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義足エンジニアという仕事(全4記事)

100以上ある筋肉の動きを義肢で再現 義足エンジニア・遠藤謙氏が経験した試行錯誤

2018年3月15日、「元村有希子のScience Cafe『義足エンジニアという仕事』」が開催され、競技用義足開発を目指すベンチャー「Xiborg(サイボーグ)」代表取締役の遠藤謙氏が登場しました。人間の身体能力の解析や下腿義足の開発の最前線に立ち続けてきた遠藤氏。自身が義足エンジニアとして歩み始めたきっかけなどを語りました。

インドに見る義足の状況

遠藤謙氏(以下、遠藤):これから、僕たちのチームが何をやっているかを紹介しながら、この大きなビジョンに向けてどういった具体的なアプローチをしているかを紹介したいと思っております。

僕、実はインドが大好きでよく行っていたんですが、初めてインドのクリニックに行ったときに3,000円ぐらいの義足が使われていたんです。

彼らは社会保障がないので、自費で義足を買うのだけど、なかなかいいものはない。タダで配っているJaipurfootという団体がありますが、安いだけあって、けっこうひどいもの……ひどいものというか、これはケガしちゃう、ちょっとでも安定性を失うと転んでしまうようなものでした。

これを、同じ価格帯で、もうちょっといいものを作りたいという話をしていました。僕は学生時代からずっとExo-kneeという、こういった見た目も足っぽくて価格帯が安く、なおかつ安定して歩けるようなものを作ろうというプロジェクトを、今でもやっているんですが、こういった歩行がスムーズになるものも作っています。

これは日本に帰国した直後にインドに行ったときの実験なんですが、こういったプロトタイプのパイロットスタディをずっと繰り返していますが、義足がどれだけ生活にインパクトを与えるものであるかを改めて勉強させていただいたのが、途上国でのモノづくりです。

歩くというのは移動ですよね。我々の、普通の当たり前の移動手段として、近距離の移動手段として、我々は普通に足があったり歩いたりするんですが、インドでは義足が配られるところが実は限られているんですよ。

都市部にはあるのだけど、例えば義足を持っていない人が地方にいたりしたら、都市部まで来て、義足をつけて帰らなきゃいけない。それはかなり大変なんですが、残念ながら義足の人はインド中に点在しているんですよ。だからそういった方々がなかなか義足を手に入れることができないということは、ずっと聞いていて。

ロボットで人間の動きを生み出す試行錯誤

遠藤:車椅子のように、もうちょっと手軽というかメンテのいらないようなものがあるからいいじゃないかと言われたりするんですが、車椅子も、舗装されていないところでの移動はかなり大変なんですよね。

そういったものも使えないので、結局松葉杖のようなものだったり、ケンケンみたいな動作、あとは地面をこう、手で這いながら移動する方々も、今だに実はいます。

そういった人たちが、都市部に来たときの話ですが、来たときにはなるべく安いものを、機能がいいものを配れるようなものを作りたいという思いでずっとやっているのがこのプロジェクトですね。

ですから、歩行ができなくなることは、実は日本や先進国よりも、インドではものすごくインパクトが大きいことをすごく勉強しました。

次はロボットの話ですが、人間は体の中に500以上の筋肉があるんです。それを脳みそが動かしているんですが、脳みそだけじゃなくて、反射などもありますよね、膝を押したらぴょんと跳ねるような。脳だけではなくて、不随意の運動もあるんですが、基本的には自分が意識的に動かす筋肉が500以上あるんです。骨格筋と呼ばれているもんですね。

そういったものを同時に動かす人間は、すごいんですよ。もう、そんなものを同時に動かすなんて、かなり大変じゃないですか。義足というのは、それを真似るんですが、足だけでも筋肉が100個ぐらいあったりするので、それを全部動かすのはかなり大変じゃないですか。

だから「義足は未来があっていいよね」と思う一方で、「人間はやっぱりすごいよね」ということもものすごく考えさせられます。

僕がやっているのは、歩行に特化したものです。歩行に用いられている主要な筋肉が、いつ、どこで、どういうタイミングで動いているかというものを……。筋肉は、動いている部分と、腱というバネの部分で構成されています。なおかつ、人間はものすごく効率がいい歩行をするんですね。

これを真似するだけじゃなくて、歩行の効率の良さ、長時間……我々は何時間でもがんばれば歩いていられる動物ですが、機械ではなかなか難しいんです。これを義足でやれるようにならなきゃいけないことも考えています。

競技会「サイバスロン」

遠藤:この競技会として「サイバスロン」が、2016年にスイスでありました。これはパラリンピックとは違って、日常生活に近いものを、障害物競走みたいな感じでクリアさせるんですね。これに我々は参加させていただきました。全部で6個の競技がありました。

左から、ブレーンマシンインターフェース、脳でアバターを動かす競技であったり、2番目が義足ですよね。3番目は電気刺激で、足が動かなくなった方の筋肉を無理やり刺激して自転車を漕がせるような競技。電動義手や電動車椅子、エグゾスケルトンなどの競技もあります。

パイロットは、いわゆる障害者しか参加できない競技になっています。なので、障害者とテクノロジーの競技会みたいなかたちです。

元村:遠藤さんはどの分野で?

遠藤:僕は義足です。左から2番目の分野です。

元村:左から2番目ですね。

遠藤:はい。中身は、我々が日常的にやっているようなこと。逆に言うと、義足で日常的にできないことって、かなり多いんです。

例えば、椅子に立ったり座ったりする。これは、片足が動かないと想定していただくと、要は足が片方動かなかったら、もう片方で立とうとしますよね。そういった行動をしていると、もちろん若いうちはできるんですが、歳をとって筋力が衰えていくと、立つことも億劫になったり。

あとは、義足ユーザーの半分以上が、腰や背中に痛みを抱えるようになると言われております。両足をバランスよく使うことが実は予後もよくすることが言われているので、なるべく義足を使うような行為が求められているんですね。

椅子から立ち上がるときも、なるべく義足で立ち上がれるように。そうすると、膝が能動的に動く必要があります。

もっと極端な例で言うと、階段を上り下りするときに、段があると、義足の方は、健足、義足じゃないほうの足で1段上がって、義足を同じ段に持ってくる。それを1段ずつ繰り返すんですよ。

これを例えば、人混みの中でやっていると、やっぱり目立ってしまうんですよね。そういったちょっとした「できない」の積み重ねが、圧倒的な障害者と健常者の差を生んでいると僕は思っています。僕たちにできることは、それをちょっとずつできるようにしていくというようなことを目指しながらやっています。

膝継のバリエーション

遠藤:これが日常的に使われている、本当に一般的な膝継という、膝の関節です。これだけを見てもわからないと思うんですが、この中にモーターが入っているものは1個もありません。

元村:えっ? 一番右のものとか、モーターが入っていそうですよね。

遠藤:これは入っていないんですよ。全部ダンパーで、しかもこれ競技用なので、走る用の膝継なんですね。バネも入っていません。

これは受動的なものなので、能動的に動くようなものをどんどん作ろうと思っているんですが、やっぱり高くなったり重くなったりするので、なかなか一般的にはなっていないというのが今の現状です。

元村:これはちなみに、買うとするとだいたいいくらぐらいするんですか?

遠藤:具体的にはちょっとわからないんですが、右から2番目のC-Leg。あれがたぶんいちばん高くて、数百万円します。

元村:数百万円。

遠藤:はい。この一番右のが、だいたい20~50万円ぐらいの間ですかね。そのC-Leg以外は。

元村:はい。

遠藤:C-Legはコンピューターが入っていて、ダンパーの粘性を変えられる……ちょっと難しいですね(笑)。

元村:わかりませんね。

(会場笑)

元村:バーンとならないようにすることですか?

遠藤:そうですね、必要なときにはグラグラになるんですが、何か転びそうになったときには硬くなったりするようなものをコンピューター制御でやるというような。ですから、ちょっと高いんですが。

元村:だから高いんですね。

遠藤:だから自分から動くことはできませんね。僕たちは、こういったなるべく動くものを安く作れないかということで、ずっとやっているのは、この膝の部分ですね。こういったサイバスロンという競技会に出る前に、ちょっとラボの中で実験した結果です。

アスリートが実際に試着

元村:この方は、アスリートなんですか?

遠藤:この方はそうです。眞野雄輝さんという、日本のやり投げの選手です。

元村:じゃあ、実際に試着していろいろ操作性を確かめているところですか?

遠藤:そうです。

元村:ちゃんと椅子からご自身で立ち上がっていますね。

遠藤:そうです。たぶん見た目は分かりづらいと思うんですが、立ち上がる瞬間をコンピューターが勝手に推測して、モーターがそれをサポートして、ということです。

元村:これもちゃんと、義足のほうで支えながら、健脚をあげたりもできていますね。

遠藤:階段がやっぱりいちばんこの中では難しいんですね。これ、義足を渡してから数時間後の映像なので、まだまだ不自然なところもあるんですが、交互に昇ることは、この映像からもいかに大変かということも、すごく(わかる)。

元村:降りるの怖いですよね、最初はね。

遠藤:怖いです。

元村:ある程度もう使いこなせているようにも見えます。

遠藤:そうなんですよ。この後も練習していって、ものすごく自然に行動できるようになっていって、まだみなさんたぶんこの中ではすごく不自然だと思われる方もいるかと思うんですが、義足の人からしてみればものすごくこれはすごいことだと。

2020年のサイバスロンに向けて

遠藤:これはたぶん、テクノロジー+ユーザーの使うスキルですかね、というのがすごく求められているのではないかと思います。結果的にこの競技会、我々も参加したんですが、惨敗したんですよ(笑)。

元村:えっ、そうなんですか?

遠藤:どうしてかというと、ほかの競技の人たちが使っている義足は、ほとんどが実はモーターが入っていないもので、もうすでに市販化されているものを普段から使っている人たちが参加しているので、実は階段や椅子も、無理やり義足を使わなくてもできるっちゃあできるじゃないですか。そのため、身体能力に任せて、これをクリアするという人が多かったんですね。

元村:使い慣れている人ということですか?

遠藤:一方で、我々のいちばん手前の眞野さんも、ハードルを落としていますよね。使ってから数日だったので、練習ができていないというか。

元村:そこはちょっとあれですか、ハンディだったわけですね?

遠藤:ハンディだったし、やっぱり義足のテクノロジーだけではなくて、人間の体の一部になることがどれだけ難しいかもやっぱりすごく思いましたね。歩行だって、我々はたぶん1歳になってやっとできるようになってきたじゃないですか。それまでに1年身体を成長させながら、動きを学んできたという過程があって、初めて歩くので。

元村:そうですね。

遠藤:なかなかやっぱり、テクノロジーがよくても、人間がよくても、その組み合わせがよくないとできないことをすごく学びました。

元村:大会はどこであったとおっしゃいましたか?

遠藤:スイスです。

元村:スイスですね。次はいつ出るんですか?

遠藤:我々は出るか出ないかまだ決めてないんですけど、次の大会は2020年にまたスイスであります。

最後に、スポーツ用義足。競技用のJの字になっている、カーボンの板バネ。たぶんテレビで見られた方もいらっしゃるのではないかと思うんですが、リオまでの予選通過タイムと優勝タイムを、オリンピックとパラリンピックでグラフにしてみたところ。

僕2020年までに追いつくと言った手前、かなり厳しいなという心境に立たされているんですが……。

(会場笑)

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