2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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石戸諭氏(以下、石戸):(「自分と違う意見との断絶をなくすにはどうすればいいか?」という質問に対して)それはたぶん、誰もたどり着いたことがない話なので、あんまり答えを出す必要もないかなって思っています。僕が繰り返し言っていることの1つは、「考えることがすごく重要なんだ」ということです。答えを出すことよりも、「それってなんなんだろうね」とすごく考えることをやっていきたいと思っています。
「自己内対話」で自分の書いた原稿を思い出したんですけど。現実で起きてることって、「対話」ということを言ったところで、「俺のほうが偉い」「俺のほうが物知ってんだ」とか、そういう話ばっかりなんですよね。そういうのってやっぱりうんざりするし、「偉いからなんですか?」「あなたのほうが物を知ってるんですね。はい、よかったですね」という話でしかないと思うんですよ。
僕、そういうのってすごくよくないと思っています。しかも、なにかにつけて人を上位と下位とか、自分が上であいつが下みたいなことを、順番付けないと話ができないような人たちも、けっこう現実にいることを僕らは知ってるわけですよね。しかも、インターネットという空間で非常によく表れてくる、と。
そのなかで、でも、すごく大事だと思うのは、他であるというものにどれだけ開かれてるか、だと思うんですよ。
これも繰り返しになっちゃうんですけど。「他の可能性があるんだ」とどれだけ思えるかだと思うんです。僕が何回も「物語が複数成立することが大事だ」と言ってるのは、それなんです。
複数というのは、「他」があるということです。一緒くたがよくないと言ってるのは、他がないからなんです
他であり、「多」であるということ。それが同時に成立する状態をつくっておくこと自体が大事だと思っているんです。
石戸:やっぱり他の人がいないと、自分というものがよくわからない。そうそう、本のなかで「自分」を出したのも、「書いている人のこと」を僕はたぶん本当の意味でわからないけど、理解したいと思ったからなんですよ。
取材対象者とか、取材で起きてることとか、そこで起きてることを、僕はたぶん究極的にはわかりえないと思うんですね。他の人のことだし、起きてしまったあとのことだから。だけど、可能な限り理解したいと思い、そこに接近したいと思った。その接近のための道具として「自分」を出しているということなんです。
そういうことで……丸山眞男の言ってることって難しいんだよね、実際やるってなると「そんなことができたら苦労しねーだろ」って思いながら、僕はいつも丸山さんを読んでいる。
(会場笑)
石戸:自己内対話に関しては、丸山さんにすごく違和感がある。
一緒くたにせずに、いろんな人たちが、いろんなところにいるんだ、と。そういう空間でコミュニケーションとしての政治は成立していくし、……なんて言うのかな、「世の中、自分の思いどおりにならねーな」みたいなことを、いっぱい経験してるわけだから。なんかね、そういうのでいいんじゃないかなって思うんですよ。
わかんないことというのは、いつの時代だってあるし。わかんないことそのものとか、考えていくことそのものを、排除しちゃいかんだろうと思うんですよ。わからないからこそ理解したいとか、接近していきたいという、むしろそういうところを大事にしたいな、みたいな。……なんか説教くさいおっさんみたいになっちゃった(笑)。
(会場笑)
古田大輔氏(以下、古田):いや、前から。
(会場笑)
石戸:あんまそういうところで白黒つけたくないんですよね。白と黒の服ばっかり着てるから(笑)、「そういう人間が言うな」って感じするんですけど、本当にそういうふうに思ってます。だから、シンプルに「まあ、一緒に考えていきましょうよ」ということですね。
質問者4:今までのお話に関わってくると思うんですけども。ネットは意見が同じ人がどんどん集まりすぎて分断されていくお話がありました。そのなかで、私がすごく懸念しているのが、ネットで簡単に増殖してしまうカタルシスとしてのヘイトスピーチ。それってすごく怖いなと思っているんですけれども。それに対して、どう対抗していくのか。
お二人が記者として、もしくはネットメディアとして、ヘイトスピーチに対してどんなことをお考えなのか、ぜひお聞かせください。
古田:いや、すばらしい質問だなと思うんですけど、毎日考えています。どうしたらいいんですかね? 本当にどうしたらいいのかなって悩むんですよ。ヘイトスピーチって本当にいけないなと心から思っていて。
しかもヘイトスピーチって、今、世界中で起こっているんですよね。海外だと「internet trolls」と言われたりするんですけど、インターネット上を歩いている化け物たちみたいな意味です。そういう人たちが集中的にヘイトスピーチを叩きつけてくる。その状況は世界中一緒。もしかしたら、世界のほうがもっと直接的で、例えば殺害予告してくるとかもあるんですけれども。
日本で違うなって思うのは、ヘイトスピーチに対する対抗勢力。「そんなこと言っちゃダメでしょ」「それはダメだろう」と主張する声が、ネット上であれ、新聞とか雑誌上であれ、テレビ上であれ、非常に弱いと思うんですよね。
例えば、海外のFacebookのページで戦わされてる議論を見ると、そういうヘイトを言う人がいたら、必ずそのヘイトに対して対抗する人たちが現れるんですよね。それで、ガーッと議論になる。それは日本の場合だとなかなかそうなりづらい。
なぜかというと、ヘイトに対してなんらかの言葉を言ったら、ものすごい分量で返ってくるんですよね。僕のところにも「死ね」「殺す」とかも来たことあるし、「バカ」みたいなものは山ほど来るんですけれども。
これにどう対抗していけばいいのかというのは、僕らだけでやっても多勢に無勢になっちゃうんで。そのヘイトスピーチに対して本当に問題意識を持っている人たちが、より広範囲に「これはダメだよね」と話し合い、実際に行動に移していく必要があると思っています。
石戸:僕がなんでヘイトスピーチがダメだと思っているかというと、多様性の否定であるからです。他であることを肯定し得ないものであるから、それはよくないだろうと。
僕は、ヘイトスピーチに対して別の正しさをぶつけていくんじゃなくて、個人が個人として考えていくこと、流されないでいくことを、すごく強く肯定したいと思ってるんですね。個人が個人として、自分で考えて言葉を発していくという。その正しさをぶつけるんじゃないようなやり方で、ということです。
最近それを「世界にいろんな物語を立ち上げる」というような言葉で語りたいなと思ってるんだけど。でも、ごめんなさい……今は、自分で考えてることの1つのヒントみたいなものでしかなくて、あんまり洗練されてないことを、今ここで話しているのですが……。
どういうことかというと、この本でやってきたことともつながるんですけども。人間が生きていく時に、人から否定されるというのは、すごくつらいことです。「このままでいいんだろうか」と思うわけじゃないですか。私が自分で選び取ってきたもの、生きてきたなかで勝ち得たもの、獲得してきたものを否定されていくというのは、これは非常につらいことです。
その時に、「いや、あなたはあなたでいいんです」と。あなたの揺らぎそのもの、あなたが今そこで考えてることそのものを、肯定できる言葉があるんじゃないかって思ってるんです。
僕はこの本のなかで、「当事者」「被災者」「被災地」という言葉を解体したいと思ったんですよね。解体してどうするかというと、「個人」という言葉にもう一度置き直してみて、そこから見えてくる世界観をあらわすことにしたんです。一人ひとりが一人ひとりとしてあるということは、いろんなところでできるんじゃないかと思ってるんですよ。
どうやって肯定できるか?プロジェクトとか、考え方とか、やり方について、僕はまだまだ考え足りていないところがあるんですけど。そういうやり方をしていきたいなって思っています。
石戸:ただ、ヘイトスピーチ、言ったもん勝ちみたいな世界にはなりたくないと思ってるんで、それはなんか別の方法を考えるんですけど。
究極的に大事なのは、やっぱり個人が個人として生きていくということを、ちゃんと後押しできる、ちゃんと肯定できるような言葉を見つけていくこと。そういうふうに言葉を使っていきたいなと思うんですよ。人を攻撃したり、不必要に傷つけたり、「そういうふうに使うもんじゃないでしょ」って思ってるんです。
「個的に生きる」ということでしか接近できない何かがあるはずです。それはこの本に書いた一番強いメッセージだと僕は思ってるんです。
一言もそういう言葉で説明していないんですけど、僕なりに、「これ、自分でそういうのを行間に込めたんだな」って思うんです。やっぱり個人が個人として生きていくことを肯定できるようなやり方とか世界観を、もうちょっと打ち出していきたいんです。
だから、僕はヘイトスピーチの問題を、社会的な問題というよりもっと個人のもの、個人がそのままで生きていっていいんだ、って肯定するような何かに、変換していきたいなってすごく思ってるんです。
はい。すいません。なんかモヤッとした話でごめんなさい。
古田:ありがとうございました。この本を読んでいただいたら、今、石戸が話していたことが、より明確に伝わるのではないかなと思います。
人のなかの揺らぎの話であるとか、スラッシュを乗り越えるであるとか、人を肯定するであるとか、悩みも含めてそれを丸ごと肯定していくであるとかですね、そういったものが本の1冊の分量を使って表現されていると思うので。ぜひ読んでいただけたらと思います。
今日は本当にありがとうございました。
(会場拍手)
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