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東京・渋谷の街から考える エンターテインメント×地方創生(全11記事)

渋谷活性化の機運醸成はまず居酒屋から 街全体をフィールドにしたシブヤ大学の挑戦

2017年6月28日、地域ブランディング協会が主催となったセミナー「東京・渋谷の街から考える エンターテインメント×地方創生」が行われました。同会にはエンターテインメント、音楽業界を牽引し、地域活性化にも積極的なヤマハとポニーキャニオンの事業者も登場。第2部となる本パートでは、シブヤ大学学長の左京泰明氏が東京都・渋谷を舞台にした地域活性化の事例を紹介しました。

2017年は日本のアニメーションの節目の年

太下義之氏(以下、太下):はい、村多さんありがとうございました。3つ事例の紹介がありましたけど、そこに当てはめたかたちで3つのステップの紹介もあって、仕掛ける、それから気づきを与える、そこから芽生えてくるということでした。これをあとの議論の中でも、もう1回取り上げて議論していければと思います。

アニメを使った地域活性化というご紹介があったのですけれど、今日ご参集の方は、ご存知の方も多いかもしれませんけれど、実は今年2017年は、日本のアニメーション100周年という節目の年なのです。

アカデミックな観点からは、日本の最初のアニメはなにかについていろいろと議論があるらしいのですけれども、3本くらい候補がありまして、いずれにしても、それは全部1917年に公開なので、どの作品かについては議論の余地があっても、100周年ということには変わりはないということらしいですね。

おそらく、もうちょっとするといろいろな動きが目立ってくるのではないかと期待をしてるところです。

そうしましたら、お待たせしました。4人目になりますけど、シブヤ大学の左京さんのほうからプレゼンテーションをお願いいたします。

左京泰明氏(以下、左京):じゃあ、座ったままお話させていただきたいと思います。

今日はここに出させていただく機会を得たのは、「渋谷ズンチャカ!」のほうを4年前から「おとまち」さんと一緒にご一緒させていただいてるというご縁で、ここに来ております。

3つのセクターで社会を見てみる

私はNPO法人シブヤ大学の代表として、2006年から今11年目になりますが、この渋谷の街をフィールドに。シブヤ大学自体は生涯学習だったり、まちづくりだったりということを目的とし活動している団体になります。

私の略歴になりますが、現在はシブヤ大学以外にもいくつかのNPO法人の理事であったり、あるいは自治体の評議員等をしています。テーマに関しては括弧で括ってますけど、それぞれ福祉ダイバーシティであったり防災であったり、キャリア教育であったりというような分野になっています。

私自身なにに興味があるのかということを申し上げますと、3つ、円の中にセクターがわかれてる図があるんですが。まだそこまで馴染みがないかなと思うんですが、社会の中のいわゆるセクターというものですが、パブリックセクター、ビジネスセクター、それからノンプロフィットセクターあるいは市民セクターと呼ばれる、その3つのセクターで社会を見てみるとしましょう、と。

おそらく、今日ここにいらっしゃるみなさんはビジネスセクター、企業で働かれてるみなさんか自治体で働かれてるパブリックセクターの方々かなと思うんですが、私自身はこの3つめのサードセクターとも呼ばれてますが、この市民セクター、ノンプロフィットセクターに興味を持って、その領域で仕事をしています。

世界で最古のNPOは日本のお寺?

まあノンプロフィットセクター、市民セクターというとあまり馴染みがないかも知れませんが、例えば欧米などではNPO法人だけを指すのではなく、そこには市立の学校であったり、病院、教会なども含まれますね。

ピーター・ドラッカーさんをお好きな方も、ここにいらっしゃるんじゃないかなと思うんですが、世界で最古のNPOは日本のお寺だとも言われています。

ですからNPOというのは、日本に馴染みのない団体ではなく、古くから日本の中にある団体ともいえましょう。ですが、まだ日本の中ではそれを専門に仕事として従事している人は、まだまだ少ないのかなと思います。

私自身はそのNPOセクターの、とくに経営について興味があります。先ほど事例にもありました、石見神楽の振興協議会さん、それから唐津小唄の話、これもNPOでしたよね。それらの団体がいかに成果を上げ、また事業的に、あるいは経済的にもきちっと成立し、持続可能に活動していくか、このあたりに興味があります。

それを成立させるためのいろいろな手法を、実践を通じて研究しているというかたちですね。さっそく今日のテーマに入っていこうと思うんですけど、シブヤ大学自体は2006年から11年目になりまして。10分で話すのはむずかしいので、ご興味のある方はホームページなど覗いていただけると幸いです。

簡単にいうと、渋谷区の街全体を架空の大学のキャンパスに見立てて、さまざまなところを教室として、さまざまな人を先生と見立てて、講座を開催してます。これまでに1,000を越える講座を開催し、学生登録者数は25,000人になってます。

シビックプライドとは、都市に対する市民の誇りを指す言葉

毎年120講座くらい開催しますから、今では1,000講座を越えてさまざまなテーマでやってます。参加費はすべて無料で、実費だけかかるという仕組みになってます。この辺をどのように運営しているのかご興味がある方は、また個別に聞いていただければと思います。

そんな活動を2006年からしておりまして。(スライドの)文字が小さくて恐縮なんですけれど、左上には生涯学習と書いてあります。街の人たちと出会い、いろいろな相談を受けながら活動がだんだん広がって、コミュニティのサポートであったり防災だったり、福祉だったりなどですね。最近では、渋谷区の行政の職員研修なども企画したこともありました。そのように活動が広がってきています。

緑色に線で括っているのは「渋谷おとなりサンデー」と書いてあるんですが、今日の主題と関係があるので、後ほどご説明しようかなと思っております。

今日なんですが、私なりに考えてみたいなと思ったのが、本催事の主旨であります、イベント時だけではない、継続的なシビックプライド醸成につながる仕掛けって一体なんだろう、ということです。やっぱり確認しておかなければいけないのは、シビックプライドって何? ということですね。まだまだわかりにくい概念かなと思います。

こちら、紫牟田伸子さんという方と伊藤香織先生という方が共著で書かれている、『シビックプライド』という本からの抜粋ですが、一言で言うと、「自分たちが街を作り動かしているという自負」と書かれています。

シビックプライド―都市のコミュニケーションをデザインする (宣伝会議Business Books)

シビックプライドとは、都市に対する市民の誇りを指す言葉です。日本語の郷土愛といった言葉と似ていますが、単に地域に対する愛着を示すだけではないところが違います。自分自身が関わって地域を良くしていこうとする、ある種の当事者意識に基づく自負心、それがシビックプライドということです。

コミュニケーションポイントはデザインできる

先ほどから当事者意識という言葉も何回か出てきましたけど……それに基づく自負心が、シビックプライドというものらしいですね。

じゃあそれはいったいどのように育まれていくのか、ということなんですが、シビックプライドは住民や地域団体が自ずと持つものなので、それ自体をデザインすることはできません。しかし、シビックプライドを盛り立てていくことにつながる街と住民の接点、すなわちコミュニケーションポイントはデザイン可能です。というのが、この本の中で書かれています。

と言っても、なかなか難しいんですけど。例えば街と住民の接点、コミュニケーションポイントとして軸を設け、その中に広告キャンペーンであったりワークショップフェスティバルイベント等々の手法が(スライドに)書かれています。

さまざまなやり方で、街と住民がコミュニケーションをするということですね。あるいは先ほど長谷部区長が出ていらっしゃいましたけど、長谷部区長が直接市民に語りかける、こういったこともコミュニケーションポイントの一つかも知れません。

それで、今日お話をする「渋谷おとなりサンデー」なんですけど、今年から渋谷区の事業として実施され、その事業をシブヤ大学がプロポーザルを経て、受託業者として一緒に運営をしている事業です。

こちらは何をテーマにしているかというと、「隣人祭り」をお聞きになったことがある方、いらっしゃいますか。フランスのパリで、とあるマンションの中で孤独死が出てしまった。で、住民がそれをきっかけにお互いの食べ物を持ち寄って、中庭でパーティをし始めた。それが今ではフランス・パリから、ヨーロッパ中に広がっている。こういう取り組みなんですけど、これの渋谷版を、ぜひ渋谷区でもやろうじゃないかということなんです。

みんなで街を運営していくために必要なこと

ちょっと長くなるんでこの辺は飛ばしますが、要は同じような課題が渋谷にもある、ということです。

みなさんなんとなく想像できると思うんですけど、渋谷だけじゃないです、東京都で考えてもいいんですけど、地域の町会・自治会にみなさんは参加してますか。商店街に参加してますか、ということなんですよ。

そういったものに参加してる方々の年齢を思い浮かべてください。若い方々な感じがしますか? そうじゃないですよね、ということなんですよ。

これはいろいろ構造的な問題もあるんですが、地域の住民たちが担っていた防災、子育て、美化、あるいは民生委員といった、地域の重要な役割っていうのは、今でも行政と一緒に地域が担い続けています。しかし、そういった世代の人たちだけで運営できるわけではないですね。

これをどのようにしていこうか、とくに渋谷区では、東京都や日本全体の中でも20代・30代・40代といった方々が割合多い区なんです。そういった方々が参加し、また住人だけじゃなく、在勤・在学者、それから訪れる方も含めて、それをコミュニティのメンバーと捉えてみんなで街を運営していく。こういったことにはなにが必要なのか、これを考え実践していく取り組みが渋谷おとなりサンデーというものになります。

プロセスは割愛しますが、先日6月4日に「渋谷おとなりサンデーの日」というかたちで第1回を実施し、渋谷区内のあちらこちらで……39ヶ所だったかな、地域の方々が主体的に自らの企画を、場を開いて、そこにいろんな方が参加していったという場ができました。

そこではもちろんロゴやビジュアル・アイデンティティ、Webサイトがあったり、キャンペーン的な手法があったり、などなど。渋谷おとなりサンデーの日自体は、イベントの日として実施されたというようなことになります。

「まずはみなさんが火付け役となって、この取り組みを盛り上げましょう」

ですが、中でも一番力を入れたのはこのワークショップです。これは地域の、ふだんお住まいだったり、いろんな活動をされてるNPOだったり企業だったり、市民の方々に、事前にシブヤ大学の活動を通じてつながってる方々にお声掛けをして、「まずはみなさんが火付け役となって、この取り組みを盛り上げましょう」というような対話をしていったんですね。

場所も工夫しまして。会議室じゃなく、渋谷の中で一番広い座敷がある居酒屋を押さえ、そこで会議をし、飲み会をし、こういったことをやってきました。

この事業を単にイベントとして終わらせるわけにはいかず、いったいこの取り組みの目的から考えた成果とはなんなのか、その指標はいったいなんなのかということを、専門家の方と一緒に作りながらやってます。

そこで出てきているのがこういったことなんですけど、ポイントとしては持続可能性であったり、結果よりプロセス、この辺が重要なんですけど、結局、何箇所できた、何人来た、というようなことだけじゃないんですね。そのプロセスになにがあったか、そこで人々の意識の変化がどうなっていったか、それがどうなってつながっていくのかという、プロセス自体に意味があるんだというようなところをどう評価に落としていくか、といったことを考えています。

だから単年度の取り組みじゃなく、これは長年続けていかなきゃならない取り組みではないかと考えています。

ということで、駆け足になってしまったんですけど、私なりに継続的なシビックプライドの醸成につながるような仕掛けというのは、いくつかのルールがあるような感がけっこうあると思います。いくつかを紹介すると、まずそれは市民としての主体的な参画が取り組みなんだろうと思います。

結果だけじゃなくプロセスを重視すべき

なぜかと言うと、それは当事者意識ということなんですけどね。一過性で去っていくわけではない、そこにコミットし続ける当事者としての意識が必要なんじゃないかと思ってます。それから次に、結果だけじゃなくプロセスを重視すべきだということです。

結果というのは、作られたイベントだったり立ち上がった団体であったり、目に見えるもの、数えられるものに比較的なるんですが、そこだけ見ていれば本質を見失ってしまう。やはりその中の、目には見えにくい意識の変化だったり、行動の変化を見定めていく必要があるだろうなと。あるいは、人と人との関係性だったりと。

あとは、それを行うには絶対的な時間が必要だろうということです。先ほど明治神宮の森のお話がありましたけど、100年前に、100年後に自然の森に還る設計がされた森なんですけど、100年とは言いませんが、1ヶ月や1年でなされる取り組みではないんだろうと。

これはシビックプライドの醸成イコール地域づくり、まちづくりも一緒だと思うんですが、やっぱり時間が必要なんだろうなと思います。

最後に、結局人々の認識の変化、自分と街に対する、地域に対する認識の変化、結果としての行動の変化というものが折り重なっていったときに、それが文化になっていく。文化というのは土ですから、その土が次の時代の人を育んでいくというプロセスになると思います。

駆け足になりましたが、今日の主題に対しての私の考えは以上になります。ありがとうございました。

(会場拍手)

太下:はい、左京さんありがとうございました。たいへん充実した内容で、左京さんに基調講演していただいたらよかったのではないかと思って聴いました。とくに最後の、どう評価してしていくのかっていうのは本当に重要な論点ですよね。

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