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日本の課題(全4記事)

元ライフネット出口氏「日本の未来は、めちゃ明るい」 歴史オタクが現代人に説く、日本楽観論

2018年8月30日、人事の本質的な課題を識者とともに考える「HR Cafe’研究会」が開催されました。同日のテーマは「日本経済は企業の意思決定の総和」で、セッション「日本の課題」には立命館アジア太平洋大学(APU)の学長・出口治明氏とフリーランス通訳の田中慶子氏が登壇。本パートでは出口氏が、これまでの日本社会の課題と、これからあるべき姿を語ります。

「メシ・フロ・ネル」から「人・本・旅」へ

出口治明氏(以下、出口):脳は疲れやすいんですよ。今日はいろいろおもしろいデータを持ってきたのですが、主催者からいただいた時間は1時間しかないので、ほとんど喋れない。それで主催者にお願いをして、予定を変えて夜の10時まで僕が全部喋ろうと思います。全ページ丁寧に話します。賢くなって帰れると思いますが聞きたい人?(笑)。

(会場笑)

なんで誰も手が挙がらないんですか? それは、みなさんの頭の中で今日の講師は何アホ言うてんねんと(笑)。人の話を連続5時間も聴けるかと思っているからですよね。

その通りなんです。脳みそは体重の2パーセントもないですが、使われるエネルギーは2割を超えているので、めちゃ高性能のエンジンなので、注意力が持つのは2時間が限界です。だから、頭を使う仕事は2時間 × 3コマとか4コマが限界なんです。証拠はハリウッド映画です。みんな2時間でしょう?

わかりますよね。だから働き方の改革というのは基本的には、これ以上長時間働いてもあかんということがようやく政府にもわかったので長時間労働はやめなあかんと。「メシ・フロ・ネル」ではあかんと。

僕は「人・本・旅」といってますが、早く帰って、いろんな人に会ったり、本読んだり、いろんなところへ出掛けて行って、脳みそに刺激を与えなければアイデアは出やへんでという世界になってきているわけですよね。

だから、これからの世界は、「メシ・フロ・ネル」ではもうあかん、「人・本・旅」で勉強していかなければいけないということです。これをデータで言えば、製造業の工場モデル、製造業で働く人は全世界どんな統計をとっても、だいたい大卒は4割前後です。

年間2,000時間の長時間労働で失ったこと

1つデータを挙げれば、平成は今年で終わります。平成元年の、世界のトップ企業20社を挙げたら、株式時価総額のトップはNTTで、日本企業が14社入ってました。「Japan as No.1」の時代ですよね。

平成30年はどうなっているか。トップ20に入っている日本企業はゼロです。日本のトップは35位のトヨタ自動車です。世界におけるGDPのシェアをPPP(購買力平価)で見てみたら、90年代始めに、このグラフで一番をとっていたころは、だいたい日本のGDPシェアのピークは8.9パーセントです。世界の約1割経済ですね。

今どうなっているかといえば、4.3パーセントぐらいです。半減しています。なんで落ち込んだかが明らかですよね。製造業の工場モデルが生きていた時は、そこそこ良かったんだけれど、バブルが崩壊してサービス産業の世界になったら、ダメになった。

言うまでもありませんが、現在のトップ5社のうち4社はGAFAです。GAFAとかユニコーンが引っ張る世界になってしまったので、日本がぜんぜんダメになったんですよね。

GAFAの予備軍と言われるユニコーンはアメリカに100匹ぐらい、中国に70匹ぐらいいると言われています。日本はメルカリが上場して0匹になったとか悲しいことが言われています。ヨーロッパにも30匹ぐらいいるらしい。

じゃあ、GAFAとかユニコーンは製造業と何が違うのかと言えば、GAFAやユニコーンで働いている人の、ほとんどが大卒です。経営幹部をとってみたら、ほとんどがダブルマスター、ダブルドクターです。日本は先進国の中で一番大卒の割合が少ない国の1つです。

日本の大学進学率はピークで52パーセント。OECDの平均は6割を超えますから、ぜんぜん大学にいかへん。さらに大学に行っても勉強しない。これは日本人の学生が怠け者ではないんですよね。企業が悪い。

だって採用の時に成績を見ないで、クラブ活動とかアルバイトでリーダーシップをとった経験があるかとか聞くわけですから、誰が勉強するかですよね。企業に勤めたら、年間2,000時間もの長時間労働でメシ・フロ・ネルですから、勉強する時間がない。

兼業ということは、人・本・旅で勉強すること

わが国では「大学院卒で勉強した人間は使いにくい」とかアホなことを言って採用しないので、日本は社会全体が低学歴なんですよね。だから、ユニコーンやGAFAが生まれないんですよ。だから社会全体が勉強しないと。早く会社を出て、人・本・旅で勉強しない限り、新しい産業は生まれない構造になってしまっている。

政府が兼業を認めようとしているのも、兼業って何かと言えば、人・本・旅で勉強することですよね。違う人に会い、違う本を読み、違うオフィスで働くわけですかね。そうですよね。だからみんなでもう1度勉強しない限り、日本経済の陽はまた昇らないんですよ。

もう1つ、サービス産業化した社会では、大事な問題があって、サービス産業のユーザーは大半が女性です。これは全世界どんな統計をとっても6割か7割が女性です。

日本経済を支えていると自負しているのは誰ですか? 50歳、60歳のおじさんでしょ。50歳、60歳のおじさんに女性の欲しいものがわかると思う人?

(会場笑)

無理でしょ。このミスマッチを防ぐために先進国ではクオーター制をとっているわけですよ。役員の4割が女性でないと上場を取り消すなどという仕組みは、需給のマッチングを目指しているわけですよね。

日本政府はそこまで根性がないので、女性が輝く社会という文学的表現に留めてますが、女性が輝くためにも男性が早く帰って、家事育児介護をシェアする以外の解はないので、2重の意味で長時間労働はあかんということがわかりますよね。

だからこれからはメシ・フロ・ネルでは日本経済はもうどうしようもない。人・本・旅で勉強して、社会全体を高学歴にしていかないと。高学歴という意味は、全員がマスターとれとかいう意味ではないですよ。勉強するということなんですよね。今の世界は、そうしない限りアイデアが出ない段階に入っているということですよね。

美味しい人生を送るには「知識 × 考える力」

じゃあ、その次にアイデアの出し方の話をしますが、ちょっと手を挙げてほしいのです。美味しいご飯とまずいご飯、どちらが食べたいかという話で、美味しいご飯食べたい人?

(会場挙手)

まずいご飯食べたい人?

(会場から手が挙がらず)

はい。美味しいご飯を因数分解したらどうなりますか? 一番シンプルな因数分解は、いろんな材料を集めて上手に調理すれば美味しいご飯ができる。

いいですか、これで。その次です。美味しい人生とまずい人生、どっちが送りたいですか? 美味しい人生送りたい人?

(会場挙手)

まずい人生送りたい人。

(会場から手が挙がらず)

はい。美味しい人生を因数分解したらどうなりますか? いろんな材料を集めることが知識であって、上手に調理することが考える力ですよね?

美味しい人生を送るには「知識 × 考える力」。また質問していいですか? ニンジン知らない人? 

(会場笑)

いませんよね。ラーメン知らない人? いませんよね。ムール貝食べたことがない人? いませんよね。みんな、ニンジンもラーメンもムール貝も知っている。

でも、7年前にラーメン屋を開いた、おにいちゃん1人がニンジンのピューレにムール貝で味をつけて、ベジそば、野菜そばという美味しいラーメンを売り出して、ミシュランにも載って店舗も5つぐらいに増やして美味しい人生を送っている。言いたいことわかりますよね。

みんなニンジンもラーメンもムール貝も知っているのに、この3つを足したら美味しいラーメンができると考えたのは彼しかいなかったわけですよね。

ここから導き出される結論は、イノベーションのすべては既存値の組み合わせ。ニンジン、ラーメン、ムール貝が既存値です。イノベーションのルールは早稲田の入山(章栄)先生がいつも話しておられますが、既存値間の距離が遠いものの組み合わせからイノベーションが起こる、と。

ラーメンと言って何を連想しますか? 味噌、醤油、とんこつ、ねぎ、ゆで卵、のり、チャーシューを連想するでしょ。これらを足しておもしろいラーメンができますか?

わかりますよね。ラーメンと味噌、ラーメンと醤油は既存値の間の距離が近いんですよ。同質です。このことがわかればダイバーシティがなんで必要かすぐわかるでしょ。同じような人とつるんでばかりいたら、おもしろいアイデアは出ないんですよ。

偏差値は社会に必要な能力

同質の社会では、せいぜい醤油ラーメンか味噌ラーメンしかできない。ラーメンと言われてニンジンを誰が連想しますか? ムール貝も連想しないでしょ。既存知間の距離が遠いのでイノベーションが生まれる。

このことがわかれば、何を勉強したらいいんですか。はよ帰って。MBAに行くんですか?コトラーを読むんですか? 違いますよね。好きなことをやればいい。そうですよね。何でもいいから好きなことをやってそれに打ち込むことがイノベーションを産む。役に立たなくてももともとですからね。

でも好きなことを徹底してやっていれば、大きいイノベーションに結びつくかもしれないので、これからの生き方、今日いただいたテーマに戻りますけれども、日本の課題を解いていくためには、はよ帰って、みんなが好きなことを徹底してやる。そして自分の頭で考える。人の真似をしてもダメです。

結論から言えば、GAFAやユニコーンを作ることは、(スティーブ・)ジョブズのような人をこれからは作っていかなければいけないんですよね。

ジョブズをシャープのカラーテレビ工場の生産ラインの前に立たせたらどうなると思いますか? すぐラインが止まるでしょ。きっと「このラインの形は美しくないな」とか、ジョブズは考え出します。

だから今までの日本の教育の特徴は、「みんなで決めたことは守りましょう」ということです。あるいは協調性が大事だとか、そういう教育は製造業の工場モデルを前提にした考え方なので、これからは尖った人を育てていかなければいけないんですよね。だから大学で言えば東大かAPU(注:出口氏が学長を務める立命館アジア太平洋大学)なんです。

(会場笑)

偏差値は大事です。それから短い時間で、クイズのような難問を解く能力も、人生にはやっぱり必要なんです。だから偏差値を上げることに興味があったり、クイズ王になりたいという情熱を持つような子どもは、東大を目指せばいいんですよね。

東大は比喩なんで、別に東工大でも京大でもいいんですが、そういう難関大を目指せばいいということなんですよね。偏差値は社会に必要な能力の1つです。

国籍、年齢、性別、顔写真さえも人事には要らない時代が来ている

でも中には「偏差値なんて意味あらへん」「クイズ王になりたくないで」と、じっくり物事を考えたいという子どももいっぱいいるんですよね。そういう子どもはAPU型の大学にいったほうが、これからはいいんですよね。

だから教育も、これからはみんなが違って当たり前やねん。顔が全部違うんだから、考えも嗜好も希望も全部違うんやでと。みんなと違った人を大事に育てていくことを考えなければ、社会は栄えないですよね。

イノベーションもそうで、同質的な人ばかりを集めたら絶対にイノベーションは起きないですよ。だから、いろんな人を集めてくる。年をとった人、若い人、それから女性、男性、もちろん外国人。世界は国籍年齢性別フリーの方向に動いています。

Googleでは人事部のデータから国籍・年齢・性別・顔写真も全部捨てたと言っていました。顔写真を見るだけでも先入観が働く。何か暗そうやなとか。そんなの生まれつきなので、どうしようもないですからね。

Googleの人事の人に話を聞いたら、これからの人事は過去のキャリアと今何やっているかと将来の希望さえ聞けばできると。国籍も年齢も性別も、顔写真なんかあったらかえって邪魔なだけやということになります。

ニューヨークフィルのブラインドオーディションという話があるのですが、ニューヨークフィルでは欠員が出る度に、音楽総監督やコンサートマスターが後任を選んでいた。誰かが気が付いた。新しく入ってくる人は白人の若い男性が多いなと。

それでブラインドにした。ちょっとバイオリンを弾いてみてとか。どうなったかと言えば、すぐみなさんわかると思いますが、有色人種が増え、女性が増え、高齢者が増え、結果的にレベルは格段に上がった。

これが意味することは、ニューヨークフィルの音楽総監督やコンサートマスターという人格も能力も高い人でも見た目に騙されて選べへんということですよね。

この話を知っていれば日本の大企業で、5年や10年ぐらい人事をやったおじさんが、「人を見る目があるで」なんて言っているのは、何と傲慢で愚かな話やということがすぐわかりますよね。

面談と入社後のパフォーマンスに相関関係はない

おもしろい話があるんですが、あるところでリクルートの総合研究所の所長の話を聞いたら、面談と入ってからのパフォーマンスの間には、一切相関関係がないと。これをリクルートが言っているんですから説得力があるでしょ。

つまり、面談でわかることは素直そうだとか言うこと聞きそうだとか、それぐらいしかわからないんですよね。だってグローバル企業は原則全部成績採用ですからね。

4年間、自分が選んだ大学で良いパフォーマンスを上げた人は、自分が選んだ企業でも良いパフォーマンスを上げる蓋然性が高い。そうですよね。

今日は日本の未来を考えるというのが大きなテーマですが、「日本の未来はどうなるんですか?」と聞かれていつも答えているのは、「そんなものわからへんで」と。

「真面目に答えてください」とか言われるんですが、本当にわからない。なぜかと言えば未来はみなさん一人ひとりの行動が作るんですよ。

それでみなさんがどう行動するかは僕にはわからないので、そんなものわからないでしょ。みなさんが人・本・旅で勉強せず、何も考えず昨日通りの仕事を続けていたら、どうなるかはわかります。衰退しかないですよね。

でも、みなさんが人・本・旅で勉強して行動し始めたら世界はいくらでも変わるので、とくに女性のみなさんががんばったら、100番ぐらい順位が上がるわけですから、未来は明るいですよね。だから、未来はどうなるかと予想するものじゃないんですよ。みなさんが行動して作っていくものなんですよ。

日本では同じような発想で政府はけしからんという人がいっぱいいます。けしからんと思うんやったら次の選挙に行って、みんな落とせばいいんですよね。政府は僕らが作るものなんですからね。

日本の未来は明るい

政府は僕ら市民と対立する概念ではないんですよ。未来も政府も全部われわれが作るものなので。だからみなさんがどう行動するかで世界は変わるんですよね。

北京の蝶の羽ばたきが、ニューヨークでハリケーンになるように、「1人ぐらい動いても変わらへんで」というのは嘘なんですよ。とくに日本は女性のみなさんががんばったら、めちゃ変わりますよ。

ということで、未来は明るいというのが僕の結論で、僕はいつも未来は明るいと言っているんですが、これには根拠があって、僕は歴史オタクでしょ。歴史を見ていると悲観論は今までは一勝もしていないんですよ。全敗している。

全部、楽観論が勝っている。一番わかりやすい話は、僕が中学校の時に社会科で習ったのは、石油はあと30年しかないと。僕が中学校のころは、ちょうど石油ストーブが普及し始めた時で、それまでは山に行って木を切って、それを乾かせて暖を取っていたので、石油ストーブになってから、めちゃ楽になったなと思ったんです。

とても気持ちが明るくなった。もう山に行って木を切らんでもええと。僕が中学生の時、石油はあと30年と習った時に、僕が何を思ったかと言えば「そうか45歳になったら、また山に行って木を切らんといかんのか」と。

(会場笑)

これ面白いでしょ(笑)。でも今、石油はあと50年ですからね。これは簡単で、テクノロジーの進化を予見できるほど人間の頭は賢くないからですよね。

ということで、僕の結論は、未来はめちゃ明るい。とくに日本は、湯加減も良いし改善の余地が山ほどあるし、女性のみなさんが元気に明るくがんばれば、めちゃ楽しい世界になるというのが僕の結論です。

これでプレゼンは終わって、この後はたぶん喋りたい人がいっぱいると思いますので、質疑に移ります。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:ありがとうございます。

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