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荒川和久&中野信子「ソロ社会、どう生きる?」トークイベント(全7記事)

自らに呪いをかける「ステレオタイプ脅威」とは何か? 脳科学者が説く、思い込みの影響力

2019年6月17日、『ソロエコノミーの襲来』刊行記念として、独身研究家・荒川和久氏と脳科学者・中野信子氏が「ソロの生き方」についてトークイベントを行いました。孤独との向き合い方や本当の自分とは何か? 人口の5割が独身となる未来に、論理と感情、今後のコミュニティのあり方まで語り合います。本パートでは、お一人様消費を楽しむソロ活市場の拡大や、根拠のない血液型診断や性差に関する迷信を信じてしまう「ステレオタイプ脅威」について解説しました。

一人で消費をする「ソロ活市場」が急増

荒川和久氏(以下、荒川):今日は、多少回り道的なお話もすると思います。これは市場でいうと、今までの高度経済成長期のスーパーマーケットの主婦が希望したのは、ここ(ノンソロ)です。家族市場です。

なぜなら、家族の財布はお母さんが握っていて、お母さんが一家の買い物を全部仕切っていた部分がありました。この4割の世帯の家族のお母さんが全部買い物を仕切って、家族市場というものが全体を占めていたんです。

今後は、さっきも言ったように4割、5割が独身になる。もうすでに4割です。状態としては、独身の人たちが物を買う市場があるということが1つと、実はもっとデカいのが、カゲソロも含めて「本当は1人で行動したいんだけどな」というような人たちが使うソロ活市場というのがものすごく増えている。

実は、独身市場と、既婚・未婚の状態に関係なく1人で消費をするソロ活市場というものの両方が生まれてきます。家族市場はたぶん、さっきも言ったように、6-4くらいにシュリンクしていくんだろうと。

これは「ソロ活が増えた」という話です。「1人で行けるもん」という、1人で行ける人の率です。

中野信子氏(以下、中野):ああ。

荒川:これ、意外に水族館とか動物園とか、女性のほうが1人で行っている。

中野:美術館もたぶん女性が多い。

荒川:ああ、そうです。一人で旅行に行くのもけっこう女性が多い。この間ちょっとテレビを見ていたら、男はおっさんになると国内旅行に行きたがる。

(会場笑)

海外ではなく、国内旅行に1人で行きたがる。

中野:お疲れなんでしょうね……。

(会場笑)

荒川:温泉みたいなところと、フェス。音楽のフェスとかライブって、昔は友だち同士で行ったじゃないじゃないですか。今は1人で行くんですって。なぜならば、音楽の趣味が合わない友だちと行っても気を使うだけで楽しめない。

中野:わかる(笑)。

荒川:行くんだったら、行った先には好きなやつしか集まっていないんだから、そこで友だちになればいいじゃんみたいな。

中野:合理的ですよね。

荒川:みたいなノリらしいですよ。

性格と何の関係もない血液型診断を信じる心理

中野:女性の選択もすごく変わってきたなという印象があります。生まれつきじゃないんだろうなと思います。昔は、女性は仲間を求めたがるというような都市伝説が流布していましたけれど、けっこうそうでもないですね。

荒川:あ、そうなんだ。このあと詳しく説明しますけど、女性の特性というようなことがずっと言われていたじゃないですか。そういうものが最近当てはまらないことが多いなと。

中野:非常にいい傾向だと思います。というのは、ステレオタイプ脅威というのがあって。例えば、みなさん、ナントカ分析とかナントカ診断とか自分の性格はこうだというのをやりますよね。そうすると、「そうだ」といわれた性格に寄せちゃう。その現象をステレオタイプ脅威といいます。

例えば「あなたの血液型はA型です」と言われた。血液型と性格のあいだには何の関係もないということがわかっています。いろんな学者が「相関ないよ」とこれだけ口を酸っぱく言っても、まだ流行っているのが不思議ですが……。

ともあれ「A型です」と言われて、A型のように振る舞わなければいけないと、なぜか思う。A型は几帳面なはずと言われて、自分の性格を矯正するように几帳面側に無意識に寄せていく。そのあとで、「実は血液型の検査結果が間違っていました。あなたは本当はO型でした」とわかったとしましょう。すると、その人はO型の性格傾向を示したりするようになる。どう思います? 

自分で自分に呪いをかけてしまう「ステレオタイプ脅威」

中野:みなさん、もっと恐ろしいステレオタイプ脅威が、性別によって生じるものです。典型的なものが、数学的能力です。これも有名な実験なので、知っている人もいるかもしれません。メンタルローテーションといって、頭の中で地図を回せるかとか図形を回せることができるかというテストです。

このテストをやると、確かに女性は男性よりもできないんですね。平均点が悪いんだけれども、女性に性別を意識させるということを、あらかじめ準備操作としてやったグループと、コントロール群として所属を意識させたグループとでテストをさせて点数を比較すると、同じテストでも点数が違ってしまうんです。女であることを意識させると点数が下がっちゃう。数学は、女はできてはいけないものだ。できたらモテないんだと。

(会場笑)

自分で自分に呪いをかけるのがステレオタイプ脅威と。これは黒人だからどうとか、白人だからどうとか、人種という分け方をしてもそういう現象が起きることが確認されています。

あるいは、アジア人の女はこうだ、アジアの女はかしずくものだ、そう思わされることで本当にそうなる。けれども、荒川さんがご指摘くださったような、昨今のエピソードをみると、どうもステレオタイプ脅威から女は自由になりつつあるのかなというような流れに見えて、非常にいい傾向だなと思ったんです。

荒川:でも、逆に男がそこから抜けきれない感じもしないでもないですね。

中野:男性のほうがもしかしたらその呪いというのが深いのかもしれません。自分が女性を守らなきゃいけないとか、女性よりも強くなくてはいけないという、呪いといったらちょっと強すぎる言葉かもしれませんけれども、プライドのようなものが強い可能性があります。自分で自分を許してあげられないという苦しみが、男性にもあるのかなと思います。

日本人の国民性は集団主義か?

荒川:今の話に乗っかっていうと、国民性とかもそうですよね。

中野:ああ、そうですね。

荒川:日本人は集団主義だって、みんな思っているじゃないですか。けっこうおもしろい。ごめんなさい。ちょっと聞きたい。日本人って集団主義だと思っている人、手を挙げてください。

(会場挙手)

案外、いない?

中野:そうかどうか、ちょっと何とも言えないという人。

(会場挙手)

荒川:じゃあ、自分は個人主義だと思っている人。

(会場挙手)

何が言いたいかというと、本当はもっと、日本人は集団主義で手を挙げてもらいたかったんです。日本人という民族性を集団主義というと、ほぼ7~8割の日本人は集団主義というんですよ。

中野:そうですね。

荒川:でも、あなた自身は集団主義か、あなたは個人主義かと聞くと、ほぼ5割くらいが自分は個人主義というんですよ。ということは、いったい集団主義の日本人はどこにいるんだ。

(会場笑)

みんな自分は個人主義だと思っているのに、日本人全体は集団主義だと思っている。

中野:でもこれって、集団主義と個人主義の定義がそもそも標準化されているんですかね。定義自体が人によってかなり違いそうで、実は評価が難しいのでは? 

「日本人は集団主義ではないよ」と否定する研究を見たことがありましたけど、集団主義かどうかを判定するやり方は、少なくとも定量的であるべきだと思います。個人主義か集団主義かが定性的に(判定されるの)では、どこに自分をおけばいいのかも、もはやわからない。

例えば、「自分は太っていると思いますか」という基準って、すごく曖昧ですよね。私は今、BMIがちょうど22くらいで、これでも「デブ」と言う人は言うと思うんですよ。

そうすると、切るラインによっては「日本人の8割はデブです」と言えてしまう。だけども、自分は違うと主張する人も出てくるでしょう。自己イメージと、標準化された基準が違ったら、これはなかなかいいにくい尺度だなと思いますよね。

荒川:あと、普遍的にそういう尺度とか定義っているのかなと。個人によって違ったりもするし。

中野:そうです。非常に難しいですよね。幸福の尺度というものも難しい。

荒川:絶対尺度ってないんじゃないかというところがある。

心の尺度をどう測るかという難題

中野:本当に。ただ、ないんだけれども、ないところに何とか測れるメジャーを導入しようとするのが、科学のやり方ですよね。幸福度も本当に測りにくいし、文化感差も大きいんだけれども、今、知られているのは、例えば(気持ちが)ブルーでないとか、ストレスを感じていないとか、生活満足度などがあります。

一般的な方法としては、1から7まで点数をつけさせる。真ん中、どちらでもないというのが4点。こういう尺度を使って、アンケート調査で顕在的に感じている感情を測るというやり方です。ただし、アンケートだからみんな嘘をつく可能性があるんですよ。誰かに見られると思って、悪気なく嘘をついているかもしれない。

本当は、そんなふうに体裁を気にしたり遠慮するようなプロセスなしに、測りたいじゃないですか。「自分は太っていると思います」と口では言っていても、「実際にはこれくらいがセクシーでちょうどいいよね」と本心では思っているかもしれない。「ちょうどいいよね」というのが、なかなか言葉に出しては言いにくかったりする。

もし、それを測れる方法があるとしたら知りたいですよね。当初、脳科学でかなりニューロマーケなどが流行り始めた頃は、期待が集まりました。でも、ニューロマーケティングなんて、実験室で測るのと売り場の状態と結果がぜんぜん違ってもおかしくない。それでずれた結果が出ちゃうということなどから、今は(ニューロマーケティングへの)幻滅フェーズというところですかね。

認知負荷が高い状態を避けたがる「要はおじさん」

荒川:(笑)。そこの部分、こういう結果とかを論文じゃなく、Twitterみたいなところで、いろんな先生とかがたまにつぶやいたりするのを見て、それに対してこうも考えられると。それは当然、学者の先生も考えているんですけど、140文字で言えることが限られている中では全部説明しきれません。だから、当然重箱の隅をつつくような攻撃をする人も出てくるわけです。

中野:学会でやればいいのに、なんでTwitterでやるんですかね。

荒川:調べたわけじゃないんですけど、脊髄反射的にしか言葉を発することができず、コミュニケーションをとれないような人って、実はけっこういるんじゃないかなと思います。

中野:認知負荷が高い状態を避けたがるんですかね。1つの問題を長くじっくり考えることは、頭の体力が必要で、負荷が高いんです。ロジックを説明するのに、1段階ジャンプしたらもうついてこられないとか。

荒川:合っているかどうかわからないですけど、口癖のように「要は」というおじさんとかいますよね。話を聞くと、ぜんぜん「要は」になってない。

中野:ああ、「要はおじさん」。

(会場笑)

荒川:「要はこういうことなの?」と。「いや、そういうことじゃないよ」みたいな。

(会場笑)

すぐまとめたがる人っているじゃないですか。

中野:そうですね。なんなんですかね。コメンテーターになりたい病?

(会場笑)

荒川:わかるところだけをまとめて、そういうことしておいてほしいということだと思うんです。

中野:そうですね。「俺が食べるんだから、ひと口サイズに切っておけ」と。

荒川:みたいな。

中野:自分で切ってねって。

荒川:(笑)。

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