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SHARE × HOME・STAY 〜民泊・ゲストハウス・旅館経営から考える〜(全1記事)

ビジネス型の宿は確実に潰れていく――民泊の登場が宿泊業界にもたらすもの

2018年9月7日、シェアリングエコノミーの価値を発信する「SHARE SUMMIT 2018」が開催されました。「SHARE × HOME・STAY 〜民泊・ゲストハウス・旅館経営から考える〜」には、日本旅館協会の鶴田浩一郎氏、earthcube japan中村功芳氏、国土交通省の鈴木貴典氏が登壇。シェアリングエコノミー協会の佐別当隆志氏をモデレーターに、変わりゆく日本の宿泊施設のシェア事情についてディスカッションしました。

宿泊のシェア事情を語る

佐別当隆志氏(以下、佐別当):こちらでは主に民泊を中心としたセッションとしたいと思います。

今日この場に集まっている方々はそれぞれの立場がぜんぜん違うと。

一番奥に座っていただいている鶴田さんは、日本旅館協会の副会長をされていらっしゃいますし、中村さんに関しては、ゲストハウスの経営者だったり、ゲストハウスを作る仕事をされていらっしゃいます。鈴木課長に関しましては、観光庁として民泊周り、住宅宿泊事業法を担当する担当課長というところで。

たぶん1年前にはこのメンバーが同じ壇上に揃うことはなかったと思います。民泊に対して、民間事業者があったり、賃貸不動産業界があったり、または旅館業界があったり、観光庁がそれをどう取りまとめていくのかというところで、正直1年前はかなりバチバチした状態だったんじゃないかなと思っています。

ただ、民泊新法がスタートして、もうすぐ3ヶ月。新法ができたからこそ話せることがあるので、この壇上にこういったメンバーが揃うことができたかなと思っています。

そういう意味では、これからどんな議論がされるのか、もしかしたらバチバチ、またなにかが起こるんだろうか、または共通点があるんだろうかと楽しみにされている方もいらっしゃると思いますが、忌憚のないのご意見、議論ができればなと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 

私は、シェアリングエコノミー協会・事務局長をやっています佐別当と申します。私自身も自宅を解放して、シェアハウスと、あとは家族と家主滞在型の民泊をやっておりますので、民泊の一ホストとしての意見を発信できればなと思っております。

それでは、まず自己紹介を含めた活動紹介を、鶴田さんからお願いできればと思います。

旅館・ホテル業界の立場からも意見

鶴田浩一郎氏(以下、鶴田):鶴田でございます。よろしくお願いします。この中でも僕の年齢が一番上じゃないかなと思います。

今、佐別当さんからご紹介にあずかりましたように、実はみなさん、なにかしらバトルを期待しているかもしれませんが(笑)。実は僕自身が40歳から地域の活性化の仕事をしていて。今、NPOと、全国では社団法人をやっていて、全国の地域づくりのお手伝いをしています。

そういう中で、旅館協会の副会長としてこの民泊問題を取り扱ってきました。だから、旅館業界・ホテル業界としての建前と、「本来、地域で民泊はどうあらなければいけないのか?」というところは、実は自分の中でかなり引き裂かれておりまして。

今日はその話も少ししたいと思いますが、少なくとも民泊という法律ができるとき、鈴木課長にはたいへんプレッシャーになった業界でございますし、逆にプレッシャーをかけないと、実は不動産賃貸業界という業界がありまして、ここの言いなりになってしまう懸念もちょっとありましたので、「民泊と違うものになるんじゃないかな?」と思いながら、今の法律ができたと思います。

ともあれ、地域に良いことはいっぱいやっていきますので、今日はよろしくお願いいたします。

佐別当:ありがとうございます。

(会場拍手)

倉敷で「ゲストハウス開業合宿」

佐別当:続きまして、中村さん、ご紹介をお願いいたします。

中村功芳氏(以下、中村):みなさん、こんばんは。それでは僕の紹介をさせていただきます。NPO法人「Earth Cube Japan」と言いまして、「本当の豊かさとはなにか?」ということを考えているNPO団体です。

この間、西日本の豪雨災害があったじゃないですか。僕の家が倉敷なんです。宿を作るために今一番よく行っている職場が呉なんですよ。広島で一番激しいところが職場で、岡山で一番激しいところが家だったというところでした。

僕の家自体はぜんぜん大丈夫だったんですが、「ゲストハウス開業合宿」をしている仲間から「宿泊難民者がいっぱい出ているから、中村さん、なんとかしてくれ」ということが1日目に出たんですね。

実は最初に、「仕事が止まりそうだから嫌だな」と思ったんですが、自分でできることがあったらなんとかしようと思って、安心して寝れる宿を8ヶ所募集した結果、次の日の朝に80軒になっていた。

いまは日本中で登録してくれているんですが、「万が一なにかあったら、うちはタダでするよ」「うちは半額でいいよ」「定価だけど、ごはんをごちそうするよ」というようなところが登録してくれている協力隊というのを作っています。

これが地図ですね。この(セッションが始まる)20分ぐらい前に呼びかけたので、さっきの時点で3件だったものがたぶん20〜30軒以上ぐらいになるかなとは思っています。

こういう「ゲストハウス開業合宿」。僕たちのゲストハウスの定義は、地域の中で一番愛情がある人がいる迎賓館。もしくは地元の人たちが飲みに集まっている集会場。これが本来のゲストハウスです。

ゲストハウスはいま1,200軒あるんですが、僕たちが3軒から20軒ぐらいあった時期で「ゲストハウス文化を全国に広めようぜ」と言って仲間とやったときは、迎賓館と集会場しか考えていません。だから、ゲストハウスを宿や安宿と思っている人は、勘違いです。「ゲストハウスで泊まらなきゃ」と言う人は、実はそれ嘘です。

そうではなくて、本来の作った人の思い、文化を作ろうと思った人たちは、町の価値を上げる。「地元のおじいちゃんおばあちゃんが豊かに暮らせて、10~15歳、次の世代が憧れる仕事を作ろう!」というのがゲストハウスの始まりです。安宿や単なるバックパッカーズ宿とは違うからこの名前を作ったんです。

ゲストハウスも民泊も同じようなものですが、最初に作った人には「家庭の食卓の会話の質が上がったらいいな」という思いがたぶん民泊でもあったと思う。でも、それがいつの間にか、変わっているんですね。

だから、民泊もゲストハウスも名前を変えて、今度もう「そういうのじゃないよ」という感じで次のステージを作ったほうがいいと思っているんですよ。だから「ダイアローグハウス」「地域まるごと迎賓館」といったことを考えています。

次に、ゲストハウスだったら周辺で生業ができないといけないので、生業を作る合宿をしています。これも結局どんな合宿かと言ったら、ビジネスプランを持ってきたら「ひとまず捨ててくれ」という話から始まるんですよ。

「1万時間考えても奥さんがニヤニヤするようなことを考えようぜ」という勝負をする3日間なんです。女性がいる場合は、勝手に食卓に友達を呼ぶんですよ。その食卓が明るかったら、友達が友達を呼んでくれるんです。そうしたら町が潤うんです。そうしたら、そのへんにパン屋さんがあって、銭湯ができて、本屋さんもできたらいいな、というのを作っていくための合宿。

それから、今はまったく観光地ではないどちらかと言ったら無名な島を、1ヶ所だったら世界に発信するインバウンドが難しいから、6ヶ所合わせて世界に発信しようぜ、ということで「ディープラインプロジェクト」というのを瀬戸内海でしています。

有名になったらディープラインから出ないといけないんですよ。だから、まったく無名なところを募集しています。よろしくお願いします。

佐別当:ありがとうございます。

(会場拍手)

民泊のガイドライン整備に必要なこと

佐別当:次は鈴木課長です。民泊の最新の情報や状況も含めてご紹介いただければと思います。よろしくお願いします。

鈴木貴典氏(以下、鈴木):観光庁で民泊の法律、住宅宿泊事業法を担当しています鈴木と申します。どうぞよろしくお願いいたします。自己紹介も兼ねて、民泊の最近の動向もお話しさせていただきたいと思います。

まず自己紹介ということで、私はとても田舎者で、愛知県の渥美半島、伊良湖岬で生まれて18年間育ちました。とても田舎なものですから、子どもの頃は農作物や魚を本当にシェアしておりまして。横の家に呼ばれたり、どこかのおじさんが釣ってきた魚を家に持ってきたり、そんなかたちで育ってきました。

宿もいっぱいありましたけれども、民宿といったものが多くて、今で言う民泊はなかったですね。

役所に入ってから今までいろんな仕事をさせていただきました。「観光」「地方」というところで考えると、四国運輸局で1回働いたことがありまして、このときのお話もちょっとご紹介させていただきたいなと思います。

四国には、温泉が多かったのですが、それだけではなくて、山間部で滞在型、古民家を使った宿もけっこういろいろあって。近くの農家の方が協力してごはんを作りに来たりといった取り組みもいろいろありました。ただ、今東京などで広がっているいわゆる都会型の民泊というものは、四国ではあまりなかったなと思っています。

そういう意味では、田舎の農泊や、古民家のようなものを使った別荘みたいなものなど、民泊とひと口で言ってもいろいろあるなというのが実感ですし、みなさんにもご理解いただきたい点かなと思います。

同時に、民泊は、本来は民(たみ)が人を泊まらせるということだと思うんですけれども、今一般的に「民泊」と言われると、住宅のようなとにかく施設に泊まればなんでも民泊だということになっているかと思います。ここにもいろいろ種類があるので、これは分けていろいろ議論したほうが本当はいいんだろうなと思います。

続きまして、私、実は昨年の6月、7月から民泊に関わることになりました。これまでどんな仕事をしてきたかを簡単にご紹介させていただきたいと思います。

私は航空局の成田国際空港企画室長から、昨年の7月に今の仕事へ変わってきております。実はもう昨年の6月に民泊新法、住宅宿泊事業法が国会で成立をしていた状態だったのですが、けっこう法律の中で、ややいろんな立場の議論があってご意見が分かれていて、法律に直接書き込めなかったことも数知れずあって。

それが政省令とか、さらにその下のガイドラインと我々は呼んでいます。通達のようなもので実質的に決めているような部分も少なからずあったということで。

ある意味、7月に赴任してきて、「これをいったいどうやってまとめたらいいんだろう?」ということと、「あんまり時間がないな」と非常に感じました。法律、政省令、ガイドライン等を決める手続きというのは、どうしても途中でパブリックコメントに相当の時間がかかります。

民泊のイメージは必ずしもよくない

鈴木:また、いろんなことを決めるにあたって、今まで法律を決める過程でご意見を言われた方がいらっしゃるので、その方を無視して決めるというわけにはいかないものですから、いろんなところにご説明に行くんです。

役所は、最後に決まりを決めないといけない、1つのルールにしないといけないということで一定の案を書いて持っていくのですが、同じ案を書いて行っても、こっちの方は「これでは厳しすぎる」、こっちの方は「これでは緩すぎる」と言って、どの案を書いてもどっちに行っても怒られるというような感じになっていて、非常にそこがつらかったなという思い出があります。

続いて、この6月15日から住宅宿泊事業法が施行されました。その後の状況を簡単にご報告させていただきたいと思います。この上のグラフで、青い線が実質届出件数で、「うち受理済件数」というのは自治体が正式に届出番号を発番したものであります。

6月15日に3,000軒ぐらいだということで、非常に低調だと言われておりますが、その後だいたい毎月数十件ずつ届出が出ていて、8月31日現在で8,272軒という数になっています。この線がそのまま続くのであれば、もう少しすればケタも変わってくるのかな、なんて思っております。

ただ、件数は増えていますが、いろんなご意見もいただいております。この前、民泊の関係の団体から、「180日規制は採算・事業性という意味ではなかなか厳しすぎるので、これはむしろ『とりあえず180日間は事業をやろう』ということで届けている方が多いのではないか?」というようなご意見をいただいたこともありますし。

実は同じの日の午後に自治体の人が来られて、「観光庁がやっているのはぬるすぎるからもっと厳しくしろ」という要請文をいただいたりして、引き続きそのような議論が続いているような状況です。

ただ、この数の動向についてはこれからも我々は分析していきたいと思っておりますし、また、どういう事業実態・活動になっているのかというのはいろいろ見ていきたいなと思っています。

自治体を地域別で見ますと、なぜか札幌市さんが一番になっています。ちょっと長くなるのであれですが、いろんな取り組み方で届け出が増えることもあるんだなと感じています。

逆に、田舎型の民泊というか農泊や家主居住型で、こういうのを目的とした民泊は、数としては、この地域で見ているとあまり多くないのかな。という感じもしています。

最後に、私も四国におりましたし、最近は中四国でだいぶ豪雨災害もあったということで、ちょっと四国の宣伝にもなってしまいますけれども。

我々としては、今民間の方にとって民泊のイメージが必ずしもよくないのが非常に問題だなと感じていて、なんとか民泊のいいイメージみたいなものを世間の方にも認知していただきたいなと思っております。

そのなかで、きちんと法的な手続きを経て、安全安心で周辺からの苦情に対してもきちんと対応するような民泊を増やしていく。それは都市部も田舎も共通で、それを超えて、地域活性化みたいなものに貢献できる民泊というのが増えていって、こういったものが報道なんかにもたくさん出て、一般の方々が持っていらっしゃる民泊に対するイメージが変わっていくといいなと思っています。

ちょっと長くなりましたが、以上でございます。

佐別当:鈴木課長、ありがとうございました。

(会場拍手)

民泊導入のきっかけは東京五輪

佐別当:それぞれの活動をちょっと長めにご紹介いただきましたので、さっそく次の議論に行きたいんですが、先に民泊の話を中心にしたいなと思っていまして。

鶴田さんには、旅館業界として来ていただいていますし、そもそも民泊に対して、昨年、鈴木課長をだいぶいじめられた方でもいらっしゃったんじゃないかなという気もするので(笑)。民泊に対して現状どういったご意見を持たれているかを率直にお話しいただけるとありがたいです。

鶴田:みなさんも「民泊」という言葉そのものが一般の住宅に宿泊するというイメージだと思うんですけれども、マンションやアパートといった空き家・空き室がたくさんあるからそこに泊まらせるという、ビジネスとしての、いわゆる不動産賃貸業としての民泊というものがあるんですね。供給しようと思ったら、実はここが一番供給量が大きいわけです。

だから、今日の表題であるシェアエコとはずいぶん違ったものなんです。そこらへんをちょっと勘違いなさっている方はいっぱいいらっしゃるので、いわゆる不動産賃貸業の空き家対策は、「これでいいんだろうか?」というのがまず1点ありますね。これはちょっとまずい。

ただ、もともと民泊を始めようとしたきっかけは「東京オリンピックで部屋が足りないぞ」「客室が足りないぞ」というところから始まっているので、「供給を増やせばそれでいい」という考え方も実は1つあったということ。ここらへんがシェアエコの考え方とのボタンの掛け違いが最初から起こっているというところですね。

みなさんご存じのように、実は民泊はもともと家主がいて、そこで地域のいわゆる体験や交流ができるといったところが一番のメリットというか、一番ほかでは体験できないこと。

こういう非常に差別化できる業態でもあったわけなんだけれども、日本に入ったときのきっかけがそういうこと(東京オリンピック)だったので、ここらへんがうまく機能しなかった。法律でも表現できなかった、というところに実は課題があるんじゃないかなとは思っています。

家主滞在型施設の可能性

佐別当:そういう意味では、先ほどのシェアリングエコノミーらしい民泊。要は家主滞在型で地域と交流ができる民泊に対しては、鶴田さんご自身として、または協会として、どういったご意見を持たれていらっしゃいますか?

鶴田:(鈴木)課長もわかっていらっしゃるどうかわからないですが(笑)、実は家主がいる場合は、旅館業界はそう言わないよと。「家主がいる場合はどうぞやってください」というような、基本的スタンスを実は持っていました。

家主不在型の、例えばマンション、アパート、コンビニでチェックインができるといったものについて、数だけ地域の供給を増やすということだけは、ちょっとまずいなとは思っていました。

180日規制というのが本当に厳しいのかどうかと言うと、パリでは非常にルーズに民泊をやっていて、ホテル業が圧迫されているんですけれども、一般的に例えば都市の民泊はそういうふうに日数規制、地域規制があるというのが世界の趨勢であるとは聞いています。

佐別当:みなさん聞きましたか? 旅館業界としては、家主滞在型だったらいいよというスタンスです。ちょっと中村さんにお聞きしたいんですけれども、ある意味、ゲストハウスからしても民泊というのは普通に考えて競合になりうるんじゃないかなとは思いましたし。

一方で、ゲストハウスとして、その地域の価値を高めるような活動をされていらっしゃるので、先ほどの日本ゲストハウス協力隊のように、「災害時に自分のゲストハウスの空いている部屋を貸していいよ」「無料でも半額でもいいよ」という人たちがいまどんどん集まってきていると思うんです。

ある意味シェアエコ的なことをゲストハウスを通じて実践されているなと僕は捉えているんですけれども、中村さんからして民泊はどういった捉え方をされていらっしゃいますか?

中村:そうですね、僕は、家主滞在型に関してはみんながやったほうがいいんじゃないかと思っているぐらいです。なぜかと言うと、その家庭の食卓がよくなるということは、地域にまた帰ってきてくれるんですよ。

その中に、海外のゲストが来れるというようになって。そこからまた「実家が1個増えたように帰ってきてね」という人が増えたら、僕も同じようなまちづくりから宿をしていますから、そういうことが増えてほしいなと思うんです。

シェアエコの意義を問いただす

中村:でも、今ちょっと怖いなと思うのは、不動産型というか、家主がいない、コンビニで受付するといったものは地方としたら町が壊れるんですよね。実際、家主(民)が民をおもてなししないというのは、民泊ではないですよね? 

(会場笑)

そこは分けたほうがいいなと思っているんです。その中でも、地域で一番愛情があって、「うちにおいで。実家が1個が増えたようになるから」と言って住民みんなでおもてなしができる場所を、僕は迎賓館、集会場、ゲストハウスと言ってほしいなと思っている。

最近、デンマークでは、「みんな観光業をやめよう」と国が言い出したんですよ。いい意味でですよ。全員が自分の家に民泊したら、要は国民総ホテルなんですよ。それってすてきじゃないですか。

僕もそれをやりたいなと思っていて。だから、その町まるごと総ホテルみたいなのを作ってみたいなというのは最近のテーマなんです。そのためには、ダイアローグシティ、ダイアローグハウス、地域まるごとゲストハウスといったかたちにする、したいなという人とぜひ一緒にゲストハウス、もしくは民泊をやっていきたいなと思って。

できれば名前を「不動産○○ビジネス・空き家活用ホテル型」と「民泊」に分けるか、逆に、民泊(家主滞在型)のほうが家主滞在型の名前を作って、「民泊」にも「ゲストハウス」にもこだわらず、「ダイアローグハウス」のような新しい時代の新しい名前を作ったほうがいいかなと思うんですよね。

そうでないと、そういうのが増えたら、劣化コピーというか。このビジネスは、こういう「民泊の枠」「ゲストハウスの枠」にいま100個あるとすると、1年後・2年後には1,000個ぐらい入ってくるのがもう見えていますよね。その人たちは10年間かけて消耗するんですよ。それは日本の資本主義の仕組み、システムです。

そこを脱出するのがシェアリングエコノミーでしょ? 僕も宿を1棟貸し、家庭型の宿を作ったんですよ。5万円の宿を作ったことがあるんです。自分の家に、海外から、県外から来た人が……家族だったら1人1万円ですからそんなに高くないんですよ。10日間泊まってもらったら50万円の収入なんです。もう働かなくていいんですよ。

これがシェアリングエコノミーですよね。みんなも、「これ、すごく幸せだったからみんなどんどんやって」という社会のほうがいいですよね。全部自分の中に取り込んじゃうというのはシェアリングエコノミーからしたら逆行してると思う。

佐別当:ありがとうございます。さっきの例は家主不在型で簡易宿泊で1棟丸貸しタイプ。ただ、おもてなしは地域として中村さんだったり関係者がしているという例。

中村:そうですね。

現行の法律の改善点とは

佐別当:鈴木課長にもお聞きしたいと思います。これから観光庁として、住宅宿泊事業法が施行されて、このあとどうするのかは注目しているところだと思っていまして。

もうすでに「ここの法律を変えたほうがいいんじゃないか?」という声を出す人もいれば、「条例が厳しすぎるので条例をなんとかして」という話もあれば、せっかく法律が決まったんだから、次はその中でどうしようというような話とか。

いろんな法律に対する考え方だったり、これから先の取り組みはいろいろと考えていらっしゃるとは思うんですけれども、鈴木課長としてはこれから具体的にどういったアクションをされていこうと考えていらっしゃるのでしょうか?

鈴木:ここでびっくりするような発言が立場的にできるわけでもありませんので(笑)、一般的な答えになってしまうのですが、相当いろんな方のご意見を聞くなかで、なんとかたどり着いたルールのかたちだと思っていまして。一定期間はこのルールの中でやってみる。

ただ、細かいところについて、いろんな改善すべき点は改善したいし、しなければいけないと思っています。届け出のシステムの使い勝手が悪いから直すとか、税務処理のここの部分はいらないんじゃないかとか、そういったことはよく見直していかないといけないなというのはおっしゃるとおりだと思います。

大きな部分については、2年なのか3年なのかちょっとわかりませんが、今の実態をまず見た上でそこを考えないといけないなと思います。

確かにホテルについては最近新規建設が相当増えていまして。2〜3年前には、「2020年には足りないんじゃないかな」と思っていたのですが、必ずしもそうではなくなりつつあるなというような需給の状況になってきているかなと思っています。

ただ一方で、訪日外国人が増えてきて長期滞在が増えています。バスがあったり、ランドリーがあったり、大人数でいっぺんに泊まれて、結果として割安になるという宿泊施設に安心して泊まりたいというニーズがあると思いますので、こういったニーズに的確に応えていくということは絶対に必要だから、都心部も含めて、一定の民泊というか、今のかたちは必要だと思っていますが。

これがどうしたら健全に発展していくのか? また、地方を含めてそのなかでどうしたら一番かたちになっていくのかというのを、現場の反応を見ながら考えていかないといけないなと思っています。

佐別当:ありがとうございます。

競争激化で生き残る旅館の条件

佐別当:先ほど、オリパラも含めて宿泊施設が足りなくなるというところもあって、民泊の新法を作ろうというような動きが最初の背景としてあったという話が鶴田さんからもありましたけれども、逆に今、鈴木課長からは、ホテル・旅館が今急激に増えてきていて、実はもう部屋数が十分足りてきているんじゃないかと。

しかも、民泊が今8,000軒というところで、これがたぶん1年、2年かけて2万、3万、下手したら5万、10万になっていくかもしれないという状況のなかで、逆に部屋が余るという状況になるんじゃないかなという予想もあると思います。

ちょっと鶴田さんにお聞きしたいのは、別府は今観光客も増えていて、まさにいろんな大型のホテルなども増えているし、民泊も、この前Airbnbと旅館業界で提携されましたよね。

鶴田:はいはい。

佐別当:そういう供給過多、競争が厳しくなるなかで、生き残る宿はどういうものなのかというのをちょっとご意見いただけないでしょうか?

鶴田:いま、鈴木課長のおっしゃられたとおり、この3年ぐらい、旅館・ホテルの設備投資の金額はものすごく伸びているんですよ。今年になって落ち着いてきています。ということはどういうことかと言うと、2020年ぐらいのオリンピックまではバンバンできるんですよ。

首都圏含めて、主要都市は満室単位で増えていきます。地方都市では、例えば別府はあと2年で10軒1,000ルーム増えます。函館はそれ以上伸びますね。だから、外客が増えるところに関しては、もう資本が食らいついているんですよ(笑)。

プラス、僕は別府ですけれども、地方の地場企業は資金調達が難しいので、なかなか資金調達ができないという状態があって。

ただし、ゲストハウスといわゆる簡易宿泊所というのが異常に増えていまして。民泊法が思ったよりも厳しく、180日規制ができてしまったもので、みんな簡易宿泊所に走ったんですよね。この2年で別府は簡易宿泊所だけで20軒以上できていますが、まださらに増えると思います。2年経ったら供給過多はもう完全に見えているというような状態です。

そのなかで実はないのが、いま中村さんがおっしゃっていた、地域にどう貢献して、地域をどう活性化し、地域が楽しくなるのか。簡単に言ったら、「楽しくなる宿を自分でやろう」と。「お金はそんなにたくさんいらない。自分のライフスタイルとして、家主居住型の宿泊施設でもやろうか」という。

奥さんだけでもいいですよ。人と交流するとか、地域と交流するとか、そういうものはまだまだまったくないんですよ。地域づくりの観点から言うと、コミュニティカフェというのがあって、けっこう公的支援も受けられたりして、カフェができるわけですね。地域の人のクロスポイントが。

ここから、地域の人がクロスしているなら、そこに外から来た人もクロスさせようという試みでゲストハウスを始める人たちもいらっしゃる。こういうものがこの2年で少し増えてほしいなと個人的には思っています。

ここの規制は少し緩和してほしいなぁと。消防法や建築基準法など、いろんな規制があるんですよ。実は本音でそういうふうに思っています。

佐別当:ありがとうございます。ちょっと時間があと数分というところになったので、最後のご挨拶に移りたいと思います。

ビジネス型の宿は減退傾向に

佐別当:一言になってしまうんですが、さっきの地域のための宿泊施設というのがこれから生き残るためのチャンスになるんじゃないか。中村さんは実践されていると思いますので、なにかそのヒントというか、今日来ていただいている方が持ち帰れるようなポイントがあればお話しいただければなと。

中村:そうですね、地域の人が喜ぶことを常に考えていれば、宿はうまくいくと思っているんですよね。

だから、今回の災害でもそうですが、住んでいる人のおじいちゃんおばあちゃんが喜ぶこと。若い人に住んでもらってなかったら、おじいちゃんおばあちゃんが逃げれないんですよ。だから、おじいちゃんおばあちゃんが喜ぶことで、10歳から15歳、次の世代が憧れる暮らしを作ったら、持続可能な町になるし、持続可能な宿になるんですよ。

いま怖いのは、完全にビジネス型のゲストハウスにして宿を作っても、やる人が一番損をするんですよね。だって、資本主義の社会は、1億かけて作っても、2年後に10億かけて作る人が出てくるわけだから。……もう出ているか。10億円で儲かるんだったら100億かけて作る人が出てくるんですよ。だから、ビジネス型の宿は確実に潰れます。10分の9潰れます。それにわざわざ投資しなくていいよという。

でも、家族の食卓の会話の質が上がる宿は、確実に持続可能になります。これはホステル、ペンションといったゲストのハウスの前の先輩、その前の先輩も残っているんですよ。だから、残る宿と残らない宿の差は地域の愛情が明確にあるかどうかです。というところをお伝えしておきます。

佐別当:ありがとうございます。それでは、それを受けて、最後に鈴木課長からひと言をお願いします。

鈴木:住宅宿泊事業法ができて、いろいろな議論もありますが、とりあえずは必要書類を集めて届け出をすると事業ができてしまうという意味で垣根が広く、ずいぶん昔の旅館業法の許可しかなかった時代に比べると参入の垣根は下がっている。そういう意味でいろんな方がこの業界、宿泊産業の業界に入ってくるということになるかと思います。

いま中村さんのおっしゃられたような、地域に対する愛情、お客さんに対する愛情というように、この宿泊事業に真剣に向き合っていただける方が勝ち残っていけるルールを作っていかないといけないなと思っています。

佐別当:ありがとうございます。時間が来てしまったので、本セッションは以上としたいと思います。

民泊新法の1つのポイントとして、住宅専用地域で民泊ができるというのが画期的だと思いますし、まさにおっしゃられた、食卓で価値が上がる、そういった住宅の宿が、競争にも勝ち残ると思うし、継続的に残り続けるような、またはリピーターが増えるような宿になっていくんじゃないかなとは思っています。

もちろん家主不在型を否定しているわけではなくて、簡易宿泊所だったり古民家を改装して地域でもてなすような不在型のビジネスモデルもあると思いますので、なにかシェアリングが、人の幸せだったり、または助け合いみたいなものを増すような仕組みになっていけばいいなと思っております。

今日は、お忙しいところ、みなさんありがとうございました。

(会場拍手)

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