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「新聞がなくなる日」 河内孝×ひろゆき(全5記事)

ジャーナリズムを続けたいなら、給料下げろ--ひろゆき氏×毎日新聞・元常務が語った、新聞社の生きる道

斜陽産業と言われ続けながら、未だ体力には余裕を残す新聞業界。しかし現状維持が厳しくなっているのもまた確か。毎日新聞・元常務の河内孝氏と西村博之(ひろゆき)氏は、印刷や販売などにムダが多い、業界の構造的な問題点を指摘し、日本の新聞業界が生き残るには「給料ダウンしかない」と結論づけました。

専売制に甘んじる日本の新聞社

ひろゆき:じゃ次のテーマで。日本の新聞社が生き残るには?

河内:これはなかなか……。

ひろゆき:生き残れるんですか?

河内:新聞社が紙の新聞で生き残っていこうというのは、なかなか長期的には難しい。

ひろゆき:紙自体はなくなっていくけれど、新聞社は残るかも?

河内:新聞社がどう生き残っていくかを、僕が毎日新聞で考えていたわけなんですけど。その前に日本の新聞社ってどうやっているかを見てもらいたいのですが。 

ひろゆき:話を聞いていると、給料を3分の1にするだけで保つような気もしますけど。

河内:「うん」っていうこともないんですけど、112の新聞社があって2万1,000件の販売店がある。このほとんどが専売といって、朝日は朝日、毎日は毎日、読売は読売しか売らない。日本独特の販売形態です。

だって、角のコンビニ行けばアサヒビールでもキリンビールでも売っているでしょ。なんで新聞販売店行ったら読者が欲しいものを選べないのか。これも専売制の問題なんですけれど。

ひろゆき:ふーん。独自の構造と、その構造を維持するコストが高いと……。

河内:そういうこと。あなた頭いいね。それだけ言ってもらえれば、フリップ要らないですよね(笑)。

ひろゆき:ええっと、すみません(笑)。

河内:要するに広告1兆円で、新聞の販売売り上げ1兆円、両方(とその他合わせて)の3兆円を店と配り合ってやってきたんですけど、考えてみればおかしいに決まってます。日本の新聞社の数だけ印刷工場があったわけでしょ。

日本の新聞社の印刷工場っていうのは、夕刊を刷るときに昼12時から2時間、朝刊を刷るときに夜11時から朝の2時、3時くらいまで。

ひろゆき:1日5時間くらい。

河内:少年マガジン刷っている大日本印刷とか行ったら、24時間回して刷っている。3交代で。ところが日本の新聞社は深夜労働があるものだから、1日回していないのに3交代制なんです。だから3倍人手がかかるってことでしょ?

ひろゆき:え? 朝刊担当と夕刊担当と、もうひとつは何をやっているんですか?

河内:休んでなけりゃいかんって言って。当番、非番、明け休みっていう。

ひろゆき:(笑)。そういう感じなんですか。

河内:別に労働条件を悪くしろと言っているわけじゃなく、大手町に読売新聞が輪転機18台置いて、築地に朝日新聞が輪転機何台も置いて、毎日も何台も置いて……。みんな(まとめて)一社で刷れるじゃない?

ひろゆき:まあ、みんなで協力し合えばいいじゃん、って。

河内:その方が効率性が高いじゃないですか。

販売力ではなく、質で勝負する時代へ

河内:そうすると新聞記者の人は、「いや、最後の締め切りのところに特ダネが入って、先に刷ったら損じゃないか」と言うんだけれど、9.11のときも何でも、新聞で事件の発生を知る、ということはもうないわけですよね。

ひろゆき:まあ、確かにそうですね。新聞で特ダネを知るってことはほとんどないですよね。

河内:調査特ダネで、大阪特捜部の人が何かやったとか、が特ダネなんでしょうけど……。

アメリカの地方を回っていてインターチェンジを降りると、大体、プリンティング・デポというのがあるんです。印刷工場なのですけど、そこに十何種かの看板がかかっている。地方の新聞がその地域で印刷センターを作って時間を配分しながら、印刷してるんですよ。

僕は愚かだから、地方の新聞社が先に刷ると特ダネを逃がさないか、聞いてみたんですよ。そうしたら笑われて。

彼らも地域の独占だから、ネタは競合しない。ハイパーローカルでやってますから。そして、どちらかというと、先に印刷した方がいいと。何故かというと、早く印刷が仕上がって、早く読者に届けられる。機械が故障しても先に刷っちゃえばいい。

ひろゆき:早い者勝ち(笑)。

河内:そういう感じ。全然、発想が違って面白かったですね。日本の新聞社がやったらいいと思うのは、紙を各社バラバラで買っているのを一括して原料購入会社を作ればいい。印刷は地域毎に共同印刷会社を作ればいい。

販売は、戦前、昭和26年はそうだったんですけど、共同販売といって、ひとつの新聞店に行けばどんな銘柄もあって好きなものを配ってもらえる。そうすれば愚かにビール券で釣るとかなくなるわけですよね。

ひろゆき:ほー。販売共有化しちゃうと、販売力と関係なくなっちゃうじゃないですか。工場も一緒だと、新聞の質、それだけで勝負しなくならなきゃなりません?

だって、読売新聞ってジャイアンツが好きで買っているだけで、内容が好きなんて人はあんまりいないじゃないですか。

河内:去年、一昨年、ついに(読売が)朝日を質で抜いたと言ってね。ある調査で読者にいろいろ聞いているんですけれど。読売は質的にも向上したと自負しておられるし、逆に朝日は低下したのかもしれない。ブランド力というのは残っているとは思うのですけれど。

あなたの言われたことは正しくて、新聞って何で買っているかというと、一言で言えば、そこに載っている記事の質を買う。プラチナチケットのナイター券が欲しかった時代があるかもしれないし、ビール券が欲しかった時代もあるかもしれないけど、新聞社も経営が苦しくなってそんなことができなくなっちゃった。

だから今こそ、生産、流通過程を合理化することで、大変つらいけども、それでもジャーナリズムやりたいというなら、給料水準を下げてやれば、まだまだ十分できる。アメリカの新聞社がやった経営合理化よりもまだまだジャブジャブだから、というのが大事なんだ。

新聞社が削るべきは管理部門?

ひろゆき:ちなみに毎日新聞時代にいらしたときの話でいいんですけど、「給料3分の1にするけど、おまえら働くか?」と言ったら何割くらい人が残ると思いましたか?

河内:日本の生活水準が上がると、あんまり新聞記者の給料は下げたくなかったね。むしろ生産工程とか、流通過程とかをなんとかして……。朝日新聞が2年くらい前、売上が3,400億円くらいです。その65%、実際は70%近いんじゃないかと思うのですが、生産と流通と販売経費に消えているわけですよ。

ひろゆき:ふーん。人件費ってそれより少ないんですか?

河内:20%弱じゃないかな。しかも、それは新聞記者以外の人もたくさん入っているわけで。別に新聞記者以外はクビにしちゃえばというのは乱暴だけど、共同印刷、共同購入、共同流通、共同販売になれば、当然そういう管理部門って要らなくなるでしょ?

ひろゆき:ええ。

河内:そうすると、僕なんかよく考えていたのは、当時は毎日は1400-1500人。新聞記者採用の人はいると思うんですけど、そのうち部長職以上の人っていうのは、はっきりいえば上がった人たちですから要らないとすると、1100人か1200人くらい。これは大事にしたいし、いい仕事をしてくれるならむしろ給料を上げてもいいと。

その代わり、3,000人から3千数百人の社員を、1,000人くらいにすればいいんじゃないかな。

ひろゆき:優秀な人だけ残して、優秀じゃない人は非正規雇用でお願いします。

河内:優秀かどうかは別にして、新聞社・マスメディアの、特に報道部門ってネタしかないわけでしょ。ニュースコンテンツしかないので、コンテンツを取ってくるその部分を切っちゃお終いだと思うし、それなりの待遇をしてやらないといけないと思っている。その前に体質的に、まだメタボを削れるところはあるんじゃないかな。

ひろゆき:ちなみに朝日、読売とかは仲は悪いんですか? 紙の共同共有とか、工場の共同共有とか、やればいいじゃないですか。言ったことはすごく正論なんだけどやんないのかなと思って。

河内:それは部数が減るからですよ。朝日新聞は800万部割りましたけど、それを維持できるのは朝日新聞しか売らない(から)。朝日新聞の統制下によって販売店は、開業資金から、運転資金まで、がんじがらめになっている本社から、目標達成10%増とかいうので必死になって。

可哀想に大学のバイト生が、奥さんところに「すいません」とか言ってマンション回っている訳ですよね。ああいうことによって支えられているわけだから。

それが共同販売で「いらっしゃいませ。どういう新聞をお渡ししましょうか」という商売になっちゃったら、必死になって積み上げた"バベルの塔"とは言わないけど、"天ぷらの衣"がアッという間に剥げていっちゃう。

ひろゆき:紙の共同購入だったら、部数に別に影響しませんよね。

河内:紙の共同購入は戦争中にやったんですよ。統制時代は。

ひろゆき:そうなんですか。

"しがらみ"から抜け出せない理由

河内:やればいいと思うんですが、毎日新聞と今度一緒になるスポーツニッポンと紙の共同購入をやろうとしても、結構大変でしたから。

ひろゆき:何で大変なんですか?

河内:しがらみがあるんじゃないですか? それぞれの購入担当者と製紙屋さんとの関係の……。

ひろゆき:もうちょい余裕があるんですよね。お金がなかったら、しがらみなんて言ってられないじゃないですか?

河内:彼らにとってはしがらみが生命線だから。一歩置いて見るから、余裕があるように思えるけど、中に入ってる人はボタンひとつ掛け替えるのも、天地がひっくり返ったようなもの。ダチョウの集団がライオンに追いかけられると、最後は砂に頭を突っ込んじゃうって言いますけど、やっぱり見えなくなっちゃうんだよね。

ひろゆき:ふーん。

河内:構造的には不況産業だから、常識的には不況カルテルを結んで、共同購入とか共同販売をしなければならない。

なぜできないかというと、日本の新聞業界には監督官庁がないんだよね。役所ができる前から、かわら版であったから、お上ができる前からあったので、取り締まるやつがいないわけね。言論の取り締まりはあるけど、生産・ビジネスを取り締まるやつがいないから。

きっと日本の合理化や産業再編って、お役所が実際旗を振っているわけじゃないですか。だけどそのお役所がないんだよね。(監督官庁がない)最後の産業だから、体質改善は大変なのかな。

ひろゆき:再販制度みたいな特殊なものがあるので、通常の民間(業者)とは変わってくるのかもしれませんね。そう考えると、わりとしがらみでダメになっていくよねって。本当に新聞ダメになっちゃう可能性あるわけじゃないですか。

河内:このままいけばね……。

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