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【withnews books『平成家族』出版記念】サイボウズ青野社長と「これからの家族」の話をしよう 働き方・子育て・副業・夫婦別姓(全6記事)

日本ではなぜ夫婦別姓が認められないのか? サイボウズ青野氏が語る、“旧姓を使いたい人”のリスクとデメリット

2019年5月31日、withnewsが主催する「サイボウズ青野社長と「これからの家族」の話をしよう 働き方・子育て・副業・夫婦別姓」が開催されました。withnewsでは、平成最後の年に、多様な生き方や働き方が広がる中で、昭和の価値観と平成の生き方のギャップに悩む人びとを紹介する連載「平成家族」を続けてきました。その連載をまとめた書籍『平成家族 理想と現実の狭間で揺れる人たち』(朝日新聞出版)の出版記念イベントに際し、夫婦別姓訴訟を続ける青野社長が、働き方改革の現実、子育て環境の実態などについて語ります。本パートでは、「選択的夫婦別姓」の実現に向けたさまざまな取り組みについて紹介しました。

サイボウズ株式会社の青野社長が登壇

水野梓氏(以下、水野):それではみなさん、お待たせいたしました。みなさんご存知のサイボウズ株式会社 代表取締役社長の青野さんをお呼びしたいと思います。どうぞ拍手でお迎えください。

(会場拍手)

青野慶久氏(以下、青野):今から30分ほどお話をさせていただきます、青野といいます。よろしくお願いします。(前説で)「withnews」さんのお話もされていましたが、私ももちろん、存じていますよ。

選択的夫婦別姓の話で、お子さまのニュースを書いていただいて大変ありがたいです。今日はそういうご縁もありまして、今から30分ぐらいお話をさせていただきたいと思っています。ご紹介いただいたとおり、青野慶久といいます。今、子どもを3人育てながら社長をしています。

よくみなさんに「奥さんの写真がないじゃないですか」「青野さん、シングルですか?」とか言われるんですけど、いますよ。(スライドを指しながら)ほら、ちゃんとね。ただ「顔を出すな」と言われているので、今日はハートマークをつけてきました。これは2週間前に撮った写真なので最新のものですけど、一応妻もいまして子どもが3人、我が家は5人で成り立っております。

今日はこんなテーマでお話をしてほしいというリクエストをいただいておりまして、1つ目が別姓裁判の話。2つ目が会社の話ですね。これは経営的、組織論的な話。3つ目は男性の育児という1人の男性としての話。一応こういう流れでお話をしたいと思っております。

仕事とプライベートで姓を使い分けることのストレス

まず1つ目の別姓裁判です。(「選択的」の文字に)カッコをつけたのは、「選択的夫婦別姓」なので「別姓がいいよ」ではなくて、「同姓でも別姓でもいいよ」ということになります。

実は、私がこの問題に関わったのはけっこう前からです。結婚したのが18年も前で、そのときに私は子どもの頃から使ってきた「青野」という名前を、「西端」という妻の苗字に改姓しました。妻が希望したこともあって、こう変えました。

正直、そんなに抵抗がありませんでした。だって仕事で「青野」を使い続けられれば、僕は自分の好きな「青野」を使って生きていけるわけだから、「何も問題はないだろう」と思っていたんですけれども、これが細かいストレスの連続でした。

最初は、パスポートとか大事なものから変えていったんです。そうすると飛行機に乗るときに「パスポートとマイレージカードの名前が違うから、マイレージがつかない」と言われて、「えー!?」と思うようなことが起きたりしました。

そんなことをやっていたら、今度は文京区の図書館のカードまで、「これは免許の名前と違うので使えません」とか言われて、プライベートは全部「西端」に変えました。その辺の手間も嫌だったし、今も使い分けるのが大変なので、いろんなところでぶつぶつと言っていました。

これは10年も前の『産経新聞』ですけど、賛成派と反対派みたいな記事を書いたりしながら、陰でぶつぶつ言っていました。陰ってこともないか(笑)。

「青野さん、原告になりたいと思いませんか?」

とはいっても、これはみんな気づいているからね。みなさんもご存知かと思いますけども、2015年に最高裁まで行きまして、5対10で負けるという非常に惜しい裁判になりました。(最高裁の15人の判事で)違憲と言ってくれたのが5人いたんですけど、合憲だと言ったのが10人もいて、裁判で負けてしまいました。このタイミングでは立法化されなかったということになります。

これがまた頭に来てブーブー言っていたら、『報道ステーション』さんと『NEWS23』さんがいらっしゃいまして、「もう本当に最悪っすわ!」ということを言って。ただ、これは言っていても変わらないのがわかっていたので、「これは、なんで動かないんだろう?」と自分なりにちょっと動き始めました。

この裁判では、最高裁のほうで「これは『違憲』とは言えないけど、ちゃんと国会で議論されて判断されるべきだった」という判決が出ているわけですよ。普通、(最高裁が)これを出したら国会で議論するでしょう? 最高裁が言っているわけですよ。「最高裁がこう言っているわけだから、ここから議論するだろう」と思ったら、そこからずっと放置ですよ、放置。

「すげえな! 国会議員って、ぜんぜん最高裁の言うこと聞かないんだ?」と、だんだんフラストレーションが溜まってきまして、自分なりに調べたりして作戦を考えていたときです。この裁判で負けた原告の一人で、加山恵美さんというライターの方から連絡がありました。それは何かというと、岡山の作花知志さんという弁護士が、もう1回別の切り口で訴訟を起こそうとしているということでした。

「青野さん、原告になりたいと思いませんか?」と言われて、お話を聞くことにしました。これは偶然ですけど、作花さんはこの最高裁で負けたほうじゃなくて、同日に判決が出た「再婚禁止期間に関しての男女平等」の訴訟で、違憲判決を取った弁護士さんです。めちゃすごい敏腕弁護士なんですよ。

日本人同士の結婚では、別姓という選択ができない

「彼が言っているんだったら、ちょっと話を聞きたい」と言って聞いたら、これがもう、勝てるんじゃないかと思って、すぐに原告になることを決意しました。その理屈は、この四象限で書いているんです。今は、日本人同士が結婚すると同姓に変えないといけないんですよ。別姓という選択ができない。

ところがその後、夫婦によっては別れるじゃないですか。別れたときには基本的には旧姓に戻るんですけど、戻さないという選択肢もあるんですよ。そういう届け出をする。これ、すごくないですか? 「夫婦別姓」はできないんだけど、「夫婦じゃないのに同姓」はできるということなんですよ。生活上のいろいろ不便が出るから、夫婦ではないのに同姓にしても構わないということです。優しいね。

さらに、外国人と結婚した日本人は基本的に別姓になるんですけど、それもやっぱり不便だとか、かわいそうだろうということで法改正がされました。届け出をすると、なんと外国人と結婚した人も名字を変えられるんですよ。例えば僕がレディー・ガガと結婚しますと、「ガガって苗字、いいよね!」みたいなことで届け出をすれば、「ガガ・慶久」になれるわけですよ。一体感がある感じだね。

そして残念ながら破局してしまったときに、「せっかく『ガガ』を名乗り始めて、定着もしてきたから使い続けたい」と届けを出したら、別れた後でも合法的に「ガガ・慶久」でいられるんですよ。この戸籍姓って、けっこう優しいね。にもかかわらず、結婚したときだけ別姓はだめというのは、法律的に穴が空いているでしょうという理屈なんです。

「すべての国民は個人として尊重されて、法の下に平等である」と憲法が定めているにもかかわらず、「外国人と結婚した人だけ得をしてないか?」「日本人と結婚した人のほうが損しているっておかしくないか?」ということになります。

また憲法には「夫婦は同等の権利を有する」とある。そして「この憲法は国の最高法規」、つまり民法や戸籍法はある意味、憲法の下の法律だから、憲法に則してないんだったらそれは直さなきゃいけないと、ちゃんといいことを書いているわけですよ。

それに沿って考えれば、「今回の裁判に負けるわけない!」と思って、訴訟を起こすことにしました。正直、そんなに問題になるとは思っていませんでした。

メディアの注目を集め、世論を動かした夫婦別姓の訴訟

2015年に裁判で負けているわけですから、「もう1回誰かが東京地裁に提訴しても、そんなに話題にならないだろうな」と思ったんですけど、これを『毎日新聞』さんが最初に取り上げて、Yahoo! ニュースがぼーんとその記事をトップに持ってきました。するとメンバーが私のところに来て、「青野さん、「Yahoo! ニュースのトップに出ていますよ」と言われまして、「お前、何をやったんだ!?」ってなりました。

そのときは、もう本当にわけがわからなかったです。なぜ自分が「Yahoo! JAPAN」のトップにいるのか。見たら「別姓サイボウズ社長提訴」とある。「うおー!?」みたいな。その瞬間、「サイボウズ社長」は検索ランキング1位です。「サイボウズ社長って、誰だ?」ということが起きました。これにはびっくりしました。

その後もキー局がテレビで全部取り上げてくれましたし、『朝日新聞』さんをはじめ、数々の新聞で社説として取り上げていただきました。しかも、すべて賛成意見ということで「うおー! これは、提訴した甲斐があったな」と思いました。無視している新聞もいくつかあるようですが。

(会場笑)

けっこう反論も来まして、いろんな人にいろんな反論を受けました。なので、それに対して僕なりに反論していこうといって、反論への反論を書いたりしました。

「青野は左翼だ」とか書かれましたね。私は左翼ってなんのことかよくわかっていなくて、「いや、僕は野球をするときは右投げ左打ちです」とよくわからない返しをしていたりします。これもすごく話題になって、また少し世論が高まった感じがしました。こういうのを受けて、反対派の人が賛成派に回るのもたくさん見てきました。

典型例が、この自民党の稲田朋美という議員さんです。これはすごいんですけど、2010年に出版された本の中で、「夫婦別姓運動はまさしく、一部の革新的左翼運動、秩序破壊運動に利用されているのです」とおっしゃっています。……こわっ!

その人がこの1年くらいの間に、「いや私はね、どうかなとは思っていたんですけど、この通称、旧姓と戸籍と名前を2つ持つ人が出てくるって社会が混乱するよね」とおっしゃっています。やっと気づいたか!

それで彼女も今や、賛成派に回っている。社会が動いているということですね。

旧姓を通称として使う人が増える一方で、さまざまなリスクも

実際にこの旧姓を通称として利用する人が増えています。うちもそうですけど、子どもが保育園で熱を出したら、親のところに電話がかかってくるわけですよ。携帯にかかってくることが多いんですけど、携帯って会議中には出られないですよね。そうすると会社の代表電話とかに連絡が入ってきて、「西端さんはいらっしゃいますか? お子さんが熱を出しました」と言うんです。「西端さんって、誰ですか? そんな人はいません。ガチャ!」……こういうことになるわけです。

社内では通称というか旧姓を使っていますから、戸籍姓が何であるかは、一緒に働いている方みなさんはそんなに知らないと思うんです。それがまだ「子どもが病気だ」くらいだったらかわいいかもしれませんけど、災害が起きたときはどうなんだと。自治体が発表した名前に対して、「それに会社の人は気づけるのか?」という恐さがあります。

給料とか社会保険とか税金とかは、これはもちろん法的なところがあって基本的に戸籍姓しか使えない。そうすると私の給与明細なんかは「西端慶久」と書いてある。それを配るときに、まず迷うわけですよ。「西端慶久? これは誰だ?」「捨てとけ」みたいな(笑)。こういうことが起きて、結局、社内で二重管理しないといけない。大変だよね。

あと海外出張時には、「青野慶久」で飛行機なんかを予約されちゃうと乗れないとか、ホテルを予約されても泊まれないとかいうことがあります。私は本当にアメリカに出張に行ったときに、夜中にアメリカのホテルに着いて、フラフラしながらこうやってホテルのフロントのところにパスポートを出したんです。そうしたら、「お前の予約はない」と言われました。

「いやいや、(予約が)ある。俺は予約をとった。とってもらった。青野という予約はないか?」と言ったら、「青野という予約はある」と言うんです。「それは俺だ。俺が青野だ」「わかった。じゃあ、お前が青野であると証明しろ」となりまして、「いやどうみても俺は青野だよ(笑)。子どもの頃からずっと青野だし、今も青野と名乗っているよ」みたいなことになりました。恐かった。

それでも納得しないので財布の中をひっくり返すと、解約予定だったクレジットカードに「青野慶久」という名前のものが1枚残っていました。解約予定だったので、名前を変えなかったんですよ。それを見せて、ようやく泊めてもらえました。よかった。……こんな怖い思いをしたことがあります。

訴状が棄却されても、議論は高まり社会を動かす力になる

「使い分けるって、けっこう大変だよね」と思いました。「旧姓を使えばいいじゃないですか」って、そんな甘い問題じゃないということです。ところが、東京地裁は僕たちの訴状をちゃんと読まなかったんでしょうね。いろいろ大変だったのかわからないですけど、棄却されまして、大変がっかりしました。

ところがまたおもしろくて、私ががっかりしている記事がまた「Yahoo! ニュース」にどーんと出まして、今度は検索ランキング3位ですね。それでテレビも全部流してくれたみたいです。

実は我が家の朝は、テレビは『ZIP!』がついているんですよ。それで、子どもが「パパ、出ているよ!」と言うんです。「えー!?」って思ったら、泣きそうな顔をした自分が出ている。そういうことがありました。それから、これもおもしろいですよ。これは『小学生新聞』ですね。なんと、小学生向けの新聞に取り上げてくれて、ちゃんと次世代の子どもたちに正しい知識を書いてくれたりしています。

何を思うかというと、「負けてよかったな」ということです。どうせ控訴しますからね。「またこれで控訴したら、取り上げてくれよ」「また高裁が棄却したいんだったら、棄却してくれよ。またいろんなメディアが取り上げるぞ」とか、「その度に、世論は動いていくよ」「多くの人が目にして、多くの人が正しい知識を得て、広がっていくよ」とか、そんなことを考えています。

メディアのみなさんのおかげで議論が高まって反対派は減り、今は賛成派が増えています。これは私たちが提訴する直前くらいのデータなので、たぶんもっと大きく動いているだろうと思いますね。これから先に、賛成派が少数派になることはありませんね。ずいぶん変わると思います。

そもそも反対している人は70歳以上というデータもありますからね。これからはほとんどの人が賛成するような時代に入っていきます。ぜひ、新しい知識を身につけてください。多くの人が発信すればするほど世論は動きますから、みなさんもご協力いただければと思います。

あと、この流れを受けて「地方議会から国会を動かそう」という陳情アクションが今、活発になっています。全国58の自治体で、「市議会や区議会を通じて、国会を動かす意見書を出す」という動きも始まっています。

今日は、その代表をされている井田奈穂さんにお越しいただいています。この動きもぜひ活性化しながら、さらに世の中を動かしていければと思います。以上、別姓のコーナーでした。

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