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『同一労働同一賃金の衝撃 「働き方改革」のカギを握る新ルール』出版記念(全8記事)

非正規の待遇改善は望めない? 終身雇用型の日本は同一労働・同一賃金とミスマッチ

『同一労働同一賃金の衝撃 「働き方改革」のカギを握る新ルール』の出版記念イベント(主催:麹町アカデミア(遊学堂))が、ビジネスエアポート東京で開催されました。雇用問題のエキスパートである日本総合研究所 調査部長の山田久氏が登壇。労働政策センター長の中村天江氏とともに、同一労働・同一賃金をテーマに人事の課題と未来の姿をディスカッションしました。このパートでは同一労働・同一賃金と日本の評価システムの関わりについて言及しました。

欧州の賃金システムを活用

秋山:中村さんは今、厚労省の同一労働同一賃金の委員会にも参加されているようですが、そちらのほうでも、いろんなことをいろんなふうに言う人がいて、かなり意見が盛り上がっているというか、紛糾しているとか、そういった状況にあるのではないかと思われますが、いかがですか?

中村:今、会場で笑っておられる方が何人かいらっしゃいましたが……。

検討会のほうも、まさに山田さんがおっしゃったように、そもそも人権保障であり、男女の差別を禁止するための同一労働同一賃金を、非正規の待遇改善に適用するというのは、かなりロジックに飛躍があってまったく違う話だというところから、議論がスタートしました。

少し補足すると、同一労働同一賃金は、国際的には男女の格差是正から来ているテーマなのですが、日本もそうした話が50年代からずっとありました。80年代になると、非正規の中で一番多いパートタイマーの待遇を適切にするという中で、同一労働同一賃金の1つ手前の概念として均等待遇・均衡待遇が日本でも検討されました。

それがだんだんとパートタイマーだけではなく、有期社員や派遣労働者も含めた非正規労働者の話になってきて、そのあたりからグーッと軸足が非正規問題の方に来た、というのが実態です。

「同一労働同一賃金に一歩踏み出す」というそこだけを取ると、同じ労働をしている人に同じ賃金を払う仕組みをどうやって日本に入れるんだ、とも取れるので、そもそも同一労働なんて測れない、定義できないというのが社会の大きな論調でした。

中村:けれども、日本で一番問題なのはその話ではなくて、その手前にある「非正規労働者の待遇を向上するために」という目標と、同一労働同一賃金の導入の、一体どちらを優先してやるんだというのが、とても大きいのです。似ているようだけど違いますし。例えば、フランスやドイツのような企業横断的な同一労働同一賃金を入れるとすれば、政府のガイドライン案で示されたのとはぜんぜん違う仕組みになるんですよね。

フランスやドイツは、企業横断的に職種別の賃金相場が決まっているので、賃金とスキルの関係が可視化されています。それがいわゆる、同一労働同一賃金のパッと思うときのイメージにつながっている。

そのような「横」の仕組みを、日本の非正規の待遇改善に入れようとしたら、いや、日本はそもそも企業横断的な職種別の労働市場なんかどこにもないし……厳密に言うと派遣の市場はそうなっていますが、それ以外にはない中で、どうしましょう?

今回の方針で一番のポイントは、大陸欧州で企業横断的に「横」に入っている賃金に対する仕組みを、「同一企業内の」雇用管理区分ごとの待遇差の是正という「縦」の仕組みに転換して入れるという判断をしたことです。

今までで言うと、例えば正社員と契約社員の場合、基本給は同じでも、正社員にはそのほかの手当が全部ついていて、有期の社員の人にはゼロということがあるとします。これまでは「雇用管理区分が違うから、ゼロイチはOK」という事態が起きていましたが、それは本当に公平・公正なのかをもう1回整理しましょうと。

横の仕組みを縦に入れた。それが、個別企業の中で雇用制度が完結している日本的慣行への、同一賃金への導入の仕方ですというのが、まず大きな交通整理です。

秋山:ちょっといいですか? 例えば、トヨタで金型を作る人とダイハツで金型を作る人は、欧米だったら同じですよね。でも、トヨタとダイハツだと、もともとの給与水準などもちょっと違います。また、同じ金型工をやっていても、正規の人と非正規の人もいるでしょう。今回は、トヨタとダイハツを一緒にしようという話ではなくて、ダイハツの中の正規の人と非正規の人を一緒にしようと、そちら側に焦点を絞った話ということでよろしいですか?

中村:はい。まずそこが1つです。そして、もう1つ大きかったのが、同一労働同一賃金なので、普通は“同じ仕事なら同じ賃金”というように前から読むのですが、今回のガイドライン案の一番のポイントは、「同じ賃金はどういう同じ労働のときに支払わなければいけないのか」といったように、先に後ろの「同一賃金」の方に注目している点です。

例えば基本給、例えば手当、例えば賞与というように、賃金サイドを分解していき、その賃金の前提は何なのかを決めたというのがもう1つ大きな転換です。

どうしてそんな話をするのかというとですね、実は「同一労働同一賃金の“同一労働”は日本にはない」とみなさんよくおっしゃるのですが、あるんですよ。すでにもうある程度、法律的には、同一労働の判断基準は整理されているのです。どういうことかというと、パートタイマーの待遇改善に関する法改正で、そういうことが盛り込まれているのです。

そのときに、職務の内容、いわゆる仕事内容ですね。それから、人材配置の変更の仕組み。要は異動や転勤がどの程度あるのか、またその会社独自の事情という部分を考慮して同一労働かどうかを判断する、というところまでは、パートタイマーに関してはもう整理されてるんですね。

ですから、それを有期社員や派遣社員に適用を拡大すれば、ある程度、労働サイドの少なくとも一定の基準にはなります。けれども、それだけでは待遇が改善しないから、もう1段踏み込みましょうという話なので、今回は同一労働側を先にいじったのではなくて、むしろ同一賃金側のほうからさらになにを追加でできるのかといった、わりと大きな転換をしています。

秋山:かなり難しくなっているような気がします(笑)。

中村:(笑)。

終身雇用型の日本に短期評価システムの適用はムリがある

秋山:これでも、中村さんね、もともと同一のことなら同一の賃金って、言うてみたら当たり前じゃないですか。これができていないというのは、要するに日本の場合はやっぱり、仕事基準じゃなくて人基準みたいなところがあって、それやったら問題あるから今度はコースにしたという、そういう話ですね、きっと。

中村:はい。

秋山:これは人基準じゃなくてコース基準やから、みたいな。そういった感じで当てはめていったという歴史的背景があるんかなと思うのですが、いかがでしょうか?

山田:まあ、これはもうたぶん釈迦に説法で、みなさんにご説明するまでもないと思いますが、日本の雇用の特徴というのは、基本的には長く……濱口先生が最初に言われた言葉ですが、メンバーシップという、1つの疑似的な家族の一員になるものです。

本当にまさに無期の、無限定とよく言いますが、そこの仲間になろうというわけです。ですから、当然、長期で長く勤めることを前提にその人の評価をしていきます。

ところが、ヨーロッパやアメリカというのは、まあ、実際はとくにヨーロッパなどは長期雇用をやっていますが、基本的に賃金に関しては短期というんですかね。その、今就いてる仕事で評価していこうとする。

日本の場合は人事権が完全に企業サイドにありますから、企業の自由に配転できるわけです。企業の都合でどんどんポストが変わっていったときに、そのたびに仕事の価値も変わって賃金が変動してしまうと、やっぱり生活も大変ですし、納得もできませんよね。

でも、ヨーロッパやアメリカはそうではないのです。ポストというのは、基本的には自分が選びます。いったんそこに入ると、基本的にはそこで仕事して、一定程度の昇給はありますが、次に上がる時は、自分から手を上げて「行きたい」と言うことが基本になっていくのです。キャリアというか、自分のポストというのは、最終決定権は自分にあるということですね。

ところが日本での最終決定権は企業にあります。そこの違いですから。だから、もともと日本では、欧米的な賃金の「今の仕事で賃金を評価する」という考え方がないわけです。いわゆる、非常にはっきりきっちりとできているメンバーシップ型の雇用というのはですね。

だから、厳密に言うと成立しようがないのですね。先ほど中村さんがおっしゃっていたパートの話も、均衡であって均等ではありません。でも、やっぱりそんなに差があるのはよくないだろう、ということで。できるだけ、でも、同じような仕事をしているんだから。

だいたいこれまでの判例だと、たまたま同じ仕事をやっていても、正規の人はいわゆる非正規より2割ぐらい高くてもかまわない。2割……1割ぐらいかな、ちょっとそこは幅があると思いますが。根本的にはやっぱり考え方が違います。

どうしてこれが出てくるのかというと、これもなかなかはっきりわからないところもありますが、私はやっぱり組合のあり方に最後は帰着するのだと思います。

ヨーロッパは……アメリカは歴史が新しいのでもともとヨーロッパを移植していますが、ヨーロッパというのは、もともとクラフト・ユニオンという職能別の組合が発達していき、それがインダストリアル・ユニオンに、もうちょっと産業別になっていったり発展していくわけですが。

働いてる人たちというのは、もともと企業よりも職種や産業に対しての帰属意識が強いわけですよね。だから賃金交渉をするときも、日本は個別労使でやりますが、産業別にやるのが基本です。例えば日本で言うと、電機労連が直接、パナソニックさんやソニーさんなどの使用者団体と交渉して決めるイメージ。

それが個別に降りたときに、ある意味、その職能別、職種別、レベル別の最低ラインを決めていくわけです。そこに対して業績のいいところは「ドリフト」といって乗せる。これはドイツ系の企業がそうですが。以前チラッと聞いたところでは、フランスはそういったものがなく、まったく同一でやるそうですが。

ですから、そういった組合の成り立ちがぜんぜん違うのです。日本は、歴史を調べると産業別の動きのようなものもあったのですが、やっぱり基本的には個社なんですよね。横のつながりが基本的にない。そしてまさに終身型で企業にずっと勤めることが前提となるので、こう決めると。

いわゆる非正規の方というのは短期雇用が前提ですから、まったく違う賃金体系なので、比較しようがないというのが、理屈で言うとそう。そこの問題が根本にあるということだと思いますね。

同一労働同一賃金によって組合が再びハイライトを浴びるようになる

秋山:中村さん、なにかこれに補足することはあります?

中村:今、欧州の組合の話がありましたけれども、同一労働同一賃金では、労使関係や組合はとても重要な点です。

同一労働同一賃金や働き方改革という話に対し、“欧州のようなジョブ型の雇用システムをつくり、流動的な労働市場になっていくのでしょう”ということをよく言われるのですが、今回の同一労働同一賃金でいうと、そちらの方向ではなくて、日本的雇用慣行の中で、労使自治によって賃金を決めるのだ、という中で緩んできたタガを、政府が自ら介入して立法によってキュッと締め直している側面がとても強いのです。

実際に、同一労働のそういった「職務の内容」や「変更の範囲」というところではすでに決まっているので、「その他の事情」という部分をもうちょっとブレイクダウンできないかという議論が検討会の中で出てきました。

例えば労使によって待遇について検討がなされていることは、プラスに評価するという意見も出てきていたので、労使関係がハイライトを浴びてくる可能性があると考えています。

同一労働同一賃金の衝撃 「働き方改革」のカギを握る新ルール

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