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Beyond the Biz ビジネスを越境せよ #4「Business × 旅~ぼくらが旅に出る理由~ 」(全4記事)

地元へ戻り、東京で働き続ける――子育て世代が神奈川県・葉山町に移住する理由

Instagramを中心としたSNSの発展によって、昨今の旅のあり方が変わってきています。本イベントでは、トリップアドバイザー代表取締役の牧野氏、世界中を旅するノマドワーカー古性氏、葉山町役場Instagram担当者の碇野氏が登壇し、旅にまつわる行動変容についてディスカッションしました。本記事では、ノマドワーカーとしての働き方や、地方移住の実態について詳しくお届けします。

世界中を旅しながら仕事ができる

ハブチン氏(以下、ハブチン):のちさんの働き方についてうかがいたいです。

昔は旅という感覚がなかった、と言ったらあれですが……会社員だと、夏季休暇や年末年始にまとめて旅行するみたいな感じだったのが、もう「暮らしてるし、旅してるし、仕事してるし」と、旅の概念が変わっているのかなと感じます。どうですか?

古性のち氏(以下、古性):そうですね。さっきもお話に出たように、旅と暮らしの境界線が曖昧になっていますね。

ハブチン:普通だったら「カッパドキアいいなあ」と思ってすぐに「10日間いよう」とは決められないですよね(笑)。

古性:ならないですね。

ハブチン:そこから、どうやって“旅しながら”という働き方になったんですか?

古性:私の場合は、実は「世界中を旅しながらできる仕事ってなんだろう?」という視点から選んでいます。だから最初、「ハサミが1個あればどこでも仕事ができる」と思って美容師になりました。でも、美容師は向いてなかったんです。

ハブチン:ははは(笑)。そうなんですか。

古性:死ぬほど向いていなかった。実際に美容師になってから、他人をきれいにすることに微塵も興味がないことに気づいたんです。

(会場笑)

ハブチン:ははは! めちゃくちゃおもしろいじゃないですか。

古性:「これ、興味ないな」と思って。

ハブチン:ログミーに載るんですけど大丈夫ですか?

古性:そうでした(笑)。

スマホ普及で個人にチャンスが増えた分、競争が激化した

古性:それで「興味あることって何かな」と考えた時に、パソコンだった。これから生活と切り離せなくなってくる未来も見えていた。なので、Webデザイナーになったんです。

最初から「旅をしながらできる仕事」という視点を持って職業を選んでいたんですけど、26〜7歳ぐらいまでやっぱりうまくいかなかったんですよ。そんな生き方をしている人が周りにいなかった。だいたい話すと「よくわかんない」、ポカーンみたいな。

ハブチン:「夢見てるのか?」みたいな。

古性:そうそう。「いつまで言ってんだ」みたいな感じだったんです。でもやっぱり今こうして働けているのは、iPhone普及の影響が強い。私、本当にジョブズに感謝してるんです。

(会場笑)

ハブチン:故ジョブズに。

古性:iPhoneの登場で、個人で発信するのがスタンダードになった。これまでは埋もれてしまっていた、個人の個性みたいなものが気軽に発信できるようになった。私のやりたいことや思いをどんどん発信できて、そこに応援してくれる人が加わって、成り立っています。

いま、ほとんどSNSからお仕事をいただいているんです。毎日絶対に3回発信すると決めていて。

ハブチン:へぇ〜。

古性:伸びている人のツイートを分析して、PDCA回して、みたいなことを……。

(会場笑)

ハブチン:そうなんですね!

古性:すごくやっています。「この人っていつも夜の19時に発信してるけど、平日はこの時間が伸びるのか?」とか、「休日にお菓子の投稿をすると、どうやらみんなのんびりした気持ちになっているので伸びやすい」とか分析しまくって、そこから仕事を得ました。

ハブチン:すごいなぁ! やさしい、やわらか〜い美しい写真の後ろで、ゴリゴリPDCAを回している。

(会場笑)

古性:そうですね。でも多拠点で生きている人たちって、やっぱり見えないところでそれぐらいハードワークしている人たちだし、人が走らないところでダッシュして、エスカレーターを逆に走ってるぐらいのゴリゴリのマッチョなことをやってる人がいることが多いです。

ハブチン:そうですよね。スマホが普及した分、要するに誰でもチャンスがあるわけですもんね。その中で一歩抜きん出るって、やっぱり相当やらないと、意識しないとできないですよね。

古性:そうですよね。フワッといい流れに乗っかって上がっていってるように見える人でも、たぶん裏ですごいことになってると思うんですよね。

ハブチン:白鳥の足元みたいなね。

古性:よくあるやつですよね(笑)。なので、多拠点で今やってる人って、マッチョが多いなというのはすごく感じてます。

140字の文章すらまともに読めない人々

ハブチン:テキストから写真に変わったのって、やはり5Gとかインスタとか、今どんどんYouTubeとかにもなってきて、リッチなコンテンツがすぐWeb上に上げられるようになったみたいなことが大きかったりするんですか?

古性:私の場合は、けっこう若い子たちに向けて発信することが多くて、ここ1年ぐらい、ますます文字離れが進んでるなと実感として感じています。140字すらちゃんと読んでくれないんですよ。

ハブチン:えっ、そうなんですか(笑)。

古性:そうなんです。

ハブチン:そういう時代なんですね。

古性:「旅の本を読みたいです、おすすめの旅の本を知っている方は教えてください」みたいに、140字でツイートしたことがあったんですけど、それに対して「僕も書きたいです」「僕もその旅の本に参加したいです」みたいな、よくわからないのがいっぱい来た。

ハブチン:よくわかんない(笑)。

古性:140字すらちゃんと読んでくれてないのをすごく実感したのと、友達の「この時間帯で、この場所で、一時的にカフェやります」みたいな投稿に関しても、「何時からですか?」とか、「何日からですか?」みたいなレスがすごいついてた。

本当に最近、読解力が低くなったという話をすごくするようになった。ちゃんと伝えたいことは画で伝えたほうがいいなと私は思ったので、写真がメインになった感じですね。

ハブチン:そこで写真に切り替えたんですね。

古性:そうですね。なので、今後は動画もやろうかなとは思っています。

ハブチン:やっぱりそうなってきているんですね。

憧れの生き方を実現するための「移住」という手段

ハブチン:葉山だと観光という文脈で、プレイヤーというか提供者が変わってきたじゃないですか。住民の方が宿泊場所を提供したり、カフェがめっちゃ増えたり。何か顕著な変化はありますか?

碇野陽基氏(以下、碇野):葉山は今、インスタ目線で言うと、おしゃれでゆったりしたイメージを持たれていると思うんです。その町の中で、例えば「おしゃれなカフェをやりたい」など思って来てくれる人が増えたように感じます。

もともと、憧れの町のイメージを持っていて、憧れていた「おしゃれなカフェの開業」をその場所でやってみたいという。デザイナーの方がカフェをやってみたという方もいらっしゃって、そこはちょっとおもしろいなと思いました。

ハブチン:来る人の割合として、新規の方が多いのか、リピーターの方が多いのかとかってわかるんですか?

碇野:居住の話になってくると、葉山って大きく分けると2つエリアがあるんですよ。人が集まっている都市部的な地区と、山側の田舎的な雰囲気が残った地区です。葉山って、(インスタを)見ていただいてる方は、海の写真のイメージが大きいのかなと思うんですけど、実は葉山の面積の7割ぐらいを占めているのは山なんです。

ハブチン:裏側はそうですもんね。

碇野:そうなんです。山側のエリアは、「昔から住んでいる地元の人たち」というイメージが強いです。

やはり、住民の方は都市部を中心にどんどん入れ替わりが始まっている感じです。新しく住み始めた方は、行政に対してもいろんな新しいアイデアをくれたりします。「自分たちは葉山に対してこういうイメージを持って住みに来て、こういうところがイメージとギャップがあった」とか。自分が持つ憧れの環境をもっと実現させたいという意見を、すごく積極的に声を上げてくれますね。

地元へ戻り、東京で働き続ける子育て世代

ハブチン:移住者はけっこう増えている?

碇野:増えてますね。葉山のイメージでいうと、実際の数字上の話で、20代が1回外に出るんです。葉山ってちょっと田舎なところがあって、電車が走ってないんですよ。

ハブチン:そうですよね。

碇野:基本みんな京浜急行のバスで移動するんです。そんな環境もあって、「通勤しやすいエリアに住みたい」とか、あるいは「東京で働きたい」という若い子が多くて、1回外に飛び出していくケースが多いです。

その反面、30〜40代の子育て世代の方たちが、例えば東京での暮らしに疲れて、葉山のような海も山もあるところに住みたいとか、もしくは東京で働きながら自然環境の豊かな場所で暮らしたいという理由で転入してくれます。葉山、逗子は1時間弱ぐらいで東京に行けるような環境にあるので、わりと通勤もできます。

「東京に通勤をしながらも、山も海もあるところに住める」というイメージを持ってくれて、そういう生活を希望する人が多いイメージです。

ハブチン:家族で移住する人たちって増えてますよね。

碇野:増えていると思います。

ハブチン:僕もそうで、僕の友達も葉山とか逗子とかに住み始めて、子どもができたら行くみたいな感じの人たちが多いなと。だから、いろんな地域でも、選ばれる街と、逆にどんどん人口減少で過疎っていく街と、二極化し始めるのかなと。旅からの切り口で住むみたいな話とか、働くみたいなところにも、街の変化とかもつながっていくんじゃないかなと思いました。

碇野:まさにそうだなと思ったのは、三浦半島は横須賀市、三浦市、逗子市、鎌倉市、葉山町で構成されているエリアなのですが、横須賀市、三浦市は人口減の勢いが強いです。

ハブチン:横須賀もそうなんですか?

碇野:はい。私、実は横須賀出身なんですけど、横須賀市は40万人都市なんですね。ひと月に数百人減ったことも、時期によってはあったと聞いたことがあります。

人口の自然減少は正直ほとんどの自治体で始まっています。その中でもおしゃれなイメージだとか、子育て世代がこういう環境で住んでみたい、そして都心から近いという立地があって、葉山は比較的緩やかに人口減少しているという感じです。

ハブチン:おもしろいですね。旅から関係人口が増えて、街の人口も変わってきてるって、本当にグラフでわかるようになってきてるということですね。ありがとうございます。

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