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「日本のフェイクニュース:日本のメディアを事実に照らして」 記者会見(全3記事)

「ファクトチェックに立場は関係ない」 ジャーナリストが事実確認の重要性を訴える

2018年2月8日、外国人特派員協会にて、「日本のフェイクニュース:日本のメディアを事実に照らして」というテーマで記者会見が行われました。会見には、ファクトチェック・イニシアティブに参加する記者やジャーリストが登場。フェイクニュースの現状と課題について語りました。

世界各国のファクトチェック事情

楊井人文氏(以下、楊井):楊井です。先ほど金井さんのお話のなかで、日本はファクトチェックが遅れてるという説明がありました。それについてもう少し具体的にお示ししたいのが、これはデューク大学のファクトチェックのデータベースサイトです。

このデータベースを見ていただければ、アメリカは非常に全土に各地に、ファクトチェック団体が登録されていることがわかります。

そして、意外に南米でも、アルゼンチンやブラジルなどに、複数のファクトチェック団体、非常に活発な団体がいくつもあります。

そしてヨーロッパにはすでにかなり広がっていることが見て取れます。

そしてアジア、アジアは少ないんですけども、インドや各地にありまして、韓国にはわりとたくさんのファクトチェック団体があります。

そして日本には、実は私が5年前から運営してきた、「GoHoo」というファクトチェックのサイトが唯一です。

媒体に関係なくファクトチェックが必要

楊井:これはご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、これは主にメディアの間違った報道を検証してきたWebサイトです。

総選挙、先ほど立岩さんのお話にあった総選挙のファクトチェックでも、「GoHoo」のサイトでは合計6つのファクトチェック記事を発表しました。

そのなかには、私は元産経新聞と先ほど紹介されましたけども、当然、産経であろうが朝日であろうが、どこの新聞かは関係なくファクトチェックをしております。この1例として、総選挙のなかで産経新聞が、政党の要件というものについて誤報を出しましたので、この「GoHoo」というサイトで指摘をしました。そして、産経新聞が訂正記事を出したという事例があります。

先ほど、メディアにも当然誤りがあると言いましたけれども、メディアだけではなくて、もちろん政治家の発言、あるいはネット上の発言。いろんなものが、インターネットを通じて簡単に、間違った情報が広がりやすくなっている。そういう時代に入っています。

私はこのFIJを立ち上げたのは、ファクトチェックというものをもっと、いろんな人に参加してもらうためのプラットフォームをつくりたい、と思ったからです。その概要については、お手元に配った資料にFIJのプロジェクトの内容、そして、メンバー、そして、これまでの主な活動内容を簡単にまとめているので、ご覧いただければと思います。

ファクトチェックを広めるための2つの取り組み

楊井:そのなかで、今日は2つだけご紹介したい情報があります。1つは、その資料の一番最後のページを見ていただきたいんですが、じゃあ、FIJって何をするのかっていうことです。1つは、ファクトチェックする人をファクトチェッカーと呼びますが、ファクトチェッカーに対して、さまざまな情報の支援をするというのが1つの取り組みです。

もう1つ、このFIJの取り組みとしては、真偽が不明な情報を自動的に見つけ出す。そういうシステムを今、東北大学とスマートニュースを中心に開発を進めております。そうした真偽が定かでない情報、言説のファクトチェックをする、できるメディアやジャーナリストと共有する、そういう仕組みをつくっています。

それが今画面に映している、FIJのClaimMonitorという、これは現在開発しているものです。

例えば、毎日のようにたくさん情報は入ってるんですが、「秋篠宮殿下が小室家に大きなお怒り」というタイトルのネット記事ではありますが、そういった記事が出ておりました。

こういう記事が出てるわけですけれども、記事を読んでみるとまったく根拠が定かでない、お怒りを示しているという具体的なファクトは、例えば「どういう発言があった」とか、そういうことはなにもないわけですね。見出しだけ「大きなお怒り」という、それが見出しだけ踊っているような、そういう記事でした。

影響力のある人物の発言も対象になる

楊井:そういった情報があるわけですけども、ネットの言説だけではなく、政治家や有識者など、影響力のある人の発言も、ファクトチェックの対象になります。

例えば、これは著名な田原総一朗さんの発言です。これもニュースで報道されました。河野太郎外務大臣が先日のトランプ政権の核戦略指針に賛成をしたんですね。それに対して田原さんが「対米追従で恥さらしだ」と、そういうふうにコメントしたことが報道されました。

田原さんの発言のなかで、「安倍さんは時の米国大統領になんでも賛成する」と言ってるんですね。こういう発言は非常に影響力を持って、あっという間に広がります。「安倍さんはなんでも常に時の米国大統領に賛成してるんだな」と一般の人は思うわけです。そして、いろんな人がそれをまた別の機会に言いだすわけです。

しかしながら、みなさんもここにいらっしゃる方ならご存知のように、ついこのあいだ、トランプ大統領が決めたエルサレムを首都に認定する、大使館を移動する。そのトランプ大統領の方針に対して、これを国連総会で撤回せよという、そういう決議案を日本も賛成しました。つまり、アメリカの方針に真っ向から反対する、国連での行動を取ったわけです。

他にもいろんな事例は挙げられると思います。ロシアのプーチン大統領に、オバマ政権が反対しているのにもかかわらず、何度も何度も会談するとかですね、いろいろ事例はあるわけですけれども、こういった「時の米大統領になんでも賛成する」と有名な人が言って、そしてそれを記事にしてそのまま報道されると、それがあたかも事実であるかのように社会に広がってしまうわけです。

ファクトチェックは立場は関係ない

楊井:このようにファクトチェックというのは、立場は関係ありません。事実かどうか。それが本当に社会に広がっている言説が、あるいは、ニュースでもよければ、誰かの発言でもけっこうですが、そういったもの、社会に影響を与えてる言説が事実かどうかを、きちんと証拠に基づいて調べなおす、チェックしなおす。それがファクトチェックの本質です。

こういったファクトチェックの地味な営みというものを、なかなか日本では理解されておりませんで、フェイクニュースという言葉を使う人はたくさんいるんですけれども、そういう人たちにかぎってファクトチェックをやろうとしません。

例えば、先ほどの産経新聞の沖縄をめぐる誤報がありました。これは大変ネット上でも批判されました。当然と言えば当然だと思います。実はこの時も、産経新聞の報道も間違いであり、当然許されることではない部分はありますけれども、それに対する批判も、事実に基づかない批判が横行していたんです。

それはどういうことかというと、「米軍にも取材もなにもせずにデタラメを書いた」と、インターネット上でかなり多くの著名な人が発信していました。産経はなにも取材せずに報道したと、まさに捏造ですよね。

実際はどうだったかというと、産経新聞はアメリカの海兵隊に取材をしていた。アメリカの海兵隊も、当初は「日本人を救助した」と、「重体になった米兵が日本人を救助した」というツイートを流していた。しかも、アメリカのメディアも、それを受けて報道していたんですね。CBSやNBCといった大手メディアも「日本人を救助した」っていう報道をしていた。そういう事実があるわけです。

繰り返しますが、産経新聞が十分な取材をせずに、不確実な情報のまま、しかも沖縄の新聞を、何と言ったかな、非常にその、日本の恥だというか、そういう感じの強い批判を、沖縄の新聞に向けた。そのこと自体は、強く非難に値することです。

一方で、根拠に基づかずに産経新聞を、「まったくなにも取材せずに報道した」と、こういうふうに批判することも、これもまた問題があると思います。私が危惧を覚えるのは、事実に基づかない発言なり行動で、このように異なる立場同士がどんどん分断を広げていく、それが今、いわゆるフェイクニュース問題の一番根本的な問題ではないかと思います。

ファクトチェックのシンポジウムが開催

楊井:このファクトチェック・イニシアティブでは、非常に難しいんですが、きちんと事実に基づいて議論できる社会を目指して、地道にファクトチェックをするという取り組みを、みんながそういうことができるような仕組みづくりを、プラットフォームをつくっていきたいと思っています。

FIJでは4月21日と22日に、ファクトチェックの初めての大々的なシンポジウムを開催することが決まりました。お手元の資料の最後に予定を書いております。これは無料のイベントですので、ご関心のある方はご参加いただければと思います。

そして、ファクトチェックの将来、これからどういうふうにして、そういった事実に基づいた議論をする社会を築いていくのか、そういうことについて多方面から議論ができればと思います。ありがとうございました。

ファクトチェックをしないと、ジャーナリズムもダメになる

記者1:葵総研のコバヤシと申します。私もかつて産経新聞も加盟されていた某通信社の記者をしておりまして、今は研究所のほうに行ってますが。実はファクトとは何かというのは、自動的にチェックできるほど生易しいものではないということは、30年の記者生活のなかでしみじみ感じておるものでございます。

例えば、四人組(注:中華人民共和国の文化大革命を主導した江青、張春橋、姚文元、王洪文の四名のこと)が捕まったというニュースが北京で流れた時に、デイリー・テレグラフの記者が報じたわけですね。その時、私はいわゆる外信部におりましたが、同じような話は何度も出てくるんですよ。「またガセか」というようなことで、ふるいに振るっていたんですが、デイリー・テレグラフは大当たりだったんですね。それで各社、世界中の各社が追っかけたわけです。

同じようなことが、実にたくさんあるわけです。我々、まあ私はもうジャーナリストではありませんが、例えばアンドロポフが死んだとか、そういうニュースが特ダネで出る時っていうのは……。

(司会者に質問をうながされて)だから、1つ結論から言うと、ファクトチェックというのはそんな生易しいもんじゃないんじゃござんせんか? というのが、元記者の私の言い分です。30年かけてやったけれども、本当に難しい。例で出されたように非常に単純で子供でもわかるようなものもあります。

しかし、現実に……。(もう一度、早く質問するようにうながされて)いや、まあ、だから、本当に、どうやってチェックするのかっていうことですよね。はい。

立岩:どうもありがとうございます。つまり、ファクトチェックをどういうものをするか、というのも大事なんですよね。例えば、本当に政府のなかに入り込んだ情報を取らないと確認できないものは、最初からファクトチェックの対象ではありません。例えば、さっき私が挙げたような事例、安倍総理が発言した内容、これは誰でもできるんです。

もう1つ言いますと、これも誤解されている方多いんですけど、「安倍総理の政策をファクトチェックしたほうがいい」っていう意見もあるんです。これも不可能です。ですからファクトチェックというのは、万能な薬ではないんです。もっとベーシックな取り組みで。だけど、それをやっていかないと、ジャーナリズムもダメになる。ということです。以上です。

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