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佐渡島庸平×小泉寛明トークセッション(全2記事)

地域だけで資本主義を回すとどうなるか? コルク佐渡島庸平氏が語る、神戸というコミュニティの行き先

まちづくりの観点にとどまらず、今後あらゆるビジネスで「コミュニティ」の存在は重要なキーワードとなっています。そこで「地方におけるコミュニティの作り方、育て方〜クリエーターの『居場所』はどうつくっていくべきか〜」をテーマとした「Creators Reunion KOBE」が1月24日に開催されました。本パートでは、株式会社コルク・佐渡島庸平氏とLusie小泉寛明氏が神戸市の課題などを語りました。

流通を阻害する仕組みが残っている

山阪佳彦氏(以下、山阪):いろんな食材の地産地消などが非常に進んでいますので、(神戸市には)非常にポテンシャルがあるようには思うんですけどね。なかなか料理人がやってきて店を開くみたいなことが、今のところはあんまりないですもんね。

小泉寛明氏(以下、小泉):ないことはないんですけどね、非常に小じんまりとはしてますね。食の産業は本来、受け身の産業なので、本当に客を世界から引っ張ってこれる食の店は、かなり実力が高くないとできないと思うんですね。

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):でも、「ノーマ(noma)」などのお店は本当に不便な場所にあるじゃないですか。でも、食の難しさは、例えば農家が思いっきり変わった食材を作ってレストランに卸せるようにと思っても、現在だと流通の難しさがありますよね。

だから農家や畜産農家など、そういうところとレストランのシェフたちのマッチングがまともに起きてなくて、それを阻害する仕組みがまだ残っている。そこを全部取っ払っていかないと、料理人もわざわざ……という感じになりづらい気はしますよね。

小泉:実際、食の世界や技術の世界でもあるんですけど、突き詰めていけば材料の世界に入ってきています。どこでも一緒だと思います。やっぱりどれだけいい材料を仕入れられるかが、いいビジネスにつながると思うんです。

そういう意味で神戸のアドバンテージは、農業をやりながら店をやっているというシェフもいますし、そういう人たちがマーケットを作っていってもらえたらいいとは思ってるんですけどね。

クリエイターが喜びそうなことがどれだけできるか

佐渡島:農家の作っているものを可視化して、変わったものが作れるようにしてもおもしろいですよね。

小泉:そうですね。ほとんどの売れっ子の農家さんは、そういうかたちで今やり始めてますね。

佐渡島:そうですよね。例えば今でも卵をオリジナリティあふれるかたちで楽天で売っていたりしますけど。そこをどこまでが行政が手伝うのかの問題だと思いますけどね。

山阪:行政が規制を緩和することや、何か特区みたいなものを利用して「神戸ならではのことができますよ」という、クリエイターが喜びそうなことをどれだけやってあげられるか、さきほどの佐渡島さんの話を聞いていて思いました。

「ほかの都市ではこれできないけど、神戸だったらできるよね」とか。そういうことが売りになっていくというか、話題になるんじゃないかとは思ったりしますけどもね。

小泉:いや、圧倒的に行政さんにやっていただきたいのは規制緩和ですね。すごく小さな話で、FARMERS MARKETで牛乳が出せなかったんですよ。要はカフェラテが出せなかったんですけど。

山阪:それはなんでなんですか?

小泉:それはやっぱり昭和20年や30年頃の古い保健所内のルールがあって、牛乳はダメというルールだったんですね。それが先日、牛乳OKにこの前なりまして、そういうことからずつ変わっていくんじゃないかなと思っています。

なので、なんか1人でわーって言うよりも、やっぱり何人かで信頼関係を作りながら、ずつ変わっていくプロセスのなかで、たぶんドライブがわーっとどこかで来るんだなと。

「若者に選ばれるまち」への活動

山阪:そういう意味で、外から突然やってきたクリエイターが何かやろうとしても動かないものが、地域の地元のコミュニティをうまく活用したり、その中に一緒に入って自分のやりたいことを実現していく方法論は確かにありますよね。

佐渡島:そうですね。ただ、地元のコミュニティがもうできていて、そこといきなりコラボできるんだったら話が早いんですけど。できてないじゃないですか。

山阪:なるほどね。

佐渡島:そこが難しいですよね。だからいいコミュニティを作っても、作ったつもりになっても、既得権益側からそのコミュニティへの排除の運動とかが起きちゃう可能性が、ぜんぜんあるじゃないですか。そこの安心感が担保されていないと、怖くて作りにいけないんですよね。

小泉:比較的、神戸市さんは、最近そのへん積極的になってきてます。きてると感じています。昔の神戸市というのは、かなり保守的な行政だったと思います。

あまり我々との接着点もなかったですし、こんなイベントにまさか私を呼んでいただけるなんて思わなかったんですけど、そういうことにかなり目を向けていらっしゃる。

実は「神戸2020ビジョン」に、いろいろ賛否両論はあるんですけど、「若者に選ばれるまち」というのが一応テーマなんですね。

なので、それはある意味、既得権益側の人たちも大事だけれども、若者の考えをサポートしていく意思表示なわけで、新しい次世代を担う人たちの意見を聞いていくことだと思いますね。

山阪:それはやっぱり、いろんな活動をされてて実感されているという?

小泉:FARMERS MARKETなどは、まさしく実感はしますね。そんなことをOKしてくれるとはまさか思わなかったのですが、それがトントン拍子でポンポンポンといきましたから。やっぱり自分で押しにいかないといけないですよね。

押しにいったらゴロゴロっと転がるポイントが実は神戸は宝のようにある。僕はそう感じています。転がり出したらブワーッと転がるポイントは、けっこうあると思ってます。

山阪:なるほど。

教育に特色があると人が移ってくる

佐渡島:前に(島根県の隠岐の島にある)海士町に行ってきたんですよ。それで海士町がおもしろいなと思ったのが、海士町も何もないんですよね。それが、教育がいいというだけでこんな話題になっているのかと。

教育を変えるというのはすごいい、その街に住みたいとか未来があるという空気は醸し出しやすくて。それで、けっこう私立(の学校)は神戸周りって大阪や京都よりもよかったりするんですけど、そこをうまく打ち出していくのも重要かなと思いますよね。

小泉:学校があってもいいかもしれないですね。

佐渡島:そうですよね。

小泉:1つ珍しい事例でいうと、我々が住んでるところの(神戸市立)こうべ小学校は、今もうパンパンになってしまって、逆に生徒が増えすぎて問題が起きてるんです。1割ぐらい、どちらかの親が外国人なんですね。

佐渡島:へえ、すごい。変わってますね。

小泉:インターナショナルスクールに行かなくても、日頃から外国人と触れ合える小学校みたいなものもあったりします。六甲山小学校という山の上の小学校で、越境できるんですね。違う校区から行けるんです。

わざわざ山の上に子どもを行かせる親たちもいて、カリキュラムが(普通の学校と)違って、冬は薪ストーブで火入れ式をやるような山の学校もあります。そういう特徴的な小学校があって、そこはぜひ伸ばせるといいと思ってるんです。

山阪:学校の中でもそうやって特色があるところは目立ってくるのと同じで、さきほど佐渡島さんがおっしゃってたように、何か街の売りというか、何か1つ作ってあげないとダメだということですよね。

佐渡島:先ほどの牛乳のことも、1個1個変えないといけないじゃないですか。なので、教育も教育委員会があって1個1個変えないといけないじゃないですか。だけど今、もう1個1個変えている時代じゃないというか、全部変えることにして「どうするのか?」みたいな話だと思うんですよね。

教師は心のケアを重視すべき?

佐渡島:今ちょうど、明日から『ドラゴン桜2』が始まるから、教育についてかなり調べ直してるんですよ。調べ直していてすごくおもしろいのが、教育学部で教えられる授業というか、先生が学ぶ知識のほとんどが「どうやって教えるか」なんですよ。生徒の心のケアは、5パーセントぐらいしか学ばないんですね。

そうなんですけど、今ネット上にすべての知識が落ちていて、YouTubeでおもしろい動画で知識を見たほうがよくて。(知識に関しては)どれを見ればいいかというプランニングを一緒にやるかたちにして、その生徒の心のケアを95パーセント(の時間を費やす)。5パーセントぐらいだけを先生が教えるぐらいの教育システムにしてやったほうがぜんぜんよい。

そういうふうにネット上の動画を使って全部教えるふうに変えたカリキュラムのほうが、生徒が圧倒的に伸びてるんですよ。

そういうことが起きてて、もう価値観が180度逆になっていることなどに、今のいろいろな仕組みがぜんぜん対応できてないじゃないですか。そういうところを持っていくんじゃなくて、トップダウンで無理やり変えるのがとても必要です。そのためには、政治家の顔が見えてないと、もう絶対できないんじゃないかなとは思うんですよね。

小泉:そういう意味では(神戸では行政との)距離は近くなりつつある感じはしますね。大きな都市に比べると、神戸は150万都市ですけど、神戸市中央区はだいたい10万人ぐらいしかいない。ある意味、すごい中心の都市部は10万人規模なので、そこは「おっ」「こんにちは」みたいな感じのコミュニティの小ささはあります。

さきほどの教育の話でいうと、おっしゃるとおりで、教育の特色があると人が移ってくるというのは圧倒的(にそうです)。神戸の場合、おそらく教育を押しにするのはかなり重要です。「家族が住む街」ということなんですよ。教育がいいと確実に移ってくると思いますね。

その中でもやっぱり自然や農業、給食がオーガニックなど、そういう特色のある教育が展開されるかはかなり重要だと思いますね。

人との密着感が、ちょうどいい街

山阪:ありがとうございます。けっこうお話が盛り上がってきてるんですけど、時間がそろそろですよね。

僕、会場の質問で1つ気になってるものがあります。今回、神戸のお話だけじゃなくて、基本クリエイターが地方に行って活躍する話のなかで、「なぜ神戸でならないといけないのか?」をお聞かせ願いたいです。神戸の魅力や意見もいただいていたので、そういうことかなと思ったんですけど。

クリエイターがいろいろ活躍しているような地方の都市も今いっぱいありますし、わりと東京から出ていらっしゃる方はいるんですけれども、「神戸でないといけない」という点を、実際に活躍している小泉さんに最後にお聞きしたいです。

今、神戸でやっていらっしゃって、神戸でないといけない点はどこなのかをお話しいただきたいです。

佐渡島さんには、神戸でないといけないもの、何があれば神戸でないといけないと思えるかというところを、ご提言いただければと思います。小泉さんからお願いします。

小泉:神戸でないといけないかという……。

山阪:別にほかの都市もありますよね。

小泉:「なんで神戸にいるのか?」みたいなことですよね。

山阪:そうですね。

小泉:それは、どこでもいいんですけど、正直なところ。

山阪:(笑)。

小泉:やっぱり友達がいるから、人がいるからという感じですよね。

山阪:さきほどの「人が人を呼ぶ」ということですね。

小泉:そうです。それも定住とは限らなくて、今はだいたい10年ぐらいになって、この後またどこかに行くかもしれませんけど。やっぱり今「定住」って書いてあるのは、それなりにある意味、定住感があって「当面ここにいようかな」というところがあるんです。

それはやっぱり人が、周りにいる人たちがいい人ですてきだし、そこに接着感というか、スポっとハマった感じがするんですよね。

もちろん、豊かな大自然、風が気持ちいい、六甲おろし(注:兵庫県の六甲山系より吹き降ろす風)が気持ちいいことなどはあるんですけれども、人との密着感がちょうどいいのかなと思いますね。

山阪:ありがとうございます。

地方で「資本主義」を実行する

山阪:佐渡島さんはどうですか?

佐渡島:神戸で難しいですよね。僕は実家が神戸だからとか、そういうところしかなくて、関係ない人が行く気がしないんですよね。

今、僕は株式会社カヤックの社外取締役もやってるんですけど、「鎌倉資本主義」という考え方で、鎌倉の中でぐるぐる資本が回るようにみんなで協力し合うことを、カヤックが中心になってやっているんですよね。

僕すごい魅力的だなと思って、「コルクも鎌倉に移ったりとか、僕の家も鎌倉に移ってもいいかも」とは思わされるんですよ。僕が思ってるだけですけど(笑)。

佐渡島:そこの中心となる企業が1社あって、それが推進して、そこがいろんな仕事、いろんなタイプのものをしていく。カヤックだと、自分たちの幼稚園や社食やバーなどを地域のいろんな企業に頼んだりするようにしていて、回るようになっています。

山阪:そういう意味では、それもコミュニティというか、人のつながりですよね。

佐渡島:そうです。シアトルにはAmazonやMicrosoftもあったりとかします。そういうことを考えると、神戸にはプログラマーが少ない気がしますね。

だから神戸に行ったらIT系の会社としてはやっていくのが難しい気がするので、選択肢に上がりにくいのではないかと思うんですよ。

山阪:なるほどね。

佐渡島:だから関西にある大学のプログラマーばっかり集めてイベントやってみて、「神戸で起業して」って言いまくるみたいな。プログラマーは全員フリーで食えますしね。そういう感じで思いました。

山阪:なるほど。ありがとうございます。まずは、人を、どういうふうにつなげていくかみたいなことですね。コミュニティになる・ならないは結果論ですから。

佐渡島:そうですね。

山阪:人がつながっていく環境を神戸でつくれそうだとお2人の話を聞いて思ったんですけれど、会場に来ていただいた方も今日神戸とつながったんじゃないかと思いますし、神戸に興味を持たれたクリエイターのみなさんは、小泉さんに相談されると効果的かもしれません。オフィスもいいところがあるかもしれませんし、ぜひよろしくお願いします。

神戸市は今後もいろんな創造産業の集積に向けていろんな活動をしていきますので、ぜひまたニュースのアンテナなどを張っていただいて、キャッチしていただければと思います。

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