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AUTHOR'S TALK #05「産業医が見る過労自殺企業の内側」(全7記事)

過労自殺防止に有効な仕組みはあるのか? 現役産業医「監視が強すぎても、なさ過ぎてもいけない」

「働き方改革」のヒントは産業医が握っている? BOOK LAB TOKYOの「BOOK LAB AUTHOR'S TALK」で、30社以上で産業医を務める大室正志氏によるトークイベント「産業医が見る過労自殺企業の内側」が開催されました。そもそも産業医の成り立ちや立ち位置は? 産業医から見た「社員に負担をかけ、自殺に追い込みかねない会社の構造」とはなにか。『産業医が見る過労自殺企業の内側』を出版した大室氏が産業医の立場から、企業に共通する構造や問題点を赤裸々に語りました。

一番取り組むべきは「1人にならない仕組み」

西村創一朗氏(以下、西村):最後に1つ……4つもあがっちゃった。じゃあできるだけいきましょうか。

質問者3:今日はありがとうございました。

自分はなかなかその精神科を使えないところがあります。あとは残業規制などいろいろ、効率化にチャットツールなどがあるじゃないですか。なかなか、それでもいろいろあると思うのですが、企業が真にそういう過労自殺を防ぐにはどうすればいいのだろうかと思いまして。

個人的には、心理的安全性やYahoo!がやっているワンマンやユニコスのディアボーナスのような、お互いを、自分をさらけ出せるような企業文化作りのようなものが一番効くのかなと思っているのですが、そういう意味で一番真に取り組むべきことはなんでしょうか?

大室正志氏(以下、大室):ハード面では、時間規制が一番効果的だと思いますね。もう1つは、だいたい僕のところに相談に来る人はほとんどが「1人で抱え込んでいました」と言います。「1人で」「1人で」ということになっている。だからやっぱり、1人にならない仕組みですね。それが大事だと思います。

これから先、テレワーク推進や副業など、非常にある種、明るい未来で働き方が多様化していくでしょう。一方で、副作用として「あそこに1人の人がいた」というような事態が見逃されちゃうかもしれない。

今までは逆に言うと、監視が強すぎたのかもしれませんね。昭和の日本企業というものは。だから、そのいい塩梅が必要です。

自殺というのは、監視が強すぎるときも監視がなさ過ぎるときも増えるというデータがあります。

今、働き方が変わっているので、チューニングバランスが必要なんです。僕は、野菜中心で生活しているおばあちゃんには「もうちょっと肉も食べましょう」と言うわけですよ。肉を食べないと血管が弱くなって脳卒中を起こすから。でもみんな太っている。

サーバー管理などをやっていて、夜勤明けで空いている牛丼屋かコンビニ弁当を続けている会社の社員は「もうちょっと野菜も食べましょう」と言われるわけですよ。これはぜんぜん矛盾はしていない。言葉だけでとると「野菜を食え」「肉を食え」と言っているのだけど、相手の状況に応じてバランスをとってアドバイスしているわけですよね。

だからある種、コミュニケーションが断絶しているような会社であれば「もう少しコミュニケーションツールのようなものを作りましょう」、逆に言うとコミュニケーションがたくさんある、毎日社内飲み会があるくらいの会社だったら「もう少し逃げ場を作る」「1人になれる仕組みを作る」とか。こうした感じでうまくチューニングを考えていくというかたちです。

業務に支障が出ていれば指摘しやすいけれど…?

西村:では、後ろの眼鏡の男性。どうぞ。

質問者4:ありがとうございます。今、だいたい従業員1,000人規模の会社の従業員をしていて、本社でも500人程度います。やっぱりその全員の、具体的にヤバいな、元気がないなと思う原因を自分の中で気付きたいと思っています。そういった中でいかに気付いて、その方たちにどう働きかけるのがいいかというところを教えてください。

大室:休職はしていないけれども、月に3回くらい休んでいる方など、業務に支障が出ている場合は逆に言いやすいのですね。業務の主張はできるから。

まずは1つは、会社として言えるかどうか。業務に支障が出ているかどうかです。業務に支障が出ていたら、それは安全配慮義務上、言うべきことは言う姿勢になります。「産業医に会ってください」、もしくは「ちょっとそういう相談の窓口あるよ」のレベルなのかは別として。業務に支障が出ているという行為においては言えます。

ただ「ちょっと元気がなさそうだな」のレベルは、急に言いだすと気持ち悪いじゃないですか。結婚記念日に1回もプレゼントしたことない人がさ、急に持ってきたら「どうした!?」となりますよね(笑)。それと同じです。

西村:なにかあった!?(笑)。

大室:「なにがあったの!?」と言われるから(笑)。毎回そのようにしているような人であれば、そう言いやすいです。しかし、なにか言える下地のコミュニケーションがないですから。そこが大事かなと思います。

業務に支障が出ていればそれは会社の制度にしちゃえばいいでしょう。これがまず1つ。そうじゃない場合は、これはけっこうコストがかかりますよ。下地のコミュニケーション、ふだんからどうやって見ているかどうかですね。

西村:ありがとうございます。

「部下のマネジメントも評価対象」はキャリア志向上司を変える

西村:では女性の方、お願いします。

質問者5:はい。すみません。今日はどうもありがとうございました。私はもともと、研究のアシスタントをやっていたので男女平等でストレスフリーのところだったのですね。それがなんだか知らないけど、福祉の会社に入りました。

去年までの私たちの上司は、すごくできる女性だったのですよ。その女性が「期」を見るのです、自分の。「何期何期生」と。女にとっての人を見るポイントは、自分より上か下かなのです。

こういうところですごくストレスがかかるし、働いている事務官などのみんなのメンタルに……なんというかな。ピラミッドの中でやっているので、すごく公務員はストレスがかかって、休職率も高いのです。どのように変えていけばいいでしょうか?

大室:公務員の場合はとくにですね。僕も昔、経産省の産業医をやっていたこともあるのですが、そもそも普通のところとは違って、退職するという選択肢があまりない。確かにある種のキャリア志向、そのピラミッド組織でなにかを実現したい人は、とにかく偉くならないといけない。まずはそこからだという方がけっこういるように思います。

最初は「偉くなること」は目的実現の手段だったのに、いつしか偉くなること自体を目的にしてしまう。ここでも「手段が目的化してしまう現象」がよく起こりがちです。

その人の場合はですね、たぶん偉い人にしか目がいかないわけですよね。そういう人の場合は、逆に言うと偉い人に評価されないと思ったらまずいと思う。部下何人かがその人よりさらに偉い人に対して、チクるというやり方があります。ハードランニングですが……。

あとはこうした事態を予防するためには、「部下のマネジメントも評価対象なのだ」と評価項目をいじるというのがあります。

先ほどの例に出た人も、ある種の優等生じゃないですか。ずっといい大学を出てそのようにやってきた。だから、逆に言うと、テストに出ないところは一切勉強しないけど、その範囲が「今年から課目に入ります」と言った瞬間に、たぶん一生懸命勉強するタイプだと思うんです。

(会場笑)

だから別に、評価項目の設定条件なのですよ。例えば外資系では360度評価といって、部下からも評価されるわけですよね。そうなってくると、今までの発言が急に変わるという人が出てきます。要はインセンティブ設定だと思います。逆にインセンティブに対してはものすごく強い人だと思いますので。

質問者5:ありがとうございました。

西村:ありがとうございます。

働き方の問題と資本主義の問題を一緒くたに考えない

西村:では最後に、後ろの男性の方ですね。

質問者6:お話をありがとうございます。僕は精神科に行っていたことがあって、そのときに自分で事実と違うように受け止めることがよくあり、今いろいろと考えるのですが。

コミュニケーションがやっぱり大事だとわかるのですが、基本的に資本主義という「お金をまず稼がないといけない」という産業自体、そこに問題があるのではないだろうか。そうしたものを感じながら、いろんな本を読んでいました。そういうことに関してはどうでしょうか。産業医として、そういうことについてはどう考えているかちょっと気になります。

大室:けっこう多いのですよね。ジョンソン・エンド・ジョンソンなどですね、「Our Credo」という非常に素晴らしい言葉があります。1に患者さんのために、2に従業員のために、3に地域社会のために。最後に株主のために。株主を一番下に置いている。

毎年多くの新卒社員がこういう言葉にすごく共感して、「あ、ジョンソン・エンド・ジョンソンさんは素晴らしい会社だ」と入ってくるわけですよ。だけど、時価総額が世界で40兆円近いわけですよ。よく考えたら、そんな会社が数字に厳しくないわけがない。

(会場笑)

ちょっと考えればわかります。そうするとやっぱり、理念先行型の新人が地方の営業所に行った瞬間に、営業の人がめちゃくちゃ数字で詰められる。

西村:超優良会社ですからね。

大室:そう。超優良会社ですからね。やっぱり数字に厳しい。そして、資本主義においての在り方がどうあるかということですね。確かに資本主義とはどうかと思うのですが、一方でこれは難しいところがあります。

例えばですね、六本木交差点の渋滞が慢性化している。そもそも、この道路の設計自体がおかしいのではないか。ちょっと都庁なに考えてるの……というものがある。一方で、渋滞に困ってるタクシーの運転手さんから見たら、このバイパスを造らないとどうよ、という話になったりする。その通りなのですが、でも困っていることは、そこはけっこう遠いじゃないですか。

(会場笑)

という話と、麻布警察署の署長くらいだったら、取り締まりくらいはできる。そのくらいのソリューションならなんとかなるかもしれない。あとはもう1つ。これは今、渋滞に困っている人が真っ先に考えるべきは、「都市の道路整備計画でも道路の取締法でもなく、自分が必要なのは実は渋滞抜け道マップではないか」です。

そうした3段階くらいがある。そういった中で、ここの渋滞に困っている人に対して「そもそもこの道の設計がおかしいのだ」という話は、確かにその通りではあるのですが、一方で渋滞で困っているときは無力なのですよね。

ですから、そうした話をやっぱり、一緒にして考えちゃいけないと思っています。これはこれ、とやっていくべき。一方で今、渋滞で困っている事実を冷静に見極めるというようなかたちで分けて考えることが大事かなと思いました。

西村:非常にわかりやすい例でありがとうございます。おっしゃるとおりですよね。

それではですね、まだまだ。僕自身、みなさんもお聞きしたいことがあると思いますが、時間になってしまいましたので、これでおしまいとさせていただきます。ありがとうございました。

(会場拍手)

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