2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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質問者1:ちょっと質問してよろしいですか? 遺伝子検査技術の将来性について伺いたくて。今のSNP(スニップ:DNAの中の1つの塩基が別の塩基に置き換わったものの)解析なども、1回遺伝子を見たら、その後はなかなか変わらないというということでやられていると思います。
例えば、エピジェネティクス(DNAの配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステム)の検査をして、リピーターを獲得していくことを考えているのでしょうか?
あとは追跡調査をされるのかどうかや、 遺伝子検査をして疾患のリスクを判定し、そのあと実際に疾患になったのかは長年かけて見ていかないとわからないと思うんですけど、そういうことを考えられたりしているのかが気になりました。
質問者2:ありがとうございました。新しい発展に参加することが(人間の)最大の幸福であるというところについて質問です。今後データが集まってくる中で、活用方法の周辺の産業が発展していくというお話があったんですけれども。
おそらく周辺の産業から入ってくる各社は「こういう社会になったらいいよね」と、いろいろな想いを持っているとは思うんです。でも、そこはもしかしたら高橋さんが考えられている理想的な社会といったところとはちょっとギャップがあったりするのかなと思って。
そういった異業種や別の会社の方とやっていく中で、「難しいな、課題だな」と感じられていることがあれば教えていただきたいです。お願いいたします。
質問者3:ちょっと気になった言葉として、疑似科学ビジネスの横行というものがあったんです。例えば、いかがわしい情報を提供する中国企業に買収されたらどうなるのかな? みたいな。そのあたりを聞いてみたいです。
質問者4:貴重なお話をありがとうございました。個人的に高橋さんの生き様に非常に興味を持ちました。お父さんのお勤めになられていた病院を訪問されて、病気になる前になんとかしたいと感じて生命科学を志し、その後、大学で学び研究され起業される中で、想いが挫けそうになったり、逆に続けられた理由というか。
行動の源になるものは一体何なのか? またそうした想いをかたちにし続けられるところは、遺伝子の検査でわかるものなのか? このあたりを教えていただければと思います。
質問者5:質問がいくつかありまして。まず遺伝子ってわかりやすいですよね。わかりやすいからIT系の人たちも出資しやすいというか、入っているんだろうなと思っていて。例えばガンも遺伝的要因でわかるものと、そうではないものがあって、そこをどうつないでいくのかが知りたいです。
あと、国と一緒になっていろいろなことができるのはわかってきたんですけれども、国が入ることによって大きく動かせることもあると思います。産学連携というかたちでどういうふうにしていくのか。最後に、遺伝子の次になにかやりたいことはあるのか。この3つです。
質問者6:このグループで話し合った中で、3つの話がありました。1つは人間がすべてデータ化されるということと、それでビジネスがすごく広がるから夢があるという発想です。あと1つが、すべてデータ化されたら、それをどう扱ったらいいのか。みんながみんな善良な心で扱うわけではないので、どうなるかわからなくて怖いということ。
あともう1つが、先ほど論文の数が爆発的に増えている様子を見て、これだけデータが集まっているので、どこかのタイミングでガラッと世の中の構造が変わるんだろうと思いました。
今生きている人たちの大半は、世の中の流れは自分たちの予測できる範囲の中で変わっていくだろうという予測の中で動いているけれど、ひょっとしたらガラッと変わるタイミングが気づかないうちにすぐそこまで来ているかもしれない。そこの変換点に直面したとき、どうしたらいいのかが気になりました。以上、3つの疑問でした。
司会者:この質問を伺うだけでも、それぞれのグループでいろいろなお話が出たことがわかりました。では、お時間が許す限りで高橋さんからお答えいただければと思います。お願いします。
高橋祥子氏(以下、高橋):ありがとうございます。まず、人がデータ化されること自体には夢もあるし、メリットもあるんですが、みんながみんな善良なわけではないのでどう扱ったらいいのかというご質問に対しては、扱い方によってはそのような懸念があるのはおっしゃるとおりですね。
例えば実際に昨年アメリカの人類遺伝学会が声明を出したんですけど、それはとある団体に対して、「遺伝子情報を差別の道具に使うな」という声明を出したんですね。その団体はアメリカの白人至上主義団体です。実はもともと欧米人は牛乳の中に含まれている糖、乳糖の耐性があるので、牛乳を飲んでもお腹を下しにくいんですよね。
ただ日本人を含むアジア人もそうですし、アフリカ人もそうなんですけど、乳糖耐性がない人は遺伝的に多いので、牛乳でお腹を下す人がけっこういるんです。その団体は、「だから白人が一番優れているんだ」と言って、牛乳を一気飲みしまくるという団体なんですけど(笑)。
(会場笑)
そういうふうに、遺伝子を差別の手段として使うようなことも実際に起こってしまっているんですよね。先ほどもお話したように包丁の使い方ひとつで殺人事件も起こせるし、食を豊かにすることもできるわけです。
善良ではない人をゼロにすることは難しいと思うんですけれども、大多数の人をいい方向に向かわせる流れを作ることはできると思っているんですよね。よくない使い方の人を0にすることは難しくても、同じ包丁の使い方でも、99パーセントの人が犯罪に使う世界なのか、99パーセントの人が食を豊かにすることに使う世界なのかでは極めて異なるということです。
高橋:私もゲノム情報を扱っていてすごく思うんですけれども、多様性というのはこういうことなんだなと思うんです。一人ひとり違う遺伝子の全部が尊い。誰一人同じものを持っていないですし、レアバリアントと呼ばれる極めてレアな変異を絶対にみなさんも持っているんですよ。私にもレアバリアントはありますし、たぶんここにいるみなさんも持っています。
ただ、そのレアバリアントの中でも遺伝性疾患に関わっていることが判明しているものもありますが、何に関係するかまったくわかっていないものがほとんどなんですね。そういう意味では全員レアで、全員が少数派なんです。そういう生命の仕組みをきちんとみんなが知ることで、倫理観や差別の問題を解決していける啓発ツールにも使えるのかなと思っています。それは使い方次第かなというところではありますね。
私はそれをいい方向に使えると思う人が99パーセント側になるといいなと思っていて、いろいろなところで発信したり活動をしています。あともう一つの質問は、予測できない転換点に直面したときにどうすればいいかということですか?
質問者6:気づかないうちに社会構造が変わっていたら、どうすればいいのでしょうか?
高橋:気づかないうちに社会構造が変わっていて、気づいたときにはもうかなり変わっているということですよね。それはけっこう頻繁に起こり得ることかなとは思います。気づかないうちに社会構造が変わっているというのはよくあると思います。
例えばキャッシュレス化などもそうです。日本だとそこまでではないですが、中国などだといつの間にかもうキャッシュが使えなくなっているとか。あと、コンビニの店員さんは昔は日本人だったけれど、今は日本人が誰もいないとか。気づいたらそうなっているような変化は起こり得ることかなと思っています。
ただゲノムについて言うと、ある程度予測可能なことはけっこうあると思っていて。ただ、それがいつ来るかはわからないと思うんですよね。社会構造の変化に対応する手段としては、常に未来に起こることを考えることかなと思っています。
例えば「遺伝子を解析して自分の遺伝子情報を知ってしまうのはいかがなものか」という議論も、どうしていまだに起きているのか、本当は私は理解できないんですよ。
ヒトゲノムが解読された2003年の時点で、すでに将来的にはコストも下がって、誰もが自分の遺伝子情報を手にできる時代が来ることはわかっていたはずなのですが、その時点で議論をしなかったんですよね。「それはずっと未来のことだろう」とか、いわゆる思考停止のようなものですね。
そうではなくて、今この時点から「誰もがシーケンサーでその場でゲノム解析して情報を得られるようになったら、どう制度を作るんですか」といった未来視点を常に持っておくのはすごく大事かなと私は思っています。
本当に急に飛んで変化することはあんまりなくて、ほとんどがだんだん変化しているんだけど、自分が気づいていないだけということが多いんですよね。変化に対して柔軟になりつつ、きちんと未来のことを考えておくことがすごく大事なんじゃないかなと思います。
高橋:例えば去年、ゲノム編集ベイビーが話題になりましたけれども、ヒトの受精卵のゲノムを自由自在に編集することも、もう技術的にはできるわけなんです。それをヒトに応用していいと思うかどうかを、例えば周りの人と議論してみるのも1つの手ですね。日本だと今年からゲノム編集食品が流通できるようになるので、それを食べる・食べないとか、それってどういうことなのかという話をしてみるのもすごくいいと思います。
最初に質問されたビジネスとしての将来性に関しては、ゲノムの配列だけではなく、エピジェネティックな変化や追跡調査もするんですかということなんですけど、それは今後もちろん重要な情報になっていくと思いますね。
私がゲノム(配列)のデータから取り組んでいる理由は、ゲノムの配列が変化しない性質なので、一番集めやすいからなんですよね。だから最初にやっているだけであって、今はそのほかにも腸内細菌や尿中のデータなど、いくつかやり始めています。併せて遺伝子発現のデータやタンパクのデータ、エピジェネティックのデータなども取り組んでいきたいなとは思っています。
私の大学の博士課程の専門は、もともといろいろな層の生体分子情報のビッグデータを統合して解析するという統合オミクスという領域だったんですけど、将来的にはそういうところにも興味がありますね。
ただ、今ハードルとなっているのはコスト面もそうですし、エピジェネティクスや遺伝子発現は臓器によってもぜんぜん違うんですね。どの臓器で取るかとか、血液で取る場合は郵送ができないので医療機関と組まなきゃいけないとか。
タイミングもそうです。日内変動もするので、どのタイミングで条件や食事を合わせてもらって取得しないといけないとか、いろいろなデータを取るとなるとハードルがたくさんあります。でも、今後はコストも下がっていくでしょうし、もちろん興味があるところです。
高橋:あと追跡調査で言うと、今はすでに「数年前に受けたときはどういう状況だったか」「最近ではどう変わっているか」というアンケートベースで取得しています。
これはインターネットでサービスを提供しているからこそできることなんです。普通、国のプロジェクトのアンケートなどは、だいたい紙で取得していて、新しく質問を取り直すことはすごく難しい。それを簡単にできるような仕組みを作っているので、そこで環境要因に関するデータを取得していきたいなと思います。
こちらのグループの質問で、1つ目にあった遺伝要因以外のデータも取っていくかどうかに関しては、先程のエピジェネティクスのデータなどや、生活習慣、食事、運動などの環境要因のデータも取っていくことは、もちろん考えています。
ただ、環境要因のデータの取り方はものすごく難しいんですね。今はFitbitや睡眠のデータなど、いろいろなデバイスが出ていますけど、なかなか「これを取ればいい」というフォーマット化はされていないんです。
一方で遺伝子のデータはある程度フォーマット化されていて、A・T・G・Cの4つの塩基の並びも簡単なんです。でも、そこを「どういうデータフォーマットで」「なんのデータを」「誰から」「どのタイミングで」「どう取っていくか」という設計がすごく難しくて。そこをセンス良く設計していく必要があると思っています。
結局、適当にデータを取ってもほとんど意味がないので、「ビッグデータ」を目的化しても意味がないんですよね。データがあるだけでは意味がなくて、結局どういう未来に向かってなんのデータを取るかの設計からやらないと価値がないです。研究でも、そこの設計は肝になってきますし、難しいところではあるんですけど、さまざまなデータを扱っていきたいと思っています。
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