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第4部 分科会「企業による地域・都市の再生~新しい地方創生のカタチ~」(全3記事)

民間主導で“とがった地域”を目指す――経営者が町づくりに注力し始めている理由

経営に関する「ヒト」・「カネ」・「チエ」の生態系を創り、社会の創造と変革を行う株式会社グロービス。グロービスが主催する「あすか会議2019」では、テクノロジーや宇宙、地政学、ダイバーシティなどのさまざまな分野の有識者らが集い、日本の未来のあるべき姿と、その実現にむけて一人ひとりがどう行動していくべきかをとことん考えます。本パートでは「企業による地域・都市の再生」をテーマに、起業家・経営者が地域課題を解決する取り組みについて意見を交わしました。本記事では、各プレゼンターの自己紹介と、実際の取り組みに関するトーク内容をお届けします。

どうすればグローバルリーダーに来てもらえる場所になるのか

石川康晴氏(以下、石川):なるほど。その、アートとミドリムシでは何か可能性がありますか?

出雲充氏(以下、出雲):いや、まったくないですね。

石川:まったくない(笑)。

(会場笑)

出雲:私、こういったお話はいろんなところへ勉強しにいくんですが、アートの話は、何回聞いてもさっぱりわかんないですね。(会場の)みなさんはすごく頷いていらっしゃいましたが、やっぱりセンスがすごいですよね。

私は、自分にそうしたセンスがないことはもうわかっているので。グローバルリーダーが、そういうすてきな所に……岡山に行くわけじゃないですか。それがすごくうらやましいんですが、指をくわえて見ているわけにはいかないので、同じようなリーダーの人にどうすれば石垣島に来てもらえるのか、ということだけを考えているんです。

みなさんが来てくれるとしたら、すごくおもしろいアートがあるか、もう一つはサイエンスですよね。日本は石油が採れませんが、とくに離島はいろんなものを運んでこなきゃいけないので、ガソリンから何からすごく高くなります。でも、石垣島では自分たちでエネルギーを作ることができるんです。

そしたら、みんな「なんで?」となりますよね。石油が出ない国の人も、「じゃあどういった仕組みになっているのか」見に行こうということになりますよね。

今、高齢化で一番問題になるのが、認知症とアルツハイマーだと思います。ミドリムシを継続的に半年間食べ続けると、脳の中で、脳細胞の増加に不可欠なたんぱく質「BDNF」というものが出るんです。”Brain-derived neurotrophic factor”ですよね。

石川:もうわかんないな(笑)。

(会場笑)

末松弥奈子氏(以下、末松):寝そうだったよ、今(笑)。

出雲:えー!?

仲川げん氏(以下、仲川):earth music&ecologyぐらい難しかったですね。

(会場笑)

石川:実はearthはeden, art, heaven, music, ecologyが由来なんです。

仲川:長っ。

石川:edenのeと、artと、heavenのhを取って「earth」と。まぁ、どうでもいいですが。すいません。(出雲さんに)戻します。

石垣島で生産されたミドリムシを活かした「ヘルスツーリズム」を提供

出雲:もうちょっとだけいいですか。サイエンス。

(会場笑)

出雲:いや、アートの話と同じぐらいおもしろいと思うんですが(笑)。

石川:アートもサイエンスも一緒です。うん。

出雲:それで、そのBDNFが出ると、アルツハイマーや認知症になりにくくなる(研究結果がある)んですよ。

末松:すごく頷いていますよ。みんな。

出雲:いや、アートもいいですが! 今の話を聞いたら、じゃあミドリムシたくさん食べて……。

石川:ミドリムシを食べましょう。

出雲:認知症の方が、石垣島に滞在をして、ミドリムシをたくさん食べて、治って元気に帰っていく。そういう島だと、アートはなくても来てくれますよね。

石川:行きたい。

末松:ヘルスツーリズムですね。すごい。

出雲:それで、私はやっぱりそうしたセンスがどうしてもない。そういう人もけっこういると思うんですよ。でも、「サイエンスで、テクノロジーで、石垣島にしかないですよ」と言えば、日本中の人が、世界中の人が来てくれるだろう……来てくれるようにしたいと思って、今やっているんですが。

石川:すばらしい。

仲川:末松さん。なんだか異種格闘技のようになってきちゃったので。

(会場笑)

仲川:アート対サイエンス……。

機能重視の時代から芸術センスが問われる時代へ

末松:建築という文脈でいくと、やはり長く残るものじゃないですか。例えば、我々もお寺をやっている……やっているというと、言い方が変なんですが。それも祖父が作って50年以上経っており、”残るもの”なんですよね。

我々の子どもの世代には当たり前にあるものがあって、それをまた統合したりして地域の方に愛される形にしていく。そのときにすごく重要なのが、建物を建てるときの”技術の継承”という部分だと思うんです。

伊勢神宮は20年に一度遷宮によって技術を継承していますが、例えば地域には日本建築を建てることができる職人さんがいて、祖父の時代にはその人たちがいろいろな建物を建てていた。父の時代は造船不況であまり建築に投資をしていなかったから、そうした経験を積んできた人も、建築から離れていた。

それで今、私たちの世代がまたお寺に投資を始めたら、技術がまた伝承されていくというように、その地域に昔からあるものをどう伝承していくのかということ。技術を伝える、それから雇用を守るという視点からも、建物であるということは意義があるんじゃないかと思います。

一方で、やっぱりそこはセンスも必要ですよね。「あー、こんなの作っちゃったんだね、おじいちゃん」と言われないような物をちゃんと作っておかなきゃいけないという。そこの部分は責任も大きいと思っています。

仲川:ありがとうございます。うまく整理をしていただきました。確かに(景気が)右肩上がりの時代には、道路がある、建物がある、駅がある、何がある……いわゆる「町づくり」は、どちらかといえば、機能重視で発想されていた部分が多かったと思うんですね。日本中どこに行っても、駅前広場はほぼ同じような。学校の建物も、だいたいブロックを積んだ似たようなもので。

しばらくはそれが普通であったと思うんですが、ただ、やっぱりその1サイクルが終わって、次のステージに行こうとしたときに、芸術・建築といったセンス、何かプラスアルファの要素に意識を持っている町と、あまり関心のない町では、差がついてくるような印象がありますよね。

町づくりを地元の人たち中心で行うべき理由

末松:そうですね。おっしゃるとおりだと思います。地方創生の企画書が「コピペばっかりだ」と、よく言われているじゃないですか。そこに根ざした”地域の風土”や”文化的な背景”をわかっている人たちが関わって、試行錯誤をしながらやっていく。そういうあり方であれば、すごくイケてるものじゃなくても、次の世代がまた学習しながらつないでいくことができるんじゃないかと思うんですね。

我々の地域ですが、尾道駅の駅舎をリニューアルした際、やはり駅前というと「ロータリーがあって…」というイメージだったものが、サイクリストの聖地と呼ばれていることから、そうした方々に快適な新しい駅舎ができた。どちらかといえば未来的というよりも、昭和の匂いがする町なので、それに合った駅舎ができているわけです。

日本中にはいろんな地域がありますが、その地域の特性をしっかり生かして、できれば地元の人たちがやる。東京からお金を持っている人がきて、コンサルタントがきて、期間とお金を使ったら帰ってしまい「あとはもう責任は持ちません」というようなものではなく、地域の人たちと一緒にワークショップをしながらみんなで作っていくようなものがいいんじゃないかと、個人的には思っています。

仲川:なるほど。そうした感性の高い町づくりをしようと思ったとき、場合によっては地元の人になかなか理解をしてもらえない。私も当事者ですが、行政が壁になるようなことは、石川さん、岡山で活動をされていてありますか?

民間企業が行政と一緒に取り組むメリット

石川:いやぁ、行政の壁はめちゃくちゃありますよ。

仲川:ありますか。あ、ここに(笑)。

石川:はい。まず平等感というものがすごくあるので。この(特定の)企業だけの取り組みを応援するということはすごく嫌がるんですよね。でもね、それを乗り越えてきたんですが、僕たちは「岡山芸術交流」という岡山一帯をアートにするイベント、2019年9月7日に第2回が始まるんですが、2016年の第1回目のときはもうぼこぼこでした。

でも行政と組んですごく良かったことがありますよ。こんなに(分厚い)資料を書いて、エビデンスを残す力がすごくあるんです。だから、僕たちが岡山芸術交流に1億円を出して、岡山市が1億円出して。岡山市が1億円というのはすごいでしょ?

仲川:大きいですね。

石川:岡山県が5,000万出して、文化庁が5,000万出して、あとはスポンサーと入場料で一応5,000万円集めたのですが。この1億円を突っ込んで、市の方が3人だけ事務局にスタッフを送り込んでくれたんですが、その3人が鼻血を流しながら、こんな(分厚い)資料を全部議事録に残していくんですよ。

そこの整理学や、行政の作文づくりのすばらしさ。市議会議員の、市民から問われた時に資料を出して説明するというパワーは、僕たち民間企業では出せませんから。

ここ(グロービス)の代表の堀(義人)さんは「行政からは一円も貰うべきじゃない」と言うんですが、僕は行政の職員をちょっとだけ巻き込んだほうが、無駄なことに僕たちの仕事が捕まらなくて済むと思っています。

僕たちはクリエイティブ、そして行政の方は、市民や議員に叩かれたときのためのエビデンスを残すという役割をやっていくのは、僕はよかったと思っていますね。

仲川:まさに協業というか協働ですね。

誰かが最初に逆風に立ち向かわなければならない状況

石川:いや、役割を分けながらですね。ただ、ときどきなにか市長や市役所の局長がクリエイティブなことに口を出してくることもありますから。

仲川:あー。この作品のほうがいいんじゃないか、などですか。

石川 :なにかいろいろと言ってくるんですよ。それが、ちょっとイラっと来るんですけど。

(会場笑)

仲川:(笑)。

石川 :でも、にこっとお断りをしてますけど。

仲川:あー、そうですか。これは難しいですよね。行政が芸術にかかわると、なにかトップの人なり、力を持っている人たちの、趣味のほうに。

石川:絶対にかかわらないほうがいいですよ(笑)。絶対。市の方の特長はクリエイティブのところじゃないので。もうちょっとロジカルなところなので、クリエイティブには絶対に、一切関わらないほうがいいと思います。

(会場笑)

仲川:はい。

末松:力をいれて(笑)。

仲川:そうですね。それは、しっかり胸に秘めて帰りたいと思います。はい。あと、寺田さんも行政と何かトラブったりすることは多いですか?

寺田航平氏(以下、寺田):そうですね。

仲川:多いですよね?

寺田:ええ、いろいろありましたよ。

そもそも広告や景観表示といった規制はすごくうるさいんですよね。町にアートを描くというのも、広告だと言うんです。どこにも条例があるんですが、それを撤廃してもらうのにものすごく労力がかかります。

ですから、我々はそれを認めてもらうまでは、描いては消して、描いては消して。壁画が5ヶ所ぐらいあったので、毎年3,000万か5,000万ぐらい使っては消して、使っては消してとをひたすら3年ほどくり返しました。その中でようやく少しずつ認めてもらい、今は条例を撤廃してもらえる方向性に徐々に動いてきているんですが。

先ほどの(末松)弥奈子さんの話もありましたが、やっぱり地域を再生していくには誰かが最初に先鞭をつけないと、日本全体で見ても、なかなか新しいことをやっていく(のは難しい)。

そうすると、やっぱり民間の力が最初に道を開いて、みんなに認められるものを作って、巻き込んでいくような流れが、どうしても必要になると思っています。

例えば、冒頭の藤原(和博)さん(注:あすか会議2019第1部に登壇)も、最初に乗り出していったときは逆風で、大変だったわけですよね。それを最初に誰かが捨て鉢になる。あ、捨ててはいないけれども。ええ。誰かが最初に逆風に立ち向かう。

これはやっぱり、こうしたことを、みんなの力で徐々にできるようになることで変わらないと、日本という国は変わりにくいのかなと、個人的には思っています。

経営者が地方創生に注力し始めた

仲川:今、寺田さんも石川さんも、ご自身のふるさとというか地元の、ホームタウンに予算を投じている。もしくは情熱を投じている。嫌なことがあっても我慢して、頭を下げてやっていく。

そうした経営者の方がおられる町と、周りを見渡してもなかなかそういう方がおられない町と、日本の地方創生議論をする中で、「あー、あの町だからできるんだ」「あの人がいるからやれるんだ」というような話に、たぶんどうしてもなりがちだと思うんですよね。

ただ、これは日本の中である程度、均一には発展しないと思うんです。今日来られている方もたぶんキーパーソンとして、これからいろいろとチャレンジをしていこうと思われている方が多いと思います。そうしたスーパースターがいない場合は、どうすれば地方創生を加速できるのでしょうか。

石川:質問とは違いますが、どんどん出てきていると思いますよ。例えば浜松もビズリーチ(代表取締役社長)の南さんが、やろうとしています。ラクスル(代表取締役社長CEO)の松本さんは、富山をやろうとしています。ZOZO(代表取締役社長)の前澤さん(注:当時)は千葉をやろうとしています。ようやく日本の起業家がロマネコンティとマイバッハ(注:高級車ブランド)から……。

仲川:(笑)。

(会場笑)

石川:(笑)。「地域創生」に向きはじめたという流れを感じ始めているんですよ。群馬ではJINSという眼鏡屋さんの(株式会社ジンズ代表取締役CEO)田中さんがすごくがんばっています。僕は、一気に流れができて、この世代がその流れを完成させるんじゃないかという気がしています。

民間がイニシアチブを取れば“とがった地域”になる

仲川:逆にあれですね。行政や国が言う地方創生よりも、民間で良い意味で勝手にどんどん仕掛けていっているほうが、おもしろい動きがどんどんと。

石川:民間がイニシアチブを持ち、行政があとから乗っかるというかたちで、とがった地域が作れると思うんですね。僕はすごく岡山を大事にしているので、(人口)70万都市という中規模の都市が世界にどれだけあるか数えてみたんですよ。そしたら800都市あるんですね。1/800にならないとインバウンドが来ないと思っているんですよ。

行政は、ケーススタディ型なのでどこかのモノマネが得意ですよね。けれどもアントレプレナーというのは”0→1”が好きなので、僕たちは1/800になるものを考えています。町を美術館にしている都市はありません。もしかしたら寺田さんが先にやっちゃって、1つ目の事例になっちゃうかもしれませんが、今のところはどこにもありませんから。

やっぱり自分たちのライバル都市をグローバルで意識して、ユニークな存在になる。2番煎じじゃだめなんですよね。完全に独立したアイデンティティを持たないと、人は来ないと思っているので。たぶんそういう人たちがこの中からいっぱい出てくるんじゃないかと思いますし。

仲川:どの町でもやれると。

石川:ええ。もう、奈良でもそうです。奈良も中川政七商店さんとか。

仲川:中川さんも。

石川:僕はもう絶対に市長がアサインして、彼に1億円を上げるべきだって思ってます。クリエイティブ委託費で渡すべきですよ。それぐらい、彼は奈良をブランディングする力があると思いますね。

仲川:同じナカガワですので、また帰って相談したいと思います。

石川:親戚じゃない?

仲川:親戚ではありません。ニンベンがあるかないかの違いで。

(会場笑)

石川:あぁ、そうですか(笑)。

ユーグレナが興味を持つミドリムシアートとは

石川:僕は岡山芸術交流を2019年9月27日からやるので、みなさんに見に来ていただきたくて。テーマが「AIとアート」ということで、いろいろ想像してもらいたいんですが、とんでもない芸術祭になります。2019年は「AIとアート」ですが、3年ごとにやるので次は2022年。そのときは出雲さんのところでミドリムシのアートをやりたいと思っています。

仲川:おぉ!

石川:アートは今無関係だと言っていましたが、アート……。

末松:ミドリムシもアートに。

石川:そう。アートとサイエンスをクロスオーバーさせて、ミドリムシをアートにしませんか?どうですか?

仲川:おしゃれなミドリムシ。

出雲:ぜひお願いします。

石川:お願いします。はい。(両者、握手を交わす)

(会場笑)

末松:すてきですね。みなさん拍手を。

(会場拍手)

出雲:本当にもう、おまかせ。ミドリムシを投げ出すんで。

(会場笑)

石川:いいんですか? ただ、研究者を2人ぐらいつけてもらいたいんです。アートを作るにあたって。よろしいですか。工数がかかりますが。

出雲:それはぜんぜん問題ありませんし、僕らも一番興味があるんですよ。アートに。

石川:あれ?

(会場笑)

出雲:いや、ここ笑うところ? アート、好きだからこんなに言っているんですよ。私のセンスがないだけで。もともと下村修先生がノーベル賞をとられたのも、オワンクラゲの研究で「クラゲが緑色に光る」という。あれは緑色蛍光たんぱく「GFP」という、いろんなものを緑色に光らせる遺伝子を見つけられたからなんですね。

これを今ミドリムシに入れたり、クモの糸に入れたりすると、もちろん蛍光で光るようになります。じゃあこれを使ったアート作品なども……。

石川:やります。やります。やります(笑)。

出雲:緑色に光る電光掲示板、緑色に光る服といった、そういうものは作れると思うんですよ。作れると思うんですが……僕が作るともう致命的にダサいんですね。

(会場笑)

末松:わかる。

出雲:ですから、一緒にならないとだめなんですよ。僕らは好きなんですよ。アートが。

(会場笑)

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