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AV出演強要・性被害。私たちの取り組みとこれから(全5記事)

性暴力被害者たちがカミングアウトに込めた想い「自分が発信することで、被害を根絶したい」

今、AV出演強要問題も含め、性暴力被害に関する刑法などが見直されています。そのための活動を続けてきた認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウが、AV出演強要問題の解決へ向けた取り組みを伝えるトークイベント「AV出演強要・性被害。私たちの取り組みとこれから」を開催しました。ヒューマンライツ・ナウがAV出演強要被害調査報告書を公表したのは2016年3月ですが、それから状況はどのように変わったのでしょうか。性暴力被害問題に取り組む当事者らとともにこれまでの活動を振り返り、残された課題などを語り合いました。

刑法性犯罪を変えるためのアクション

山本潤氏(以下、山本):ショックを受けているだけでは物事が前に進みませんので、議論の場にたとえ届かなくても、実際に私たちがどういうことを体験したのか、これはどういう被害であるのか。そういう当事者の声を伝えたいということで、「性暴力と刑法を考える当事者の会」を立ち上げました。

そして、なにも知らないのでは議論になりませんので、刑法学者から刑法の基本を学んだり、実際の裁判例からどういうふうにこの日本の裁判や司法の状態がなっているのかを学びました。そうして2016年に、お手元にも配布しました『ここがヘンだよ日本の刑法(性犯罪)』という冊子をつくりました。

実際の裁判例をもとにして、この日本の刑法性犯罪のおかしなところを明らかにしています。とても好評で、現在までに2,400部作成して配布しました。

刑法は、このように議論が進んでいくんですね。2014年の9月に松島みどり法務大臣が、強姦罪が強盗罪よりも刑期が軽いのはおかしいということで、私がショックを受けた話し合いの「性犯罪の罰則に関する検討会」が2014年から立ち上がりました。

そしてその翌年に法制審議会が開催され、法務大臣の答申を受けて、今回、刑法の改正がされたんです。けれどもその間に4人、大臣が変わっています。

この間の議論を見ていただいた方にはおわかりのように、けっこう危うい状況もすごく多かったです。「本当にこれ、今国会で変わるのかな?」という不安をすごく感じながらも、私たちもキャンペーンの活動をしていました。

もともと性暴力の実態を反映した刑法をつくってほしいという思いから、昨年9月に4団体でビリーブ・キャンペーンを立ち上げました。「ちゃぶ台返し女子アクション」の鎌田華乃子さんという方がいらっしゃるんですけれども。この方は「コミュニティオーガナイゼーション」というものを日本で立ち上げた方です。

このコミュニティオーガナイゼーションは、このキャンペーンで重要な役割を果たしています。説明するお時間がないので、資料の最後に載せています。これは、社会的に立場の弱い人の声を結集してアクションを起こすという、実践的で理論的な方法です。このフォーマットにもとづいて動けたことも成功の一部かなと考えています。

活動の成果として、本当におかげさまで、みなさまのいろいろな後押しもあり、法律が変わることになりました。また「同意ワークショップ」というものを広めていっています。キャンパスレイプで、「泥酔していたら同意」というような考えは違うんだという、文化を変えるような考えを広めて、学生や若手社会人も参加するキャンペーンもやりました。

4団体の結束

昨年9月19日に、私たち4団体と、先輩の活動家の方をお呼びして、キックオフミーティングを開催しました。これがめちゃくちゃ重要でした。

この会議は、午前10時から午後5時までかかりました。4団体が集まるとけっこういろいろな考えや価値観があると思うんですけれども、全員の合意にもとづいてビジョンを設定することができたと思います。

そのことってすごく大事です。選択と集中ですね。限られた時間と人の中で、刑法改正だけにこだわって、それだけをやるというふうに決めることができました。

あと、内部対立を避けるということでも重要だったと思います。いろいろなトラブルが発生したとき、あるいはゴールが近づいたときは妥協を迫られることが多いです。その時にすごく価値観が揺れるわけですね。

でも、私たちの目標は「今国会で必ず刑法を改正する」。できれば本当は条文を変えてほしいけれども、叶わなければ条件を附帯決議につけると明確に定めました。そのために妥協点を探りやすくなり、お互いに前を向いて進むことができたのではないかなと思います。

これはこのキャンペーンのプロジェクトの活動で。タイムラインです。はじめこのグラフを見たときはなんのことかさっぱりわからなかったんですけれども。定期的にイベントを行って盛り上がりをつくって、ゴールに進むということだとイメージしています。

そのための戦略もいろいろありました。街頭やオンラインで「性暴力と思うものはなんですか?」というアンケートを取ったり、ご自身の体験をお伝えしてもらったり、マンガや動画などのさまざまな媒体で伝えることができました。また、オンラインで最終的に5万4,000人近くの方の署名も集めています。

そして、先ほどお伝えしたように、同意ワークショップを開催して、性に対するカルチャーを変えるという試みをしたり、アートイベントやダンスを通じて発信をするということがありました。

傷を晒しながら、それでも明るく

私自身は主にロビイングを中心に回っていたので、議員のほうに行くことが多かったです。2月に私自身の被害の経験と必要な支援を書いた本を出版しましたので、それをもって議員のロビイングに行き、反応がいろいろと返ってきました。

13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル

その議員の方に、私たちはどういう被害に遭って、それはどういう経験で、本当はこういう支援が必要だったけれども日本にはそれがなかった、という話をしていきました。

これはやっぱり、けっこうしんどかったです。このように話すことに慣れてきたのもありますけど、やっぱり常に自分を晒す、傷を晒すということでもあります。また、すごく特別な目で見られてるのではないかと恐れを抱くような、そういうしんどさともありました。

いろいろなメディアに取り上げられてよかったんですけれども、被害者としてクローズアップされるしんどさもありました。それで6月初めにメキシコに逃避旅行に行きました。これは微妙なタイミングではあったんですけれども、やはり海外に行って、誰でもない自分に戻ってきたことがすごくうれしい。そういう経験だったと思います。

それから参考人招致で国会でお話しして、伝えるという役割が果たせたのかなと思います。とにかく、6月16日に刑法性犯罪が改正されて、この活動のどこがよかったのかを議員に聞きに行ったところ、「とにかく明るかったよね」と言われました。このように前向きな活動をして、共感を生んで賛同してもらえたということが大事かなと思います。

ビリーブ・キャンペーンだけではなく多くの団体が長年働きかけてきた積み重ねの結果と、そのようなポジティブなアプローチ。この動きのなかで、現実に大きな侵害をもたらす被害があるということを認識してもらった、ということがこの変化につながったのではないかなと思います。

しかし、刑法は改正されましたけれども、まだ実態が追いついていない現状があります。そこで、新しい団体を7月7日に立ち上げました。こちらについてはまたあとでお話しできればと思っています。ありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:山本さん、ありがとうございます。非常に傷を見せながら、しんどいなかでもポジティブにやることで具体的な成果に結びついていったという、すごく勉強になりました。

「自分と同じ性被害を受けている女性が増えている」と聞いて

では、パネルディスカッションに移りたいと思います。コーディネーターの後藤さんお願いします。

後藤弘子氏(以下、後藤):今日は8時までしかないということで。1人1時間差し上げてもいいぐらいのものですけれども。短い時間の中ですが、お話をしていただきたいと思います。

私は、先ほどご紹介があったような法務省の検討会で参考人として話をしたり、アダルトビデオに関しては団体としていろんな活動をしてきました。今日はとてもすてきな3人のゲストをお迎えできて、本当にとてもワクワクしています。

勇気ある被害者の方がカミングアウトされて、それが社会の制度や意識を変えていく。それを今日みなさんと一緒に共有したいなと思います。

まず最初に、くるみんアロマさんからお話をいただきたいなと思います。カミングアウトするというのはすごくエネルギーもいるし、先ほど潤さんからもお話ありましたように大変なことなんですけれども。じゃあどうして「カミングアウトしようかな」と思われたのか、まずお聞かせいただけますか?

くるみんアロマ氏(以下、くるみんアロマ):私がこういうことを話そうと思ったのはけっこう長い理由があるんですけれども。経緯はYouTubeで掲載していますので、もしよかったら見ていただきたいなと思います。

私は5年前にこういった強要被害に遭って、その時はもうぜんぜん塞ぎ込んでいて、こういったことを話すつもりはぜんぜんなかったんです。けれども、メディアの方に同じように被害を受けた女性が増えていると聞いて、やっぱり許せないと思いました。

そして私も、夢を利用されました。本来は音楽がやりたくてこの話に乗って。まあいろいろとあったんですけど。いきなり面接の時に「この子はヌードもできます」と言われたり、サイパンに行った時にいきなり「『脱ぎ損』って言葉知ってる?」みたいな感じで。最初と言ってることがぜんぜん変わってきて、話がどんどんAVの方向に近づいていくんです。

最初はもう、そんなことをこれっぽっちもぜんぜん思ってなくて。でも、どんどんそっちのほうに流れていくように話が仕向けられて、もう知らぬ間にほかには選択肢がなくなってしまうという現実がありました。

私もこれは自分の自己責任だと思っていたんです。でも、最初はAVをやりたかったわけでは本当にぜんぜんなかったので。同じように望まないかたちで被害に遭っていく女性がいるという現実が、本当に許せないと思った。なので、こういったことを話そうと思いました。

自分が発信することで、被害を根絶したい

……そうですね、いろいろ話したいことはあるんですけど。やっぱりその時って、周りの方に相談できなくて。ライトハウスさんのような支援団体も知らなかったし、相談窓口があることはぜんぜん知らなかった。だから、誰にも相談できなかったんですね。

でも、親身になって話を聞いてくれる方はたくさんいるので。こういうことを発信して、もし悩んでいる方がいたら、1人で悩まないでいろんな方に相談してほしいなと思いました。

あと、自分がこの被害に遭って、なにかを始めるときに必ずマイナスから入るようになって。AVやったということで自分の中の自信がなくなっていて、次に新しいことを始めるときにも「過去のことが知られたら嫌だな」となる。

とにかく新しいことを始めるのに、もう0からじゃなくてマイナスから始まるという現実が今もあって、本当につらい思いをすることもけっこうあるんですけど。

そういうふうに、考えなしに夢のためと思ってそっちのほうに足を踏み入れてしまった女性が、今後傷つくことというのはけっこうあると思います。私もこういったことを発信し続けて、1人でもそういった被害が増えないように、被害を根絶したいという気持ちでこのお話をさせていただいています。

その当時、精神・身体ともにきつくて、けっこう寝れない日々もあったので……。そういった被害が減ってほしい気持ちで今回もお話しさせていただきました。

ということで、YouTubeでもいろんなところでお話しさせていただいている模様が見れるので。もしよかったらくるみんアロマのYouTubも見ていただけたらうれしいなと思っています。

後藤:ありがとうございました。またあとでお話しいただきたいと思います。

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