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データサイエンスは何を変えるのか?(全8記事)

なぜ、日本人はネットバンキングを使いたがらないのか? FinTechが変える、お金との付き合い方

2017年9月1日、BOOK LAB TOKYOにて、トークイベント「データサイエンスは何を変えるのか?」が開催されました。書籍『FinTech大全』の監修を担当し、株式会社マネーフォワードにて取締役兼Fintech研究所長として活躍する瀧俊雄氏をモデレーターに、『機械脳の時代』の著者である加藤エルテス聡志氏と、楽天株式会社の執行役員である北川拓也氏が、テクノロジーが変える暮らしや社会について語り尽くします。

イベントのきっかけ

瀧俊雄氏(以下、瀧):みなさん、今日は花金のいい時間のところ、男たちが機械脳を語るというテーマでお越しいただきまして、ありがとうございます。マネーフォワードの瀧と申します。

今日の会議をそもそもなんで企画したかというと、もともと私とエルテスは大学時代ぐらいにちょっとした就活仲間みたいなところでつながって。だから、もう13年ぐらいのお付き合いになります。

当時はぜんぜん違うことをしてたんですね。僕は野村證券の研究員になる予定で、エルはP&Gに行く予定でした。P&Gに行ったあとも神戸で会ったりしていて。

そういう付き合いだったんですけど、ある日、八重洲ブックセンターに行って、最近出した『FinTech大全』がどこに置いてあるかなと思って探したら、その上にエルテスの本があって。「これも縁だからなにか混ぜたイベントしようぜ」ということで今日のイベントを開催することになりました。

FinTech大全 今、世界で起きている金融革命

今日の流れなんですけれども、お互いに自分たちが本を執筆した経緯や背景について5分〜10分ずつぐらいお話したあとに、楽天の北川さんに加わっていただきパネルディスカッションをできればと思っています。最後8時半ぐらいに終わりになる予定ですので、よろしくお願いします。

じゃあ、流れ的にそのままですけれども、先に僕のほうから。

加藤エルテス聡志氏(以下、加藤):そうですね。

:あっ、すみません、今日はハッシュタグを「#機械脳」でつけているので、ここにつぶやいていただければなんらかのかたちで拾いますので、ぜひ。こういうのってみなさん恥ずかしがってしないので、ぜひ積極的にやっていただければと思います。

加藤:ハッシュタグで反応を見つけたら、イベント中でもフォローしますね。はい。じゃあまずは。

「FinTech」とは

:2016年の4月に『FinTech入門』という本を出しまして。

FinTech入門

このFinTechという言葉は、金融業界や政策の場では、大事な言葉の1つになっています。一番典型的な例だと「未来投資戦略」という経済政策の優先順位があるんですけど、だいたい3番目から5番目のあたりにFinTechが2年連続であげられています。

平たく言うと「今の新しい技術を使うと新しい金融のかたちができるんじゃないか」ということです。例えば、スマートフォンを全員が持っているという想定をすると、金融って昔思ってたものと全く変わるんじゃないかとか。

あるいは、私がよく言う話なんですけど、「ATMが3年後にいらなくなるんじゃないかな」と思っています。例えば「世の中全部、オートチャージ型のSuicaが使えたら、それで十分じゃないか」と。あるいは、iPhone7とかApple WatchにSuicaをつけられますから、もうそれだけで生きていける可能性もある。

さらにインドのようなところに行くと、指紋認証をマイナンバーにくっつけて、指紋とリンクしたウォレットですべての支払いが終わるみたいな、けっこうかっ飛んだ世界まである。

今まで、FinTechという1つの人気言葉というかバズワードをちゃんと解説するものがなかったので。マネーフォワードは家計簿や会計ソフトを提供するソフトウェアの会社ですので、「現場の人が解説するとどうなるのか?」というかたちでご提供したのがこの本になります。

辻は当社の社長で、私はその創業メンバーの1人です。

こういう解説本を出すと、世の中では「池上さんみたいにいろんなことを説明してくれるんじゃないか」ニーズが高まっているので、がんばって池上さんのモノマネをやるみたいな、そういうところに連れていかれる。というのが私の書籍のご紹介です。

これの応用編で『FinTech大全』という、もっともっと掘り込んだ本も1冊ありまして、それがこの前出した本となります。

加藤:「もう読んだよ」という方、いらっしゃいますか? 『FinTech入門』か『大全』か。

(会場挙手)

加藤:お、読んだ。

:「買ったけど、読んでない」? 堂々とあげていただいて。

(会場挙手)

加藤:「買うつもりはない」という方?

:買うつもりはない(笑)。

加藤:いませんね(笑)。

「考える」という行為を機械が代替しはじめた

:どうしましょう。エルのほういってみます?

加藤:そうですね。じゃあ私のほうも自己紹介と本の話をして。お互いの本につっこみを入れながら、会場ともインタラクティブにやろうと思います。

改めまして、加藤エルテス聡志と申します。

先ほど瀧君が紹介してくれたとおり、もともと彼とは大学時代に縁があって、それからもう十数年経ってるわけなんですけれども、私のほうは金融ではなくて、統計とかデータサイエンスのほうにキャリアが進んでいきました。

機械脳の時代―――データサイエンスは戦略・組織・仕事をどう変えるのか?

この本(『機械脳の時代―――データサイエンスは戦略・組織・仕事をどう変えるのか? 』)を書いたきっかけはというと、もともとコンサルにいたんですね。コンサルをやっているといろんな質問を受けまして。「加藤さん、うち、データをうまく使えないんです」というふうに言われるんです。それが1社や2社じゃなくて、ほとんどの会社からそう言われる。

どの会社もデータをうまく使えていないということがあって、「これはたぶん共通するニーズなのかな」と思ったのがデータの領域に進もうとしたきっかけです。

この本について言うと、そうですね……今日のニュースだったら、北朝鮮がミサイルを撃ってきて「うわ、大変だ」という話をしてますよね。あれは誰がどう見ても武器なわけですよね。ミサイルを見て「あれは武器じゃない」という人はいない。

じゃあデータサイエンスはどうなのか? 形が見えないわけですよね。なので、ミサイルを「あれは明らかに武器だ」と言える人でも、データサイエンスを見て「これはとんでもない武器だ」というふうに判断するにはちょっと工夫が必要なんですけど、僕はこれはすごく大きな武器だと思います。

「機械脳」というタイトルは、別に「物理的に脳にインターフェースを突っ込もう」みたいな、ロボトミーの話をしてるわけじゃなくて。はじめて人間以外が何かを「考える」という時代に入ったよ、という話をしています。

今まで、人間がつくった道具はいろいろあったわけです。動力を代替したり、移動力を代替したり、いろんなものを代替してきましたけれども。はじめて「考える」という行為を機械が代替しはじめた。

「機械がはじめて人に代わって考えはじめますよ」「大きな変化にありますよ」ということの象徴的な単語として「機械脳」という言葉を入れさせてもらっています。

中を見ると、別にデータサイエンスがうんぬんという小難しい話じゃなくて、「実際にノンデータサイエンティストとしてどんなふうに過ごしていったらいいのか」ということが書いてある、そんな本です。

これもちょっと聞いてみましょう。「買った」という人?

(会場挙手)

おっ、買った。「買って、さらに読んだ」? おっ、手が……。

(会場挙手)

おっ、読んだ。すばらしい! 「買うつもりはない」っていう方は?

(会場笑)

よかった、居ませんでした(笑)。

「API開放」が象徴する金融業界の変化

加藤:今日はそんな話をしようと思います。8時半ぐらいまでですね。中には次の予定がある方もいらっしゃると思いますので、退席もいつでも自由です。わりと緩くやりたいと思います。

ハッシュタグも使っているんですけれども、狭い会場なのでなるべくインタラクティブにやっていければなと思っています。では短いですけれども、自己紹介に代えさせていただきます。

:よろしくお願いします。じゃあ、まずお互いへの掛け合いなんですけれども。スライドにいくつか前哨戦的な1枚があったと思うので……。

(スライド「なぜ古い金融業界がAPI開放に動いた?」)

加藤:はい。『FinTech入門』を私も全部拝見して。そこで、まず印象的だったところ……。

政府も含めて、コンサル時代、いろんな古い業界を見てきたんですね。そういう会社、社会、コミュニティって、変わるのが億劫だったり、なかなか変わりたくない人たちがいたり。古くて大きな業界であればあるほど、変わることに対するアレルギーが強かったりします。

私は典型的には医療の世界でそれを感じました。たとえアルゴリズムが医師よりも判断精度が高くて、見逃しリスクも低いということが論理的にはわかっていたとしても、みんなが新しいものを取り入れられるわけではない。患者側であっても医師側であっても、それはあまり関係ありません。それがいいか悪いかの議論は別にして、技術的に優れているものが常に取り入れられるわけではない。

でも、FinTechについて言うと、本当ここ数年、急激に変化が訪れたなと思っています。最も象徴的なのが、「APIとして銀行がいろんなトランザクションを公開してくれますよ」というところに、シンボリックに表れているなと思います。「いったいなんでそんなことが可能だったのか?」というのをこの本を見ていて不思議に思いました。これってなんでだと思う?

なぜ、ネットバンキングを使っている日本人は2割しかいないのか?

:みなさんが今どういうお金の支払いの仕方をしているかというと、だいたい4割〜6、7割は現金で、残りがカードとSuicaというパターンが多いと思うんです。

銀行の取引をするときに、日本人はまだまだ2割ぐらいの人しか、インターネットバンキングを使ってないんですよね。8割ぐらいの人たちは銀行で振込をするとき、まだATMに行っている。

ここ2、3日ぐらい記事になっているのは、高齢者はキャッシュカードを使わずに窓口に行ってる人が10分の1ぐらいいる、と。

私がエルに2万円送るというと、実はアプリとかぜんぜん使わなかったり。モバイルバンキングを使わない人って、日本はまだすごく多いんですよね。

でもさすがに、あと30年後にはそれはない、たぶん10年後もないんじゃないかなと思うんですけど。「じゃあ、3年後はどうなんだ?」とか、そもそも「銀行がもうちょっとモバイル対応してほしい」と思うときに、けっこう大きな壁の1つが、アプリが使いにくいことだと思っていて。

加藤:確かに使いにくいよね(笑)。

:銀行さんのアプリ、ものすごく工夫されていると思うんですけど、UXがあまりよくないケースが多いんですよね。

それはいろんな理由があると思います。消費者が誤認してはいけない構造であったり、セキュアにすればするほど、なにか悪いことがあったときに、それを保証される度合いが広くなっていくので。

生得的に金融機関さんのアプリはつくりづらくなるというか、供給者の思うデザインが非常に反映されやすくなると思います。その結果、進んで使いたくなるモバイルアプリではなくなることも多いです。

1クリックショッピング時代、人は決済手段を気にしなくなる

:「その結果、本当は第三者がアプリをつくったほうが使いやすいものが出来上がる」というケースが出て来るわけなんですね。民間企業が金融アプリをつくって、特定の銀行のお金を動かすとか、自分で暗証番号入れてそれで終わるみたいな。

自分の銀行の、自社で提供するATM、窓口、アプリじゃないところで、金融機関の取引が生まれる。というのが、アプリがいっぱいある世界で生きていくときに当たり前になっていくと思います。

一番いい事例ってたぶんAmazonで。アプリで買い物するときに、どこのカードで払ってるかとか、認証手段ってほとんど意識しないと思うんですよ。うっかり『機械脳の時代』を検索して、そのまま1クリックでどんなカード使ってるか認識せずに買っちゃって、本が届いて「そういえば買ったな」みたいな感じになると思うんですよね。

そういう、「本を買いたい」「家のために積み立てたい」という経済取引が発生したとき、人間って決済の手段をあまり気にしたくないのかなと思います。

それの最たるものがたぶん1クリックショッピングなんですが。「銀行界もいずれ1クリックショッピングで使われるような支払い手段になっていくべきじゃないか」というのが、このAPI開放の思想の大もとにある発想です。

なので、決済や振込などの行動そのものってそれ自体には価値がないっちゃないんですよね。「どうしても俺は銀行のATMで振込をしたいんだ」っていう人はあまりいらっしゃらないと思います。普通はそうじゃないんですよ。振込をして得られるものがほしいだけであって、決済手段って別にどんなかたちであってもいいんですよね。

そういう意味では、決済手段はどんどん透明化していく傾向にある。どうせやるんだったらそれを徹底的にできるようにしよう、というのがこのAPI開放に向けた動きで、行政も非常にサポートしてくれたというのがこの2年間です。

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