2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
国家戦略特区に期待すること(全1記事)
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竹中平蔵氏(以下、竹中):堺屋先生、よろしくお願いします。
堺屋太一氏(以下、堺屋):どうも。
竹中:今日はですね、国家戦略特区について少し議論させていただきたいんですが。まあ先生ご存知のように今度新しいアベノミクスの中の成長戦略で、国家戦略特区というものができました。
堺屋:ええ。
竹中:これはまあ、今までの特区と違いまして、総理主導の特区。今まではこう自治体がなんかやらせてほしいと国にお願いして、国があくまで上から目線でこれやってよろしい、これやってよろしい、と。
そうじゃなくて、総理がですね、例えば東京ヘッドクォーター特区にしろと、北海道のここを輸出農業特区にしろと指示を出して、国を代表して特区担当大臣、地方を代表して知事さん、例えば市長さん、そして民間企業の代表。この国、地方、民間の3者統合本部で、これがさながらミニ独立政府のように一切のことを決められると。非常にこう主体性を持った新しい特区になります。
この特区を活用して岩盤規制に切り込めたり、いろんなことあるんですが。今の日本経済の現状を鑑みて堺屋先生は、どんなかたちの特区をイメージしておられますでしょうか?
堺屋:まずね、現在の日本は安全と平等。特に安全に偏ってるんですよ。全く楽しさとか将来性とか、そういう喜びの沸き立つ感じじゃないんですね。
竹中:ワクワク感がないですね。
堺屋:ないんです。高度成長の時代はまだ、効率を重視していろいろと夢を持ってたんですが、今は安全に生きればいいって時代になってる。今度の特区とは安全を重視した、もちろん安全は大事なんですが、安全を重視したことの他に、喜び、楽しみ、これを正義の1つに入れて、新しい日本の概念、これを作らないかんと思ってるんですよ。
だからそういう意味で、従来の「これやったらこれだけ生産性が増えます」とか「これだけ雇用が増えます」ということの他に、「こんなに面白いです」と「こんなに楽しいです」というのを是非作ってほしいと思いますね。
竹中:是非、政府の参与と内閣の参与としての堺屋参与の力を借りながらですね。
堺屋:いえいえいえ。
竹中:なんか実現したいと思うんですが。堺屋先生は大阪の顧問として非常にコミットされて、内閣の参与として、また東京に関してアドバイスもしてこられたわけですけども。その東京大阪、それ以外のところももちろん特区は広げていったらいいと思うのですが、特区でいったい何ができるんだろうって思ってる皆さんに対して、例えば今のワクワク感のいくつかの事例みたいなものを少しお話しいただければ。
堺屋:大阪の川べりに楽しみ特区を作ろうと。まず道頓堀をプールにする。
竹中:(笑)。いつ阪神が優勝してもすぐ飛び込めるように。
堺屋:あのね、阪神優勝とかそういうのなしに、ちゃんと泳ぐように。そこは今のドブ川じゃなしに、箱を入れまして、そこに上水道をいれて、世界で一番美しい水のきれいなプールにする。長さ800メートル、往復1マイル。それで世界選手権、長水路の遠泳競技をやると。それからその川べりにずっと舟祭りのできるところをして、毎年そういう世界的名物になるような行事をしようというわけですね。そしたら広告規制を緩和しないといけない。
竹中:なるほど。
堺屋:それから道交法を緩和しなければいけない。
竹中:そこをもう少し詳しく是非、聞かせてもらえますか。
堺屋:世界中で、例えば映画でカーチェイスなんてて撮影するでしょ。日本は全くできないんですね。シカゴはコンベンション・シティといわれるのがある。ステート・ストリートは48時間前に申請したら、いつでもパレードができる。
シカゴ市警は、世界一の都市警察とよく書かれてますよ。殺人事件とか取り締まりはそれほど大したことない。でも群衆整理が上手いんですよ。あっという間にステート・ストリートを広げて、パレードをやらすと。だからコンベンションが集まってくる。
コンベンションがなぜ来るかっていうと、そういうパレードができるっちゅうこと。値打ちがあるんですね。こういった楽しみの街っていうのを広げていくべきだと思うんですよ。で、確かに安全は大事です。けど同時に楽しみもね、1つの正義として考えないと。そういう特区を作れたらね、今度のオリンピックでも楽しいオリンピックをやると。
竹中:そうですよね。オリンピックの話、是非お伺いたいんですが、その前に広告の規制っておっしゃってました。これは具体的にはなんでしょうか。
堺屋:あのね、日本では、広告はいかにも悪だと。広告は必要悪みたいな感じなんです。従来の広告は、それによって生産性が上がる、大量生産ができる、大量生産効果でコストが下がる。そこから一部が広告料になるんだから消費者のためだ、こういう広告理論。
最近の広告は、心理的価値を上げる。例えばラグジュアリーブランドがあります。そういうのは広告によって持ってる人が、いいもの持ってるんだと思う。本当はほとんど発展途上国で作ってるイタリア・フランスの製品が、何十倍の値段で売れとるわけです。それは持ってる人が満足しているから。
竹中:はいはい。
堺屋:嬉しいと思ってる。それは市場管理、広告の値打ちだと思う。だからそういう意味での広告をね、日本中に広げたい。広げるべきだと。そして日本初のブランドを世界中に広げられるようにしたい。そういうので広告を規制緩和したい。今までの広告は汚いものだと思われている。20年前には、30年、40年前には服に広告つけて、服を着てる人はいなかったんです。今、Tシャツは全部広告つきですよ。それだけ世の中変わったんですね。
オリンピックも(1964年の)東京オリンピックのときは広告規制だった。いまや広告をむしろ見せる競技になってますね。やはり情報の1つとして重要な意味があると思うんです。だからその楽しみ特区では、広告規制は全面的に緩和して、大いに華やかな街を作ろうということなんです。
竹中:なるほど。堺屋さんの話を聞いているとすごく夢が広がりますし、今の広告の話にしても、現代ではデジタルなテクノロジーが使えるわけで、いろんなチャンスが広がってるわけですが。
実は特区の提案はですね、せっかく受け付けても、そういう楽しい話ってのがなかなか市町村の中から出てこなくて。どうもその1つの背景として、やっぱり役所があの手この手を使って変なもの、変なものっていうのは彼らから見て変なもの、つまり面倒な規制緩和を出すなとかね、そういう圧力を「出すな」ってしているという説もありまして。堺屋さん、大阪の状況見ておられると思いますけど、どうですか?
堺屋:確かにそれぞれの主管官庁に言うと、「こういうのは無理だから止めといたほうがいい」とか「こういうのをやると、問題がおこったときに君たちの責任になるよ」とかいろいろそういう圧力はかかってるようです。
で、まあ確かに安全第一でやってれば問題は起こらない。けれども楽しみはない。そこの兼ね合いがね、今まではとにかくあらゆるものを止めたらいいっていう方向で、ずっとこの21世紀まできたんですけれども。そろそろ日本もね、楽しい街作り、国民が夢を持てるような国作りっちゅうのを。
竹中:そうですよね。
堺屋:もういっぺん広げないといけない。
竹中:そこで実はね、オリンピックに話をつなげたいんですが。私は「アベノリンピック」っていう言葉を使ってまして。アベノミクスにオリンピックって追い風が重なってですね、今おっしゃった前向きのことをいろいろやると。
2020年のオリンピックですけども。実は2020年というのは財政再建の目標年次でもあるわけですね。これから東京の中で最も大きな再開発が進むのは、品川のJRの車庫の跡地が解放される。これの目標も2020年で。この2020年というのが大きな目標になってきて。そこにやっぱり今、堺屋さんのおっしゃったワクワク感を持ってきてやっていきたい。
一方で、あれやるなこれやるなって文化がある。猪瀬(前)都知事がですね、(2020年東京五輪を決めたIOC総会が開かれた)ブレノスアイレスからの中継で面白いことを言ってたんですけど「オリンピックをやる最大の効果は、心のデフレを取り除くことだ」と。まさに安全とか縛られたのをもっと開放して、自由に楽しくやりましょうに全部通じてるんですが。
さあオリンピック、私は東京もオリンピックに関連する特区を作ればいいと思いますが、オリンピックに向けて堺屋さんのそのアイデア。特区規制緩和。その点いかがですか?
堺屋:今ね、ブレノスアイレスの提案でも東京の案はハウツーばっかりなんですよ。こういう具合にこう移します。こういうように会場を作ります。こういう具合に警備します。ハウツーじゃなしになぜ東京なのか、なにを東京はするのかってこと。ホワイ、ワットの問題。抜け落ちとるんですね。
私らが万国博覧会やったときにも、まずコンセプト、テーマだということから入ったんですね。それが今日本が非常に欠けてると思います。だから日本の国、東京の街を楽しい街にする。勝ち負けよりも楽しい街にするんだ、ということを若い人たちに訴える。そして日本はこんなに楽しい国なんだから、若者も勢いづきましょう。子育てもしましょうという話につなぎたいですね。
そうでないとこのまま、どんどん高齢化が進んで衰退する一方の日本になりますからね。ここで流れを、ずっとチャレンジをやめて安全第一に来た日本を、やっぱり楽しめる、チャレンジをするんだという国にしたいですね。
竹中:うんうん。そうですよね。そのむしろやっぱり目の前の安全第一ばっかり考えると、非常に大きな安全を損なうぞというのが原発のイメージ、原発のメッセージだったと思うんですね。安心だ安心だと言って、安心を損なわないようにするために訓練もなにもやらないと。で、気がついてみたらとんでもなく安全が損なわれていたということで。
竹中:今おっしゃられた万博の例が参考になるんですけども。これだけ大きなイベントをやるときには、一種のミッションステートメントみたいなものがなければいけないと思うんですね。それは、やっぱりこれから全内閣をあげて知恵を絞らないといけないと思うのですが。おっしゃったように人生楽しいぞと、この街は楽しいぞと。この街は素敵だぞって伝えることが大事だと思うんですね。
ちょうど前回の東京オリンピックのとき、私は中学生だったんですけど、吉永小百合さんの歌で『フレッシュ東京』という……すごいマニアックな歌で恐縮ですけども(笑)。
「今年こそ今年こそ わが東京は世界の東京 フレッシュ東京」。これは、まだ戦争が終わってから十何年しかたってない頃の歌。戦争で東京はボロボロになったけど、わずかの間にこんなに立派になりました、見てくださいって、なんか心からみんなが叫びたい思いが込められてた。
今回は、そういうものが実はまだ十分煮詰まってないままに、なんか誘致が決まっちゃった。そこの先になにがあるのか。そしてそのままミッションを考えるということと、具体的になにを世界に、東京の何を見てもらうのか、そのためになにを規制緩和していったらいいのか。その点はいかがでしょうか?
堺屋:東京だけでなしにね、東京に来た人、オリンピックに来た人、日本中をもっと何時間も滞在時間を伸ばして見てもらいてもらいたい。そうしてね、見るだけじゃなしに例えば医療特区を作って、ここでは世界中の整形外科の先生がいますとか。あるいは東洋医学の鍼灸は最高のものがいますとか、そういう医療特区も作ったらいいねえ。そしたら日本中に名所、観光地を大いに日本文化を宣伝すべきと思うんです。
で、やっぱりこのキャラクターとかね、アニメとかね、そういういったものを流行らすべきですね。今、吉永小百合さんのお話をされましたけど、やっぱり東京オリンピックの歌ってのは竹中先生はよく覚えてとられると思いますけども。
竹中:(笑)。
堺屋:「こんにちは~こんにちは~」って有名でしょ。あれなんかでも。
竹中:三波春夫さんの歌ですね。
堺屋:三波春夫さんだけじゃなくて(笑)。5人歌った。
竹中:そうかそうか、共作ですね。
堺屋:そういうね、太陽の塔から歌までずっと計画的に作ったんですよ。それであの千里の丘だけじゃなしに、日本中に広めようというね。だからそのあとで「なんとか博覧会」ってものすごくできたんですよね。ああいう楽しい日本を、もういっぺんこの21世紀に、20年代に起こしていきたいですね。
竹中:実はそこに至るまでに、やっぱり例の岩盤規制といわれるような、もう15年も20年も議論しているのにびくともしないような既得権益を主張する人がいて、それで私達の楽しさを阻まれているような規制がありますよね。これとの戦いなんだと思うんです。
例えばですけども、羽田にしたっていろんな規制があって、それで今よりも運賃はなかなか制約があるし、便数も制約があります。それも岩盤規制の1つだし、日本の農業、農作物をもっともっと豊かに輸出したいと思っても、企業が農地を買えませんというような規制があるし。
医療でも外国の方がたくさん日本に来られるとしても、日本の医師免許を持ってないと治療できませんと。そうすると英語しか話せない人、フランス語しか話せない人はどうするんだと。そういうことがやっぱり現実問題として出てきますよね。
オリンピックというのはそういうことで私たちの胸を開いて、それでオープンにして、そういう人を心からホスピタリティをもって迎えましょうと。そのためには、私たちが持ってる頑固なシステムを変えていきましょうと。それにつながらないといけないんですね。
堺屋:非常に頑固なシステムがありまして、「日本人は独特だ」っちゅうことをよくいうんですよ。
昔ね、携帯電話が入ってくるときに「エリクソンの携帯電話は外国人の顔幅にあって、日本人には合わない」って言った官僚もおりまして。アメリカに聞いたら「いや、ベトナム戦争のときに経験したけども、ベトナム人とアメリカ人の顔の格好は違うけど、合うことはわかっとるんだ」と膨大な資料が出てきて、その官僚はギャフンと言ったと。またね、「日本人が腸が長いから日本の米でないと食えない」って。
竹中:そうそう。
堺屋:そんな大臣もいたんですね。
竹中:肉は向かないとかね。
堺屋:医療の世界では完全に通っとるんですね。日本の実験、試験したものでないと薬は認めない。それでいろいろと、むしろ新しい医薬品や医療ケアが使えないというのは現実に出てるわけですよ。そういうのを医療特区でどんどん認めていく。これはね、日本の日本人のためにもいいことだと思いますね。各都道府県には大胆に、今の岩盤規制に挑戦してもらいたい。
竹中:そうですね。
堺屋:こっちの中央官僚の人に聞いたら、だいたいそういう特区の申請も出てきませんっていう話になるんですよ。実はその担当者にかなりの圧力がかかってるっていう話もあるんですね。
竹中:ほんとにそこ重要だと思うんですよね。ですから聞いておられる市町村関係者がおられるんでしたら、特区についてはフォローアップのために仕組みが産業競争力会議の中にありまして、堺屋先生と私がフォローアップをやりますので、安心してどんどん出してください。安心して。こういうの出したら政府は怒るとかね、そんなね全部嘘ですから。ドンドン出してほしいと。
ほんとに今の話に関していうならば、「日本人は独特だ」っていうのが独特なんです。
堺屋:そうそう。それが非常に今はびこりましてね。例えば日本人は特別に酒に弱い体質だと。だから飲酒運転でも日本(の規制数値)は0.15mg。血液中のアルコールね。よその国は0.45mg。ただノルウェーだけが0.10となぜか低くて。日本はなんでも自分の一番有利なのを世界中から探してきてね、こんなのがあるっていうんだけど、非常に希少な例をあげるんですね。
だから福祉をいえばね、子育て福祉をいえばかならずフランスが例に出る、国防をいえば必ずアメリカ出てきて、建築基準法ならドイツを例をあげる。世界中の一番厳しいものばっかりあげますよ。やっぱり中庸をとって、AもBも幸せな、安全も楽しみも成り立つ社会を作らないといけない。どっか一本に偏っちゃいけない。
これは戦争を経験した者の意見として、1つだけをガンガン言われてね、みんなが信じたからあんなことになったんでね。これはぜひ都道府県の方々も頑張って知恵を絞って。そして中央官庁の人も率直に受け入れて、その江戸、長崎で仇とるようなことをしないでやってもらいたいですね。
竹中:ほんとですね。アメリカでいくつかの研究があるんですけど、こういう大きなイベントをやった場合にですね、それによってホテルができるとか競技場ができるとかというハードな経済効果ってのは意外と小さいもんですね。で、しかし大きなイベント用に合わせてその国の制度をいろいろ変えようと、国のシステムをもっとオープンにしようと。そういうのがですね、結果的に見るとより長い経済の発展を支えてるわけで。
そこはですから、ここでいったようにやっぱり今のアベノミクスで経済政策やってますけど、その追い風としてね、オリンピックがあると。そういうようなことが私は必要だと思うんですけど。もう時間的に最後ですけども、是非特区に期待すること。一言お願いします。
堺屋:そうですね。1984年のロサンゼルスのオリンピックやって、ユベロスって人がいるんですが。これがちょうどね、レーガノミクスを一致して、自由緩和を推進する機動力になったんですよ。ロサンゼルスオリンピックは全く民営で補助金全然なしで、いろんなキャラクターを売ったり放送権を売った。これがレーガノミクスと一致した。今度のアベノミクスとオリンピックを上手にくっつける、そういうプロデューサーが欲しいですね。
竹中:堺屋先生しかいないと。
堺屋:いやいや(笑)。
竹中:どうもありがとうございました。
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