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イノベーションを生み出し続ける組織とリーダーシップのあり方(全4記事)

テクノロジードリブンの時代はGoogleで終わる より良い未来を描く「リベラルアーティスト」が活躍する世界

2019年4月19日、ベルサール六本木にて「WHITE Innovation Design Summit Vol.2~イノベーションを生み出す組織作りと人材育成~」が開催されました。イノベーションの創出が重要なテーマとなるこの時代、企業はオープンイノベーションやアクセラレータープログラムなど、さまざまなチャレンジを行っています。その創出に求められるのは「手段」ではなく、「組織と人材」。このイベントでは、イノベーションを生む組織づくりと人材育成について、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』の著者である山口周氏、企業のイノベーション・新規事業を数多く支援している株式会社WHITEの神谷憲司氏が登壇。本記事では山口氏の講演から、「なぜ経営に美意識が求められるようになったか」について語ったパートをお送りします。

経営に「美意識」が求められる時代

山口周氏:ただいまご紹介に預かりました、山口です。じゃあ、小一時間ほど私のほうからお話を差し上げたいと思います。

「イノベーションを生み出す組織と人材」っていうことなんですけども、私のキャリアはもともと広告代理店の電通からスタートして、そのあとずっとアメリカの会社で、イノベーションとかクリエイティビティを中心的なテーマに、アドバイザリーのサービスをやったり本を書いたりしています。

ちょうど2年前に、「経営における美意識の重要性」というテーマで本を出しました。それが、とくに経営者の方々を中心に「重要な提言なんじゃないか」と共感をいただきまして。いろんなところで今、アートとかの美意識っていうものが、経営の文脈でなぜ重要であるのかという感じのことが議論されるようになってきています。

今日はそういうお話をして、じゃあ具体的にどういう人や組織が求められるのか、という部分をお話したいと思います。

(スライドを指して)これはですね。ごめんなさい、日付が入ってないんですけれども、『Financial Times』のおそらく5年前ぐらいの記事です。美意識とかアートっていうのがビジネスにおける文脈で語られた、おそらく最初の記事だったと思います。

『Financial Times』が「The art school MBA that promotes creative innovation」、つまり「アートスクールが提供する経営学の学位がイノベーションを加速する」ということを題していて。そういう記事なんですけども。で、Royal College of Artがエグゼクティブ向けのプログラムを作って、それが非常に人気になってるようです。

5年前ぐらい前の、当時の日本がどういう状況だったかっていうと、ロジカルシンキングとかクリティカルシンキングがもう巨大台風のように我が国を、いろいろなものをなぎ倒しながら突進してるっていう状況で(笑)。ロジック全盛期だったんですね。ロジカルな問題解決の能力が、人のパフォーマンスも組織のパフォーマンスも上げると言っていました。

潮目が変わり始めたのは4年前

私自身は当時、戦略系のコンサルティング会社にいました。自分たちの提案する方法論で顧客を強くするのは難しいんじゃないかって思ってたんですね。そういう違和感があったときに、こういう記事が出てきて。

私、本を書くときにEvernoteを使って、いろんなメモを書き溜めて、それを最後にがっちゃんこしてまとめるんですけど。「美意識」が一番最初に出てくるのはいつなのかなと過去を振り返ってみると、だいたい4年前ぐらいに一番最初のノートが出てくるんですね。この記事がちょうどその時期だったので、おそらくこういったものを読みながら、どうも潮目が変わってきてるんじゃないかっていうことを考えたんだと思います。

これが4年前で、去年の秋にどういうふうになってるかというと……(スライドを指して)これは『The Wall Street Journal』の10月の記事です。先ほどの記事は「エグゼクティブを美術系の大学院に送る」っていう話で、それまでの定番はエグゼクティブを送るんだったら当然ビジネススクールだろう、ということだったんですけれども。

そのビジネススクールに関するニュースが、去年10月の『The Wall Street Journal』の記事で「M.B.A. Applications Decline at Harvard, Wharton, Other Elite Schools as Degree Loses Luster」と書いてあります。

わかりやすく和訳すると、「ハーバード、ウォートンを始めとしたエリートスクールで、学位が輝きを失ったことでMBAの出願数が減っている」と。で、記事の一番上ですけども、「アメリカのMBAプログラムへの出願数が4年連続で前年割れをしている」ということを報じています。

これもロジカルに問題を解決するっていう技術を体系的に教える学校なんですけれども、私自身は経営学のリテラシーって非常に有効ですし、自分が学んで本当に良かったんですが、ちょっと注意してほしいのは「学位の価値」と「学問の価値」というのは別だと思ってるんですね。

学問としては非常に有効だと思うんですけども、2年間の時間をかけて、機会費用も含めるとだいたい2,000万ぐらいかかるわけです、アメリカのMBAって。そのとき2年間で稼げたであろうお金もないわけですから、機会費用も考えると3,000万ぐらいのロスになると思うんです。

3,000万のロスと2年間の時間をかけて学ぶほどの価値はないって考える人が、おそらく増えてるっていうことだと思いますね。ですから、これもロジカルに経営の問題を解決するっていうことの、能力としての市場価値がもう減ってきているっていうことなのかなと思います。

ロジックでの問題解決の先にある「デザイン」

(スライドを指して)これもまた一つの大きな流れを示す、象徴的なニュースだったと思うんですけども。これは3年前ぐらいですね、McKinseyがLUNARっていうデザイン会社を買収したと。とくに戦略系のコンサルティング会社、例えば私がいたBoston Consulting GroupとかA.T. Kearneyとか、あるいはMcKinseyっていうのが何を価値定義としてるのかというと、一言でいうと「経営にサイエンスを持ち込む」ことなんですね。

経営って非常に複雑な営みなので、直感だけでやってると大変難しい。なのでそこにサイエンスを持ち込むことで、適切なマネジメントできるようにしよう、っていうことをずっと100年間やってきてます。

経営者は必ず経験に頼るようになりますから、その経験に頼って、ともすればジャッジメントのクオリティを下げてしまうところにサイエンスを持ち込むことで、ジャッジメントのクオリティを上げましょう、意思決定のクオリティを高めましょう、っていうのがコンサルティング会社の提供価値なんです。

ある種、その価値観の代弁をしてる会社なんですね、McKinseyっていうのは。BCGのほうがはるかに、直感の入り込む余地が大きいコンサルティングをやってるって当時の僕は思ってました。McKinseyっていうのは本当にSoldiers of Reasonっていうか、合理性の戦士みたいな人たちが集まってですね(笑)。ロジックっていうものが世界を解決するんだ、っていうことをある種、宗教集団のように信じている人たちだっていう印象でした。

そういう会社とは、必ずしも折り合いや食い合わせは良くないわけですね、デザイン会社と。けっこう食あたりしてんじゃないかと思って実際聞いてみると、「下痢してる」っていう話を聞きます(笑)。

(会場笑)

ただ、とはいえ彼らももがいてるんですね。それはよくわかってるんです、たぶん自分たちの経営の分析は世界で一番上手にできる人たちですから。自分たちの提供価値が、この先そんなに大きな対価を取れるようなものにはならないってことをよくわかってるんですね。

ですから、正解あるいは問題解決に正しい答えを出していくっていうところのその先に、顧客への価値提供をしていく能力を獲得するために、デザイン会社を買ったりしてるんだという雰囲気なんだと思います。

テクノロジードリブンの時代はGoogleで終わる

あとこれ、まだ日本で邦訳が出てないですけれども、『The Fuzzy and the Techie』。おそらくもう近いうちに日本でも出ると思います。2017年のアメリカのベストセラーです。アメリカのビジネス書の賞があって、McKinsey prizeっていうアワードがあるんですが、そこでファイナリストになった4冊のうちの1冊です。中身もかなりしっかりしています。

『The Fuzzy and the Techie』っていうテーマがどういう意味かというと、「理系と文系」っていう意味なんですね。オノマトペでいうと「ふわふわとカチカチ」っていうような意味ですけど、Fuzzyはふわふわの文系で、Techieはカチカチの理系、っていうことで。

著者のScott Hartleyっていうのは、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストです。ですから非常に成功された方ですけれども、彼が「自分のところに持ち込まれるベンチャー・スタートアップの案件で、これから先成功するスタートアップっていうのは、テクノロジードリブンの会社じゃない」っていうことを言ってるんです。で、「それはリベラルアーツドリブンの会社だ」と。

この本の副題が非常にプロヴォーキング、挑発的だと思うんですけども、『Why the Liberal Arts Will Rule the Digital World』ってなってます。ですから、「デジタル世界においてなぜリベラルアーツが支配者になるのか」っていうことを、スタンフォード出身のベンチャーキャピタリストが書いてるわけですね。

日本でもそうですし、アメリカでも長いこと、「STEM」っていうのがこれからは食える学位になる、っていうふうに言われてました。STEMっていうのは、Science、Technology、Engineering、Mathematicsの、理系の学位ってことです。

このSTEMっていうのがこれからは活躍する、それで給料も高いっていうふうに言われてたんですけれども。私も直接この本について話をする機会がありましたが、Scottが言ってるのは「それはもうGoogleの時代で終わった」ってことなんですね。テクノロジードリブンで、先端的なテクノロジーを開発した会社が大きな価値を生み出すっていうのは、終わったと。

誰でもアクセスできるテクノロジーは、競争優位の源泉にならない

コンピュータサイエンスなんかについてもみんな研究するようになってきたので、そこであんまり差がつかなくなってきていています。もちろんSTEMを学んだ人たちが引く手あまたで、たくさんの就業機会があるのは変わらりませんが、今日の時代にあってあんまり理解されてない……まず「little understood」ですから、どちらかというとネガティブに「ほとんど理解されてない」って意味なんですよね。

ほとんど理解されてないのは、テクノロジードリブンエコノミーって言われてますが、実際のところテクノロジーっていうのは「even more accessible toolbox」、誰にでもアクセスできる道具箱になってる。だから競争優位の源泉になってない、っていうことを言ってるんです。その「competitive advantage」、つまり競争優位っていうのは、その企業なり個人なりのリベラルアーツから出てくるというんですね。

その代表例として彼が挙げたのが、Airbnbという会社です。Airbnbっていうのはみなさんもよくご存知のとおりです。総業者のBrian Cheskyは、もともと学部のときに哲学とか政治学をやってて、そのあとデザインの勉強をしてる人です。

創業者の二人ともが、リベラルアーツとか哲学の領域から出てきていて、あのビジネスモデルがほぼうまくいきそうだっていうふうになったときに、三人目に加わったのがテクノロジーをわかってる人。で、「こんな問題があるんだけど」「こういう問題をこういうふうに解決してみたらいいんじゃないか」「でもテクノロジー、俺たちよくわかんないからなぁ」って言ってたときに、三人目に加わったのが「いや、こういうやり方でやったら解決できるよ」っていうことです。

経営っていうのは常に、WhatとWhyとHowで向き合うわけですね。Whatっていうのは、「何を解こうとしてる会社なんですか」、「どんなことやる会社なんですか」。で、Whyが「それはなぜ重要なんですか」と。で、Howっていうのは「じゃあ具体的にそれってどうやるんですか」っていうことなんですけども。

そのWhatとWhyがすごく重要になってきてると。Howではそんなに差がつかない、っていうことをScottは言ってるわけです。テクノロジーは常にHowの問題になりますが、そのテクノロジーを使ってどういう問題を解くのか。で、その問題を解くことで世の中にどんな価値が生まれるのかっていうのを決めるのは、テクノロジーの仕事ではない。あるいはサイエンスの仕事ではなくて、それはリベラルアーツの仕事だと。

世の中から問題を見つけてきて、「こうやったらより良い世界ができるよ」と提案するのはリベラルアーティストの仕事だと言っているわけです。

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