2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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遠山正道氏(以下、遠山):そろそろ長谷川先生にもお聞きしたいんですけれど、長谷川先生はもう完全にアートのど真ん中の方じゃないですか。それで、こちらのみなさまはたぶん非アート側の方々だと思うんですね。普通の方々。アート側が、非アートに期待することって何かあるんですかね。
私、もう数年前なんですが、あるアーティストと2人で飲んでいたら、もう40いくつの男の人なんですけれど、しみじみと「いや〜、実は私アートしかやってなくて、請求書の1つも書けないんですよ」と言ったんですよ(笑)。それで私はなんだか急に楽になったというか。
アートってすごく勝手に神格化をしちゃっていて、敷居が高い。だけど、「アーティストは請求書も書けないのか」と思うと、なんだか我々にできることがあるなという気がしてきたんですね。
しかも、今インスタレーションなどがすごくプロジェクト化していく中で、油絵具とキャンバスだけではできないことがたくさんあるじゃないですか。だから、ここにいる人たちがアートに対してできることを、一人ひとりが思いつけるといいなと思ったんですね。
アート側から、「アートってそんな立派に見えるけど、いやいや、弱々なんです」とか。あるいは「こういうところにお金がない」とかいうのがあれば。
長谷川祐子氏(以下、長谷川):ありがとうございます。さっき中野さんの言われた「クール」という近代の後のアートは、時代を反映してるので新しさとして作られます。ということは一般の人たちには馴染みがない。
マリリン・モンローの絵を共通のアイコンとして見ていらっしゃったと思います。あれも出た時は、最初は「何、これ?」だったわけですよね。
ですから、それをつくることは、アーテイストにとってある意味でリスクのある、ギャンブルに近いところもあるかもしれない。新しく出てくるものをみなさんがどうやって受け取って、理解していただけるかということが大切です。心をオープンにして、見ていただきたいです。
というのは、それをおもしろがっていただかないと、自分が感じ取れるものだと思っていただかないと、「ここでサポートしてください」と言っても、なかなか「はい」と言えないと思うんですね。
長谷川:もう1つは、アーティストたちは自分の直感で時代を吸収して、歴史も自分の中でいろいろな解釈をしながら、次に行こうとしている人たちがいます。ある意味で、毒ガスを感知するカナリアみたいなところがあります。ちょっと先を見せていく人たちなので。
その人たちが集中して、いろんな意味でのクリエイションを自由にできるように、さっきのマネジメントのことや、資金面でのサポートをしてくださる土台があると、すごくいいなということと。
あと、私はよく「エコロジー」「エコシステム」という言葉を使います。いいアーティストがいるだけじゃぜんぜんダメで、それを理解してくれる本当に少数のコレクターたちがいるだけでもダメで。やっぱり世の中にちゃんと流通して、みんなが「このアートがあってよかった」と思うという。その力が、もう一度生まれたアートをサポートする側に回っていくという順番のエコロジーができていくことは、すごく大切だと思っています。
遠山:そうすると、いろんなサポートってあるよねと。でも、その前提として、「アートは難しいから」とか「わかんない」とか言ってるだけじゃなくて、もうわかった気になっちゃう。
長谷川:そうですね。とりあえず、なんかその気になって、なんか忘れられないみたいな。だから、気持ち悪いけど、それを乗り越えると好きみたいな、そういうものはあるかもしれない。
遠山:こういうイベントをやっていると、質問などで「私、アートがわかんないんですけど」という枕詞が非常に多いんですよね。それってすごくもったいないなって。
1回そこを取っ払える勇気みたいなきっかけが一人ひとりにあれば、アート全体の土台が押し上げられていくかなぁという気もしますけどね。別にアーティストはぜんぜん怖い人たちじゃないので。「好きだ」とか言っていいじゃん、みたいな。
長谷川:やっぱりおもしろいのは、アートは、すごく自由なんですね。特に、ビジュアルアートって、サウンドを使っても構わないし。そこらへんに生えてる草を取ってきてもいいし、家を建てちゃってもいいし、なんでもありなんですよ。
その自由さの中で、「めちゃくちゃやってるじゃん」と思わないで。その自由の中で、自分なりに他の人とコミュニケーションする。そこでコミュニケーションするためには、インパクトやきっかけ、つまり美しさや珍しさなどが必要。人の心を打つために、自分は形に対する1つの認識をどう変えていくのか。それを見た人がその人の中に何を構築するのか。
そんなことを一生懸命考えながらやっている人たちなので、認めてあげてほしいなぁと。
遠山:でも、その自由の中で、何か意思を自分で発するってすごく大変ですよね。ほとんど決まっていることをやってる側のほうがゼネラルで、いざ「なんでもいいよ」と言われたら「自由か。おうおう……」みたいになる。だから、すごくリスペクトできますけど。
長谷川:そうですね。中野先生はご存知だと思うんですけど、よく例えで言われるのは、アリの集団で、働きアリと何もしてないアリが実は30パーセントくらいいて、アリの集団が成立しているという。
中野信子氏(以下、中野):パレートの法則ですね。
長谷川:アーティストは「何もしない人」というわけではないのですが、さっきの「非生産的/生産的」の割合のバランスは大切です。もちろんアーティストだけじゃなくて、他にもいろんなジャンルの方がその前者に含まれると思います。
中野:古代に天井に絵を描いていた絵師たちのように、祭祀を担わされた神官のような役割を持っている人たちでもあるわけですよね。
みんなが感じられないことを、ちょっとだけ鋭敏に感じ取って、ちょっとグロテスクな形にして見せたりとか。みんながちょっと驚くような形にできる人なので、そこに対するリスペクトは持ったほうがいいのかなと思いますね。
遠山:ありがとうございます。ご質問のある方、いらっしゃいますか? はい、お二人どうぞ。
質問者1:自分でものを作るのが好きだったり、自分のやりたいことや考えをアウトプットするのが好きな人もいるし、それがすごく苦手だったり、自分でゼロから作ることをしない方がいるんですけど、それはなぜなんでしょうか?
そういうことを脳科学的にも知りたいですし、長谷川さんにもおうかがいしたいと思います。お願いします。
遠山:あともうひと方、どうぞ。
質問者2:画家です。請求書は私も書けません。
(会場笑)
スライドの中で、建築の石上さんの「四角いふうせん」が出てきて、ヘリウムを入れてみないと実際に浮くかどうかわからないというお話がありました。
それぐらい実際にやってみないとうまくいかないかもしれない。でも、やってみたい、でもお金がかかる、というようなことでいくと、それを美術館などで実現させるためには、どういった手順を踏んでいけばいいかを教えていただけるとうれしいです。お願いいたします。
遠山:では、お一人ずつ。最後の締めという感じでお願いします。
中野:ざっくり言うと、創造力とはなんだということですよね? 実は創作力を測る試験というがあるんです。簡単な知能テストのようなものなんですが。
ただ、創造力にはレイヤーが2つあるんですよね。そもそも「創造性がある・なし」というのと、もう1つのレイヤーが「アウトプットできるか・できないか」という2層です。
アウトプットできるか・できないかという点に関しては、これは大きな部分をトレーニングが占めますよね。生得的な素質は、ある程度想定でき、例えば周りの空気を読まずにガンガン言えるか、そうでないか、というような違いくらいはあります。
創造性とひとくちに言っても、ゼロから作ったように見えても、意外と記憶と記憶のコラージュだったりもします。無意識に数年前に見ていたものを再現してしまって、あとで盗作なんじゃないかと騒がれたりということも、しばしばありますね。
我々は見ているものをすべて意識しているわけではない。けれども、けっこう記憶しているんです。これは逆手にとって、「自分には創造性がないかな」とお考えだったとしても、もっともっといい体験をして、いいものを見ることで、それがある一定の蓄積になったところで花開くということは十分にあり得るはずです。
質問者2:ありがとうございます。
長谷川:中野先生の先ほどのお答えに対して、1つ追加をしますと、創るということの創造力をみなさん評価されていますが、見るとか、鑑賞するとか、それで感じ取ることの想像力って、同じようにすごく大事なものです。
そのことのために、偉大な美術史家だったり、コレクターの方たちがいかに多くのアーティストを育ててきたかということがあると思うんですね。
観客ってとても大事で、ここ10年ぐらいでアジアの国から良いアーティストがたくさん出てきているのは、アジアの観客が育ってきているからなんですね。つまり、見たときにどれぐらいリアクションがあるか。「こうだった」「こうだよね」と言ってもらえることによって、どれだけアーティストが育つかということなのです。
だから、それはさっきの共同体の話に関わってきますよね。1人で創造力を発揮しているわけではない。それもやっぱりエコロジーだと思います。まぁ、そんなことをちょっと追加させていただきます。
先ほどの方のご質問も、まさに遠山さんの「どういうことができるのか」にも関わってくると思うんです。例えば、石上さんの場合は、最初にとても薄い鉄板で作られた10メートルくらいの長いテーブルの上にものを乗せる。そうすると、横から見ると一見空中に浮いているように見えるんですね。
それは、普通の構造ではありえないような構造なんですけど、実際に実現してしまうと。つまり、この人はそういう小さいものから始めていって、周りの人をだんだん1つの実現性やビジョンに引きこんでいくわけです。
だから、最初から大きなものではなくて、小さいものから始めていく。そのことによって、この人はきちんと実際の方法があって、このビジョンに信じられないものを想像するためのやり方がわかっている人だということを、どんどん周りに確信させていくというか。
長谷川:プロジェクトの過程では、石上さんは小さい模型を持ってきて、「これ渡しますから」と言われて、「サイズは16メートルです」って言われて。今度は「1,000平米です」と言われて、「ヘリウムを美術館で入れてみるまでわかりません」って言われて、その都度「えっ?」と言いながら進んでいく。コレクターの方々に小さいマケット(模型)を買っていただいて、サポートしていただいたりしています。
美術館でも、「この人はこれだけのことをかつて実施しているから」ということで、スポンサーを募るために、プレゼンテーションしたりします。だから、その人が今までやってきたものの考え方とか、1つの素地があって、それをみんなに知ってもらうこと。それで「この人はこれだけのことを今までにしているから、サポートしてください」というところまで持っていく。
それは美術館だったり、画廊であったり、コレクターの方であったり、そういうサポートなんですね。それはものではなくて、その作家が持っている内的な力やビジョン、あるいはそれを実現するための経験・知識を信じている、というプロセスです。
いきなり大きなことをドーンとやるのはちょっと無理なので、実際にそのコンセプトを形にしていく。ご自分の実力や過程をきちんと見せられるような準備をされて、それから大きなところにドーンと行かれるといいんじゃないかなと思います。失敗を恐れないキュレーターと一緒にぜひ。
中野:よくライフハックでも取り上げられる「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」というやつですよね。ちょっと小さなお願いから始めていって、最後はドーンと行くっていう。「10円貸してくれない?」から始まって、最後は1,000万円っていう。
(会場笑)
遠山:なるほど、勉強になりました(笑)。ありがとうございます。これで1年間やってきた、このアートカレッジは最後になります。今日もすごくいい学びになりました。
私が印象に残っているテーマが「自分と、アートと、ビジネスと」ということですね。一人ひとり、ご自分と、アートと、ビジネスと、それがどういう結節点を持つか。
1つは、今の観衆がアートに対してちゃんと影響しうるというか、そういうことも大事だと。それって、常に一人ひとりができることですよね。「あっ、そんなことでいいんだ」というかね。ぜひ、そういうものを持っていただきたいのが1つ。
それから、この3つを結節するもう1つは、「非生産性」が大変良いと。これはなんだかすごく勇気が湧きますね。それもみんなできると思います。今日は本当にどうもありがとうございました。
(会場拍手)
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