2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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山下悠一氏(以下、山下):僕も聞いたことがあります。村など田舎暮らしをしている人たちが、やはりミーティングなどをあえて少なくして、話題によってLINEの部屋を分けていると。
佐々木俊尚氏(以下、佐々木):なるほど(笑)。
山下:それによって、「女同士の部屋」とか「男同士で話し合う部屋」とかにして、うまく田舎暮らしの問題を解決するみたいな話があったんです。まさにこれからはそういう都会と田舎、あるいはテクノロジーと自然というものが、どんどん融合して新しい生き方とか働き方というかたちになっていくと思うんですよね。
佐々木:そうですね。
山下:その時におうかがいしたいのが、俊尚さんがこういうお考えを持たれているというのは、ご自身でいろいろと実験だとか、いち早くそういう暮らしをしてきたかと思うんです。3拠点生活は、どういうきっかけで始まったんですか?
佐々木:これはよく聞かれるんです。最初は311の東日本大震災の時に、東京にしか家がないのはリスクヘッジ上どうなのかということを考えて、別に事務所も仕事場も借りていたわけじゃないし、2人ともフリーランスなので、もう1軒どこかに家を借りてもいいかなというので探したんですね。
伊豆とか北海道とか仙台とか、いろいろあちこち探し回ったんだけど、結果的に電車でも行きやすい、車でも近くて、わりに余所者に優しい街ということで、別荘地の軽井沢を選んで家を借りたというのが最初ですね。
山下:ふーん。
佐々木:その後、福井に家を借りるようになったのは、もうちょっとわけがわからないんです。最初は借りるつもりはなかったんだけど、うちの妻が陶芸の仕事を当時からするようになって、ホテル住まいをしながら福井に通って福井の土でこねていたんですよ。
それもだんだんつらいよね。しかもホテル代もけっこう高いし。聞いてみたら福井は家賃がけっこう安いというので、「じゃあ、家を借りてしまってもいいかな」というので借りたという流れですね。
ただ、トータルとして見ると、そういうのを後押しした背景には、これだけ日本中に空き家が大量にあって、しかも地方で人が減って困っていると。
さっき話したような、イノベーションのアイデアや種が生まれる素地が必要であるということを考えると、もっともっと人々がグルグル回遊しながら生きていく方が、日本の社会、あるいは日本の産業界にとっても重要なんじゃないかなというようなビジョンがあるんです。
じゃあ、それを実際に自分で試してみたら、自分はどう変わるだろうかということを、実践的にやってみたかったというのが1つの大きなきっかけになっています。
山下:その結果、ご家族との関係性や仕事に関すること、人との出会いはどう変化しました? 仮説どおりでした?
佐々木:仮説どおりですね。仮説以上に、やはり知らない世界の人と友だちになるというのは、やはりこんなに大きいのかというね。東京にいると、世界の中心にいるような気がしているじゃないですか。
山下:そうですね。
佐々木:「なんでもここにあるよね」という感じ。でも、あちこち転々としながら暮らしてみると、東京で見えている風景なんて、実は正解のごく一部にしか過ぎないんだなということが重々よくわかります。
それは別に世界というのはニューヨークとかパリとか、そんな大げさな話じゃなくて、日本国内の小さな1億2千万人の国の中でも、東京で見えているものはごくわずかだよね。やはり地方に行かないと見えない風景とかいろんな構図とか、物、関係性みたいなものがたくさんあるよねということがわかってきたのがすごく大きいかな。
あともう1個は、やはり移動生活ってなんとなく大変そうに見えて、そこまでできないかなと思っていたんだけど、やってみると意外と簡単。お金がかかるのが一番のやっかいです。
山下:逆にお金がかかっちゃう。
佐々木:そう。JRの交通費が高いので(笑)。新幹線がとくにね。そこの交通費の問題が大きいんだけど、それを除くときちんと体力さえあって、精神的に自由であれば移動しながら暮らすというのはぜんぜん楽だよね。
佐々木:すごく不思議に思うのは、最近仲良くしているアドレスホッパーの人たちがいるんです。
山下:はい。
佐々木:市橋正太郎君など、彼らアドレスホッパーの人って本当に家を持っていなくて、流行りのサウナに泊まったりしながら転々としているんですよ。10年近く前にノマドとか言い始めた頃にも、それこそ高木新平さんとか、やはり家を持たないで転々としながら暮らしている人って当時からいたんです。
当時は彼らに聞くと、ノマドの彼らは「さすがに家なしでは1年とかやっているとけっこうキツいですわ」というのでもたなくて、みんな最終的にはシェアハウスに行ったりとか、自分で家を借りたりとか定住型に戻っていったんだけど、最近のアドレスホッパー系の若い人は、定住に戻る気配がないんですよ。
山下:そこ、おもしろいですね。
佐々木:たぶん、ゲストハウスとかコワーキングみたいなのがすごく普及してきて、快適になってきたりとか、前よりもモバイル、クラウドのWebとかIT系の使い勝手が良くなったり、いろんなインフラがたぶん整ってきた部分もあると思うんです。そこはきちんと素地というか土台さえ作られれば、一生移動しながら暮らせる人が出てきてももはやおかしくないという時代になりつつあるのかなと。
これがさっき言った自動運転の話だったりとか、AR、VRがどんどん普及してくると、もはや「まだ、1ヶ所に定住しているんですか?」ぐらいな感じの時代が来るのは、そう遠くないのかなという感じがしますね。
山下:お話をお聞きしていると、3.11の話もあって、これから気候変動だとかいろんなことを考えると、リスクヘッジの観点も大きいかもしれないですよね。
佐々木:そうなんですよ。どこで何が起きても大丈夫なかたちにするというね。多拠点居住を始めた理由はリスクヘッジだという話をしたんですけど、一方で、それこそ「複業」という言い方をして、最近、複業の「複」がサブの「副」じゃなくて複数の「複」という言い方をする。いろんな仕事をしているよね。
これもまさしく、リスクヘッジになっている部分があります。もちろん1個1個がギグエコノミーで小さな仕事だったら、そんな大金持ちになれないんだけど、僕なんかフリーで仕事をしていて、たくさんの取引先というかいろんな仕事をしているわけです。
そうすると、1個が潰れても「まあ、他が残っていればなんとかなるかな」というね。1個の大きな会社、大木にぶら下がって生きていると、それはそれで収入も多くて安定しているんだけど、その大木がドカーンと倒れた瞬間にすべてを失うよねと。
一方で、細いロープを20本くらい持っていると、1本1本は細いし、全部含めても大木ほどにはならなくて、わりにささやかな人生なんだけど、20本持っていれば「1本、2本切れてもそうそう簡単には死なないよね」と。死なない感じというのが大事なのかな。
山下:うーん。
佐々木:コロナで本当に思うんです。一発逆転大成功みたいなものを、21世紀に入って我々はやたらと求めていくじゃないですか。自己啓発本を読んだりとか、ビジネス書を読んで、「堀江貴文さんみたいになりたい!」みたいな人がいっぱい出てきた。僕は堀江さんは素晴らしいと思うけど、彼のようになれるなんて1万人に1人くらいですよ。そんな人は滅多にいない。
大半の人は、ごく平凡な人生を送るので、平凡な人生をどうやってよく持続させるかということが大事です。華々しく成長、成功を求めていくよりも、地味だけど持続していくということの大切さは今回改めて浮上してくるんじゃないかなという感じが、個人的にはしているんですよね。
山下:一方で、堀江さんみたいになるのは少ないかもしれないんですけど、俊尚さんも言うならフリーランスでやられています。「それは簡単だよね。いろんなところで自由に」という見方もあるんじゃないかなと思っています。
例えば、今、大きな会社に勤めているとか、サラリーマンからしたら、ちょっと「夢物語に見えるなあ」みたいな話もあるかと思うんです。その辺ってどうですかね。
佐々木:今回のコロナでわりに明らかになりつつあるのは、1つに、やはり露骨に「いらない仕事ってたくさんあるよね」とわかっちゃった場合。「リモートワークで済むんだ。しかも判子なくてよくて電子決済でいいし、もはや判子なんか押さなくてもクラウドサインでいいじゃん」という話になってくる。
「じゃあ、判子の決済だけ押している中間管理職ももちろんいらなくなるよね」と。組織形態も変わらざるを得なくなって、日本型の旧来の中間管理職が不要になってくるというのは、すごい勢いで見えてきちゃっている部分はあるわけですよね。会議でただぼんやり携わっているだけの人とか。
だから、そういうのがいらなくなるというのが見えてくると、けっこうどこで社会のリソースというか、自分の仕事を組み立てるのかということを考え直さなきゃいけなくなる。
佐々木:でも一方で、今まであまり注目されてないし、どっちかと言うと相手にされていなかったんだけど、すごく重要な仕事もあることも、今回見直されていると思うんですよ。
アメリカなどでも「エッセンシャルワーカー」という言い方をされています。例えば、インフラに携わっている人たちですね。水道工事とか電気工事とか、電力会社、ガス会社、水道の人。あるいはバスの運転士さん、タクシーの運転士さん。あるいは医療機関で働いている人。要するに現場にいかなければ成り立たない。
でも、その現場の仕事こそが我々の生活を成り立たせてくれているんだよねということが、今回もう1回すごい重要な意味を持ってきているような感じがする。21世紀初頭、10何年間の「ホリエモン目指せ」思考みたいなところで言うと、「あんな仕事しかできないなんて負け犬だ」と。
山下:(笑)。
佐々木:「我々はそんな負け犬にならないように、年収1,000万円を目指すんだ」というようなことを思っている人がいっぱいいたわけじゃないですか。でも、そうじゃなくて、それは負け犬じゃないんです。
エッセンシャルワーカーというのは、本当に大事な人たちです。さらに誇りを持って、よき仕事とともによき収入がきちんと確保されるような方向に持っていかないといけないよね。言ってみれば、アメリカでトランプが生まれてきたのも、エッセンシャルワーカーに対する軽視みたいところがあるわけですよね。
山下:なるほど、なるほど。
佐々木:低賃金の白人労働者などを馬鹿にしてきて、しかも民主などのリベラルがちゃんと包摂しなかった。それが故にその人たちがトランプ氏に流れたみたいなところがあったわけでしょ。
日本ではそこまでいっていないんだけど、そういうことを考えれば、そこをキチッともう1回包摂し直す。我々が支えることをやらなきゃいけない。それと同時に、また別の場所で不要な仕事が出てきている。
何が不要で何が大事かという区分けというか、見る視点や基準みたいなものが、今回のコロナで変わるんじゃないかなと個人的には思っています。
山下:なるほど。不要な……。
佐々木:僕も広告の仕事をいっぱいしているので、あまり悪口は言いたくないんだけど、例えば広告代理店なんか典型です。
山下:(笑)。
佐々木:広告案件をやると「打ち合わせしましょう」と言って、15人くらいとかが来るわけですよ。
山下:はい(笑)。
佐々木:そのうちしゃべるのは2人くらいしかいなくて、あとの13人くらいはみんなただ立ち会いでずっと黙っていたりする。
山下:(笑)。
佐々木:あれ、明らかにいらない仕事でしょ。そういうのは見直されると思うんです。
山下:そうですよね。
佐々木:でも、そういう立ち会いだけしている広告代理店の人は、公共機関の運転士さんだったりとか、インフラ機関に携わっている人を、わりに下に見ているところってあったわけじゃないですか。それ、本当は逆だよね、という転換は大事なんじゃないかなと思うんですよね。
山下:そうですね。エッセンシャルワーカーってすごくいいですね。AIとかテクノロジーがどんどん発達していけばいくほど、そういうのを守っていく人たち、インフラを守っていく人たちも一方ですごく重宝されるから、そういう人たちはもしかしたら現場に留まらなきゃいけないかもしれないけど、だからこそ大事にしよう、ということですか。
佐々木:そうそう。だから、現場の大事さと、回遊しながら新しいものを作っている仕事との両輪で社会は動いているんだという認識が、今回生まれる可能性があるんじゃないかなと思うんですよね。
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