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ユニーク人事組織に学ぶ、これからの『働き方』とは(全6記事)

神戸市長「役所の現実はクリエイティブの逆」職員の“やらされ感”をなくす地域貢献制度とは?

デジタル時代へライフシフトが起こる中、企業として働き方をどう設定していくべきか――。「IVS 2017 Spring」で行われたセッション「ユニーク人事組織に学ぶ、これからの『働き方』とは」では、“個性的”な印象を持つベンチャー経営者や人事担当者に加え、神戸市長も登壇。彼らはなぜユニークな人事制度を取り入れたのか。また、これからの働き方や組織づくりをどう考えているのか。

役所には採用力はない

麻野耕司氏(以下、麻野):では、神戸市久元市長にもおうかがいしていきたいと思います。

久元喜造氏(以下、久元):はい。今、3人のお話を聞きまして、すごくつらい気分です。正直、アウェーというか、なんでこんなところに座ることになったんだろうと。

麻野:ホームですからね(笑)。

久元:本当に役所は時代遅れです。ユニークなことはなにもできないようになっているんです。例えば、先ほどのお話からもトップがどういう人材を採用して、そしてどうモチベーションを上げていこうかというのは、私もものすごく関心があります。

しかし私には、新規採用職員を採用する権限がないんです。人事委員会という別の組織があり、私には権限がない。その人事委員会が、この人とこの人って200人ぐらい決めれば、その人を自動的に私は採らなきゃいけない仕組みになっている。

どうしてかというと、選挙で選ばれた知事や市町村長は、情実人事をするに決まっていると。つまり選挙で応援してくれた人から頼まれた人間を採用するようになると、歴史が教えるところです。なので、別の第三者機関がちゃんとそれを採用しなきゃいけないとなっているわけです。

ですから、市役所の中に人事委員会が、およそ予備校にいかないと受からないような無味乾燥な試験問題を山ほど作る。それで面接も、すぐに予備校でやり方を教えてもらったら受け答えできるような、そんなことばかりやっています。

基本的に役所には採用力はないわけです。さっき安部さんがおっしゃった、この社員が、うちの会社の魅力を語って、そしていい人材をリクルートして採用するシステムはできないわけです。

例えば奇特な職員がいて、一生懸命、この神戸市政の、神戸市役所の魅力を語って「ぜひ神戸市に入ってください」と思っても、無味乾燥な試験を受けて、通らないと市役所に入れないわけです。

ですから、こういう仕組み自体が岩盤規制(注:省庁や業界団体などが改革にそろって強く反対し、緩和や撤廃が容易にできない規制のこと)です。これもやっぱり変えていかないといけないという気がしました。

「役所の現実はクリエイティブの逆」

もう1つは、柳澤さんの話(エイプリル採用)がおもしろかった。経歴詐称してもいいと。しかも、本当に経歴詐称をした人間を採用したとおっしゃっていました。これを役所でやるとどういうことになるか。

麻野:(笑)。

久元:現実に最近、別の自治体であったんです。30年前に、高卒なのに大卒と経歴を偽っていたのが、30年後にわかったんです。でも、その人はすごく優秀でちゃんと仕事をしてた。

ちゃんと仕事していたけど、懲戒免職です。これは、法律理論から言うとそうなるんです。

麻野:はい。

久元:採用は行政行為で、無効な行政行為は、必ず取り消さないといけない。ですから、その前提を欠いていた。つまり採用という行政行為の前提を欠いてたわけだから、これはさかのぼって無効になり、30年後でも採用が取り消される。そんなことになるわけです。

これは不合理だけど、そういうルールなんです。ですから、この人事ということを考えたとき、ルールをできるだけ減らして、そしてクリエイティブな人間を採用して、クリエイティブに育成することをやらなきゃいけない。だけど、役所は現実その逆の方向になっている。それがまず1つ。

神戸市が仕掛ける「地域貢献制度」とは?

これは限界がありますが、神戸市としては、制度としては変えることを改革施行をしながら、その中でやれることをやっていこうとしている。1つだけ、その例をお話しさせていただきますと、それが「地域貢献応援制度」なんです。

麻野:どのような制度ですか?

久元:自治体の職員は、民間企業ならば大きな会社であっても「こういう仕事をやります」「こういうサービスをやります」が、だいたいわかります。特定されています。

市役所は、ありとあらゆることをやっている。地下鉄を運転し、水道を供給し、観光をやり、生活保護をやり、保育所で子どもを受け入れ、義務教育で小中学校生を教育する。ありとあらゆることをやっているわけです。

ですから、この採用された職員が、自分の希望した通りのことをやれる可能性は、むしろ大変低いというのが現実です。そうすると、自分は心ならずもこの仕事をやっているけど、実は別にやりたいことがあるんです。

社会のために役に立ちたいと思って市役所に入ってるはずなので、次々にいろんな仕事、特にゼネラリストを養成する志向の自治体であれば、いろんなことをやっているうちに、自分はこんなことをやってみたいと良心的な職員であれば生まれてくる。

もう1つは、公務員としての職員の立場と、市民としての職員の立場もある。市民としての職員の立場は、普通なら封印しています。このプロとしての公務員の仕事をやらなければいけないから封印をして、自分もやりたくないような仕事をやっている職員がかなりいる。

そういう中で、どうモチベーションを高めていくのか。そして、この職員が自分がやりたい分野で、自分の経験を生かして、地域で起こっている課題に市民として活動できるようにできないかと考えました。

公務員は給料以外の仕事をやってはいけない。例えば会社を経営してはいけない。給料をもらって別の会社で働いてはいけない。講演をしても謝金をもらってはいけない。こういう制約がいっぱいあるわけです。

これを、がんじがらめにするのではなく、許可をする。地域で起きているいろんな課題で、例えば居場所がなかなかない子どもたちに勉強教える。それから非常に荒れ果てている空き家を活用するという地域の課題。

そういうことを解決するNPO法人を作って、そこでわずかながら謝金をもらう。あるいは、そういうソーシャルビジネスをやるような会社を作って、自分が社長になって、問題を解決できるようにできないかということで今そういう制度を作りました。

これは、「公務員の副業を認めるのか」という批判も一部にはありますが、それは公務の公正を損なわないようにきちんとチェックをして、これを許可する。合わせて、そのことによって職員も見聞が広がるはずです。いろんな経験を積んで。

広い意味で、職員としての資質や能力の向上に繋がることにもなります。そこで、この地域貢献応援制度を今年度スタートさせた。公務員も地域の一員として活躍できる、その場合には、わずかながらの報酬をもらってもいいようにしたのがこの制度です。

「どんな事業にするのか」を組織や人事に落とし込む必要性

麻野:公務員の、市の職員の方々の配置のルールや制度の中で、どうすればモチベーションが上がるかを考えたときに、もともとの思いとしてある地域に貢献する、その貢献感を感じさせるような活動を支援する。また、その活動の中で学んで成長すれば、市の仕事にも返っていくだろうと。

久元:おっしゃる通りです。

麻野:ありがとうございます。

柳澤大輔氏(以下、柳澤):これは勤務時間以外ですか?

久元:もちろん勤務時間以外です。ですから平日の夕方以降や、土日とかです。ただ、年休をとってやるのも、別にそれは構わないだろうと思います。

麻野:ありがとうございます。非常に、市の職員の方々のモチベーションを大事にされている。モチベーションクラウドという、いいプロダクトもあるので、あとでご紹介します。……ここは笑うところです(笑)

今4名の方々におうかがいしました。少しまとめたいと思います。経営のトップが人事にコミットする時代になってきたという所感を、安部さんと柳澤さんの話からいただきました。

今、企業を取り巻く環境として、商品市場、顧客から選ばれる市場の中でも、商品がどんどんソフト化している。そのソフトを生み出すのは人材で、経営の中で重要性も高まっている。

安部さんから労働市場が流動化しているとありましたが、人材から選ばれるのも、なかなか前より難しくなってきているので、経営の中で、組織人事が非常に重要である。その中ではトップがコミットするということが大事なんだという、本間さんや安部さんのお話がありました。

では、なにをするべきかと言うと、柳澤さんのお話からも、本間さんのお話からも、利益の源泉や事業というお話が最初に出てきましたが、やはり自分たちがどういう事業をするのか。なんで利益を上げていくのかというところから、しっかりと組織や人事を結び付けて落とし込んでいくことが必要。

そこを考え抜くと、必要なものと必要でないものがはっきりと見えてくる。そのときに思い切って、いろんな反対がありながらも捨てるべきものを捨てると、選んだものが際立って、組織としての文化になり、事業にも返っていく。

最後、柳澤さんのお話にも、本間さんのお話にもあったのが、それをさらにPR、広報まで活用していくことで、その会社の文化も外にも伝わっていく。また文化に合う人が入ってくる。そんなのを作っていくことが、これからの組織や人事なのかなと思いました。

久元市長のお話からは、いろんなルールがある中で、職員の方々がモチベーションを高く働けるようなチャレンジに、神戸市でも取り組んでいるというお話でございました。

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