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ツイッターを視聴権とリプライ権に分けるとどうなるか? 真っ当な議論ができるプラットフォームの設計図

2019年1月30日、株式会社ZEPPELIN主催によるイベント「フェイクニュース時代のメディアの生き方 〜これからメディアは何を担うのか〜」が開催されました。高度経済成長期において中央集権型で発展した日本型メディアも、個人が自由に情報発信できる時代を経て、多極分散型に移行しています。生活を著しく変えていくテクノロジーの進化は、メディアにどういった変化をもたらすのか。ジャーナリスト/作家として最前線に立ち続ける佐々木俊尚氏をゲストに招き、過去から未来までの幅広い射程から 「これからのメディアは何を担うのか」について語り合いました。本記事では、SNSが普及し始めてまだ10年しか経っていない事実から、これから徐々に使いこなしていけるのではないかと希望を語ったパートを中心にお送りします。

脊髄反射でものを言うSNSで議論するには

佐々木俊尚氏(以下、佐々木):もう1つは「インターネットは本当に公共圏たりうるのか」という問題です。よく言われているのは、Twitterは難しいんじゃないかということです。140文字で説明するのは難しいという単純な話もありますし、短い文章を感情で発信するSNSなので、ワンタップのリツイートでどんどん意見が発信できてしまう。

そうすると、人々の脊髄反射がすごく増えてしまうんです。脊髄反射をすると、真っ当な議論をするよりも、自分の怒りをぶつけたり、嘲笑したり、笑い者にしたりするほうがやりやすくなってしまう。そういうことが起きてくるんですね。

僕はここ数年、Twitterの議論をわりと積極的にやるようにしています。その時に心がけているのは「罵らない」ことです。なるべく理性的で冷静な議論を心がけていると、だんだん罵るのが嫌いな人が寄ってくる。逆に、例えば勢い余って誰かを非難するツイートを投げると、その瞬間にワーっと罵倒好きな人が集まってくるんですよ。

山口幸穂氏(以下、山口):怖いですね。

佐々木:その人たちって、議論を求めているんじゃなくて、人が人を罵ったり笑い者にしたりしているのを見たいだけなんです。火事場見物みたいなものなので、議論は成立しない。そういうのが嫌で、冷静な議論をきちっとしたい人は、罵声や中傷の飛ばない場所を求めているのは確かにあります。

そうすると、Twitterや閉鎖的すぎるFacebookではなくて、もっと別の形で公共圏を支えるようなネットのメディアやSNSみたいなものがあればいいんじゃないかと。これがずっと出されてきた課題なわけです。

僕はそこにすごく期待し続けていて、古くは2005年くらいに、韓国から『オーマイニュース』がやってきました。これは当時「市民参加型のメディア」と言われてけっこう盛り上がったんです。

当初はその編集員をやっていたんですけれど、結局終わってしまいました。今度はHuffington Post(現HuffPost)が始まり、BuzzFeedが始まり……。その度に期待していますが、なかなか確かなプラットフォームにはなりにくい状況です。

ツイッターを視聴権とリプライ権に分けるとどうなるか

党派性に飲み込まれていったり、いろんなことが起きるわけです。やっている人は人間だから、それはしょうがないところもあります。現状ではそういう党派性を超えた、中立的で誰もが意見を述べられるようなプラットフォームはまだ難しいのが現状です。

先ほど紹介した慶應大学の田中辰雄先生は、ネット炎上の研究で面白い提案をしているんですよ。意見を述べることと、その意見に対して反論することがあるじゃないですか。そのときに「反論する権利」を作ったほうがいいんじゃないかという(笑)。

例えば僕がTwitterで意見を言いますよね。その意見に関して、「佐々木死ね」とかいっぱいリプライが届くわけですよ。そんな勘違いした意見を読んでも得るものはないし、気分が悪くなるだけですよね。

でも、僕の意見に対して真っ当な意見を返す人たちのやりとりは見たい。なので、見る権利はあるけれど、意見する権利とは分離した方がいいんじゃないか、ということです。

山口:なるほど。

佐々木:リプライ権と視聴権で分けるとかね。それはアーキテクチャというか、構造をある程度インセグに設計することによって、もう少し真っ当な議論が成立するようにできるんじゃないのかという提案をされています。

現状ではそういうものがないし、本当にそれができるのかはわかりませんけれど。こういったものがこれからできるんじゃないかと思います。

SNSが普及し始めてまだ10年しか経っていない事実

今はインターネットが始まって25年〜30年くらいですよね。SNSが普及してからはまだ10年も経ってないわけで、そういう意味ではものすごく未熟な技術なんです。

ちなみに、15世紀終わりごろにグーテンベルクがヨーロッパで活版印刷の技術を発明して、それがヨーロッパ全土に印刷が普及するのに200年くらいかかっているんですよ。それを考えたら、時代の違いを考慮に入れても「10年や20年かそこらで素晴らしいものが出てくるわけがない」と希望的に考えてもいいんじゃないかなとは思います。

Erjon Mehmeti 氏(以下、Erjon):そのネットプラットフォームの中で、ビジネスとしてサービスをしなきゃいけないんですね。

佐々木:これからね。

Erjon:最近は世界中でインフルエンサーのブームがありますよね。「デマを流す」ことは昔からありますが、インフルエンサーの方のコミュニケーションってどういうふうになっているのでしょうか?

佐々木:それは面白い指摘です。去年の夏くらいに、『思想的リーダーが世界を動かす』という翻訳書の監修をしたんです。思想的なリーダーを英語でいうとthought leaderですね。

これはアメリカの本なんですけど、かつては学者や研究者がオピニオンリーダーだった。でも今の時代は複雑でややこしすぎて、専門分野の人が専門外のことを喋ると失敗したりする。

Twitterでも、その分野ですごく尊敬されている専門家が専門外のことに口を出して、「お前はなにを言っているんだ」と突っ込まれることがよくありますよね。これはTwitterのあるあるなんですけど、そういうのが多すぎるんですよ。

パブリック・スフィアは論壇からニュースショーへ

これは昔からそうで、日本では1970年代くらいまでは論壇というものがあったんですね。文壇もありましたね、文学者の集まり。それの言論学的な感じで論壇というものがあったんです。

今でも朝日新聞とかでは論壇時評というコーナーがあって、名前だけは残っています。そこに確固とした思想家たちが集まって世の中について語る。かつてはそういう人たちがいたんですよ。

でも、これが80年代くらいからどんどん衰退していく。世の中が複雑化しているから、みんな専門分野外のことについて語らなくなっていくんです。一方で80年代半ばくらいに、テレビ朝日で久米宏さんによる『ニュースステーション』が始まります。今の『報道ステーション』の前身ですね。

だんだんニュース報道がニュースショー化してくるんです。先ほどパブリック・スフィア、公共圏の話がありましたが、公共圏の中心が雑誌や新聞における論壇からテレビのニュースショーみたいなエンターテインメントの枠に移行していった。

そういう流れの中で、専門分野的な人はどんどんパブリック・スフィアから撤退していってしまう問題が起きていたわけです。

これはすごく重要な話で、一方のテレビニュースとかにも〇〇学者とかが出ていたりするんだけど、〇〇学者というのは、ほとんど専門家ではないんですよ。最近でもテレビタレントみたいだけど学者と名乗っているような人がいますよね。ああいった人たちばかりで、もはや専門家ではないんです。

そういう状況が日本だけではなく、いろんな国でも起きています。そこで重要になってくるのが、専門性が世の中を動かすのではなくて、信頼感やパトス、1人のエモーションで動かすとか、そういう信頼に基づいて世の中を引っ張っていくリーダーです。

それは政治家ではなくて、もうちょっとオピニオン寄りなんだけど、人々に影響を与える存在です。要はインフルエンサーですよね。そういう存在のほうが重要になってきているよね、という話をこの本の中でしているんですね。

エトス(信頼)のあるリーダーが、フェイクニュース時代には必要になる

ただ、これにはメリット・デメリットの両方があります。メリットは「思想的裏付けがあるのはいいことだ」ということなんだけど、一方でそれには「容易にポピュリズム化しやすい」というデメリットがあります。

カルト化しやすいと扇動者が現れやすくなり、ヒットラーのような人物になってしまうかもしれない。そういう危険性もあります。ただ、時代が少しずつそっちのほうに移りつつあるのは間違いないかな、という感じですね。

人を動かすものは3つあると思っています。これはアリストテレスが言ったんですけど、古代ギリシャの『弁論術』という著書の中で彼は「弁論をする為の技術が3つある、それはパトスとロゴスとエトスである」と書いたんですね。

「パトス」は日本語で言うとパッションです。感情。「ロゴス」はロジック、論理。「エトス」は、日本語で正確に言うと信頼……公僕ですよね。

今の政治を見ていると、どれだけ論理で言ってもみんな理解してくれなかったりする。でもパトス、要するに感情で動かすと動きやすいわけです。だから感情に訴えるんだけど、感情に走り過ぎると今度は論理が欠如するので、扇情されたまま違う方向に行っちゃう。

だからパトスとロゴスは両立することが大事です。でもロゴスがパトスに勝つのは難しい。そういう状況の中で大事になってくるのは、長い時間におけるリーダーの信頼感です。

例えば「あの人は相手を中傷しない」「裏で女性に乱暴したりしない」とか、そういう地道な人間的信頼が今の時代のリーダーとして大事な要素になってきているのかなと思っています。

そういうエトスのあるリーダーを物質と貧困の世界に作っていくことが、フェイクニュース化・ポピュリズム化しない政治のために重要なんじゃないかなと思うんです。

軍事や文化ではなく、テクノロジーによる情報操作の力が権力を持ち始める

Erjon:ビジネスで考えると、そういったポピュリズムは負け組ではないですか?

佐々木:負け組に「なっちゃった」んだよね。

Erjon:そうですね。そもそも精神的なポピュリズムじゃなくて、もっとビジネス的なものですよね。

佐々木:それこそ去年問題になったFacebookの情報流出事件ですよね。結局トランプが当選した背景にはFacebookの効果的なターゲティング広告がありました。効果的なターゲティング広告の背景には、膨大な量の情報をFacebookが抜き取ったことがあると思うんですよ。

しかもそこに「ロシアがお金を出したらしい」みたいな疑惑も出てきて。いろんなことが起きているわけですよね。

そんなふうに、知らないうちに我々の情報が相当操作されているという話は再三言われていますよね。昔、アメリカの政治学者ジョセフ・ナイが「ソフト・パワー、ハード・パワー」と言いました。

軍事とかが「ハード・パワー」です。アメリカはハード・パワーはもちろん持っているんだけど、ハリウッド映画やアメリカのポピュラーミュージック、そういう文化の力が強かったからみんなアメリカになびいていた。

これ(文化の力)を「ソフト・パワー」と呼んでいるんです。でも最近はこのソフト・パワーでもハード・パワーでもない、ロシアや中国のテクノロジーを使った情報操作を指して「シャープ・パワー」という言葉も出てきている。

実際、去年のヒラリー・クリントンとトランプの大統領選に関していうと、Facebookのターゲティング広告が相当影響したという話がやっぱりあるので、どこまで効果的に広告を出せるかですよね。

ある程度はデモグラフィック(人口統計学属性)で、Facebookは年齢・住所・性別などをさらに細かく分析したんじゃないでしょうか。例えば「この人にあと5回トランプの広告を見せたら票が転ぶに違いない」みたいな。そこまで先行予測をして分析ができれば、ある程度票をいじることは可能なんじゃないかと思います。

政治のリテラシーが低い日本は、AIを活用しにくいがゆえに得している

山口:それにはAIなどを使うんですか?

佐々木:そうなんですよね。AIの仕事は、膨大な量のビッグデータを使って、そのデータの中にある、人間には見分けのつかないような特徴を発見することなんです。

例えば、誰がトランプ大統領を支持しているのかを考えると、ラストベルト、いわゆる工業地帯の貧困層の白人みたいな、割と単純な区分けがあるんですよ。でも、それだけじゃないところもある。

サンフランシスコの1地域に住んでいて年収300万円の人は、年収が低い人です。だからひょっとするとトランプを支持している率が高いのかもしれない。トランプ支持は、ある程度データを調べてみると思いもよらないところに可能性があります。

眠っている潜在的な票がデータ分析でわかるとしたら、そこに行って効果的に広告を投下すれば、その地域の票をひっくり返すことは充分に可能です。だからAIのディープラーニングを使って人間には見つけられない特徴を発見すれば、ターゲティング広告の効果は間違いなく上がりうるわけです。

Erjon:日本でもありえますか?

佐々木:日本では……現実にそこまで活用している人はまだいないと思います。とくに政治の場面では。なぜかというと、日本の政治活動はリテラシーが低いから。結果的にそれで得をしている部分もあるんですね。

Erjon:AIを活用しにくい環境なんでしょうか。

佐々木:というより、ITを活用していないですね。そもそも公職選挙法でインターネットでの選挙活動が解禁されたのがほんの数年前ですから。しかも、それが一番新しいですからね。

ロジックで結論を透明化しようとすることの無理

オバマ大統領が当選したのはもうだいぶ前、3期前だから10年以上前です。あの時、ネットによる資金集めやネット選挙みたいなことをものすごくしていましたよね。ネット選挙といっても、YouTubeで選挙CMを流すとかではなくて、オバマは選挙運動の運動員の活動を全部ネットで管理したんですよ。

今まで効果的な資金集めや運動のキャンペーン展開は、事務所に行って、3回ボランティアをしなきゃいけなかったんです。それが自分の家にいながらにしてオバマの運動に参加できるようになった。そういう仕組みを作ったのが強かったと言われています。

山口:ネットやテクノロジーの台頭によって、情報がどんどん操作されて、知らない間に……ということですよね。

佐々木:そういうこともあります。だから今後はそれをどこまで透明化して、見えるようにしていくのかが課題になると思いますけど、なかなかそれが難しいというか。

例えば今EU、もしくは日本政府は、AIの解析について「どういうロジックでその結論になったのかを透明化せよ」みたいな政策を立てようとしています。でも機械学習は、まず深層学習ですよね。

ディープラーニングの数式を知っている人に聞くとわかるんですけど、これは単純な方程式だけどパラメータが膨大なんですよ。変数ですね。数字を山ほど並べて、その数字を全部の重みにかけて置き換えるんです。

これは「その山ほど並んでいる数字が、なぜその数字になるのか」というロジックはなくて、単に正しい結果になった場合から逆算するとその数字になる。なので「他の計算にもその数字が当てはめられるよね」という話でしかないんです。

でも、その数字に対して説明ができる日本語の根拠がない。だからAIの話をしていると、結構そこは難しいんですよね。

山口:今後数十年くらいかけて、それをやっていくんですよね。

佐々木:していかないといけない。「できるようにする」と言っている人もいます。この前技術の人と話したら、「これからそれをどうするのかが日本企業の仕事です」と言っていました。でも本当にできるかどうかは、ちょっと難しいかもしれない。

どちらかと言うと、そこがブラックボックスであることはもう諦めて、「その先でどうやって公正さとかを求めていくのか」という話にならざるを得ないんじゃないかなと思います。

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