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メディアはどこへ向かうのか? デジタル社会においてメディアが果たすべき役割とは?(全3記事)

今の日本で最も信頼されている情報源は「検索エンジン」 これから残るメディア・消えるメディアの分岐点

2019年5月27~30日、「Advertising Week Asia 2019」が開催されました。マーケティング、広告、テクノロジー、エンターテイメントなどの幅広い業界が集い、未来のソリューションを共に探索する、世界最大級のマーケティング&コミュニケーションのプレミアイベントです。さまざまなパラダイムシフトが起こる現代、メディアは大きな変化を余儀なくされ、メディアに対する信頼にもこれまで以上に大きな揺らぎが生じています。本セッションでは、こうした時代において、メディアはいったいどうあるべきなのか、どう変化すべきかについてパネルディスカッションが行われました。今回は、5年後の日本のメディアの行く末について有識者らが意見を交わしました。

ウォーレン・バフェット氏「将来的にアメリカでは新聞は3紙しか残らない」

ローブリー・ロス氏(以下、ローブリー):今日は多くの方にご参加いただきまして、誠にありがとうございます。「これからメディアがインターネット時代にどうなっていくのだろうか?」というテーマで、パネリストの3人のご意見を聞きながら探っていきたいと思います。

このテーマに関しては、「この3人の右に出るコメンテーターはいない」と言っても過言ではないくらい、最強のチームだと思っています。私としても、非常に楽しみにしています。

それでは、最近のメディアについてですが、とくにアメリカにおいて、トラディショナルメディアを中心に経営難が続いています。これは非常にショッキングな発言なんですが、先月The New York Timesの編集長が「5年以内にアメリカのすべての地方紙が消えてしまう」と言っており、メディアとしてはかなり過激な発言だったのかなと思います。

また、有名な投資家のウォーレン・バフェットさんは「将来的に、アメリカでは新聞は3紙しか残らないだろう」と発言しています。日本においても10年くらい前と比べると、新聞の発行部数が2,000万部くらい減っていまして、新聞の配達は1世帯では1部に満たない。0.78部くらいです。

また、私どもの「エデルマン・トラストバロメーター」という信頼に関する調査で言うと、日本においても、とくにマス層において、メディアに対する信頼というのは50パーセント以下。メディアを信頼していないんですね。日本も安心していられない状況なんですが、まずみなさん一人ひとりにうかがいます。

5年後の日本のメディアって、どのように想像されますか? 瀬尾さんからお願いします。

デジタルメディアにとっては停滞した5年間

瀬尾傑氏(以下、瀬尾):よろしくお願いします。5年後か……。自分の5年後もまだ……。

(一同笑)

とても難しいですけれども、まず5年前を振り返ってみます。この5年間はメディアがどうだったかを考えてみると、その少し前くらいからデジタルメディアがすごく注目されて、例えばBuzzFeedやハフィントンポストが上陸してきたり、浜田さんのBusiness Insiderもそうですね。

僕もその頃は講談社にいて、現代ビジネスを立ち上げたりしました。そのあと文春オンライン、出版社のデジタル(メディア)に参加してきて、すごく盛り上がっているなと感じていました。そういうところで、SmartNewsもそうですが、いろいろあって、ニュースアプリというものに向かっていっています。そういうのが始まったのが7、8年前くらいですかね。

この5年間がどうだったのかというところですが、このデジタルメディアはジャーナリズムに関してすごく希望が見えたのか。実は少し厳しい言い方をすると、必ずしもそうではないなと思っているんです。

まず、期待どおりにいかなかったことで言うと、デジタルメディアがどんどんできてきたけれど、それが新しいジャーナリズムを生んだかというと、残念ながらそこには至らなかったなという感じなんです。

それぞれのアジェンダでがんばったところもあるんですけれども、それが従来の新聞とかテレビとかあるいは月刊誌のノンフィクションライターというような、新しいアジェンダ、能力とか、そういう力を持ったかというと、残念ながらそこまでは至ってない。

どちらかと言うと、表現スタイルは昔の新聞や週刊誌とそんなに変わらないスタイルだった。そういう意味では「すごくジャーナリズムが進歩したか?」というと、ちょっと厳しい言い方なんですけれど「停滞した5年間」だったと思います。

国民やユーザー側に理解を得て、社会に役立つメディアを構築できるか

瀬尾:じゃあ、プラス面はどうなのかというと、さまざまな新しい動きが出てきています。

例えばNewsPicks(を運営するユーザベース)さんがQuartzを買収したり、日本経済新聞社がFinancial Timesを買収したりしています。そういう海外に出ていくメディアが出てきた。SmartNewsも実はアメリカでかなり成功しているんですが、そういうかたちで、日本のメディアだけど海外に出る。

それともう1つは、ジャーナリズムそのものに関わる新しいメディアの中に、従来型のジャーナリストじゃない方が参入してきて、やり始めた。まさにユーザベースもそうなんですけれど、そういう新しい潮流も出てきている。そっちが期待できるんじゃないかなと思います。だから、僕がこの先の5年に期待するのは、新しい動きなんですよね。

新規参入の方に新しい動きを起こしてほしい。その中で、伝え方だけじゃなくアジェンダも含めてジャーナリズムを刷新するような新しい動きが出てくるといいなとすごく期待しています。その芽として、海外で成功し始めているメディアがあるので、そこから新しいスタイルが出てくるんじゃないかなと期待しています。

一方で環境面で心配しているのは、先程いろんなメディア不信の問題がありましたけれど、インターネット全体においては、例えばアメリカと中国の対立によってインターネット自体が分断されようとしている側面があったり、いわゆるプラットフォーム規制。

これは、プラットフォーム規制だからと手放しで喜んでいると、そんなことはない。もしもこれが規制というかたちになったときには、ある種の公的権力による規制というのが、もしかするとそういうものをきっかけにどんどん広がってきて、ネット全体あるいはメディア全体に波及するとか、そういうかたちで誰もが賛成しやすいようなかたちで及んでくる可能性もある。

そういう意味で言うと、5年後の厳しい未来としては、そういう分断されたネット、規制されたインターネットという時代が起こりうるんじゃないかということも想定されています。

だから、僕らが今それに備えてやるべきことは、環境が厳しくなる面があるので、それに対してどう立ち向かうかっていうことです。僕らメディア側・インターネット側は、どういうふうに国民・ユーザー側に理解を得て、社会に役に立つようなメディアを構築していくのか。ここが問われる5年間になると思います。

ローブリー:はい、ありがとうございます。関口さん。

メディアにとって今後5年間の最も大きな変化は5Gの登場

関口和一氏(以下、関口):5年先のことはわからないところですけれども……。

ローブリー:(笑)。

関口:逆に過去5年間ないし10年間を振り返ると、相当メディアの世界は変わったと思いますね。私はそれを変えたのはおそらく、スマートフォンの登場だと思います。アメリカでは2007年、日本では2008年に登場して、わずかこの10年の間で、電車に乗っても新聞を読む人がいなくなって、その代わりにスマートフォンやタブレットを見ているというふうにメディアが変わったわけです。

私はどちらかと言うとテクノロジーをずっと見ていますから、テクノロジーの下部組織というか、それを支えるインフラの構造の変化がメディアにも影響を及ぼしてくるだろうと考えるわけです。

そう考えると、今後5年間の最も大きな変化は何かと言うと、5Gです。5Gはみなさん何度もお聞きになっていると思いますけれど、今のLTEに対してマックスでだいたい100倍くらいです。要するに10Gbpsのスピードが出る。

1平方キロメートルに100万端末を同時に収容できるという同時多接続の機能。それから1,000分の1秒、1ミリセカンドという非常に低遅延の信号を送れることで、例えば自動運転とか制御が可能になると言われています。5Gはいろんな意味での通信・情報のインフラになってくるのですが、ことメディアについて言うと動画配信のツールとして爆発的な影響を持つのではないかと思います。

今、例えば2時間のハイビジョン映像を流すにはDVDとかブルーレイ、こういうものを使わないと流せない、渡せないわけですけれども、5Gを使うと2時間の動画を数秒でダウンロードすることが可能になってくる。

それがどういうことかと言うと、今までは大容量のものを同時に多数に流すには、放送メディアというもの、放送というやり方が非常に良かったんです。ところが通信でもそれが可能になってくるということで、今のテレビ局、放送局を中心とした映像メディアの世界ではない(新しい)映像メディアの世界が出てくるのではないかなということです。

本当に信頼のおけるものを提供できるメディアが成功する

関口:この5年間あるいは過去10年間で、テキスト及び写真においてはスマートフォンをプラットフォームとした新しいメディアが出てきたと思います。それをオンラインメディアとかソーシャルメディアという呼び方をすると思うんですけれども、それに相当する「映像版」が、この5年間に出てくるのであれば、私はテクノロジーから言えば一つの大きな変化じゃないかなと思います。

そこで大事なのは、メディアと一言で言っても、そこにはいろんな意味があって、媒体としてのメディアということもありますし、ジャーナリズムの担い手としてのメディアというのもあります。

ジャーナリズムの担い手としてのメディアというのは、今後もなきゃいけないと思っています。紙の媒体、例えば新聞というのは、ひょっとしたらなくなっても、新聞がやってきたジャーナリズムのようなファンクションといったものは他の媒体を使って、他のメディアを使ってやっていかなきゃいけないと思います。それをどこに頼っていくかが大事だと思います。

先ほどローブリーさんが「エデルマン・トラストバロメーター」という話をされました。IFAという、夏にベルリンでやっているヨーロッパ最大の家電見本市がありますが、その事前の国際記者会見が、先月スペインでありました。私がそこに行ったときに基調講演でエデルマンのファウンダーの娘さんがまさにその話をしていたんです。

そこでのメッセージで一番大事なのは何かと言うと「これからはやはりトラストだ」ということなんですよ。日本でも安倍総理がダボス会議に行って、「これからはデータ流通が大事です。ただデータが流通すればいいってことではなくて、そこにはトラストというものがなければいけない」と言っています。

その背景には、昨今のフェイクニュースですとか、あるいはアメリカの選挙でみられたようなことも含めると、本当に信頼できるものを提供できるところが、メディアとしても成功していくのではないかと思います。

日本で最も信頼されている情報源は「検索エンジン」

関口:この表で何を言いたいかというと、日本での水準ですけれども、「情報源として一番信頼をおけるものは何か?」と問うと、「検索エンジン」だと言うんですね。「検索エンジン」がメディアかというと、議論が分かれるところかもしれませんが、一般ユーザーから見たときに、情報の入手ルートとして、「検索エンジン」が一番上に来るというのは、ユーザーが「自分の目で確かめて、自分の頭で考えたい」こういう人たちが待っているんですね。

この表で見ますと、あともう1つの流れとしては2016年から2018年にかけては、2番目のトラディショナルメディアが一時落ちたんですけれども上がってきたんですね。これはフェイクニュースとの関連で、トラディショナルなものをもう少し見直そうという動きであったと思います。

これがまた、2019年では46パーセントから43パーセントに落ちています。やはり、トラディショナルメディアはかつてほどの存在感を持てなくなっているという、限界が見えているんじゃないかなと思います。

一方で、一番下のソーシャルメディアというのは一貫してそれほど高い信頼性は出ていないようです。なので、それぞれファンクションとしてみんな残っていくと思うんですけれども、今後大事なことはどのメディアをやるにせよ、「トラスト」というものを提供できるサービスなりメディアが生き残っていくのではないかなと考えます。

ビデオジャーナリストの進化系が誕生する可能性

ローブリー:はい、ありがとうございます。私が小さいときの話ですが、父親が写真の多い新聞をいつも買ってきたんですよ。私は父親に、「写真の多い新聞って、あんまり知的じゃないよね」というようなことを言ったら、父親が「いや、写真がいいんだよ。(写真は)修正できないもの。写真を修正するのはソ連、中国だけだ。だから信頼できる」ということをよく言っていたのを覚えていますね。

瀬尾:今は……(笑)。

ローブリー:今はね! 今はもう、簡単に修正できる(笑)。先ほどの関口さんのお話の5Gと動画とメディアのクレディビリティ(信頼性)、読者や視聴者が検索して自分で確かめたい、クレディビリティ(信頼性・確実性)を確認したいというところで言うと、今は動画を簡単に修正できるソフトも開発されていまして、私のiPadでも簡単にできるようになりました。

そうすると、5Gの導入で動画がさらに進化して、ライブというものが主流になってくるという説もあるのですが、つまり、ジャーナリストがライブで配信する。こういうことって考えられますでしょうか。

関口:たぶん出てきますね。すでにそれをやっているジャーナリストも出てきています。ひと頃は「ビデオジャーナリスト」という言葉がありましたが、その進化系としての、その映像を自分で発信するジャーナリストというのは出てくるんじゃないかなと思います。

普通は取材した後、原稿にまとめてそれをエディティングして……と、タイムラグがあるわけです。ライブは本当にリアルタイムですので、そこで深く考えて……というものを提供することは難しいかもしれませんが、今起きていることをすぐ伝えるという意味においては、そういうジャーナリズムも今後出てくるかもしれませんね。

ローブリー:ありがとうございます。

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