセミナーには選ばれて「いいぞ、いいぞー」みたいな感じに思っていたんですけれども。
その頃の就職活動は、急にどこかの会社がルールを破って、面接を始めるわけですよ。そうするといきなり面接が始まるんですよ。あの頃の特徴だと思うんですけれども。
「今日始まったぞ!」みたいな感じになって。僕は「え、就職活動始まっちゃったのか!?」と思って。「待てよ!」って。
だから、やみくもに興銀だの東京海上だの三菱だのJRだの電通だのなんだのって。そこらへんの知ってるところの会社に電話をかけて「面接したいんですけど」ってブワーッと入れた。その中に興銀があったということですよね。
今のみずほ銀行ですけれども、その頃の興銀って世の中の評判が高かったんですよね。なんか「すごく選ばれし銀行」みたいな感じで、普通の人は入れないみたいな。
そんな感じがあって、僕はその銀行が何をやっているかはよくわかっていなくて。政府系の銀行だと思っていたぐらいで。
わかんなかったんだけど、そのエスタブリッシュ感って半端なくて。面接をやっていくとみんな上がっていくんだけど、興銀の人たちってわりと平和な感じなんですよ。
なんか、上品な感じなんですよね。これはなんか、素敵な銀行かも。かつ、その頃「興銀です」って言うと「街中にないし、なんかエリートっぽいじゃん?」みたいな感じで思っていて。
そしたらなんか最後までいって「おめでとう」って言われたもんだから「あれ、俺エリートになれちゃう?」みたいな感じで思わずいっちゃったみたいな。
だから、そのレベルですよ。それで行って、いきなり後悔なんですけれども。普通に体育会系の荒々しい会社だったんで。「俺、銀行って何やる会社かよくわかってないし」みたいな感じだったんですけど。そのレベルで選んだということなんですよね。
ただ、そのレベルで選んで、結果どうだったのかというと、僕は自分の人生を生きていなかったから、そこで14年間も居ちゃって。ものすごくいい経験にはなりましたね。
なぜならば、今、僕は銀行というか金融に絡む仕事って何もやっていないんだけど。バランスシートとか損益計算書を見ると、だいたい5分ぐらいじっと見ているだけで、この会社はどんな感じかってわかっちゃうんですよ。
もう計算さえも必要ないです。見ているとわかるんです。それはなんでかというと、毎日バランスシートを見ていたから。その経験というのは、やはり役に立ちますよね。
あと、銀行でいろんな人がいる中で筋を通すとか、この人とこの人はちゃんと根回ししないと、とか。こういう大組織の中で話を進めていくコツみたいなものを、自然と訓練されちゃったので。大組織の中でみんなを怒らせず話を動かしていくことは、めちゃくちゃ得意になりましたね。
今は、それが生きているんですよ。なので、あんまり考えず14年いたことに関してはもうちょっと短くできただろって思うけど、居てよかったなって本当に思いますよね。
じゃあ、また新卒のときに銀行に入りますかというと、入らないんだけど。
西村:(笑)。
伊藤:それとこれとは別かな。そんな感じかな。
西村:結果的に選び方はよくなかったかもしれないけれども、興銀を選んだこと自体はまったく後悔していないということですよね。
伊藤:まったく後悔はないですね。だから、テレビ局に行ってたらどういう人生が待っていたんだろうとか、そういうことを思わなくはないし。例えば他の内定をもらった会社に行っていたらどうなっていたんだろうというのは、考えることはありますけど。考えて「それで?」という感じですよね。
そうじゃなかったかもしれないし、そうかもしれないしみたいな。そのレベルですよね。
西村:そうしたら実際に入社して、その直後は、なんだこれは、めちゃくちゃ体育会系じゃないかということで、けっこうしんどかった時期もあって。
それこそ8科目中1科目しかできなくてみたいなところとか、なかなか滑り出しが順調だったとは、決して言えなかったと思うんですけれども。
「よーいどん!」のところで、他の同期は普通にやれていた中で、羊一さんがそこについていけなかったのは……。それまでの羊一さんの学生時代の人生をたどると、そんなに落ちこぼれどころか、むしろ東大だったし、エリートだったと思うんですけど。
そこについていけなかったのは、今振り返ると何が原因だったんですかね?
伊藤:学生時代の過ごし方みたいなものってすごく影響していて。学生時代はただれた生活をしていて、バイト、バンド、デートという。要は、大人とか社会としっかり向き合うということをやらなかったんですね。
バイトというのも、そういうのでいうと吉野家のバイトをちゃんと続けていれば、またちょっと違ったと思うんですけど。何をやっていたかというと、塾の先生と家庭教師をやっていたわけですよ。
それだと、社会にちゃんと触れないんですよ。バンドもそうなんですよね。デートもそうですよね。社会と触れる、大人と話すということをしなかったから、社会に馴染むというのを極端に恐れていた。そのまま……。
それは、人があんまり好きじゃなかったとか、自分が怠け者なので大人に見透かされるのが嫌だとかいろいろなことがあるんですけれども。4年間社会と隔絶して暮らしたので、会社に入っても社会と向き合うということができなかったということですね。
だからこれはスタンスの問題というのが、けっこうあると思っていて。勉強できる・できないというのは、あくまでも社会性とは関係ないじゃないですか。
だからその社会性みたいなところで、どうやって社会と関わるかみたいなものが見えなかったということなんです。
西村:なるほど。ある意味、学生時代のただれた生活が、社会人になってからもズルズルと延長しちゃったみたいなところがあったんですね。
伊藤:学生時代はただれた生活で済むわけなんですけど、社会人になるとそれでは無理なんで。そのときに僕なりに社会と向き合おうというのは、なくはなかったんだけど。ウワーッていって、また閉じこもっちゃうわけなんですね。そういうことですよね。
西村:なるほど。その結果、最終的には26~27ぐらいのときには、今思えばうつになっていた。会社も行けなくなって、みたいな。
伊藤:そうですね。会社に行けるようになって……。自分で涙ぐましくなっちゃうんだけど、このままだとクビになっちゃうから行かざるを得ないということで、行くわけですよ。行ったら行ったでみんなほんわかしてるのでなんとかなるんですけど、行くときに背広を着て、家を出ようとすると玄関のたたきにもどしちゃう(吐いてしまう)んですよ。
西村:えー!
伊藤:ウワーッこれはやばいと思って、5分10分寝るんですよ。そうすると治るので、いけるんですよ。
翌日もぐえーってもどしちゃうんですよ。だから「玄関出れない病」みたいな感じで。それで、これはまずいわと思って、もう1回5分10分寝ると、いける。だからそうするとパブロフの犬になっていくんです。「玄関を出ると、必ずもどす」みたいな。だから、しょうがないですよ。
西村:条件反射ですね。
伊藤:だから2つやる必要がある。1つは桶を置いておく。風呂桶を置いておいて、そこに吐くようにする。
もう1つは5分10分寝ると直るので、もう10分前に起きて行くようにするんですよ。そうすると、これは通常の暮らしができるじゃんということで。それでも数ヶ月は毎日吐いていました。これはつらかった。
西村:逆にいうと数ヶ月で済んで、クビになるまで休まずに済んだみたいなところは、何が乗り越えられたポイントだったんですか?
伊藤:そうですね。そこにいた仲間がたまたまなんですけど、「もういいよ、お前。時々教えてやるし、時々仕事があるから、ちょっとそこでほんわかしてな」って言ってくれた仲間がいたということですね。
西村:へー。
伊藤:これは、今なかなか銀行もそんな雰囲気じゃないので、再現するのは難しいと思うんですけど。たまたまそのとき居た横浜支店は、そういう空気だった。
それからもう1つは、仕事の案件が降ってきたということです。案件を出してくれるというのは、すごくありがたい話で。案件が取り上げられるんじゃなくて、その中で「お前やってみろよ」とか。取引先も「あんたしかいないんだ」と言ってもらえて。そういう案件を出してくれるきっかけがあったというのが、すごくでかいですよね。
それから、最初に立ち直るときって、やっぱり手取り足取り教えてもらう必要があって。自分でやるとすぐ折れちゃうわけですよ。なんだけど、手取り足取り教えてくれる人たちが居たというところもすごくでかくて。
3つに共通して言えるのは、仲間なんですよね。仲間に恵まれたというのはすごくでかい。今苦しんでいらっしゃる方も本当に大勢居るし、僕の友達でも今苦しんでいる方もいらっしゃいますけど、人とのつながり……。
今だとWeb会議とかでも話せるし、リアルで話せなくても気軽に話せる部分はあると思うので。真正面から向き合って、対話するってこと。
コーチングとかけっこう流行ってるじゃないですか。コーチの人とかに「ちょっとだまされたと思って、胸の中を話してみる」みたいなことで、対話をするってすごく大事かなと思っていますよね。
西村:そういう意味で本当に対話ができるような、すばらしい仲間に巡り会えた。職場に恵まれたというのが大きかったんですかね。
伊藤:そのときのきっかけとしては、完全にそうですよね。それを続けるためにはまた他にもいろいろあるのかもしれないけれども。そのきっかけとしては、やっぱり仲間の存在ってでかくて。
仲間って別に優しい仲間だけじゃなくていいんだけど、見つめ続けてくれる仲間ですよね。これはすごく大事かなと。
西村:なるほど。そのあとに、転機になるような不動産系の案件が降ってきたというお話がありましたけれども。その案件が降ってきたというのは、本当にたまたまというか、温情というか、本当に偶発的に降ってきたのか。
あるいは、今振り返れば、こういうことを自分が努力していたから、案件がもらえたのかなとか。その辺ってどうですか? 案件をもらえたポイント。
伊藤:明確に後者でありまして。偶然という要素もあるんですけれども、そのマンション会社さんってその頃は比較的新しかったので、バブルの痛みを負っていない会社だったんですよ。
それでがんばってるなということを、僕は会社の人から聞いてわかっていたというのが1つですよね。だから会社がよかったということがあります。
なんでそこの案件をゲットできたかというと2つめなんですけど、これはものすごくくだらない理由で。その頃、その会社さんってテレビでコマーシャルを流していたんです。
俺は「コマーシャル流している、すごい会社を担当しているぞ」というのがあって。だからその会社が好きだったんです。好きだから会社にすごく愛を持っていたんですね。だから、いろんなことをヒアリングしたし、いろんなことを調べたんです。
1番最初に申し上げた理由がそこにつながるんですけれども、結果、会社のことをよく知れたということですね。結局ここから言えることは「コマーシャル流してて、かっけー! だから好き」みたいなことがきっかけなんですよ。
俺はこの会社だけはなんとかしたいって、駄目なりに思っていたんです。だから、そういう「これはかっけー!」とか「これはいいかも」という、心のザワザワ感というもの、本能に従ってやったら、その案件につながったという。
だから自分が、そこの最後の最後で好奇心というか、マンション会社さんに対する愛とか、その会社の人に対する愛を捨てなかったことは、すごく自分を褒めてやりたいです。
西村:結果的に案件をものにできて、それが羊一さんにとって大きな成功体験になって、仕事の意味づけも大きく変わっていったと思うんですけれども。
やってきたチャンスに対して、ものにできない人とものにできる人がいると思っていて。それを羊一さんはものにできたから、好転できたと思うんですけれども。
ものにできたポイントというのは、先ほどの情熱みたいなものももちろんあったと思うんですが、どんなことを工夫して行動して、結果を出すことができたんですか?
伊藤:いろいろあると思います。この質問にも通じる話だと思うんですけれども、結局、好奇心。
それで、ビフォーアフター、そのことが起きる前後でいうと。その前にそこで浮上することができるためには、その前の地ならしみたいなことをやっておく必要がやっぱりあるんだと思うんですね。
西村:地ならしですね。
伊藤:わかりやすい例でいうと、今のコロナショックにおいて、グロービスがなんであんないきなりブワーッとオンライン対応できたかというと、オンラインクラスをやっていたからなんですよね。やっていたから、それに全面的に移行するということができる。
それがなければ、そのときにチャンスが来てもできないということがあると。その前の地ならしということをしておく必要があると。
私のケースで「地ならしって何?」というと、単純な話、復活して毎日会社に行くようになっていたと。それぐらいですよ。それとか、仲間と良好な関係が保てていた。
こういうレベルの地ならしというのはやっぱり必要ですよね。そういうものがないと、いきなり来てもなかなかできないということがある。それが1つですよね。
もう1つ言うと、その後(アフター)ですよね。きっかけは好奇心に従ってやってみるということなんですけれども、それを本当に自分のチャンスにできるかどうかということは、やっぱり西村さんもよく言われているんじゃないかなと思うんですけど。
やった後に振り返りをすると。振り返ると「自分はこういうことができたし、こういうところはもっと上達しなきゃな」と。「だから明日はこういうふうにやろう」と、振り返りをして気づく行為を日々やる。
たまたま僕はやっていたわけなんですよ。尾崎豊みたいな感じで「俺はうまくできているか?」みたいな感じでやっていたんですよ。なので、振り返って気づきます。PDCAですよね。これをやった。
最初はきっかけなんて小さなものでいいんですよ。ちょっと1歩動いてみたら、PDCAを回して振り返って気づいていくというので、1歩1歩。この繰り返しをやるのを自分のリズムとしてインストールしておくというのが、すごく大事。
西村:なるほど。
伊藤:そこらへんかなという。気合いとかじゃないんですよ。習慣なんですよね。
だからいきなりバーンと……。僕もその案件がきっかけになったから、ドラマティックに話をするとそういうことなんだけど、そこから毎日毎日苦しみながら毎日それをやったというのが、一番でかいですよね。
西村:ということですね。なるほど。具体的に当時、今もそうかもしれないですけど、振り返りの習慣をどんなふうに……。毎日やったのか、毎週やったのか、振り返るときにどういうノートとかを使ってやったのかとか。
伊藤:そうですね。これは絶対にみなさんやったほうがいいと思うんですけど、振り返りのペースは3ヶ月とか半年のことは他の意見とかで見ていただければ。他の本とかなんとか、いろいろ見ていただければと思うんですけど、僕がお勧めしたいのは2種類あって。
毎日の振り返りと1週間の振り返り。これを必ずやり続けるということですね。毎日の振り返りは小さいんですよ。1週間の振り返りはちょっと大きくするんです。時々、3ヶ月に1回とか半年に1回とかそれは適宜行ってくれればいいんだけど。
このリズムを作るということが大事で。いろいろやっているうちに今のスタイルになっていったのは2つあって、日記を書くということと散歩をするということ。
西村:へー!
伊藤:それは毎日必ずやっています。1行でも10行でもいいから、今日はこういうのが印象的だったとかこれが好きとか、それをつけておく。
それから散歩をするというのは、頭の中にあるゴミとか垢みたいなものをすーっと落としていく。これは、頭の中で振り返っていないですよ。リセットしているんです。これに瞑想も加わって、リセットに命をかけているんですけれども。
西村:そういうことなんですね。
伊藤:それで何がいいかというと、日記を書くことによって言語情報として振り返る。瞑想とか散歩によって身体的なところをリセットする。これを繰り返すリズムを作ることによって、毎日毎日ここに戻ってくるという感覚を持っているんですね。
そうすると、今日は成長しなかった、今日は成長したみたいなことを毎日積み重ねている感覚になりますね。
そこを多少客観的に見て、1週間に1度、何をやるかというと。さっきお見せしたように、このスケッチブックなんですよね。
スケッチブックに何回もメモを書いていくというのを、1週間に1枚書くということをやっています。こんなスケッチブックで、今もあるんですけど。例えばこれが、この絵なんですけど、他にも武蔵野大学のこれをまとめてみるでもいいし、自分がマーケティングのプランをこんなふうに考えてるよでもいいし。
自分の振り返りでも仕事の振り返りでもなんでもいいですけど、そういうことを絵にしてみるみたいな。そんなことをひたすら1週間に1回やるというのを、ずっとやり続けていますね。
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