2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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米良はるか氏(以下、米良):若林さんが今おっしゃっていたことと、まったく同じことを思ってます。私、去年病気をして半年間仕事を休んで、家から出られなかったんですね。そのときに一応会社の肩書は下ろさなかったんですけど、実質、経営を1回退くというか休みをもらっていて、その時に初めてそう決意して家にこもって治療を続けていたんです。
これが「問い」かはわからないんですけれど、会社に行くと解決しなきゃいけない問題が無数にあるわけですよ。その問題を解決しているだけで毎日が終わっていく中で、すごく久しぶりというか、そもそも生まれてからずっと学校教育でエスカレーター的にいった私としては、(そういった期間は)久しぶりでした。
本当になにもやることがないというか、私がここに存在しているということを、正直誰も求めてないというか。コミュニティの中から完全に外れたという気持ちが芽生えて、そのときにすごく苦しくなったんですよね。
けっこう重い病気だったんですけれど、どちらかというとやることがないというか、「やることがない=生きている価値がない」みたいに思ったときの方が、すごく恐怖を感じました。
休んだ時にいろんなことを考えたりする時間があって、本を読んだり未来を考えたりして、最終的にはいろんな、まさに「問い」じゃないですけれど、「こんなことやりたいな」「こんなことができたらいいな」みたいなことを妄想し始めたんです。
半年の休みが終わる頃に、私は自分の会社に戻ることになっていたんですけれど、戻らなかったとしてもたぶん新しいことを見つけておもしろくやれるだろうなと思ったときに、会社に戻るのがすごく楽しみになったんですよね。
米良:この感覚は、これからの社会でけっこう問題になるだろうなと思っています。「絶対に自分じゃなくてもいいだろうな」という仕事が大量に増えてきますし、それには当然AIも関係しています。その中で、「なんで自分が生きているんだろう」といったことに立ち戻る人がどんどん増えてくるはずなんです。実際、人間は超ヒマになると思います。
超ヒマになったときに、「自分でなにかやってみようかなぁ」と思える人が増えたら、社会はたぶん健全な方に向くと思うんです。そうじゃなくて、誰かすごい先導者みたいな人に操られることもあるかもしれない。「君はそうあるべきだ」と言ってくるような社会では、普通に「革命だ」みたいな方向に行ってしまう可能性があるなとも思っています。
クラウドファンディングは誰かが小さいことでもいいからやってみて、応援が集まることで自分が正当化されて、「またやってみよう」と思えるようなプラットフォームだと思っています。私の中では平和を維持するための社会システムになっていくべきなんじゃないかなと、最近けっこう思っていることなので共感しました。
林千晶氏(以下、林):ロフトワークもそういう意味ではすごく近くて。会社を作ったときに、クリエイティブを流通させるプラットフォームになりたいと思ったんです。「クリエイティブを生み出す人は誰ですか?」というときに、当時はアーティストとデザイナーという言葉しかなかったんです。
クリエイターというとゲームクリエイターしかいなかった時代に、「アーティストやデザイナーだけじゃなくて、クリエイターなんです」と言ったら、「クリエイターは何人くらい日本にいるっていう定義ですか?」と投資家から言われたことがあります。
「生まれたばっかりの赤ちゃんの時と、体が動かなくなったときはつらいかもしれないですけど、それ以外の人間全員がクリエイターになる社会だと思っています。そこから生まれる行為がクリエイティブなんです」と言ったら、「根拠なくマーケットを広く取りすぎだ」と言って誰も投資してくれなかったんですよ(笑)。
林:でも、その時から発想は一緒です。私はメーカーにいたのですが、なにが人間を苦しくさせるんだろうと考えた時に、「自分は消費者だ」と思うから苦しいんだとわかったんです。つまり、消費する役割だから買うお金がないと不安で、いつも未来が不安なんだと。生活者って、理由もなく自分の好きなものがあったり、好きなものを作ったり、自分で生み出す人だと思うんだよね。それは有形無形を問わず。
目的は社会のためじゃなくて、自分がそれを好きだから。私がクリエイティブという言葉のなにが一番好きかというと、「正しくないけど楽しそう」という響きなんですよ。デザインだと正しくないとダメなように思うけれど、クリエイティブは「私はそれが好きだから」を許す言葉の広さがある。正しいか正しくないか、必要か必要じゃないかは、私はどうでもいいと思っているんです。
自分が楽しいと思うことに対して、消費者でいるのではなく作れるようにしたかった。大企業だって自分たちが楽しいと思う事業を作れるし、個人だって作れるようにしたかったからFabCafeというスペースを作ったんです。
「作れる」ことがもっと広がるように、素材もいろいろ遊べますよということで、マテリアルという事業も足しています。日常の「楽しい」を1個でも作れる人は、気がつくとそれが仕事にもなって自分の仕事も作れて、自分の人生も実はそれで作れて、気がついたら自分の住んでいる街さえも作ってしまえるというループになると思っているんです。だから、米良ちゃんとロフトワークはすごいエコシステムで繋がっているんだという自慢なんですけど(笑)。
そうやって作るときに、今までは「いやいや、それは作らないで。効率悪いから」と言われるような、ビジネスの理論ではほとんどの人が作れると思っていなかったところに、「本当にそれって作れないんだっけ? なんで作れないっていわれなきゃいけないんですか?」問い直すことを始めたいなと思っているんです。
林:渋谷の街を見ていて、「なんで街の花壇はこんなにかっこ悪いの? 花壇を変えてもいいですか?」なんて思うわけです。海外の街には本当に素敵な花壇があるのに、東京の街の花壇は本当につまらなくて、それを1回変えようとしたんですよ。そうしたら、「落ち葉があると掃除しないといけなくなるけど、掃除する人がいないから変えちゃダメ。だから落ち葉がなくて、水もやらなくてもいい植物を植えています」と言われたんです。
元々が「綺麗で好きなものを置きたい」という発想じゃないんだとしたら、「私がこの領域を掃除しますんで、好きな花を植えていいですか?」というように、「なんで今こうなっているんですか?」と問うことでしか始まらないのかなと。そういう意味では、いっぱいへんてこな質問が生まれればいいのになと思っていますね。
若林恵氏(以下、若林):そう。今の話をもうちょっと大きな話でいうと、それまではそこは公共がやっていた仕事なんだけど、実は公共がそこにお金を落とせなくなる可能性があるという話とセットなわけ。
2016年の(大統領選挙で)トランプに負けたヒラリーは、テクノロジーとイノベーションに関するアジェンダを選挙中に出していたんです。基本的にはITというものをアメリカ経済の真ん中に置くという趣旨になっているわけで、それはそれでいいじゃない。なんだけれども、基本的な問題は「ITって雇用を生まないんですよ」でしょ?
ITで仕事を効率化していくんだから、要するに雇用を生まないわけ。(マーク・)ザッカーバーグがいくら「うちは雇用で貢献してるんだ」っていっても、数万人なの。かつて、GEとかGMなんて何十万人と社員を抱えてたわけでしょ。でも、そんな時代はもうやってこないという話になってるわけですよ。その中でヒラリーは「ITを真ん中に置きます」というアジェンダとセットで、スモールビジネスの振興というものを張り付かせてた。
つまり、ITのプラットフォームを使ってみんなが小さいビジネスをどんどん立ち上げていけば、それが雇用の受け皿になる。実際、その時点でのアメリカにおける新規雇用の6割くらいは、もうスモールビジネスが生んでいるというようなことを言っていたわけ。
いわゆる、SMEといわれるスモールミディアムエンタープライズ(中小企業)の振興は、雇用を生むという観点ですごく重要なわけ。それをどんどん作らせていくことによって、そこに新しい経済が生まれてくるであろうというのが、海外で最も進められている新しい経済の見立てなんですよ。
若林:つまり、ドミナントな大プレーヤーが雇用と製造をブンブン回していって、それで消費もできるようになるような構造ではないんです。ニューヨークだと2014年か2015年くらいの段階で、マンハッタンではチェーンよりもローカルのコーヒー店の方が数が多かったと言われている。それがたぶん望ましい姿なんですよ。
実際、いくらスタバが増えたとしても、そいつらは効率化しないといけないので雇用を生まない。スタバとしては(雇用を)生みたくないわけ。なんだけれども、地元のコーヒー屋だったら、子育て中のお母さんが子どもを連れて少し手伝う、みたいなこととかも含めて、いろんなバッファがあるわけじゃない?
そういうものを増やしていくことによって、ある種の定常経済みたいにするアイデアなんだけど、実際はもしかすると、その経済は経済規模としてデカいのかもしれないという見立てが最近出てきている。
林:そう。そうするとね、大企業の中では雇用はコストになる。でも、スモールビジネスと考えると、人は夢を叶える仲間になる。コストという考え方をしないで、本当に真逆の概念でいくらでも実はビジネスは成り立っていて、かつ、そういうことの例に渋谷はけっこう向いているんですよ。
チーズスタンドって知ってる? 渋谷にあるモッツァレラチーズ屋さんで。牛乳は北海道とかで作りますよね。それでチーズなどの乳製品も北海道で作られて流通していたんだけれど、チーズは主要な食べ物じゃないので3日くらいかけて都市圏にくる。だから、保存料も入れて長持ちするようになっているんです。
だけど、東京にできたチーズスタンドは、牛乳は採れたてのものがその日のうちに届く流通網ができている。食べる人がいるのは東京とか渋谷の人だから「牛乳から採れたてのチーズを作るのは、渋谷でやればいいじゃん」と切り離した。そうすると、保存料もいらないフワッフワのできたてのチーズを渋谷でどうぞ、という行為が生まれるんです。
今までは「トロットロのできたてチーズを作りたいです」(と言うと)、「じゃあ、あなた北海道戻る?」みたいな。都心を取るか北海道を取るかという乱暴な選択だったけれど、北海道も利用しながら東京で作るみたいな、そういうスモールビジネスがあります。
これは大企業だけじゃできない。でも、大企業が持っている物流を使って、スモールビジネスが山ほど生まれてくるというシステムが、もっともっと出てくるんじゃないかなという気はします。出てきたらいいと思うし、渋谷がそういう拠点になったらいいのにな、なんて思いますね。
安斎勇樹氏(以下、安斎):そうですね。そういう意味で、渋谷でやる意味というか、このSHIBUYA QWSが目指す多様性だったり、ボトムアップでなにか新しい問いの種みたいなものが生まれやすいところがすごく魅力なのかなと思っています。
すごくいい事例がたくさん出てくればいいなと思っているんですけど、気になってきているのは、個人から湧き上がった問いがどんどん湧き上がることが望ましいのか、それとも、「いい問い」というものがあるのか。
その「問い」がポツッと個人の中に生まれたときに、それがただ実践されるだけじゃなく、その「問い」が育っていくこと。または、イノベーションに持続的・長期的に繋がっていくときに、いい「問い」やいい取り組みが生まれ続ける場というものを、どういうふうに作っていくのがよいのかが、この施設的にも課題になると思うんですよね。
若林:結局、別にイノベーションじゃなくてもいいんですよ。つまり、弁当屋を始めるみたいな話でいいわけじゃん。ある種の差別化みたいものは必要かもしれないけれど、弁当屋は、基本的にその50メートル半径の中で昼飯を食う人間がどれくらいいて、そのうちどれくらいを取れるかでいい商売だったりするので。別にすごく革命的なイノベーションなんていらないわけですよ。
そういう小さなものがたくさん必要になるわけ。「このあたりにコーヒー屋はないけど、ふだん働いている人はけっこういるよね」というところにコーヒー屋を出せばよくて、別にブルーボトルコーヒーとかである必要なんかぜんぜんないわけだよ。普通のコーヒー屋でよかったりするわけなので、まずそういうものをどれだけサポートするのかっていう話だよね。
コーヒー屋を始めるだけだから、「初期投資で200万円だけほしいんですよ」と言えば、「そんなもん出してやるよ」となるような話かもしれない。つまり「ビジネスモデルはどうなってるのとか、そんな精査する話だっけ? みたいなところ。そういうレイヤーはあると思う。
若林:もうちょっと大きいビジネスを展開したいときには、問いの質だったり、考えが想定されているビジネスモデルみたいなもののキーはあるだろうし、おそらくそういうものがゴチャゴチャとあるような気はするわけね。
いろんなレイヤーがあっていいので、いろんな部分でのエンドースメントが必要だということを基盤とすると。そのときに渋谷がどういうものをエンドースしたいと思っているのかは、この施設のある種のアイデンティティに関わることだから、ある程度はセグメントされるべきだろうという気はする。
結局問題になるのは、よくありがちな話だと「いいアイデアを思いついて、それなりにお客さんを付けてくれたらうちでお金出してやるよ」みたいな話はいくらでもあるわけ。でも、それだと結局なにも出てこないんですよ。誰かがリスク配分なり、お金をちゃんと突っ込むなり、あるいは「こういうアセットがあるからそれを使ってなにかやってくださいよ」という話がないとダメわけですよ。
場だけ作って、人が集まって、人が交流してればなんか生まれるという風潮がありますけれど、そんなので絶対に生まれないんですよ。そこに行けば金があるとか、確実に助けてくれる人がいるとか、そういうアセットがない限り、誰もそんなところには行かない。そういうものを誰に向けてどういうふうに実装できるかがすごく重要だと思うわけです。
米良:私の会社も5期目のスタートアップです。これはちょっと、最近微妙なキーワードですが、イノベーションと詐欺は紙一重だなと思っているんです。
林:イノベーションと詐欺?
米良:それは紙一重だなと思っています。
米良:スタートアップの業界にいて、とくにゲームみたいな産業が1回落ち着いた今、私たちの世代くらいの人たちが向き合っているのは、産業をどうやってテクノロジーで変革するかということです。そこって、ほぼすべて既成業種なんですよね。
今までのスタートアップの戦い方と違う戦い方をしないといけないと思っているんです。とはいえ、けっこう今バブっているので、いろんなチームにお金が付きやすいですよね。
大企業さんにとってもこれはすごくポジティブな話で、「スタートアップを応援しなきゃいけないよね!」みたいな空気もあるから、その事業とかメンバーとか(について)あまりよくわかってないけど応援する、みたいなスタンスです。
スタートアップ業界はすごくうれしいんですけれど、一方で本当にイノベーション(を起こさなくてはいけない)。その産業を変革して、今生きている人たち、これから10年後生きている人たちにとって住みやすい社会を作るという、すごく長期でちゃんと勝負をするスタートアップを、しっかり作って育てていくことが大事なんだろうなと思います。
結局、そこで資本主義的になって、お金が集まってガソリンが入れられて、「どんどん勝負しようぜ!」とどんどん進んでいったときに、その産業が既成業種で潰されてしまう。つまり、省庁とかが敵になって潰されてしまって「本当はもっと早くイノベーション、その産業を変革するような大きいことができたはずなのに」ということが、これからいろんな業界でもっと起こるだろうなと思っているんです。
そのときに、いろんな企業さんがこの場に関わってくると思うので、いい意味でその「本当にこの環境を変えたいんだ!」という強い思いを持っている、おそらく若者であろう子たちをどうやって良いかたちで手順を踏んであげるか、サポートしてあげることが大切です。
そこは今、まだまだ欠けているんです。スタートアップで成功した人がスタートアップを応援するという状況がメジャーになっていますよね。
もうちょっと既成業種をやるとしたらこうだよとか……不動産業界はそういう世界だったりもすると思うんですけれど。そういう関わり方をしてもらうのが、たぶん全体最適なのかもしれません。そこが、日本という国から丁寧にイノベーションが生まれていくという意味で、今欠けていることなのかなと思っています。
若林:最近ちょっとお金周りのところをわりと勉強してたんですけれど、結局、お金ってさ、やっぱり「すみません、スタートアップなんでそういうのわかんないんですよ」という人たちがやっちゃまずい業界なんですよ。Coincheckみたいに、みんなの預けた金が突然なくなるみたいな、それは取り付け騒動ってやつですから。
そういうことが起きないように、国はみなさんの預金とかを、一応保障しているわけじゃないですか。保障があるんだから当然規制も出てくるよね、という中で、おそらくフィンテックはやらなきゃいけない。実際、そうでないと困る話なんですよ。
当局サイドは、いきなり「それ禁止ね」とはしないながらも、どういうふうにやってくかをある程度考えなきゃいけない。最近だと、例えば新しいフィンテックの会社とかは、役員に半数メガバンクの出身者がいないとダメだとかいうレギュレーションを課そうとしているわけ。
それはなんとなくダサい話のように聞こえるんだけれど、俺はそれを妥当だと思っている。逆に海外のフィンテックのスタートアップを見ていると、実際はメガバンクの出身者ばっかりなんだよ。そういうおっさんが辞めて、「新しいのやるぞ」とか言ってやってる。
だから、金融のプロが金融のプロとしてイノベーションを起こすというようなことになってるんだけれども、日本ではただ単にテクノロジーのプロが金融のサービスを立ち上げるみたいなことなってる。
それは俺の仕事でいうと、メディアのド素人がいきなり「俺、ITできるから」ってメディア業界に入ってきて、「これがメディアビジネスなんですよ」と言い張るみたいなことで。そのバカバカしさをずっと見てきた人間からすると、そういうことは基本的に不健全なわけ。
若林:ITはITで、もちろんそれなりに可能性とポテンシャルはあるんだけれど、それを正しく、ある種のプロフェッションとして、ちゃんと社会にサービスとして実装されていくフェーズにたぶん入ってきている。逆に言うと、お金と人そのものがアセットなわけだから、大企業の人間はどんどんそういうところに出ていかないといけないと思う。
企業というのはどうせ人を減らしたいわけだから、1回切り離してコネクションだけ作って、お金を入れて。人の繋がりもあるんだったら、それは自分たちに対してだってシナジーがあるだろうと考えるようになるかもしれない。
林:今の若さんの発言は、ずっと私がわからないと思っていることに繋がるんだけれど、1つの業界の人、例えばフィンテックだとしたら、金融業界の人は金融のことを知っているし経験もある。
でも、今ある技術、今あるインフラ、今の時代背景の中でイノベーションを起こそうとするときに、どの知識が金融業界のプロとして次の世代にも、あるいはフィンテックベンチャーにも移行すべきノウハウで、どこが業界の悪しき慣習なのか、また、変えていい部分なのかを見分けることがいつも本当に難しいんです。
日本の企業はどんどんブランドを変えるんですよ。私が化粧品のブランドマネージャーをやっていたときに『〇〇アルファ』という化粧品を作ると言われて。「え!? アルファなんてつけちゃうと、次のときはベータなんですか?」みたいな。アルファ、ベータと名前を変えようみたいなことがあったんです。
「変えるとこ、そこ?」と思いましたね。それって「名前は変わらないけど脱ぐとすごいんです」的なことなのか。どこを変えてどこを変えないのかが、いつもすごく難しくて。
若林:そう、本当にわからないんだよ。
林:わからない。
若林:わからない。やるしかないの。俺も基本的には旧態依然たる紙の雑誌の人間で。ライブドア出身の田端信太郎という、今スタトゥ(株式会社スタートトゥデイ)にいる人間がいて、そいつが完全にテックの側でポータルしかやったことないやつ(だったんです)ね。
そいつと最初、まったく話が合わないんだよ。自分たちの仕事はなんだという定義からしてズレてる。なんだけれども、それは擦り合わせなければいけない話だし、メディアの世界でいうと基本的に俺らはテクノロジーのことがわかんないと思っちゃってるから、撤退戦をやるわけ。話を聞いて「なんか違うんだけどな」と思っているんだけど、こっち側はものすごく考えないとダメで。
つまり、「メディアっていうのはそういうことのためにあるんじゃない」とか、「それはAmazonでは役に立つ話かもしれないけどメディアでは違うぞ」とかの話を言えないといけない。
その中で、俺は俺側で「これはもう捨ててもいいや」という話がいっぱい出てきたけど、「これはおまえ、覚えておけや」という話もいっぱいあった。それはたぶん、やらないとわからい。アメリカが進んでいるのは、それこそメディアとかの部分でも非常に優れているのは、それを3往復くらいやっているところだよ。
林:なるほどね。
若林:そうそう。
林:だとすると、例えば渋谷でいうと、スクランブル交差点で世界中の人がなにかをやりたいわけ。やりたいけど、警察からすると「道路です」なわけですよ。「なにかやりたい」、「道路ですから」となる。そこの中でやりとりが生まれて、新しい道路の使い方が生まれるのが私的には理想です。
林:でも、そのときにやりたい側が、今ある仕組みがなんのためにあるのかを、会話の中でちゃんと把握して、まずはどこから始めるべきなのか、何が検証できてリスクを下げられることなのかまで考えていきながら実験しないといけない。
「まずはやれ」で、真っ昼間のスクランブル交差点を使って、真ん中に立って「アートです!」とか言って交通渋滞になって、「二度とやるな!」となってしまったら、前進どころか3歩下がって終わっちゃう。そういうところも含めて、もちろんやるしかないし、やる過程で議論するしかないんだけれど、もうちょっと賢く進んでいくためには何が重要なんだろうね。
若林:そういうストラテジーは、俺は重要だと思うよ。つまり、基本的にはまずみんなが「それは学びのプロセスだ」と思わなきゃいけない。その中で、「いきなりここまで飛べるだろうな」というものがあるわけだよ。
「〇〇部長は絶対これはOKしないよな」みたいな話はあるんだけれど、「〇〇部長をうまくだませば、ここは黙って通せるかも」みたいなことを見つけていくのが、やはり重要な気がするわけです。
だから、100パーセント実現できるみたいなことって絶対ないから、せめてこれだけは残したいというものをちゃんと積み上げていって、それを足がかりにしていくのがたぶん現実的なストラテジーだと思う。
林:そういう意味では、国が出した最近の仕組みを私はものすごく尊敬していて、みんなも、もし大企業の方がいるんだったら使ったらいいんじゃないかなと思います。
「これはプロジェクトです」というかたちで、いろんな新しい実験をやりたいのは国もそうなんですね。まずは特区という仕組みで「やりなさい」とやろうとしたんだけれど、特区といっても広すぎて、結局リスクがあってできなくなってしまった。特区構想に時間がかかってしまっていたんですね。
このペースじゃ間に合わないということで内閣官房が作ったのが、「実験をやるから、それは事業じゃなくてプロジェクトだ、実験だ」というものです。実験としてやるとなにが外れるかというと、業法が外れる。要は旅館業法、通信業法、〇〇業法というものです。プロジェクトだからまだ業になってない。業になる前の実験だから、業法全部外させてもらいますということで、どんどん実験をやる。
実験をやるに当たって、各省庁の大臣に「この実験をやる意味は○○です」ということで、承認の判子をもらった上で実験する。3回やってなにもトラブル起こらなかったら、業法を変えるというかたちでやっているから、まさに若さん(若林氏)が言った、やるしかないんだとしたら、「みんなこれプロジェクトです。まだ事業じゃないです」というかたちでやる。渋谷は、もうプロジェクトの場所です、というのは絶対にあると思います。
安斎:そうですよね。僕は1人だけ大学の人間でもあるんですけれど、みなさんのお話をうかがっていて、大企業との繋がり方とか国の仕組みとかいろいろある中で、大学とどう連携するかの視点があってもいいのかなとすごく思いました。
僕、ふだんは会社にいるんですけれど、たまに大学に戻るとちょっと空気感が違うというか、時間の流れ方とか、まだ役に立たなくてもいいことを少し試せているという感じがします。今回、渋谷という場所で、いろんなプレーヤーが集まり大学とも連携しながら、いい実験の場として、それがイコール問う場として、そういう施設になっていけるといいのかなと感じました。
ちょうど、次のセッションは大学の先生方がいらっしゃるセッションなので、そんなお話も聞けたらなと思っています。今回、みなさんのお話も踏まえながら、いい渋谷をいい「問い」の実験場にできるような施設にできたらなと思っております。
というわけで、あっという間に時間になりましたので、トークセッション1はこれで終わりにしたいと思います。みなさん、どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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