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がん予防が切り開く新しい社会(全4記事)

“完全な予防薬”の開発を目指すには 産学官連携で取り組む、製薬協のビジョン

2016年11月3日〜6日の3日間にわたって、「サイエンスアゴラ2016」が開催されました。キーノートセッション「がん予防が切り開く新しい社会」に登壇した川上善之氏は、「予防薬について考える」をテーマに講演を行いました。

予防薬について考える

川上善之氏:みなさん、おはようございます。日本製薬工業協会研究開発委員会、産学官連携部会長をしているエーザイの川上と申します。よろしくお願いいたします。

私は広島生まれの広島育ちです。会社に入りまして、アルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」の創出にかかわりました。

現在、日本製薬工業協会の専門副委員長としていろいろな活動をしています。今、アジアとの連携というところで、「アジアはおもしろいですよ」ということをみなさんに今日の話でお伝えしたいと思います。

日本製薬工業協会とは

今日のみなさんは、日本製薬工業協会(製薬協)をご存知ない方も多いと思います。現在73社入っている任意団体で、患者参加型医療を実現するということで、多くの国と連携して活動しているところです。

私の所属する研究開発委員会の今年の重点課題なのですが、(スライド)1番目の「サイエンス関連の科学技術政策のフォローと提言」ということで、厚生労働省をはじめ、日本医療研究開発機構(AMED)などと連携をしながら、一緒に政策について意見を出していくということを行っています。

研究開発委員会には部会が3つありまして、創薬研究委員会というのが(スライド)2番目にある、科学技術基盤の整備と強化にあたっています。

(スライド)3番目が、臨床研究会といいまして、臨床研究の推進および基盤整備を行っています。

そして、私が所属しているのが「創薬のための産学官連携促進をする産学官連携部会ということです。

先ほど「アジアが熱い」と言いましたが、アジア製薬団体連携会議(APAC)では、「アジア発の薬を一緒につくりましょう」ということで、長期にわたる活動を行っています。

ここ(スライド内3の2)にありますけれども、今日の主題になる「個人に応じた医療および予防医療の推進への取り組みの検討」ということで、臨床研究部会で活動を開始したところです。

非常に難しいところで、現在の治療薬を開発していくのもかなり難しい中、予防に関しての研究はまだまだ始まったばかりです。

製薬協 産業ビジョン2025

本年度、製薬協は「産業ビジョン2025」というものを出しました。5つのビジョンがあるのですけれども、最終的には、製薬産業がみなさんに信頼される産業となるということなのです。

ここ(スライド図上部)にあげているように、「先進創薬で次世代医療を牽引する〜P4+1医療への貢献〜」ということで、それが本日の主題にお答えするところかなと思います。

このビジョンの中で掲げているP4(個別化=Personalized、予測=Predictive、予防=Preventive、参加型=Participatoryの略)の中に、もちろん予防ということでPreventiveがあります。

我々がここ(個別化)に到達するには、その前にある予測というところがまだ研究段階であるため、到達には難しい点が多々あります。

予防に向けては、医療データベースやその他が必要な部分がありますので、我々も今後さらに調査研究を進めていくことになります。

予防と個の医療

「予防と個の医療」ということを、我々がどうとらえているかを話します。P4+1医療というのは、患者個々の情報に基づく予測と診断による個別化医療・先制医療ということです。

そして、従来の集団の医療から個の医療へ転換するということは、製薬業界にとっても非常に大きな意味を持つということですので、医療の方々とも一緒にやっていくことが要求されます。

まずここの中で、「疾患リスクの予測精度等の技術面での課題がある」と書きましたが、これを克服しない限り予防にはいけないという意味でもあります。この中でポイントとなるのは、遺伝子情報やバイオマーカーということになります。

ここ(スライド下部)にバイオマーカーの定義をしていますが、例えば血圧もバイオマーカーの1つです。それは非常にわかりやすくて、日々自分でも測ることができるものです。

ところが、現在やっている生化学検査や血液検査、腫瘍マーカーなどはかなり高度な技術を持つ専門のところでないとできないというところもあって、我々としても、より身近なところで薬品が開発できる仕組みが必要だと思っています。

完全な予防薬の開発を目指すには

最後のスライドになりますが、私の考えを述べさせていただきました。完全な予防薬の開発を目指すには、どういうことが必要かと考えてみました。

まずは、「病気にならないことを科学的に証明する」。先ほどの石川先生のお話が非常にわかりやすく、そういったものは通常の医薬品の場合には見つからないと考えていただいて結構だと思います。それぐらい難しいと思っています。

その1つ(の理由)は、バイオマーカーがあるかどうか。現在の治療薬を開発する上で、バイオマーカーを頼りに治療効果やその他を調べていくわけですけれども、そういったものが予防的なものに対してあるかどうか。

そして、新薬承認とれるのかということ。やはり科学的な証明がないと新薬承認は得られません。

そして現在のものとは違うビジネスモデルができるのかどうか。そういったところで、まだいろんな面で難しい部分があります。

みなさんもお気づきかと思いますが、予防と言うけれども、そもそも本当に病気になると言えるのかということです。アンジェリーナ・ジョリーさんの(乳がん予防のため乳房を摘出した)お話が非常にセンセーショナルでしたが、みなさんがそこまで思い切れるのかどうかというところもあります。

我々は製薬企業ですので、やはり本当の意味でみなさんが納得できるところで薬を出さなければいけないということです。

本当に遺伝子検査だけでわかるのかどうかですが、遺伝子といってもいろいろあります。本当に遺伝でつながるものと、それぞれの細胞でも遺伝子の変異が起きると、そういうことから病気につながるという2つがあり、非常に難しい問題があります。

アルツハイマー型認知症についても、ベータアミロイドやタウタンパクが蓄積して、それが原因なのかとか、結果なのかとか、そういったこともまだまだわかっていません。

我々は今、それを動かす薬を作ろうとしています。しかし、それで本当にアルツハイマーがなくなるかどうかを見るのか非常に難しいです。

あとはMCIといって、完全なアルツハイマーになる前の軽度のところと言ってもいいのですけれども、そういったものが見られて、それよりもっと前のところを見つけるとなると、技術的に本当に難しいです。

最後3番目の「ベネフィット&リスクのバランス」。日本の場合、ゼロシンドロームといって、予防的なものには絶対に副作用や付加反応があってはいけないと思われがちなんですね。そこのところで、ベネフィットがリスクを上回るものでなければいけないという議論も必要かなと思っています。

そういったところで難しさはありますが、現在日本で3つのバイオバンクという事業が、進んでいます。

その中に「コホート研究」というものもあります。時間はかかると思いますけれども、予防医療の研究を産学官連携で取り組むしかないと私自身は思っています。以上です。ありがとうございました。

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