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日本の課題(全4記事)

日本人は「メシ・フロ・ネル」の発想から脱却せよ 元ライフネット出口氏、現代社会への警鐘

2018年8月30日、人事の本質的な課題を識者とともに考える「HR Cafe’研究会」が開催されました。同日のテーマは「日本経済は企業の意思決定の総和」で、セッション「日本の課題」には立命館アジア太平洋大学(APU)の学長・出口治明氏とフリーランス通訳の田中慶子氏が登壇。本パートでは出口氏が、これまでの日本社会の課題と、これからあるべき姿を語ります。

人間は全員、見たいものしか見ていない

出口治明氏:みなさん、こんにちは。マイクは聞こえますか? じゃあ、話はできるだけ早く終わって、せっかくみなさん来られているので、ディスカッションを中心にやっていこうと思います。よろしくお願いします。

それから、僕の講演中は勝手に写真を撮っていただいてけっこうです。TwitterやFacebookをやりながら聴いていただいても、まったく構いません。被写体として自信があると思っているわけでは決してありません(笑)。

(会場笑)

僕は、学長になる前はスマホで商売をやっていました。スマホで商売をやっていたのに「スマホを使こたらあかん」と言うのは絶対矛盾なので、自由に使ってください。

「人間は見たいものしか見ない」といったのはカエサルですが、みなさんも世界を色眼鏡で見ています。例えば、安倍さんという総理大臣がいますが、好きな人も嫌いな人もいますよね。同じ人を見ていて、なんで好き嫌いが出るかと言えば、みなさんが安倍さんを色眼鏡で見ているからです。

つまり、人間は全員、見たいものしか見ていないので、ちゃんと世界をフラットに見るためには方法論がいる。それは、縦・横・算数の3つに分けられる。

データで見れば答えがわかる

まず縦は何かといえば、人間の脳みそは1万年進化していないので、昔の人がどう考えたかというのが縦ですよね。横は世界の人がどう考えているかです。

例えば、僕は中学校で、源頼朝は平政子、北条政子と結婚して鎌倉幕府を開いたと習いました。日本は夫婦別姓の国ですよね。

では、世界はどうかといえば、ものごとはApple to Appleで比較するので、OECDの35の先進国で比べるのが普通ですが。この35の先進国の中で、法律婚の条件として同姓を強制している国はどこにもありません。

縦横で見れば、「夫婦別姓のような考えは家族を壊す」とか「日本の伝統ちゃうで」とか言っているおじさんやおばさんは、厄介なことにけっこういるんですが、縦横に勉強してへん人か、イデオロギーや思い込み過多な人やな、ということぐらいはわかりますよね。だからどんな問題でも縦横で考えれば、簡単に答えがわかるということです。

それから算数、データです。これはもう何でも数字で考えたらわかりやすい。平城京と平安京は途中で作るのを止めています。未完の都です。

これも簡単で、当時の日本と中国の人口比は、だいたい向こうが10倍で、500~600万人対5,000~6,000万人です。1人あたりのGDPは向こうが先進国なので、向こうがだいたい日本の2倍です。ということは中学生でも、日本の国力は20分の1ということがわかります。そうですよね。

じゃあ、平城京や平安京の大きさはどれぐらいだったかといえば、唐の長安の4分の1です。20分の1しか稼いでいない人が4分の1の家を作ったらどうなるかといえば、途中でお金がなくなるのは目に見えているので、だから平城京や平安京が未完に終わったということは、算数できれいに説明ができます。

でも、こんなこと言ったら、平城京を作った持統天皇や藤原不比等は、そんなこともわからないぐらい愚かだったんですかという話になるんですが。

これはそういう解釈もできるんですが、そうではなくて、唐という世界帝国に見せるために、わかっていて背伸びしたんだという説もあります。この辺りは解釈になるわけですが、算数で考えたら未完であることはすぐにわかるわけですよね。

「all supporting all」の考え方へシフトせよ

だから、どんな問題でも縦横算数で見たらわかりやすい。日本の問題は少子高齢化と言われて久しいですが、若いみなさんに将来どうやと聞いたら、だいたいあまり明るくないという答えになる。

その原因は何か。「なんでそう思うんですか」と聞いていくと、だいたいこのグラフに行き着くんです。

昔は若者10人で高齢者1人の面倒を見てたんですよ。それが騎馬戦が崩れて、肩車に向かっているやんかという話になるんですが、この話はよく考えなくても、「young supporting old」という、若者が高齢者の面倒を見るのは当たり前という考えをベースにしていますよね。

これ正しいですか? 簡単に反証はできるのですが、動物の中で若者が高齢者の面倒を見ている動物を知っている人? 挙手をお願いします。

(会場から手が挙がらず)

いないでしょ。いないということは人間も動物ですから「young supporting old」という考え方は、普遍的なものではなくて、高度成長していて人口が増えた時代の産物であると。

じゃあ、少子高齢化が先に進んだヨーロッパではどうなっているかといえば、20年も前に「all supporting all」の世界に変わっている。つまり年齢フリーでみんなが社会を支えて、シングルマザーとか困っている人に、給付を集中したらええやんかという考えに変わっているんですよね。

これを社会制度でいえば、若者が高齢者を支えるんやったら、働いている若者から所得税をとって、住民票で年齢をチェックして、敬老パスを配れば済みますよね。

ところが、みんなが社会を支えるんだったら、消費税に変える以外にないですよね。それからシングルマザーとか本当に困っている人に給付を集中するんだったら、マイナンバーを整備するしかない。

つまり、少子高齢化ってなんやといえば、所得税と住民票で社会が回っていたレベルから、消費税とマイナンバーが社会のインフラになるパラダイムシフトのことを呼んでいるんですよね。

消費税=弱い者いじめという思い込み

でも、日本ではこんな当たり前の話をしても、消費税といった瞬間に、弱い者いじめだとかいう変な話になってしまう。

消費税が弱い者いじめやという話も嘘であることはわりと簡単にわかる。先進地域は、世界で3つある。アメリカ、ヨーロッパ、日本です。この3つの中で、どこが一番弱者に優しくてバリアフリーですかと聞いたら、ほとんどの人がヨーロッパに手を挙げる。

ヨーロッパの社会はぜんぶ消費税で組み立てられているので、弱者に厳しいという話が嘘やということがすぐにわかりますよね。大丈夫ですよね。つまり「all supporting all」で考えたら、別に日本の将来がそれほど暗いわけではないでしょう。年齢を見なければいい。年齢フリーの社会を作ればいいのです。

そんなことを言うけど、日本ではあと5年も経てば、団塊世代が後期高齢者になるので、「介護が目も当てられへんで」という人がいっぱいいますよね。とくに東京は大変や、介護する人がいない。介護の問題です。

でも、介護とは何か。議論する時には、言葉をはっきり定義しなければ意味がないというのはみんなわかってますよね。介護を定義すれば、平均寿命マイナス健康寿命だから、A-Bだから、これは健康寿命を伸ばす以外の解はないんですよね。

じゃあ、どうやったら健康寿命が伸びるのかと医者に聞いたら、全員答えは1つで、働くのが一番良いという答えです。ということはこの国に政策は定年の廃止以外にありません。「一石五鳥」です。

定年を止めたら介護が減って、みんなが健康になるわけですからとてもいい政策ですよね。2番目に医療、年金財政が好転するのはすぐわかりますよね。だって、もらうほうから払うほうに変わるのでダブルで効くでしょう。

だからナベツネさんみたいに90歳になっても、がんばって働いている人からは、年金保険料を貰えばいいわけですよね。全くおかしくないでしょう。

松坂大輔のカムバックに学ぶ

3番目に、定年を止めたら年功の考え方が消えるってわかりますか? だって定年止めて年功やってたら、毎年給与が自動的に上がるので、企業はもたないでしょう。そうですよね。

つまり、定年を止めたら松坂大輔になるんですよ。松坂大輔ってわかりますよね。ドラゴンズの今のレギュラーで、松坂大輔より華麗な経歴を持っている選手は誰一人もいません。

でも、松坂は、2軍の試験を受けて入ったわけですよね。日本では高齢者が働くと言ったら「高齢者は使えへんで」と。みんな自分は「昔役員やってたで」「部長やってたで」とか。そんなん使えへんという人ばっかりですけれど、松坂はそんなこと言ってますかという話ですよね。

年齢フリーで考えるということは、昔何してたかは関係がない。今の体力、能力、意欲で何ができるかという話で、それって素晴らしいでしょ。過去なんか関係ない。だから定年を止めることで年功の考えを消そうではありませんか。

4番目に中高年のやる気が出ますよね。みなさんは若いので、まだわからないかもしれませんが、人生100年と言うてるのに、何でみなさんのお父さんやお母さんが、50歳や60歳になったら「そろそろ終わりやな」と考えるのか。

定年があるからでしょ。最後に日本は団塊の世代200万人が消えて、新社会人は100万人ちょっとなので、めちゃくちゃ労働力不足で、2030年には800万人足らんとか言われているので、とてもAIで埋まるレベルではありません。高齢者が働くことは整合的ですよね。良いことばかりでしょ。邪魔をしているのは「定年があって当たり前」という社会常識だけですよね。

少子化もそうで、日本では今だに会社の上司が女性社員に向かって「仕事をとるか赤ちゃんをとるか、ちゃんと考えなあかんで」とか信じられないことを言っている。

これよく考えたら選択肢ですか? だって人間は動物で、赤ちゃんが生まれなければ滅んじゃうわけですよね。働かなければご飯が食べられないので、2択の問題であるはずがないですよね。どっちもに決まってますよね。だから先進国すべて両立支援でG7ではドイツを含めて、全部出生率が上がってきています。

シラク3原則に見習うべき両立支援制度

フランスが数字的には一番上手くいっているんですが、これはシラク3原則という政策で、女性に聞くわけですよね。「どんな時にがんばって赤ちゃんを育てるか」みんな答えは1つですよね。「本当に産みたいと思った時に産めるんやったら、きっとがんばれると思う」。

だからシラク第1原則はそれだけですよ。産みたいと思ったら産むのが一番いいんですよ。他は何もない。

政策に落とすと、ちょっと考えればすぐわかりますが、女性が産みたい時と、その女性の経済力が一致するはずがないので、その差は政府が給付しますと。どんな状態で赤ちゃんを産んでも、貧乏にしませんというだけですよね。

次に、第2原則は待機児童ゼロです。フランス人に聞いたら、日本ほど待機児童ゼロにしやすい国はあらへんでと。なんでやねん。少子化で小学校中学校統廃合してるやんかと。

何で余った教室を保育園に変えへんねんと。すぐできるやんかと。ちょっと待ってと。日本では文科省と厚労省の関係がややこしいんやでと。

そんなの一強の安倍さんが「争っているんやったら、文科厚労省にしてしまうで」と言えば終わりやんか。衆議院も参議院も絶対多数を持っているし、聞いたところによると強行採決も好きらしいと(笑)。

(会場笑)

すぐできるよと(笑)。だからフランス人に言わせれば、日本の待機児童問題は政策の問題ではなくて、政権担当者に希望者全員義務保育にする覚悟がないだけの話やんかと。で、終わりですよね。なんで、そんな覚悟のない人に投票するのか、という話になるわけです。

第3原則ですが育児は難しい。つまり、育児から帰ってきた人は賢くなっているんだから、留学と一緒だから、給与上げたほうがええと。育児休業は留学と一緒なので、少なくともキャリアの中断とかランクダウンは法律で禁止するでと。

シラク3原則ってこれだけです。これで出生率が10年で0.4ポイントほど上がって、2.0の大台を回復したということは、みなさん知ってますよね。だから日本でもこの通りやれば、赤ちゃんは増えると思います。

生産性がG7最下位だからこその「やりがい」

財源はGDP比1から1.5とされていますが、フランスの家族予算はGDP比3から3.5で、日本が1.5なので、フランスはこの他にも家族に手厚い予算を採っているということがわかりますよね。だから縦横算数で考えたら、少子高齢化でも、この国はあまり本格的な対策をまだやってへんなということがわかりますよね。

そんなことを言っても日本は世界で一番高齢化が進んでいるので、1年たてば1歳、年をとるので、予算ベースで考えても、5,000~6,000億円ぐらいお金が出ていきますよね。年を取ればやっぱり医療費とか嵩みますよね。それはしょうがない。

毎年毎年、予算ベース5,000~6,000億円プラスで新しくお金が出ていくということは、みんなで貧乏になるのを我慢するか、経済成長してこの分を取り戻すか以外の解がないということですよね。

経済成長は「人口✕生産性」ということは、すぐわかりますよね。商売の売上は、つまりトップラインは「件数✕単価」ですからね。人口は簡単に増えないので、この2択はみんなで貧しくなるか生産性を上げるか以外の解はないということがわかりますよね。

でも肝心の生産性は、競争力とほぼニアリーイコールの概念ですが、だいたい20位ぐらいです。生産性もあまり良くないと。1970年以来ずっとG7最下位です。

でも今日はウィークデーですよね。木曜日ですよね。花木ですよね。花木なのに、わざわざ勉強に来られた、今日は意欲のあるみなさんばかりですから、このグラフを見た瞬間にうれしくなったと思いますが、うれしくなった人は手を挙げてもらっていいですか? 何で1人しかいないんですか? 

えらい頭が固いですね。91年だったら世界一なので、みなさんが来週からがんばって働いても、あと落ちるしかないですよ。そんなの嫌でしょ。20番とか26番とかめっちゃいい湯加減でしょう? 別府のAPUに来ていただいて、温泉に入って元気を付けて、がんばって仕事して、10番ぐらい上げてやろうと思ったら楽しいでしょ。

今日は女性のみなさんが多いのですが、女性の社会的地位は、世界で144ヶ国中114番という酷さですよ。だから女性のみなさんが男の言うことなんか聞かずに、職場でガンガン意見をいって、がんばれば100番ぐらい上がるんですよ。楽しいでしょ。

「メシ・フロ・ネル」ではアイデアは出ない

だって高校や中学で100番成績が上がったらうれしいでしょ。だから日本の女性のみなさんは世界で一番幸せやでと僕はいつも言っているんですが、がんばったら100番上がるんやでと、こんな楽しい国で働いているって喜ばなきゃいけないですよね。問題は何でこんなに落ち込んだかということですよね。

これは簡単で、いつも次のような話をするのですが、ある出版社があってAとBという編集者がいる。Aは朝8時から夜の10時までパソコンにしがみついて仕事をしている。でも編集者がパソコンにしがみついていても、あまり良い本はできないので、ベストセラーは出せないんですよ。Bは10時ぐらいにくる。来たらすぐにスタバで誰かとだべってる。

夜になって6時ぐらいになったら新橋へ飲みに行って2度と帰ってこない。でも、いろんな人に会ってアドバイスをもらっているので、アイデアをもらっているので、年間にベストセラーを3冊ぐらい出すと。みなさんがこの出版社の社長だったら、どちらを評価して給与を上げますか? Aを評価する人。

(会場挙手)

Bを評価する人。

(会場挙手)

ですよね。これがシャープのカラーテレビ工場だったらどうなるか。Aの前のコンベアは8時から10時まで動いて山ほどテレビができる。Bの前のコンベアは10時に動いたと思ったらスタバストップ。6時にはもう動かないので、ぜんぜんでけへん。わかりますよね。製造業の工場モデルが社会を引っ張っている時は、力が強い男性の長時間労働でいいんですよ。

だから戦後の日本は配偶者控除とか、3号被保険者という飴を与えて、寿退社とか、3歳児神話とかいうでたらめを吹き込んで、専業主婦を作ってきたんですよね。性分業で良かったんですよ。

これが製造業の工業モデル。でも製造業のウェイトは4分の1を割り込んで、今やサービス産業を中心に社会を引っ張るような時代になってきています。サービス産業はアイデア勝負なので、メシ・フロ・ネルの長時間労働ではアイデアが出ないんですよ。わかりますよね。

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