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「日本のフェイクニュース:日本のメディアを事実に照らして」 記者会見(全3記事)

新聞やテレビもフェイクニュースを流している––ジャーナリストたちが警鐘を鳴らす、ファクトチェックなき社会の危うさ

2018年2月8日、外国特派員協会にて、「日本のフェイクニュース:日本のメディアを事実に照らして」というテーマで記者会見が行われました。会見には、ファクトチェック・イニシアティブに参加する記者やジャーリストが登場。フェイクニュースの現状と課題について語りました。

フェイクニュースは対岸の火事ではない

金井啓子氏(以下、金井):みなさま、こんにちは。「フェイクニュース」という言葉を私が強く意識したのは、今からちょうど1年前でした。

2017年1月20日、ワシントンD.C.のナショナル・モールという非常に大きな公園に置かれた大きなスクリーンで、数百メートル先にある連邦議会議事堂で行われていた、トランプ大統領の就任式典を見守っていました。

公園にはたくさんの賛成派の人と反対派の人たちがいたんですが、ゆったりと歩き回れるほどの混み具合だったので、さまざまな人たちのお話を聞くことができました。でも、その後にある2枚の写真が報道され、その写真を見たトランプ大統領や報道官の言葉を聞いて、私は耳を疑いました。

2枚の写真というのは、2009年のオバマ大統領の就任式の時と、それから、今回の公園の様子を、ワシントンモニュメントのてっぺんから、私の古巣であるロイターのカメラマンが撮影して、比較した写真です。

新たに政権についたトランプ大統領たちは、「その写真は虚偽であって、今回、史上最大の人々が集まった」と発表していました。写真では、オバマ大統領の時には群衆が黒々と講演を埋めつくしていたのに比べると、トランプ大統領の時は人が少なめ、公園の地面も見えていました。私は9年前には現場には行けませんでしたが、2枚目の写真は、1年前現場にいた私の実感とピッタリ合っていました。

このように私自身が確かに訪れていた場所、しかも、私の目の前で起きていた出来事が、権力者によってフェイクニュースとして否定されてしまうことに、なんとも言えない不気味さと怖さを感じました。

権力者が自分自身に対して批判的な報道機関やジャーナリストのことを、フェイクニュース、または、フェイクニュースを発する存在として批判する問題は、日本にいる私たちにとっても対岸の火事とは思えません。

例えば、橋下徹さんが大阪市長だった時に、自分自身に対して批判的な報道を行うことが他の報道機関に比べて多かった新聞社・テレビ局・フリーランスジャーナリストのことを、公の場で何度も「不勉強」「インチキ」などと言って攻撃しました。

時に誤報を出してしまうのは、あってはならないこととはいえ、どんな報道機関にもつきものです。ですが、そのことをもって、その報道機関が伝えるニュースがすべて虚偽と断じることはできません。

フェイクニュースの3つの分類

さて、「フェイクニュース」という言葉の使い方・種類については、人によって解釈もさまざまあるようですが、私は3つに大きく分けています。1つ目が、先ほどお話をした、権力者によるいわゆるレッテル貼りです。2つ目が、いたずら目的、あるいは、アクセス数を稼ぐための、明らかな嘘のニュースです。そして3つ目が、自らの主張や思い込みによって、根拠の希薄なデータや事柄といった、噂にすぎない情報を拡散するケースです。

去年、ディー・エヌ・エー(注:正しくはWELQ)という医療情報サイトで、人の健康または命にまで影響する内容、医療や健康の分野で誤った内容の記事が掲載されていたことが判明し、このサイトは閉鎖されることになりました。

一昨年には、熊本の大きな地震の直後に、「ライオンが逃げた」というデマが投稿されて大混乱になり、それを投稿した男が警察に逮捕されました。

先月には、群馬県の草津白根山の噴火で、自衛隊員の方が1人亡くなりました。自衛隊員の人たちが円陣を組んで一般人を守っていた時に亡くなったという噂がネット上で話題になって、これを既存の大手メディアが報じないということに不満が出ました。でも、実際には部下の隊員をかばおうとして、その時に背中に石が当たって亡くなったということを、自衛隊が明らかにしました。

災害が起きて人々が不安な気持ちになっている時には、フェイクニュースが広がりやすいという、典型的な例とも言えると思います。

最近では、産経新聞と琉球新報がバトルを繰り広げました。沖縄でアメリカの海兵隊の隊員が、重体となった交通事故をめぐって、産経新聞は「この海兵隊員が日本人を救出した後に、後ろから来た車にはねられたのだ」と報道して、この勇敢な行動を報じない地元の新聞を批判しました。

今朝になって産経新聞が、記事にあった日本人を救助したということは確認できなかったということで、記事を削除しました。また、沖縄の新聞に対して、批判にいきすぎた表現があったということで、お詫びもしています。

このようなさまざまなフェイクニュース、または、それに近いものによる悪影響を減らす一助となりうるのが、ファクトチェックだと思っています。ファクトチェックに関して、日本はだいぶ出遅れていますが、その遅れを取り戻すべく去年設立されたのが、私も所属しているファクトチェック・イニシアティブです。

このFIJと呼ばれるファクトチェック・イニシアティブの趣旨に賛同して、私も理事として参加しているということをお伝えして、私からのお話を終えたいと思います。ありがとうございました。

新聞やテレビもフェイクニュースを流している

立岩陽一郎氏(以下、立岩):それで、今、金井さんが言った話で言うと、わりと「ネット上の情報がフェイクニュースだ」っていう理解になると思うんですよね。しかし、みなさんわかるように、そうでもありません。ここにもいらっしゃるかもしれませんが、新聞やテレビもわりとフェイクニュース流してるんですよね、日本では。

例えば、1つ見てみましょうか。先日の選挙について、私がやったファクトチェックをご紹介します。

ファクトチェックにはルールがあります。例えばレーティングをつくるわけですよね。例えば『ワシントン・ポスト』なんかは、みなさんご存知と思いますが、ピノキオの数でレーティングしています。つまり、真っ赤な嘘だったり、事実だったりっていう、レーティングで示すわけです。

これはみなさんご存知かどうかわかりませんが、日本で言えばピノキオはエンマ大王ではないかということで、私たちはエンマ大王の数で。ちなみに、このエンマ大王が4つある、これは真っ赤な嘘のことを言うんですけど。この絵はですね、この隣にいる金井さんの友達の娘さんが、……中学生? 高校生?

金井:中学3年生。

立岩:中学生が書いてくれたものです。今、私に著作権がありますので、私は自由に使えるんです。もしみなさんが使いたければ、自由に使ってください。

それで、例えば、安倍総理は前の選挙で何を言ったか。「消費税を2パーセント引き上げることによって、5兆円強の税収となります」、これはそのまま安倍総理がそう言ったんですね。これをNHKはじめ、すべてのメディアが流したわけです。これが選挙の最大の争点だと報じたわけですね。

2パーセント引き上げるとなんで5兆円強になるのか、というところをチェックしたわけです。結果は、1エンマですね。つまり、まったく嘘とは言えないけども、事実と認めるには極めて不確かであると。

どういうことかというと、これって、前の年の税収を税率で割っただけなんですね。そうすると、1パーセントあたりの税収が2.7兆円になるんです。それを2倍しただけなんです。本当に単純な数学ですよね。

これは極めて問題だと私は思ってます。つまり、5兆円強がある。この使い方を国民に提示しながら、それは5兆円強になるかどうかなんて、誰もわからないんです。つまり、なんの景気動向も経済的な指標も加味されていない数字なんです、これは。

発言が正しいか、ではなく発言の内容は正しいかどうか

立岩:さらにひどいのはこれです。日本維新の会は選挙の時に何を言ったか。「消費税を上げる必要はない」と言ったんですね。その時になぜ上げる必要がないかというと、4歳から5歳まで、あと高校生は私学……、つまり、「すべての教育の無償化を大阪は実現しています」と言ったんです。

こんなのは誰でもわかるんです。自治体に電話をしたら、一部の自治体しかやってないんです。大阪全体ではやってないんです、こんなこと。これは、まあ、3エンマにしたんですけど、本当は、真っ赤な嘘ですから4エンマにしてもよかったんですけど、これは武士の情けで、選挙中だということで、3エンマにわざとしてあげたんですけど。

つまり、私たちがファクトチェックっていうのを去年始めました。まあ、新聞記者によく言われるんですね、「新聞は常にファクトチェックしてるんだ」と。ところが、新聞のファクトチェック、テレビのファクトチェックもそうですけど、こういうファクトチェックはしないんですよ。

つまり、彼らは安倍総理が何を言ったかを、しっかりファクトチェックして伝える。つまり、言ったとおりに伝えるファクトチェックはする。そういうファクトチェックを続けていると、これは結果的に、実はフェイクニュースと何が違うのかわからない。

最後に、このファクトチェックの取り組みをやってるなかでもっとも大事なのが、これは世界のファクトチェッカーはみんなそうですけど、エビデンスです。

我々がファクトチェックする際も、エビデンスをしっかり明示して、「こういう根拠で総理大臣はこう言ってる」、あるいは、「政治家はこう言ってる」。「だけど、こういうエビデンスがあるからこれは違う」と、そういう判定をするわけです。そうするとですね、日本の新聞とかテレビっていうのはね、ほとんどエビデンスがないことに気がつくんですね。

「政府関係者」とは誰か?

立岩:例えば、これはテレビ朝日の『報道ステーション』が1月8日に報じたニュースです。これはすごいニュースで、「アメリカ政府が北朝鮮を先制攻撃する計画を立てている」と。それはなぜかというと、「アメリカ政府は北朝鮮が反撃をしないという判断に立った」という、すごいニュースを出したんですね。

これはすごいニュースなんですけど、エビデンスは一言ですよ、「アメリカ政府関係者によりますと」。しかもこれ、アメリカ政府関係者って、なにも語ってないんですね。例えば、トイレの……、アメリカ政府の建物のトイレを掃除してる人だって、アメリカ政府関係者ですよね、これ。

このケースは本当に1例で、例えば新聞なんかでもですね、よくあるのは「日米関係筋」。これは非常に意味のないエビデンスですよね。つまり、アメリカ側か日本側かさえもわからない。これはですね、もうたぶん国際的なジャーナリズムのレベルから言ったら、かなり最低に近いレベルのエビデンスですよ、これは。

そういうことをですね、続けてるということに、やっぱり日本の新聞・テレビもそろそろ気がつかないと、フェイクニュースと何が違うのかということが、たぶん読者も視聴者もわからなくなってくるし。それはひるがえれば、やっぱり新聞・テレビにとってもあんまりよくないんじゃないかというふうに私は思ってるし、これを変えていかなきゃいけないと思ってます。以上です。

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