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政治経済部門賞 受賞者インタビュー(全1記事)

日本では出生政策はタブーだった 『未来の年表』の河合氏が語る、少子化を止められなかった理由

2018年3月16日、第3回目となる「読者が選ぶビジネス書グランプリ2018 」が開催されました。受賞作の著者や担当編集者が登壇し、授賞式やトークセッションが行われました。本パートでは、政治経済部門賞の『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』の著者である河合雅司がインタビューに答えます。「少子化は止められない」という前提で、今を生きる私たちが何をすべきかを語りました。

44万部を売り上げたビジネス書「未来の年表」

苅田明史氏(以下、苅田):今回、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」のビジネス書や政治経済部門における受賞インタビューということで。先ほど、44万部という部数の話もありましたが、そのぐらい多くの方が、政治経済部門でこの本が一番良かったと高評されたということです。そのことについてのご感想をいただければと思います。

未来の年表 人口減少日本でこれから起きること

河合雅司氏(以下、河合):いろんな評価をいただいているわけですが、やはり読者の方が選んでくれた賞は、著者にとっては一番うれしい賞ですね。批判はあるでしょうし、賛辞してくれる方もいるでしょうし。

でも、どちらにしてもなんらかのリアクションがあるというのが、我々が次にまた書こうというときのエネルギーとなっていきますから。そういう意味では、本当に選んでくれたことは、ものすごく光栄なことだと思っております。

苅田:ありがとうございます。まずはこの本の執筆努力について伺いたいと思います。この本の前段部分で、中学生の方から「大人は何かを隠しているのではないか」というお話がありました。そこを詳しく教えていただけますでしょうか。

河合:そうですね。私はこの問題をずっと追いかけてきたジャーナリストなのですが、みなさんが話題にすることは少ない問題です。少子高齢化問題については誰もが知っていますが、その日に何か大きな変化があるという話でもないので、なかなか自分の問題として真摯に受け止められない問題でもあります。

そんな中で、たまたま先ほどご紹介いただいたように、私が中高生の集まりに呼ばれたことがありまして、そのときに少子化の問題の大変さについてお話したのですが、まさにこの会場にいらっしゃるみなさんのように、ほとんどの方がこの問題に対してすごく真剣な眼差しになりました。

そのうち、一人の中学生が突然手を挙げて。ご紹介いただいたように、「大人は何かを隠している」という話をされたことがありましたので、やはりこの問題をきちんと伝えていかなければいけないと、すごく思いました。

さらに、たまたまこの数年の間に、人口に関する大きな変化があったのですね。出生数が100万人を割ったとか、国勢調査で人口の減少が初めて確認されたとか。ちょうどそうしたタイミングもあったので、一冊の本にしてみようということになりました。

少子化について語るタブーとは

苅田:本を拝読する中で「少子化について語るタブーが薄れてきた」と書かれていましたが、どういったタブーがあったのですか?

河合:戦前の日本は「産めよ殖やせよ」という、軍部が兵隊の数を増やさなければいけないがための政策をやった。そのアレルギーが、戦後の日本人にはずっと続いているわけです。

だから、政策は台所までで、ベッドルームにまで入ってはいけないのだと、よく言います。政治、行政が結婚や出産に対して政策を考えること自体がけしからんことなのだという、そうした文化が戦後引き継がれてきました。そうした中で、少子高齢化が深刻な問題になりながら、日本においては政府内でも、また民間においても、真正面から議論さえできない状況が続いてきた。

その結果として、戦後ずっと少子化が続くことになっているのですね。残念ながら日本の少子化は止まりません。これから、ここにいらっしゃるみなさんが生きている間、ずっと少子化の時代を、人口が減っていく時代を生きていかなければならないのです。

なぜかというと、過去の少子化によって子どもを産める女性の数が減ってしまっているからです。いまさら、20歳の人を増やすわけにはいかない。30歳の人を増やすわけにはいかないわけで、これから本当に劇的に子どもの数が減る時期に入ってくるわけです。

だが、相変わらず我々は、ぼやーっと少子化が大変だと思っています。まだ政治家は「少子化を止めます!」「人口減少を止めます!」と言っているのです。これでは間に合わない。人口が減ることは、もうしょうがないのです。そうした社会を作ってきてしまったのだから。

我々は子どもが減ること、人口が減っていくことを前提として、どうやってこの豊かさを維持していくのかに知恵を回していかないと、この国は本当に貧しくなっていきます。

今までのやり方は通用しないのだという危機感を、一人でも共有してもらって。人が減っていくことに対して自分たちが何をすれば豊かさが維持できるのか、この国が素晴らしい国、一流の国で有り続けられるようにできるのかということを考えていかなければなりません。

これから少しでも価値観を変えていかなければいけない。今はそうしたタイミングでもあると思うのです。私としては、拙著『未来の年表』が、そうしたことの一助に何とかならないかという想いですね。

年表スタイル制作の苦労

苅田:この本を読まれた方はご存知だと思いますが、この本は第一部、第二部構成になっています。第一部では、まさに年表でこれから25年先の劇的な変化を迎えるにあたって、それまでも日本においては、どんどんどんどんこういった現象が起きていきますよということをかなり明確に示しています。

私個人としては、なんとなく過去は後ろ向きのもの、未来は明るいものというイメージだったのが、この本によってかなりガラッと変わってしまうところがあるのではないかと思います。

先ほど、この賞を受賞されて、読者の方から何かしらの反応があれば、それが次のモチベーションになるということでしたが、実際に読者の方からどういった反応がありましたか? 良いものも悪いものも含めて、ご紹介いただいてもよろしいでしょうか。

河合:年表スタイルのアイデアを出してくれたのは、講談社の青木さんという敏腕編集長でして。私に年表方式で書けないか、ということをご提案いただきました。とはいえ、いざこれを書くのは大変ですよ(笑)。いろんな分野のことを知らなくてはいけませんから。たぶん、年表の一個一個が一冊の本になるようなテーマです。

そんなわけで執筆は大変だったのですが、やはり俯瞰的に人口減少、少子高齢化の実態を見ようとするにはこの方法が一番いいということです。この会場にも来ていただいていますが、私の著作の担当をしてくれた米沢さんという若き編集者の方と共に、本当に汗をかきながら書いた本なのです。

やはり(読者の)評価というのはすごく面白いですね。拙著は2部構成になっているのですが、この本を通じて初めて人口問題について一生懸命に読んで下さった人たちは、第一部の年表のところにすごく反響があって、「なんと身も蓋もないような未来を書くのだ」、「暗いことだけを書いている本だ」という、そうした評価が多かったですね。第二部にはその対策を書いているのですが、むしろその対策の内容については「しょぼいことが書いてある」といった、そうした評価なのです。

でも、人口問題のことを勉強してきた人や、政治家、官僚といった人たちはみんな第二部への評価が高いのです。「いや、ずっと自分たちが言いたかったけれど、なかなかタブーがあって言えなかったことを、河合さんが代わりにすべて言ってくれた」と。これは本当にポジティブな本になるという評価なのです。

確かに私は、第一部で少子高齢化とはどういう問題なのかということを年表方式にすることによって知ってもらいたかった。そして、それをどう解決するのかを読者の一人ひとりに考えてもらいたくて第二部で書いたわけです。人によってどこが刺さるのか、何に興味を持って読んでいただいたのか、評価が随分ばらけた感じです。私のところにもいろんな読後の感想をいただいたのですが、そうした意味ではすごくおもしろいですね。

発想を変えない限り日本は崩壊の一途をたどる

苅田:第二部は、例えば社会保障について。今までは、ただ渡すだけだったものが、亡くなった場合にはそれを国に返す。または、東京と鳥取を統合するなど、かなり政治的にも腕力が試されるような施策がたくさん書かれていたと思います。もしかしたらネガティブな反応をされる方は、今の政治家にはこんなことは無理でしょう、と思われているのかもしれませんね。

河合:そうですね。私はいろんなことを書いているわけですが、先ほど申し上げたように、もうこれまでの常識は通用しません。

今まで戦後70年間、先輩たちも含めて本当に立派な……焼け野原からすごい国にしてきました。大量生産、大量販売だとか、東京に一極集中させるとか、すごく効率的な社会を作ってきたわけですが、子どもがいない、若い人がいない、逆に国民の半分が高齢者になる社会が来たならば、そうした過去の成功の方程式はもうできません。やりたくても続けられない。

職業によって、職種によって、会社によって、過去の成功の方程式が、まだ暫くはできる時期があるかもしれません。すぐダメになるものもあれば、5年くらいはなんとかなる、10年くらいはなんとかなるという、そうした差はあるのですが、いずれ、すべてがうまくいかなくなるだろうと思います。今までのやり方ではうまくいかなくなるのです。

そうした意味では、とにかく発想を変えて下さいということを第二部で私は書いているわけです。簡単にはできないことも書いています。でも、それぐらい大胆に発想を変えていかないと、この国は貧しくなっていくということです。

突然この国がなくなるなどということは、もちろんありませんが、徐々に徐々に崩壊していってしまう。そうした流れになっていくので、もう今までとは違うやり方を考える中で、こんなやり方も、あんなやり方もある、これぐらい発想を変えてみろよ、ということを書いたわけです。我々はそれぞれの立場で考えていかなければならないと思うのです。

苅田:先ほど、政策はベッドに入れないタブーがある、とおっしゃっていましたが、海外だとそういった政策をされているようなところはあるのですか?

河合:例えば、出生数を回復させたフランスは、独仏戦争でドイツに負けた1800年代からずっと、少子化対策ということで、人口をどうやって増やしていくのかをタブーなしに議論するわけです。ですから、国によって随分そのイメージは違っています。日本はそういう意味で出生政策に関してはかなり特殊な国です。

不都合な現実に立ち向かうために

苅田:実はこの政治経済部門は、昨年は『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』という本が受賞しました。今回は『未来の年表』、どちらも今後の自分の人生を思い浮かべるような本が2年連続で受賞しています。今日は、会場にお集まりの皆さんも含めて、この本を読んだ読者がより自分事としてこの本を捉えるためのヒントがあれば、ぜひ教えていただきたいのですが。

河合:そうですね。この『未来の年表』というものは、もう変えられない未来もあります。先ほどの若い年齢の女性が減っていくことは変えられない未来なわけです。高齢者が増えていくことも変えられない未来です。けれども、先ほどから私が言っているように、一人ひとりの価値観を変換していくことにより、まさに価値観の変化を集合させていくことで「変えられる未来」もあるとも思っているわけです。

ですから、受験勉強と一緒で不都合な状況、これから何が起こるのかということについて、まずは目を背けずに見る。この『未来の年表』で見ることです。それぞれの年表があると思います。ここに書ききれていない「未来の年表」があると思いますから、自分の周りで起こるであろうことを、もっと想像力を豊かに考えてみる。

その上で、受験勉強と一緒で、一生懸命に戦略を立てて勉強していけば立派な大学も受かるのと同じように、今から備えていくことです。今からでも備えていけば。かなり遅れて間に合わない部分があるとは言いながらも、やらないよりはやれば変わっていくということですから、いつからでもスタートできるはずです。

そうした意味では、本当に自分たちの中で、何を残して、何を変えて、どう変わるかということを考えて行くことです。どのように対応していくのかを、もっともっと真剣に考えていく。

そうしたことをが、一人ひとりにできることでもあるし、それをやらなければこの国は、本当に何度も言っているようにすごく衰退していってしまうでしょう。そうしたスパイラルに入り始めているところなので、みんなで「もうこれ以上、マイナスのスパイラルには入っていかないぞ」と決意することだと思います。

苅田:せっかく年表形式で作っていただいた本なので、私も自分自身の、例えば親の介護などもこれぐらいの年から始まるのだろう、といったことを照らし合わせながら読んでみたいと思います。今日はありがとうございました。

河合:ありがとうございました。

(会場拍手)

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