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コンテンツ制作とどう向き合うべきか?~『コンテンツマーケティング最前線02』出版記念トークイベント~(全5記事)

人はなぜTwitterやYouTubeを見続けてしまうのか? “くだらないコンテンツ”のマインドフルネス効果

2019年3月26日、BOOK LAB TOKYO主催による、『コンテンツマーケティング最前線02 コンテンツ制作の極意』出版を記念したトークイベントが開催されました。今回の出版記念イベントでは、本書に登場するSUUMOタウン編集デスク・岡武樹氏、「セーラー服おじさん」こと小林秀章氏、アーティストのヌケメ氏が登壇。マーケティング視点のコンテンツとの向き合い方について、 クマベイス代表の田中氏と語ります。 本パートでは、くだらないコンテンツが持つ求心力や需要の正体について意見を交わしました。

「バーチャル美少女受肉おじさん」の需要

田中森士氏(以下、田中):では、ヌケメさんにとって良質なコンテンツとは何でしょうか?

ヌケメ氏(以下、ヌケメ):なんでしょうね。先ほどの話に付け加えるというか乗っかるかたちで言うと、役に立つかおもしろいかというのはすごくわかるんです。でも、僕の好きなコンテンツのタイプとして「つまらないけどずっと観ちゃう」みたいなものがあるんですよ。

田中:例えば?

ヌケメ:例えば、バーチャルYouTuberがすごく流行っているじゃないですか。バーチャルYouTuberの中にジャンルとして、「バ美肉おじさん」というのがあるんです。

田中:はい?

ヌケメ:「バーチャル美少女受肉おじさん」、略して「バ美肉おじさん」。

田中:いや、ちょっとごめんなさい(笑)。頭がついていけないんですけど……。

ヌケメ:つまり、バーチャルYouTuberは3Dモデル、3Dないし2Dモデルを動かしていますよね。表情はフェイストラッキングで、(本人の)口が動いているときにキャラクターが同期して動いて、声もボコーダーで変えたりして。

それで、中はおじさんなんだけど、3Dアバターは女の子でやっているバーチャルYouTuberの方がけっこういるんです。ネカマ的なものとして「バ美肉」と言っているんですけど、バ美肉おじさんはすごく需要があるんです。バ美肉をやっている人は、バ美肉が好きだったりするんですよ。

田中:言っている意味が……。

ヌケメ:バ美肉とバ美肉が仲良しなんですよ。「中がおじさんだ」ということがお互いにわかった上で、キャッキャキャッキャしているんです。

(会場笑)

くだらないコンテンツが生み出す、居心地のいいコミュニティ

田中:ちょっと前にTwitterでもそういうことがありましたよね。

ヌケメ:ありましたね。やっている内容もただのひとりごとというか、日常会話の延長でしかなくて、おもしろいこととか役に立つニュースとか、そういうのは一切ないんですよ。

「今ベッドに入って寝ているんだけど、寝るまで10分だけ配信するね」とか言って、前にカメラを置いて配信しているんですよ。そして配信している途中で寝ちゃったりするんです。

(会場笑)

田中:それを楽しんでいるんですか。

ヌケメ:そうそう。でも、まぶたが同期しているから、ちゃんと顔が動くんですよ。中の人が寝ちゃって、おっさんの吐息が女の子の声に変換されたのをずっと見ているだけみたいな。

(会場笑)

けっこういるんですよ。

小林秀章氏(以下、小林):価値がないことが価値みたいな。

ヌケメ:そうそう。何の価値もないじゃないですか、そんなものに。だけど、なんだか見ちゃうんですよ。

小林:(笑)。くだらないなりの価値がある。

ヌケメ:例えば、それをマネタイズすることはすごく難しいけど、居心地のいいコミュニティみたいなものは確実に存在しているんです。(規模は)小さいんですけど。それを見ていると「これってどうしたらいいんだろう」みたいな気持ちになります。

田中:マネタイズできないことはないんでしょうね。ただ、コミュニティのサイズが非常に小さいので……。

ヌケメ:そうですね。

田中:それだけじゃ食べていけない感じがしますね。

ヌケメ:むき出しのおじさん……、ただのおじさんがおじさんの格好をして、非常階段で餃子を食べているだけのYouTuberとかもいます。

小林:ははは(笑)。

田中:VTuber?

ヌケメ:YouTuberです。

田中:YouTuber(笑)。

つまらないコンテンツにも求心力はある

ヌケメ:でも2,600回ぐらい再生されています。

田中:まぁまぁされていますね。

ヌケメ:僕が言うことじゃないですけど、誰が見ているんだろうなと。

田中:それも需要があるってことですよね。

ヌケメ:なぜなんだろうと思うけど、なんだか気になるんですよね。僕、そういうのがけっこうあって、映画でも小説でも「つまらないな」と思いながら、最後まで見たり読んだりしちゃうものには、けっこう求心力があると思っていて。

小林:TwitterやFacebookのタイムラインを延々と読むことがあるけど、あれも「おもしろいのないな」と思いながら何時間も見ちゃいますよね。

ヌケメ:そうなんです。あれはどうしてなんでしょうね。

田中:そのツールやサービスが人間心理にもとづく研究をしたシステムなのか、もしくはそういうものが求められる時代になったのか……どちらでしょうね?

ヌケメ:Twitter、とくにインスタはシステム側が制御している感じがすごく強いですよね。でも、さっき言った「バ美肉おじさんをついつい見てしまう」みたいなものは……システムじゃない気はしますね(笑)。

(会場笑)

田中:そうですね。

小林:強いて言うなら、「新しい」「今現在」という価値はあるのかもしれないですよね。そんなの2、3日経ったら絶対にみんな忘れちゃうんだけど、「今現在だから見ておかなきゃ」みたいな。そういうちょっとした緊張感があるのかな。

田中:今は社会全体に経済的な不安感が高まっていて、「世界経済不安」なんて言われますけれども、そんな中で、そういう動画を見ている間だけ無心になれるわけですよね。

ヌケメ:あぁ、そうですね。

田中:ですよね。それは、私が最近よくやっているマインドフルネスと同じ考え方なんですよ。

ヌケメ:あぁ~。

くだらなさも突き詰めれば良質なコンテンツ

田中:「過去でもない、未来でもない、今この瞬間に集中する」みたいな。そうすることによってストレスが軽減されるのは、マインドフルネスなんです。

ヌケメ:確かにそうですね。そう言うと禅みたいな話に聞こえますけど、その対象がバ美肉おじさんって(笑)。

(会場笑)

田中:いや、でもそうなんです。サウナに入ったり、朝ランニングしたりするのと一緒なんですよ。マインドフルネスになれる状態、時間を作る。

ヌケメ:無心になれる時間はすごく貴重だし、たぶんその間に気持ちのデフラグメンテーションをしているわけですよね。価値としてはそうなんですけど、内容がくだらなさすぎるという……。

小林:くだらなさすぎて、かえって浄化されるみたいな(笑)。

(会場笑)

田中:くだらなさも突き詰めれば、良質なコンテンツになってしまうということでしょうか。需要があるということなんでしょうか。

ヌケメ:そうですね。1日中TEDプレゼンテーションは見ていられないですよね。

田中:確かに……。

ヌケメ:しんどいですよね。

田中:なるほど。ありがとうございます。では岡さん、バ美肉おじさんのあとでは話しにくいでしょうが、良質なコンテンツとは?

岡武樹氏(以下、岡):何だろう(笑)。

田中:飛んでしまったでしょうか(笑)。

:飛んでしまったんですけど、でもその、おじさんの寝息みたいな感じは、SUUMOタウンでも意識をしていて。

田中:おっ?

ヌケメ:えっ!?

完璧なものよりもライブ感が支持される時代

:生々しさやリアルさはコンテンツには絶対残したいなと思っていて。きれいでかっこよくてきっちりしたものよりも、きれいすぎない原稿にしたいなと思っているんです。なんですかね、作られすぎたものって個人的には気持ち悪いと感じるというか。

ヌケメ:そうですよね。

:きれいすぎるとなんだかつまらないんですよね。そういう記事が、実際に読まれなかったり。きれいな写真と文章で、整っているんだけど、いざ出してみるとあまり読まれなかったりするんです。

一方で、その写真の食べ物とかが自然というか、いわゆるプロの写真じゃないんだけども、なぜかそれがよかったりするんですよ。そういうものに「めっちゃ行きたくなった」「この街に行きたい」「食べたい」というコメントがたくさんあったりして。

良くも悪くもリアルや生々しさみたいなものは良いコンテンツになる1つのポイントというか、ヒントになるのかなと思うんです。

田中:コンテンツマーケティングにとっても、ものすごく大きなヒントだと思いましたね。モデレーターの立場なのにすみません、自分にもそういう経験があって。昔、ブルックリン橋に行ったんですよ。200ミリの望遠レンズを持っていっていろいろ撮っていたんですけど、美男美女のカップルがブルックリン橋の下で抱擁していたんです。

それを撮ったときに手応えがやばかった。いい写真を撮ったときには手応えがあるじゃないですか。シャッターを押したときに、「あ、これはあとにも先にも、人生で一番の写真だ」とわかったんですよ。

現像してみたら、やっぱりパーフェクトな写真です。でも、それを家族や友人に見せると「う〜ん」という顔をするんです。

どういうことかと言うと「完璧すぎて、なんか違う」。逆に、僕が撮ったストリートスナップ、iPhoneで撮ったようなストリートスナップのほうが「これ欲しい」と。なので、ライブ感というか生々しさというか、そういったものがこれから必要な気がします。(そういうもののほうが)受け入れられるような、支持されるような気がしますね。

整えすぎないところに「空気感」が出る

ヌケメ:知り合いの文筆家の方がいて、ライター的なこともやるんですけど、その人が文字起こしをやるじゃないですか。こういうトークとかも、文字起こしのときにどもりもぜんぶ起こしている人がいて、それはすごくよかったです。

田中:あれもそうですよね。出川哲朗の……なんだっけ、『充電させてもらえませんか?』というタイトルの番組があるじゃないですか。スイカのヘルメットをかぶって。

ヌケメ:ありますね。

田中:電動バイクのやつ。あれも、出川哲朗さんが噛んだ発言が(省略されずに)ぜんぶキャプションに出るんですよ。

ヌケメ:確かに。

田中:そういうのが逆に新しい。見ちゃうんですよね。

ヌケメ:そうですね。そのとき起こされていたのは、チームラボの社長の猪子(寿之)さんだったんですよ。猪子さんはどもるというか、「どどど」ってなるんですよね。それがぜんぶ文字に起こされていて。文字の状態で読むと「あぁ、確かにこういうしゃべり方するよな」みたいな気持ちで読めて、なんだか空気感が出るんですよ。

田中:空気感。また1つキーワードが出てきましたね。

ヌケメ:空気感。それをあんまりきれいに書きことばにしすぎちゃうと、読んでいても「ライターが直したんだな」みたいな気持ちになって冷めることがあるので。イベントの文字起こしや対談の文字起こしで、そこはどういう空気感だったか、「(笑)」みたいなことを使わずにいかに出すか。そういうこともテクニックとしてあるなと思いながら読みましたね。

田中:なるほど。

小林:そういえば、世の中には女装する人たちがたくさんいて、完璧な女装をする人たちって気付かれないんですよ。(人の目に留まるためには)やっぱり違和感を残しておくのは大事なことかもしれない。

(一同笑)

田中:それはちょっとわからないですけどね。

ヌケメ:それは目的が違う感じがしますけどね。

(一同笑)

田中:ありがとうございます。ここはまとめのときにまた出るかもしれませんね。

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