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アグリテックの新たな成長戦略(全4記事)

ペットボトルの茶葉は実は高品質 “業務用”農産物に関する誤解と可能性

経営に関する「ヒト」「カネ」「チエ」の生態系を創り、社会の創造と変革を行うグロービス。「あすか会議2019」では、テクノロジーや宇宙、地政学、ダイバーシティなどのさまざまな分野の有識者らが集い、日本の未来のあるべき姿と、その実現にむけて一人ひとりがどう行動していくべきかを考えます。本パートでは「アグリテックの新たな成長戦略」をテーマに、会場の参加者から寄せられた質問に答えました。

生花が売れない課題をITでどう解決するか?

岩佐大輝氏(以下、岩佐):あっという間に45分が経って、これから15分間の質疑応答タイムがあるということです。どうしましょうか? 質問ある方、お願いします。

(会場挙手)

おーっと。どうしよう……。こういうときは……まず、前の方から5人行きましょう。

岩佐:5人いって、それに答えたい人に答えてもらうかたちでいい? 「誰それに答えてもらいたい」というのがあれば、それも言ってください。

質問者1:私自身の仕事はぜんぜん農業とは関係ないんですけど、いずれ起業をしようと思っている中で、「植物」×「IT」で何か可能性を探っていこうかなと思っています。

1つのアイデアとしては、まだベースなんですけど「生花」ですね。花をITで、かつ6次産業的なものにできないのかなと思っています。知り合いから聞いた話では、福岡の生花の業界では、花を売りたいけどぜんぜん売れないという課題がずっと残っているらしいんです。そういった問題の解決にもつながるビジネスモデルを考えています。

岩佐:考えているってこと?

質問者1:着想を(いただければと思っています)。

岩佐:今のは、自己PRですね?

(会場笑)

OK。ありがとうございます。また、話をしましょう。

質問者1:よろしくお願いします。

農地集約と生産・流通におけるアグリテックでのチャレンジ

岩佐:じゃあ、次に行きましょう。できるだけ多くの方に質問してもらいたいので、簡潔にお願いします。

質問者2:僕自身は農業に従事していないんですけれども、実家が兼業農家で水曜日にジャガイモを手で掘ったりしていたんです。(今回は)議題が「海外戦略」や「大規模な農業法人」とそういうイメージでした。

兼業農家ですとか、地方の農地の集約の問題が遅々として進まない中で、稲作と兼業農家についてアグリテックの可能性というのを聞かせていただければと思います。よろしくお願いします。

岩佐:農地集約ですね。ありがとうございます。じゃあ、1列目の方、さっき手を挙げていた方、他にいらっしゃいますか? じゃあ、2列目の方で、先ほど手を挙げていた方。はい、じゃあお願いいたします。

質問者3:今回、生産とか流通におけるお話をたくさん聞かせてもらいました。最後のマーケットのお話でちらっと出たと思うんですが、ここ最近の国内、あるいは海外で、マーケットがどのように変わっているかということ、そこに対してアグリテックでどのようにチャレンジできるのかというところを教えていただきたいです。

岩佐:はい。ありがとうございます。では2列目、他にいらっしゃいますか? はい。

零細の農業従事者に関する課題と対策

質問者4:先ほどからPLの話が出ていると思うんですけれども、やはりなかなか儲からないですよね? 儲かるというお話はあったんですけれども、小さい農家などがいざ「投資をしよう」とかいうときに、アグリテックと言われても普通の(農家の)みなさんにわかるかどうかというと、現実問題としてなかなかわからない方も多いと思います。

そういう中でどのような営業をし、どういう語り口で説得し、システムを導入してもらうのか、費用がかけられない中でどういう口説き文句があるのかをおうかがいしたいです。

岩佐:はい。ありがとうございます。2列目で他にいらっしゃいましたっけ? じゃあ、3列目の方でお願いします。

質問者5:どうもお話をありがとうございます。私は食品メーカーで仕事をしているんですけれども、今、一番の課題といったところに、農業に実際に従事している農業事業者の数が多いというところが1つあるのかなと思います。

これは行政も関わっているかなと思うんですけれども、ここに対して将来、日本としてどんなふうにしていったらいいのかなという率直な(ご意見をうかがいたいです)……。

岩佐:えっと、農業従事者の数が……?

質問者5:細かい、零細のところが多いという意味で、非常に多いと思うんです。

岩佐:零細の農業従事者が多い。はい。

質問者5:外国と比べるとマス的な力を発揮しにくいというようなところがあるかなと思います。どうすればこれをテクノロジーで解決できるのかという、そういうお考えがあれば(うかがいたいです)。

農地の流動化を促進するための方法

岩佐:ありがとうございます。いったんここで切らしてもらいます。じゃあ最初に、農地の集約に関して、これに答えたい方は?

(一同沈黙。岩佐氏を見る)

(会場笑)

岩佐:うそでしょ!? こんなんもう(笑)。たぶん質問の意図としては、細かい農地がバラバラにあったり、生産性の悪い農地がたくさんあったりするから、それをどうやって解決するのかということです。

木内博一氏(以下、木内):今、農水省で「農地中間管理機構」という仕組みがあります。行政中心に農地をいったんそこに集めて、そして担い手に貸そうという発想なんです。

実はこれ、私は15年ぐらい前に農水省の中で侃々諤々の議論をしました。私の意見としてはもっとシンプルで、途中に信託銀行のような仕組みを作って、そして簡単に言えば「農家としての所得が(他の所得を)上回っているというような農家」に関しては専業農家として、持っている農地は農地並み課税でいいんじゃないかというものです。

しかし、昔に親が農家やっていたとかで、「自分は農家をやってないけど農地は持っている」という人もいます。これは農地を持っている意味がないので、ここに関してはやはり農業者として認めていいのかと(問題になりますね)。そうであればこれは明らかに、宅地並み課税をするとかの税制度でやっぱり農地の流動化を図るべきなんです。

それを例えば時限立法で、「国にそれを売却するのであれば、税金の免除をしますよ」ということで「兼業農家が所有していて専業農家の規模拡大を阻害している土地」というのを、国がいったん土地をある程度集めたらいいんじゃないかというのが、実は僕の意見だったんです。

岩佐:非常に具体的でいいですね。

木内:ところがやっぱり行政はなかなかそう簡単にはいかなくて、今「農地中間管理機構」になっていますけど、結論から言うと、私はうまくいっているようには見えないですね。

岩佐:僕も課税しかないと思うんですけどね。

木内:その辺はやっぱり民意なので(なかなか動かせないですね)。ただ、そうはいっても、例えば岩佐さんとこの東北地方とかは不幸なことですけど震災のあとの土地区画なんていうのは大掛かりになっていますし、むしろそういうところはチャンスがあるんじゃないかなと思いますね。

業務用・加工用の農産物の品質が向上

岩佐:はい。ありがとうございます。じゃあ、どんどんいきましょう。マーケットサイドのアグリテック。これは、生駒さんいきましょうか?

生駒祐一氏(以下、生駒):そうですね。率直な回答、ストレートな回答になっているかはわからないですけど、マーケットに関して言うと、先ほどのレタスもサツマイモもそうなんですが、産地レベルで言ったら、市場に出しているプレーヤーは過去5年で見たらそんなに変わっていないんです。

レタスで長野県が夏場に儲かっているとか、冬場は静岡と兵庫と徳島と福岡と長崎がつぶしあいを行っているとか、そういうマーケットはぜんぜん変わらないんですね。

ただ、アグリテックの可能性からすると大きく変わっていることがあります。みなさん、「業務用加工品は規格外のものを使う」みたいなイメージを潜在的に持っているかもしれないですけど、それがもう根底から変わっています。

例えば鹿児島には鹿児島堀口製茶さんというお茶の会社さんがあります。日本一大きなお茶の農業法人です。例えば、「ペットボトル用のお茶」って言ったら、みなさまはなんとなく品質の悪いものってイメージがあるかもしれないですけど、今のお茶は品質がすごく良いんですよね。評価もすごく高い。

だからマーケット観点で言うと、業務用とか加工用の野菜を作っている方々の品質がすごい勢いで上がってきているっていう状況があります。なので、そこに関してのアグリテックの可能性を言うとすれば、それは工業化の支援です。

工業的農業をする方々の支援をできる技術とノウハウ、データの利活用といったところをできるところがちゃんと伸びていくかなって思います。うちは伸びていこうと思っているという宣言で終わろうと思います。

農家によって異なるニーズにいかに対応するか

岩佐:はい。ありがとうございます。次は零細のおじいちゃんたちにどうやってアグリテックの機械を売るのか、営業するのかという質問でしたね。これは、佐々木さん。

佐々木伸一氏(以下、佐々木):(笑)。一番難しい質問ですよね。今、平均年齢が67歳って言われております。これからどんどん高齢化していくと思います。先ほどのもう1つの質問にもちょっと関係するんですけど、農家の方々の1つの視点として、みなさんアグリテックってものすごく興味をもっているんですね。

だけど、何に使っていいのかよくわかっていないところがあるんですよ。これを解決するには、我々の民間企業だけではなくて、やはり国も含めてやるべきかなって思っています。

1つの方法としては農業試験場ですね。全農は国の組織じゃないですけど、全農でしっかりとアグリテックの圃場を作って、機器を入れて、そこにいつでもアクセスできるような環境を作るといいと思います。うちだけのじゃなくて、いろんな圃場です。そうすると農家の方、高齢者の方でもそこに行って、何を使ったらいいかってわかると思うんですよ。自分に向いたものがあると思います。

つまり、「自分は面積が少ないので反収を上げるよりも品質を上げて、PL(の数字)を上げていきたい」っていう人もいれば、「農業誘致」とでも言いましょうか、どんどん遊休地を借り入れられるという環境が整ってきますので、零細農家がたくさんありますけど、どういうふうに規模を拡大していくかっていうニーズもあるかと思います。

ですからそういったいろいろなニーズがありますので、僕はどれがいいかっていうのを見つけるのは、やはり我々の売り込みだけではないと思っています。ただ、一番重要なのは、儲かるかどうかだと思うんですよ。

オランダのアグリテック技術者は年収2,000万円以上

木内:参考に伝えておきますけど、アグリテックで一番事業としてきちっとかたちになっているのはオランダのPrivaっていうメーカーです。

オランダはトマトとパプリカ、それと一部「お化けキュウリ」のようなもの、この3品目だけに絞り込んでアグリテックをやっています。アグリテックのサポート指導員、マネージャーっていうかね、「グロワー」って言われるそういう技術者もいまして、(日本円にして)年収2,000万円ぐらいです。いい人だと5,000万ぐらい。

これ(高収入であること)は、農家側がいかにグロワー、マネージャーを雇いたいか、コンサルタントを頼みたいかということを物語っていますね。技術が良くて、技術の背景はすべて「アグリテック」×「人のマネージメント」です。これで職業として自立しているというのがあります。

日本の場合はいろんな品目があるので、もしかしたら日本式で、オランダのPrivaのような可能性を佐々木さんは狙っているんだと思いますけど、そういった可能性はあると思います。

岩佐:なるほど。ありがとうございます。今の質問、零細農家の話を私からお答えしようと思うんですけど、やっぱり多いですね。

木内さんの話にあったように、オランダって本当に5品目ぐらいしか作ってないんですね。それでいて、(オランダは)世界第2位の食糧輸出国なんですよ。商品性が高い作物に絞っているわけです。

なぜそれができるかというと、陸続きでドイツやフランス、イタリア、スペインっていう農業国があるから、(作っていないものは)輸入できるんですね。

日本は違うわけですよ。例えば日本だと本当に、七草粥につかう作物とか……。

(会場笑)

ニッチな作物を作るのは、実は零細農家さんに支えられているんですよね。これは、ポイントです。

だから問題は、オランダみたいに統合してずいぶんまとめるとなると、イチゴとかトマトやキュウリは残るんですけど、食用野菜の多様性っていうのは圧倒的に損なわれるということです。

そこはお金を払ってでも守らなきゃいけないんじゃないのかなっていうのが、零細農家さんに関して思うところですね。

「野菜を作る」から「メニュー開発」へ

生駒:(アグリテックというテーマとは)まったく逆のことを今から言いますね。僕は宮崎にいて、綾町ってところのオーガニック野菜を食べていたら7年間風邪をひかないという状況にありまして……。これは完全に神秘の世界なんですけど、多品種少量で手をかけて作った野菜ってめちゃくちゃうまいですよね。

(会場笑)

だから僕も、あれはお金を払ってでも残したいなって思った。

岩佐:結局マーケット(の心理)ってそういうことですよね。手かけて、汗かいて、こうおじいちゃんが……。

木内:ちょっと! (今日のテーマは)アグリテックだから……。

生駒:(笑)。

(会場笑)

岩佐:だから結局、通じ合わない(笑)。

木内:実はここだけは伝えておきたいなと思うんですけども、植物工場、これ、例えば10種類でも20種類でも、時間が経てば作物ができてきます。簡単に言えば、7種類の野菜が入ったサラダを作りたければ、今は自動でできます。

だからアグリテックの農業が一番進化したバージョンのところでは「野菜を作る」というよりは「サラダを作る」っていう時代が可能になっています。これは簡単に言えばおいしいサラダとしてのメニュー開発ですよね。

そうすれば海外に向けて素材(農作物)だけじゃなくて、その機能、要はメニュー開発と、ブランディングと、マーケティングといった側面で、新たな可能性があるかと思います。ユニコーンまでいくかはわからないですけどね。

アグリテックの先駆者たちが描くビジョン

岩佐:ありがとうございます。残りの質問については、あと15秒ぐらいになっちゃったので、お一言ずついただいて終わりにしたいと思います。佐々木さん。

佐々木:はい。私が考えているビジョンですが、水とか肥料とかそういう環境問題の話題が先ほどありましたけれども、農業ではみなさん、非常に環境と近いところで仕事をしています。ですから事業をやるうえでは両軸だと思っています。

もちろんですけど事業としては利益を出さなきゃいけない。だけどもう一方のところでは、持続型、サステナビリティと言われていますよね。この両方を考えるのが、これから農業を推進していくうえでものすごく重要で、アグリテックの使命はそこだと思っています。

岩佐:はい。ありがとうございます。じゃあ、木内さん。

木内:実は(2020年の)東京オリンピックで採用されたJGAP(Japan Good Agricultural Practices)というのを、私たちが作ってきました。今、これをAGAP(Asia Good Agricultural Practices)ということで、アジアに広めようと思っています。

それだけではなくて、我々は今、ハラル(注:ハラルフード。イスラム教徒が食べてもよい食品)に関しても対応できますが、ハラルの国々(イスラム教徒が多い国々)はサラダや生野菜を食べる傾向がほとんどないので、そこのマーケットを攻めようかなと思っています。

岩佐:ありがとうございます。じゃあ、生駒さん、お願いします。

生駒:はい。アグリテックでまとめたいと思うんですけど、去年、僕がアグリテックの講座をやったときに、「『自動化』と『予測』っていうキーワードがこれから来るよ。あと『土壌センサー』っていうのも来るよ」という話をしたんです。

来年に向けて「来るよ」っていうところですが、今度は情報の掛け算で、1つ目が金融、2つ目がクロップ・マーケティング、種苗、それで3つ目がインシュランス(保険)です。このあたりに関する「データ」×「サービス」といったものが出てくるかなと思っています。

アグリテックというのは、たぶん伸びていく生産者さんに対して、そういった金融サービスであるとか、保険サービス、そして調達する種苗、そういったところの掛け算ができてやっとスケールしていくのかなと思っています。

岩佐:ありがとうございました。あっという間に1時間が経ちました。ということで、闊達に議論いただいたパネリストのみなさんに拍手をお願いします。ありがとうございました。

(会場拍手)

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