2024.10.10
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関根健次氏(以下、関根):映画『コスタリカの奇跡』はいかがでしたでしょうか?
(会場拍手)
実は、何度も涙したところがありまして、すごく深い愛を感じるんですよね。
今この世界ってけっこう分断が進んでいるような世界に見えるんですが、コスタリカって国は、1948年に軍隊という存在をもなくすという決断をして以来、ずっと平和しか存在しない。まあ、途中いろいろアメリカとのプレッシャー、ニカラグアとの紛争の危機とかもありましたが、その平和を守るために、平和を愛することがコスタリカ人のアイデンティティにもなってるというほど平和が浸透している国だな、ということを9ヶ月住みながら感じてきました。
ガルトゥング博士は実際にコスタリカに5回行かれたことがあるそうです。「平和学の父」、積極的平和の提唱者である博士にまず、この映画を見てコスタリカをご存知の博士がどのように感じられたか、また平和な国家であり続けてきている、そのコスタリカの挑戦について聞きたいと思います。
ヨハン・ガルトゥング氏(以下、ガルトゥング):こんばんは。非常にすばらしい映画だったと思います。
関根さんからこの映画についてのコメントをするよう依頼がありました。それで1つのやり方として、私がベラベラしゃべるのではなくて、関根さんに質問をしていただいて、それにお答えをするというかたちをとってはどうか との提案をしました。会話みたいになるわけです。
それに入る前に一言だけ申し上げたいと思います。
1つ言えることは、別にけなしているわけじゃないですけど、すばらしい映画ですが、やはり典型的なアメリカ映画でもあります。なぜなら、国や社会を全体としてとらえないで、焦点を個人に当てている個人中心の視点だからです。
確かにそれぞれ個人の方々は非常に立派なことをみなさんおっしゃっていた。それを引用しているところが、たくさん出てきました。それは非常に良いことだと思うんですが、あまりに個人にフォーカスしすぎている。
より私たちが注目したいのは、もっと全体的なイメージです。例えば、統計とか数字に出てくるものを含めて、全体の社会の流れや動き、そういうものを見る視点が大事だと思います。しかしそれがなかったように思えました。
私は何年も仕事の関係でラテンアメリカに暮らしていましたので、ラテンアメリカをずっと直接見てきました。
ラテンアメリカではアメリカが関与したクーデターが頻繁に起こり、それを私は学者として眺めてきたわけです。
ラテンアメリカの場合、例外は少しありますけれども、国同士の戦争というのはほとんどなかったのです。ほとんどの軍隊はクーデターまたは、反政府運動の鎮圧のために動員されたのです。
関根:まずまっ先に聞きたいことは、コスタリカの元大統領の1人で、ノーベル平和賞を受賞したオスカル・アリアス・サンチェス氏についてです。実はオスカル・アリアス氏はガルトゥング博士の授業を受けたことがあるそうですが、そのオスカル・アリアス元大統領が「軍隊をなくしたことで、我が国コスタリカは弱くなるどころか強くなった」って発言をしてるんですね。その発言を聞いて、どのように感じましたか 一般的に言ったらディフェンスレス、守ることができなくなるので弱くなる気がするんですけど。
ガルトゥング:1960年代に私はたまたま英国のコルチェスターというところにあるエセックス大学で社会学の客員教授をしておりました。オスカル・アリアス氏はその時の大学院の学生でした。講座名は「平和学」。社会学部に属していました。ですから師弟関係にあって私が何らかの影響を与えたというようなことを言うつもりはありませんが、1ミリぐらいは関係があったと思います。
(会場笑)
彼オスカル・アリアス氏は、大変口が重くて、あんまり発言しない、質問もしない。そういう学生さんでした。
(会場笑)
大統領になって発言が増えて、成長するにつれて口が非常に軽くなる。軽くなるというのは悪い意味ではなくて、発言が多くなるんだと思います。若い頃は口が重かったけど立派に成長されて素晴らしいと思います。
関根:オスカル・アリアス氏の人間性ではなくて、軍をなくしたことで、国が強くなったという表現についてどう思いますか
ガルトゥング:まず、この話題の背景を考えていただきたいです。そこは白人が入ってきて、もともと先住民の人たちがいたわけです。そういう人たちが、自分たちは虐げられているという意識をもって歯向かうときに、そのために使ったのが軍隊です。ですから国同士の戦争のためというより、国内の鎮圧のために使われてきたわけです。
おもしろいことに他のラテンアメリカの国々には先住民の人たちがいたのですが、コスタリカにはほとんどそういう人たちがいなかった。コスタリカは外から来た白人を中心にできた国です。それで先住民の人たちは、ラテンアメリカだけの話でもないですが、火山というものを非常に恐れるんです。コスタリカの地理的な真ん中に、大きな活火山があるのです。そういうこともあって、そこに先住民の人はほとんど住んでいなかったのです。
そしてコスタリカに移住してきたのは、もちろんスペイン人ですが、その他の多くの人たちはスイスから来ました。山岳地帯の多いスイスから来たわけです。それでスペインから来た人たちは、奴隷が欲しかったわけです。使いやすい奴隷が。
ところがスイスはご承知の通り奴隷制なんかもったことがない国です。ですからスイス系のコスタリカ人は奴隷制に反対しました。長所短所の両方含めて、コスタリカは非常にスイスと近いものを持っている。似たようなものを持っているということがおわかりになると思います。
良い意味でのポジティブな側面としては、スイスは外国に対して侵略をしない。ですから国内において積極的平和を犠牲にしているわけです。それでこの映画に関して大事なことを指摘したいのは、階級があったということです。奴隷制度もあった。それは大きな違いです。そんな中で非常に特徴的だったのが、共産党と教会、カソリック教会ですが、手を結んで奴隷制に反対したということです。
今日はスイスの話をする場ではないですが、スイスにも似たようなことが言えます。しかしそこには良いことばかりではなく「but」がある。それにもかかわらず「でも」っていうことです。
コスタリカは軍隊を廃絶し、体外侵略をしない、消極的平和政策を遂行しましたが、それが自動的に内政を平和にしたのではありません。映画で指摘されたように、例えば深刻な階級格差の問題がありました。それに対して、カトリック教会と共産党が協調して、市民の側から為政権に対して意識的な働きかけがあった結果、福祉制度が導入されました。教育、医療を中心とした消極的平和、積極的平和政策が国政の平和を進展させました。
コスタリカは自国内では消極的平和も積極的平和も成果をあげていますが、対外的には消極的平和に専念し、積極的平和に貢献してこなかった。つまり、中立ということで自分たちは関わらないということです。積極的に手を差し伸べるのではなく、少し身を引いた、そういう体外姿勢をとってきたのです。
スイスも同様です。例えばジュネーブで紛争当事国の代表が(秘密裏に)協議する会議場を提供することがあっても(有料で)、平和のアイデア、紛争解決策に貢献するような積極的平和の対外政策が欠落している。
関根:ここでもう少し日本と関連する質問をしたいなと思うんですが、今この日本の現状で言うと、自衛隊を自衛軍にしようとか、憲法9条を改正しようという話がかなり活発化してきている。残念なことにその中には、北朝鮮などの脅威のために核武装もすべきだという話も表に出てくる時代になってしまっています。
そこでコスタリカに限らず、世界には30ヶ国もの国がそもそも軍隊を持たない、または放棄した国が存在すると。今回の来日および本の中でも博士は、これらの30ヶ国は一度も外国の侵略を受けたことがない、ということをおっしゃいました。
もしも日本がコスタリカ同様に軍隊を撤廃すると、自衛隊を完全に撤廃すると、または災害救助隊みたいなことをするような軍に転換をすると。そうしたときにひょっとしたら、前述の30ヶ国と同様に、31ヶ国目として、その中では人口最大の国として、平和国家ができるのではないかと思います。
ガルトゥング:全く逆の意見からなんですけど、日本は世界で4番目の軍事大国であります。もちろんアメリカが一番です。英国、中国それに次いで日本が大きな軍事力をもっている。そういう大きな軍隊、軍事力を持つためには、仮想敵国というものがなければならず、普通は仮想敵国が必要になります。その1つとして中国、北朝鮮ということで、巷では中国と北朝鮮を仮想敵国とした話題がはびこっています。
しかし私が知る限り、北朝鮮にしろ中国にしても日本を武力で攻撃する予定はないと思うんです。そういう計画はないと思われます。それで朝鮮半島を見ると、朝鮮半島の問題は北朝鮮と韓国との問題ではない。そもそも一番の問題は北朝鮮とアメリカとの問題です。
北朝鮮としてはっきりとわかっていることは、もしひとたびアメリカとの間に戦火が勃発すると、まずアメリカから武力攻撃を受けるのは、地理的には日本にある米軍基地あるいは沖縄にある米軍基地、あるいはグアム島にある米軍基地からだと。そういうところから北朝鮮は攻撃を受けることを念頭に置いている。
ですからそういう中で、日本が自衛隊にしろ国防軍にしろどんなかたちであっても完全に軍備を撤廃することは不可能であると思います。
本を紹介しながらこれが今回ダイヤモンド社から出た本、『日本人のための平和論原題People’s Peace』です。平和論というと学術的になるんですが、そうじゃなくて実践と理論についてで、どういうものをベースに行動がとれるか という内容になっています。
これは主として、東アジアの近隣の諸国を対象として、もちろんアメリカが関係します。逆説的に取られるかもしれませんが、それを中心に論じたものです。ですから逆説的にとられるかもしれないんですけど、私は日本は自衛隊を廃止しろというようなことを言うのではなく、むしろ逆に自衛隊からはっきりした国防軍にするということを主張しています。
そこに大文字でBUTと言いたいんです。根本的に大事なのは、国防軍にして、軍事指針というかガイドラインのような基本的な防衛姿勢を、完全な専守防衛にすることです。それを謳うということです。具体的には他国を先制攻撃しない。短距離の防衛の武器だけを用意するということです。
潜水艦も必要じゃない。そんな遠い距離に届く武器じゃなくて短距離で防衛する。防御のためですから。もちろん飛行機についても長距離を行けるようなものじゃなくて、短距離で防御し、日本の沿岸を防衛・防御する。それから国土を防御する。コスタリカのやり方で「民兵」とでてきましたが、警察力とか民兵力とかが中心となって、そういう国防の仕方をする。それが領土の防衛。
さらに不協力っていう非軍事的なアプローチで、軍隊でも警察でもない市民の力で、ノン・ミリタリーのディフェンスをするっていうことです。ちょうどガンジーのようなアプローチになるわけです。日本の防衛議論、論争の中には、ガンジーの非暴力的なアプローチで国を守るということが出てきてないようです。
ですからこれは中間のステップとして、ゆくゆくはもちろん31番目の軍隊を持たない国になれると思うんです。日本も軍隊のない完全に非武装国家としてやっていくことができると思うんですが、この途中の段階では国防軍をしっかり持つということが重要だと思います。
しかし今やナンバー4の大きな軍事力になっている日本が、急に全部撤廃するようなことは、空想的で不可能なことだから、ステップ・バイ・ステップでいく必要がある。でも日本にできることもあります。それは例えばアメリカ米軍基地に撤退していただくということです。
失礼ながら、今アメリカの大統領はちょっとクレイジーな側面がある。そういう人物の率いる米軍基地が日本にあることが、どんなに危険なことか。そういう人物がリーダーをしている国の軍事基地が日本に点在していることは、どんなに危険な状態かということを一度考えていただきたいと思います。
聡明な日本の官僚たちが、トランプ大統領問題にどう対処するかと検討しているかと思います。霞ヶ関あたりで。ですから今こそアメリカに基地を撤退してもらう大きなチャンスだと思うんです。
完全に軍隊をなくすというのはあまりにも駆け足すぎてる、勇みすぎている。そうじゃなくて、ステップ・バイ・ステップです。まず外国の軍隊、それはアメリカの軍隊ですけど、それに基地から帰っていただくと。
関根:まあ世界には200ヶ国弱の国が存在して、そのうちの十数パーセントが軍隊を持たない国になっている。今の博士の話によると、いきなり日本が軍備ゼロにすることは難しいけれども、理想的にはステップを踏みながら自衛隊を専守防衛用の軍、そしてアメリカの米軍基地に「ありがとうございました」と帰ってもらう。
そういうステップを踏んでいきながら、理想的にいつか世界が軍隊のない状態に持っていく。ということは僕自身も理想だなと思っています。まあここで「そうかな 本当にできるかな」って思いますね。
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