2024.10.10
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常識を超えた取り組みが効率に繋がる。パプアニューギニア海産、未来食堂が語る、これからの新しい働き方(全10記事)
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小林せかい氏(以下、小林):次はマッチャンさんからの質問。「思うようにいかないときや『これでいいのか?』という不安なときの切り抜け方はありますか?」。
武藤北斗(以下、武藤):新しいことに取り組むときは、とりあえずやってみる。だめだったらやめる。1歩出ることが大切なんであって、1歩出て成功させることが大切なのではないと僕は思っています。その1歩をみんなでやっていこうねって、従業員の人に話して。行ってだめだったら戻ろうねっていうのを従業員の人も思ってる。というのが、切り抜け方かなと思ってます。
小林:不安なときの切り抜け方……。私はとくに切り抜けてないですね。ああ、不安だなって。それよりも目の前のバジルチキンのほうが、よっぽど大事(笑)。本当に、これを1人でやんなきゃいけない。火曜日を見たらわかるんですけど、未来食堂は「まかない」が誰が入ってるか、カレンダーに枠が書いてあって。
誰が何時からの枠に来てるか、みんなが、全世界の人が見れるんですよ。グーグルカレンダー上で管理してるので。見ていただくとわかるんですけど、火曜日は午前中にお一人アベさんって方がいらっしゃる。誰かわかんないアベさんって方がいて。そこから先は誰もいないので(笑)。1人で大丈夫かなって。
武藤:あれは名前しかわかんないんですか?
小林:いや、アベさんって方から申し込みがあったんですが、誰が誰だかもう忘れちゃってる。何百人もいらっしゃるので。どこかで申し込みをしてくれたんだろうけれども、例えば「1か月後に行きます」「日本に行く1月の……」とか、そういう申し込みもあります。だから、よっぽどのことがない限り、正直覚えてないですね。
アベさんって誰だろうな? みたいな。そういう方が午前中に来てくださる。でも、その時間帯でチキン焼いといたら冷めちゃうしな……と思ったり。
武藤:僕の場合だったら、バジルチキンよりアベさんのほうがこわいです(笑)。
小林:ははは(笑)。
(会場笑)
武藤:でもバジルチキンのほうが心配なんですよね(笑)。
小林:だって毎日アベさんみたいな人がやって来るわけですから。明日はタナカさん。「タナカさん誰だろう」って。水曜日も誰かいらっしゃるみたいなんですよ、朝と昼に。誰だかわからないけど、朝・昼枠に1人いてくれるんだな、みたいな。
武藤:じゃあどんなときに心配なんですか?
小林:だからバジルチキン(笑)。
武藤:バジルチキン(笑)。人は心配じゃないってこと?
小林:そうですね。「誰かがいてくださる。ありがたいな」っていう、それだけです。
武藤:それは小林さんだからそう思えるのか、僕らみたいな人でもそう思えるものだと思いますか?
小林:「まかない」さんって基本、50分間ぱっと来られるんですけど。不思議なもので、お店やりたい、自分も同じような仕組みをやりたい、事業を起こしたいとか。いろんな目的で定期的に来てくださる方もいらっしゃるんですよ。定期的に来てくださる方って、最初はものすごく武藤さんと同じなんです。
例えば、今日来られるAさん。「(カレンダーで)自分の名前を見ましたけど、一緒に働くこのアベさんってどんな方なんですか?」って毎回、毎回というか最初は聞いておられた。それで「わかんない。アベさん誰だろうね?」って答える。
武藤:(笑)。
小林:そんなことを話してると、Aさんも最初はドキドキするんですけど、だんだんどうでもよくなってくるんです。それはみんなそうです。だから確かに最初は同じなんですけど、だんだんこっち側の思想に馴染んできて。それよりも「今日のバジルチキンどうします?」って、必ずみんなそっちになっちゃうんです。
だってバジルチキンは、出す直前、お客様が来る11時直前まで、よくなれるじゃないですか。もっとこうしたほうが美味しくなるってギリギリまで粘れるんです。もうアベさんのこと考えてても仕方がない。お客様に対する美味しさにぜんぜん直結しない。
なので、そんなことはどうでもよくなってくるんです。「誰かがいらっしゃるんですね、わかりました」と。「じゃあ私、今チキン切っておきますね」。だいたいみんなこんな会話になってきますね。
武藤:いつか体験してみたいと思います。
小林:ちょっと(質問と)違う話になっちゃた。「ストレス解消法は?」
武藤:ストレス解消法ですか? ごめんなさい、ぱっと思いつかないです。
小林:うん。私もとくにないです。たぶんお隣の方に聞くほうがいいんじゃないですかね?
武藤:(笑)。
小林:だってなんかね(笑)。みんなに聞いたらいいんじゃないですか?
武藤:なんでそんなこと言うんですか(笑)。これですよ、僕がちょっとドキドキしてたのは(笑)。
(会場笑)
小林:「新たにやりたいことは何ですか?」 武藤:新たにやりたいこと。
小林:これはまあ、さっきと一緒でいいですかね?
武藤:そうですね……いや、飲食店。
小林:あー、そうですね。
武藤:え、「そうですね」?(笑)。エビフライ屋さん。エビに関して自分のできることがいろいろと繋がって、広げたいっていうのがあって。それがおもしろそうだなと思ってます。
小林:ニックネーム空白さん。「仕事のなかで、ここ一番という場面での原動力はなんですか?」。ここ1番大変な、ということですよね。原動力。
武藤:なんですかね。会社や仕事に対する理念を、自分でどこまで貫き通してるか、というところでしょうか。ちょっとかたいですか? でもそうだと思います。自分の芯がしっかりしていれば、ここはやんなきゃっていうときは苦にはならないです。
小林:ちなみに、ここ1番っていうのは、例えば「納期が遅れるぞ」とか。どういう場面ですか?
武藤:僕の場合は、従業員が揉めたとき、揉めそうなときです。別に欠品しそうとかっていうのは、そんなに「ここ一番」っていう気はしないです。そこはもうお客さんに謝ればいいと、けっこう淡々とした感じで。
小林:従業員は、謝っても済まない問題なんですか?
武藤:やっぱり1回揉めると引きずるので。そういう雰囲気が出てきたときは、やっぱり僕がトップとしてがんばんなきゃなっていう想いはあります。
小林:その想いの原動力としては、縛らない職場にするという理念。
武藤:そうですね。働き方もそうだし、自分たちが何を作っているか。そういったものを、しっかりとみんなと話し合えるっていうところですかね。僕は争わないで仕事をすることが、会社にとって1番必要なことだと思ってやってるので。そこが自分のなかでぶれないようにしています。
あとはぜったい誰も辞めさせないっていうのが、僕のなかでのルールなんです。解雇しないっていうか。誰と誰が揉めても全員残ってもらうっていうのがあります。そういうところかな。ごめんなさい、あんまり深く考えないで答えちゃったんで。
小林:やっぱり人を束ねているなりに思うところなんでしょうね。
武藤:そうですかね。その辺は大切に考えてます。だから僕は、ちょっと独裁者的なところもあるな、と自分でも思っていて。だけど僕がトップなんだから、それがいい方向にいくようにしっかりしなきゃっていう想いはあります。……なんか腑に落ちてなさそう(笑)。
小林:いやいや。未来食堂は1人ですから、どうにもこうにも、絡めようにも難しいですね。
武藤:そうですよね。
小林:仲が悪いとかあんまりないですから。
武藤:そうなんですよ、また戻っちゃうんであれですけど、だから不思議。でも逆に、だからこそうまくいくところもすごくある。そう考えると「みんなの経験がどんどん蓄積していくことはすべてプラス」と僕が思っていることはどうなんだろうと。またちょっと、いろいろと考えることはあるなと思ってます。
小林:「働き方の仕組みを作っていくなかで、これだけは揺るがないというものは何ですか?」。
武藤:「これはぜったいにやらなきゃいけない」とは思わないこと。いつでもやめてもいいと思って、それがベストじゃないっていうんですかね。1歩も出るし1歩も下がるしっていう感じでしょうか。
小林:ぜんぜん回答の粒度が違って、あんまり読書してる意味がなさそうな回答を言いますけど。ここ一番っていう場面が未来食堂にあるんですよ。さっき言ったランチピークです。もしくはランチピークの大波が終わりそうなとき。
もうみんなものすごく疲弊してるんですよ(笑)。未来食堂はカウンターだけのちっちゃいお店なんです。だいたいランチは平均5回転から5回転半ぐらいするんですね。飲食店って、だいたい1回転、2回転……2回転すればけっこういいねって。そういうなかでの5回転が平均なので、本当に大変なんです。
たぶんお客様も「ちょっと大変そうだ」と。いろんな気配を察したり、お客様が協力してくださったり、いろんなことのうえに成り立ってるとは思うんですけど。まあまあ大変ですと。
それで、ものすごく簡単なんですけど、ここ一番がようやく終わりそうだ、ちょっと席が空きはじめた、というときに、未来食堂には差し入れでもらってるクッキーがあるんですよ。いろんな人から差し入れをもらうんです。クッキーがあると、食べたいんですよ。だって疲れてるから。
ご飯食べてないし。2時からまた波がくるので、波に備えなきゃいけないんです。みんなお昼に混むってわかってるので、2時ぐらいからまた第2の波がくるんですよ。お昼に混むってわかってる人たちの波が。
その波と波の端境のところでちょっと時間ができるんですけど。冷蔵庫の中にクッキーがあります、と。「クッキー食べようかな」と。食べたいんですけど、クッキーを1枚割って、大きいほうのかけらをお客様に「これ頂きものなんです」って言って出す。お菓子用の小皿があるんですね。
そこで出せなかったら、もうダメなんですよ。クッキー食べたいじゃないですか。むっちゃ忙しいなかで「わーわー」っていう感じが終わって。「はあ……」みたいな。クッキー食べたいけど、もし1枚食べたら、「美味しいな」って思う喜びを(お客様から)奪ってるわけでしょ?
武藤:それは……その人からもらったものではない?
小林:はい。前の日や、いろんな人からもらうので。「私、名古屋から来たんです」って言ってえびせんべいをくれたり、「鹿児島から来たんです」って言ってぶんたんをくれたり。いろんなものをもらって、ありがとうございますと。その日に使うこともあるし、とっておくこともあります。
小林:そうすると、それこそ八つ橋だとかクッキーだとかが、たまっていくんです。それを人にあげられなくなったらぜったいにダメだなって思います。
武藤:さっきのお茶に通じるんですか?
小林:たぶんそうです。
武藤:そういうことか。
小林:それを1人でこっそり、ぜんぶ食べてもわかんないじゃないですか。
武藤:わかんないですね。
小林:誰にもばれないんですけど。それをやっちゃったら、たぶん……ダメだなって。でも、そういう日がたまにあるんですよ。もう、出すお皿すら洗えてないとか。それは洗えてないことが悪いんですけどね。そういう仕組みを作れてないわけだから。その日はお皿を洗う負荷が高すぎるような献立にしちゃってる。それがよくないことなので、お皿を洗う能力の問題じゃないんですけれど。
クッキーをあげる「クッキー皿」がすぐ使える状態でないと、それに甘えてしまって、チョコレートクッキーとかぜんぶ食べるときがあるんですよ。だからそのときはものすごい後悔しますね。
そういう日が何日か続くと、けっこう連続して(お店を)閉めちゃいますね。今週1週間休んでたんですけど、その前の週にけっこうクッキー食べちゃってるんですよね。あげる余裕がなくなってたんです。
武藤:自分のなかではそれで線引きというか……そこで測るわけですね。
小林:たぶんそうですね。むっちゃいいクッキーなんですよ、たぶん。みんなわざわざお土産で持って来てくれるってことは、そこら辺で買ったもんじゃないんですよ。いいものを郵送までしてくれるし。それを渡したら、ね。
「鹿児島のクッキーなんです」って言って、お客様が「ああ、うれしいね」って言ってくれてることより、自分を優先させちゃってるのがダメだなって。そこが原動力、というかギリギリの線引き。
武藤:わかります。通常、自分がいつも持ってる気持ちをキープできてないわけですからね。
小林:そうそう、そんな感じですね。
武藤:そのラインを超えちゃってるから、そのときはもうやばいっていうことですよね。
小林:ちなみに、一緒に働いてる「まかない」さんにも差し上げたいって思ってるんですけど、「まかない」さんたちってそれどこじゃなかったりするので(笑)。「まかない」さんたちは食事を食べるっていうかたちで、なんだかんだで波を抜けてゆっくりできる時間帯は、みなさん作れるんです。
私は時間を作れなかったり、ずっと中にいなきゃいけなかったり。忙しすぎて固形物をうまく食べられなかったりっていうことが多々続くので。クッキーを割った大きいほうを、私じゃなくて、お客様にあげられないとだめだなって。大きいほう自分で食べてたら……ちょっとね。
武藤:お客さんに対して優しいですよね。
小林:でも、こわいと思ってた、って(笑)。
武藤:いや、お客さんに対してですから(笑)。お客さんに対しては優しいなって思って。それは、家族に対しても一緒なんですか?
小林:そんなことはないと思いますよ。
武藤:僕は正直ぜんぜん違うんですよ。従業員に対して、すごく優しい気持ちがあるけども、僕は家族に対してはめっちゃ厳しいって言われるんです。そこを克服していくのが僕の課題で、小林さんはどうなのかな、と思ったんですけど。……まあいいです。
小林:じゃあ、先(の質問)にいきましょう。「これだけは揺るがないでいるものはなんですか?」。そのクッキー半分、ですかね。
(会場笑)
みんな、きっと「そのぐらい渡せるじゃない」って思ってるでしょう? でも、もう本当にプレッシャーだの肉体作業だのが続いたなかで、半分に割ってどっち食べますか? って。苦しいですよ、本当にね。
武藤:小林さんの世界ですよね、それは(笑)。
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