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トークセッション:小倉崇氏(全2記事)

渋谷のど真ん中で農業を始めてみたら…? とある編集者が都市型農業で見出した経済的価値

毎月第3木曜日に開催している「これからのシブヤ」を語り合うトークイベント「green drinks Shibuya」に、渋谷・道玄坂のライブハウス「TSUTAYA O-EAST」の屋上に畑を作り、農薬や化学肥料を一切使わずに野菜や米を育てている小倉崇氏が登壇しました。そもそも、ふだんは編集者をしているという小倉氏が渋谷のど真ん中で農業を始めたきっかけとはなんだったのでしょうか。また、そこから見えてきたこれからの渋谷の経済活動とは?

渋谷のライブハウス屋上に畑を作り、野菜を育てる

小倉崇氏(以下、小倉):こんばんは。小倉と申します。ふだんの本業では、出版や広告の企画制作をしています。

去年、『渋谷の農家』という本を出しました。渋谷の道玄坂というラブホテル街のど真ん中に「TSUTAYA O-EAST」というライブハウスがあるんですけど、その屋上で畑を作って、野菜やお米を育てています。

渋谷の農家

じゃあ、ちょっとまず……。

司会者:はい。動画を。じゃあみなさん、見てください。

(動画が流れる)

小倉:これは2015年11月に初めて渋谷でお客さんを招いて行なったイベントの様子です。

ライブハウスの屋上で1.5メートル×3.5メートルのプランターを、3つ作りまして。その中で農薬も化学肥料もそんなに使わないで、四季折々の野菜のほか、去年からはペットボトルを使ってお米を育てたりもしてます。この日は200名ぐらい、家族連れの方や地元の方など、いろんな方が集まってくださいました。 

このイベントにには渋谷区に住んでいる子どもたちが多く来てくれたんですけど、当然、渋谷区で野菜を育てたり、土をいじることもあまりなかったと思うので。自分の手でその場にある人参を食べるというのがすごく楽しかったみたいで、子どもたちは喜んでくれました。周りは本当に、360度ほとんどラブホテルの看板ばっかりなんですけど(笑)。

以上のような感じで、今年の8月で丸2年になるんですけど、こういうかたちでライブハウスの屋上で畑をやらせていただいています。

「渋谷で農業」を始めたきっかけ

ちゃんとしたプレゼンテーションとかもなく、渋谷の農家の立場で来ているので、渋谷の経済ということあまり語れることないような気もするんですけど。

僕は「weekend farmers」という農業ユニットをやっています。そもそもこれをやるきっかけになったのが、僕自身ずっと東京で暮らしていたのですが、2011年の東日本大震災があったときに、水や食べ物などが買い占められてガランとしたコンビニとかスーパーを見たときの恐怖感を今でもすごく残っていて。

やっぱり自分が食べるものを自分で育てている人が一番強いんだな、という思いを2011年の3.11のときにすごく感じました。それから、なにか機会があったら、自分も農業のようなことをしたいなあと思ってたんです。

そんなきっかけをずっと待っていたら、神奈川の相模湖で自然栽培をしている油井(敬史)くんという若い農家の方と知り合いまして。今日(会場に)来てますけど。

無農薬で、化学肥料も使わないで、なおかつ肥料も使わない。ほとんど土の力だけで、野菜を育てている。彼のほうれん草を食べさせてもらったときに、本当に今まで自分がスーパーで食べてたほうれん草と、まったく味が違っていました。それで驚いて、僕は距離も近かったのでちょこちょこ通わせてもらい、その農業技術みたいなところを教えてもらおう、となりました。

そうなったときに、初めて農家さんの経済事情を目の当たりにするようになりました。やっぱり新規就農で収量もそんなに上がらなくて、なおかつ機械もそんなに入っていない。本当にてんやわんやしている。でもおいしいものを一生懸命育ててる農家さんなんですけど。

では、そんな農家さんたちの生活が経済的にちゃんと回っていくかというと、実はそんなことはぜんぜんなくて。本当に僕はその、彼の農家としての生活を見るときに、同じ1万円を稼いでいても、「こんなにも1万円の稼ぎ方と重みがぜんぜん違うんだな」と痛感しました。

であれば、彼の野菜がとにかくおいしかったので、野菜のファンを増やしたいと思いました。僕自身、出版や広告の企画制作をしていたので、最初は相模湖の畑を今でいう農体験みたいなかたちでオープンにして、いろんな友人、知人を招いてイベントをするようになりました。それが2015年の頭ごろです。

それをやっていたら、実はこのライブハウスを運営している会社の人と知り合いになって。最初は「渋谷でマルシェをしてくれませんか?」みたいな話だったんですけど、その当時から、国連大学のところとかもういっぱいマルシェはあったので。

それよりもうちょっと自分たちらしい活動がしたいな、といろいろアイデアを出してたときに、たまたま屋上に芝生だけが敷いてあって他はなにもないというのを聞いて。「じゃあ畑を作らせてください」とお願いをして、作ったのがこの畑です。

「食べるため」以外の、都市型農業の価値

今日の「渋谷経済のこれから」というところでお話をすると、この渋谷でこういうかたちで畑をすることによって、飲食の方や個人で宅配をとってくれるようないろんなお客さんと、神奈川の相模湖で農業をやってる油井くんをつながることができました。

都会から生まれた経済という話でいうと、都会で野菜を買ってもらうということ、ひいては日本の地方の農家にまできちんとお金が流れる。そういう1つのお金の循環ができたんじゃないかなと思っています。

それと、最初は油井くんの野菜のファンを増やそうと思って、都市型農業ということで屋上に畑を作ったんですけど。実際にやってみると、自分たちが気付かなかったいろんな価値を見る人によっては見つけてくれていて。

1ヶ月くらい前かな? ある病院で、脳梗塞などになった方のリハビリをずっと専門にされている女性職員の方が来てくださいました。その方は13年くらいその仕事をされているらしいですけれども。

精神障害の方の就労支援などはNPO団体が各所あるそうなんでが、脳梗塞などでリハビリを終えた方の就労支援というのは残念ながらあまりない。そしてその方は、ずっとその現場を見ているので、手弁当でずーっとそういった方々の就労支援をたった1人でやっていたんです。

その方がなぜ僕らの畑になんで来られたかというと、勤めてらっしゃる病院が3〜4年後に全部リニューアルをして変わると。そのときに、屋上にかなりフラットな空間ができる。「そこで畑をやりたいんです」という相談で来られました。僕らの活動をたまたま知ってくださったんですね。

ではなんでその病院の屋上で畑をするかというと、障がいを持った方々に屋上で野菜を作ってもらって、その野菜を病院のカフェや入院食なんかに回していくことができれば、そういった方々の仕事にもなるし、ちょっと新しい病院から生まれるコミュニティみたいなものができるんじゃないか。ということでご相談に来ていただきました。

これは、僕らではやっぱり考えられないことで。「あ、こういうふうにして、ご自分が働いている環境とか、地域の解決のツールの場として、畑っていうのを活用しようと思ってくださる方がいるんだな」と。それは本当にけっこう、目からうろこでした。

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