CLOSE

スペシャルセッション 小泉純一郎(全2記事)

小泉純一郎が語った原発への怒り「“採算がとれない”と安全策を怠っていた事実がある」

楽天社長・三木谷浩史氏が代表理事を務める新経済連盟主催「新経済サミット2017」の中で行われたスペシャルセッションに、元内閣総理大臣の小泉純一郎氏が登壇しました。現在は政界を引退し、その後は好きな歴史小説などを読んでいたという小泉氏。本セッションでは、そんな小泉氏が2011年の東日本大震災を経て、原発推進の立場から「脱原発」を主張するようになった経緯を語りました。

3.11をきっかけに疑い始めた原発必要論者の主張

小泉純一郎氏(以下、小泉):ご紹介いただきました、小泉純一郎でございます。本日はお招きいただきまして、誠にありがとうございます。

日頃から三木谷(浩史)会長にはなにかとご支援をいただいております。幹事をされている奥谷(禮子)さんからも、よく懇談会しているものですから、たまにお目にかかる機会がありまして。あのトモダチ作戦に対する基金にも多額のご寄付をいただき、ありがとうございました。

今日は30分の時間をいただいております。「なにを話してもいい」「原発の話もしていいぞ、経団連と違うから」ということで。

(会場笑)

今朝、アメリカがシリア軍事攻撃を始めたというビッグニュースが飛び込んできました。今、世界が緊張しています。この話には触れないで、原発をなぜゼロにしなきゃいけないかというお話を30分の間でしたいと思います。

私は総理在任中、原発は必要だと言っていました。しかし、6年前の3月11日、東北地方、地震、津波、福島原発、メルトダウンが起きました。あれ以来、連日のテレビの報道や新聞報道で、あの悲惨な状況を見ていくうちに、「原発は絶対安全だ。他の電源に比べればコストが一番安い。CO2を出さないクリーンエネルギーだ」と、原発必要論者の主張をしていたこの3つの主張、本当なのかという疑問を持ちました。

当時は引退していましたから、かなり時間があったわけです。2009年に衆議院議員を引退しましたから。総理を辞めたのは2006年で、あの事故は2011年です。

たっぷり本を読む時間がありましたから、それまでは好きな歴史小説とか時代小説とかばっかり読んでたんですれど、これはおかしいなと思って原発の本を読み出しました。日本に導入した経緯、世界の事情。そして、あの事故の前から「原発は危険である。やめるべきだ」と言っていた学者らの著書を、読み始めました。

推進論者の言っていた主張、「安全」「コストが安い」「クリーン」これが全部嘘だとわかったんです。「よくこの嘘を信じていたな」と。だから、騙されたといえば騙されたんだけど、騙されたほうが悪い。

このまま黙っていようかとも思ったんだけど、あまりにもひどい嘘だった。勉強すればするほど、よくもこう頭のいい人たちが嘘を展開しているなと呆れて、憤慨しましたよ。

それ以来、まったく考えが変わりました。その理由をまずは話したいと思います。

「日本は大丈夫です」と言ってたじゃないか

1966年にこの商業原発導入して以来、世界各国で事故が起きてる。

まず大事故。1979年、アメリカのスリーマイル島でメルトダウンが起こった。未だに人は入れないし、住めない。1986年のソ連のチェルノブイリ、これまたメルトダウン。未だに人は住めません。あそこで住んでいた子どもたちも、甲状腺がんとか白血病で、30年経っても被害が出ている。

スリーマイル、チェルノブイリの事故のあと、「日本も大丈夫か?」という話が出てきた。しかし、多くの専門家は「日本はスリーマイルやチェルノブイリとは違う。日本の原発は絶対安全です。多重防護体制を敷いています。メルトダウンが起こっても、それに対するいくつもの防護体制。電源が喪失しても大丈夫なんです」「日本人は広島、長崎の原爆の被害に遭っている。非常に放射能に神経質だ。日本人は規律正しい、そして技術者も高度のレベルにある。日本は大丈夫です」と、そう言ってたじゃないか。

ところが、あの福島の事故を連日見ていると、これはおかしいなと思いました。なにしろ「チェルノブイリの事故が起こっても安全だ」と専門家が言ってたんですからね。

当時の科学技術庁の原子力局長までが「日本は大丈夫です。仮に事故が起こっても、放射能なんか外に漏らしません。近くの住民も避難する必要はない。そういう防護体制を持っているのが日本の原発であり、多重防護体制なんです」と言っている。専門家がそう言うんです。

大手マスコミ科学部担当記者は、「原発が安全どうか、そんなことを議論するのは本質的な問題じゃない。『原発は絶対なにがあっても安全だ』という考え方が重要である」と言っている。今振り返ると、よくこういうのを信じていたな、と。

事故のあと、民主党政権だったけども、国会、政府が閣議決定して事故の検証調査委員会ができた。事故のあと、約1年ぐらいかけて結論が出ました。

「経済性がないから」と安全対策を怠っていた事実

その結論が出たあと、畑村(洋太郎)委員長という……「畑」という字に「村」を使う委員長が、所感を述べてるんです。「事故というものは、可能性が低くても、起こりうるというものは起こる。起こりえないと思うことも起こる」と言ってるんです。

その後、国会で黒川(清)さんが委員長になって、事故調査委員会を作った。その結果報告は、あの福島のメルトダウン事故は人災である。津波、地震、これによって引き起こされたというのはわかるけれども、結論は人災だった。

安全対策が十分じゃなかった。福島の事故が起こる前に「まだ十分じゃない」という議論があったんです。ところが、東電は「多重防護してるし、絶対安全です。十分な安全対策をしています」と。すなわち「これ以上したら採算がとれない。経済性がない」と拒否していた。

ところが、あの事故です。3機メルトダウン。あと1機、4機目、もしもこれがメルトダウンを起こしたら大変。最悪の状況はどうなるのか。あの4機目が仮にメルトダウンを起こして放射能を拡散させていたら、福島から半径250キロ圏内の住民は避難しなきゃいけないという想定がされていた。幸いにして、第4機目はメルトダウンせずに済んだ。

もし4機目がメルトダウンしていたら、5,000万人の人が避難しなきゃいかん。250キロ圏内だから、福島から東京、神奈川が入ります。東北全体で5,000万人。1億1,000万人のなかの5,000万人。どこに避難するんですか。避難なんてできっこありません。

そういう状況のなかで、安全対策は不十分だった。なぜ経済性がないからと拒否したのか。今は怠慢だというのはわかったんだけど、それは原発を作る際に守らなけきゃならない大事なことを守っていなかった。

原発を全部やめるとしても、中間貯蔵施設は作らなきゃいけない

原発会社にどういうことを要求していたか。「原発会社はいかなる事情があっても、安全、これを最優先しなければならない」という規定がある。それを軽視したんですね。考えてみれば、最優先したのは安全性じゃなかった。経済性や採算など、経営第一、利益第一、収益第一だということがわかった。

6年経って、未だにメルトダウンした状況をわかってないんですよ。人が近くに立ったら、1分以内で死んじゃうという核燃料棒がどこに落ちているのか未だにわからない。6年経ってロボットを作った。最新科学技術の粋を凝らして、さまざまな機械を入れた。入った途端に、故障してダメだった。

それよりも軽い汚染水だね。地下水を海に流さないような体制も取らなきゃいかん。海側の土を凍らせて壁を作るという最新式の技術も考えていた。本当は去年、完成しているはずだったが、未だに凍らない部分がある。自然の地下水がどこから出てくるのか。

ましてや、世界のスリーマイルのメルトダウンも、日本みたいにこれから核燃料を取り出すというようなことはやっていない。日本が初めてやろうとしている。何百本も。これ、1本1本どこに置くんですか。途中で落としたら大変だ。今、汚染水でも、タンクにもう1,000本近く、あの東電の敷地内でやってる。

できるだけ軽く除染されたゴミも、フレコンバッグと呼ぶバッグで包み、地上に置かれている。「短期間だけ貸してくれ」と地権者に頼む。しかし、そろそろ満杯になるそうなのだが、どこも受入れ先がない。

去年まで作業員が毎日3,000〜4,000人、除染作業に防具服を着て作業していた。暑い夏も寒い冬もあの防護服を着て。防護服は、一度作業に入ったら使い回しができない。放射能を浴びることで、毎日毎日3,000着〜4,000着増える。

近くの自治体に「燃やしてくれ」と。しかし受け入れる自治体がない。焼却場も、燃やせば放射能が出てくる。これから東電は、敷地内で放射能を焼いても漏れないような焼却場を検討してる。

また地震が起きたり、津波が来たりしたら、汚染水はどうするんだろうか。今は処分場がないんですよね。今までは54機の原発が稼働していた。処分場がないのに「いつかできるだろう、いつかできるだろう」と。

未だに世界では、処分場を作っていない。中間貯蔵施設や頑丈な施設を作っている。原発をゼロにしたとしても、最終処分場を作らなくても、100年か200年すればゴミを減らす技術とか、あるいは処分場の中の放射能の濃度を減らす技術とかは出てくるでしょう。中間貯蔵施設は作らなきゃいけない。原発を全部やめるとしても。

世界で1カ所、最終処分場を作ってるフィンランドの現状

世界で1カ所、最終処分場を作ってる場所がフィンランドにある。オンカロというところだけど、3年前に視察に行きました。フィンランドは岩盤でできてる国です。車で走ればわかります。岩盤をくり抜けばトンネルですから。

ヘルシンキの空港に降りて、ジェット機に乗り換えて、沿岸に1時間ほどで飛んでいく。そこから車で沿岸に行くと、船を使って約15分ぐらいで島にたどり着く。上から下まで岩盤でできている島です。

その岩盤をくり抜いて、400メートル地下に2キロ四方の広場を作っているんです。もうほとんどは完成しています。マイクロバスに乗って螺線形の道路を、400メートルにわたって下りていったら、2キロ四方の広場ができているんです。

そこに、鉄とか銅を使って、核のゴミの放射能が漏れないように頑丈な円筒を作る。400メートル地下の広場、セメントをその円筒形の筒に埋め込む。

そして10万年間保管する。人間の体、生物、植物が被害を受けないよう、放射能を外に漏らさずに防ぐためには10万年かかると言われている。100年、200年じゃないです。今は、西暦2000年ですから。

しかも、この世界でたった1つ処分場ができているオンカロ。オンカロというのはフィンランド語で「隠れ家」とか「洞くつ」という意味なんですが、今はオンカロといえば核のゴミの最終処分場の代名詞になっています。

「もう完成してるじゃないか?」と聞いたら、案内してる人は「いや、壁を見てください」と言うんです。そして壁を見ると、壁が少し部分的に湿気ているんです。「この湿気が5万年、10万年して水に変わらないのか。この検査がまだ残ってるんだ」と言ってました。

400メートル地下で、湿気ですよ。それにその湿気が水になってこの処分場を満たすと、また汚染が広がる。それを心配している。これは、まず日本では無理でしょうね。400メートル。地下水すらどこから出てくるかわからないから。400メートルも掘ったら、温泉が出てくるんじゃないですかね。

「ここを開けてはいけない」の注意書き1つにも細心の注意を払う

そして、入り口に上がってきました。ここでも「もう少し問題があるんだ」と、案内人が笑って言いました。「冗談じゃないから聞いてください」と。

「フィンランドは今、原発が4機あるんだけども、このオンカロは2機分の容量しかない」といったんです。2機分の原発のゴミです。容量は2機分。それでも外国の核のゴミは絶対に受け入れないという前提で作っている。あと2機は決まっていない。400メートル地下の2キロ四方の広場でも、2機分の容量しか処理できない。

これを閉めてもう1つ。「5万年から10万年となると、何語で『ここを開けちゃいけない。掘り出してはいけない』という言葉を書けばいいのかってことを考えている」と言ってました。

冗談だとは思うけど。「ここは掘り出してはいけない。見てはいけない」と注意書きを書けば、人間というのは好奇心が強いから必ず掘り出したがる。「その言葉を、1万年、10万年経って読める人類がいるのかな?」と。

今、我々は万葉集も読めない。1000年近く前の百人一首だって、理解できるのは半分ぐらいしかいない。2000年、3000年前のピラミッドだって、考古学者や専門家だって字を読めない。それを5万年10万年まで保管しなきゃいけない。

言葉は時代と共に変わっていくから。どうなっているのか聞きたいんだけど、まだ聞いていない。英語だけじゃダメで、フィンランド語だけでもダメ。「公用語を全部使うか」とかでもダメ。それでも10万年ではわからないだろうと。

30年ぐらい前に「あの人切れるな」と言えば、切れ者といって頭がいい人と思われていた。今「あの人キレる」と言ったら、怒りっぽいおかしい人という意味ですよ。言葉の意味は、時代によって変わっていく。

ほかのエネルギーによる電力不足は1日も起こっていない

毎日新聞の記者が「見たあとの感想を聞かせてください」「別に記事にするわけじゃない」と言って。その人はコラムを持っていました。

そうしたら「小泉元首相、原発ゼロ」という見出しで出した。それまでも講演してたんだけども、新聞の威力というのはやっぱりすごいね。それから「総理の時、推進していた小泉がゼロと言い始めたよ」とすごい反響だった。「総理の時にブレないと言っていたけど、ブレたな」「必要だったのが、なんでゼロになるんだ」と。

推進論者は「小泉さん、ただちにゼロなんて無理ですよ。2〜3ヶ月ならともかく、寒い冬や暑い夏が来たらエアコンは必要でしょ」「今まで原発が全電源の30パーセントを供給してたんですよ。それを太陽、風力? 地熱? そんなのやったって2パーセントがせいぜいでしょ」「30パーセントを原発が担っていたんです。そんなの無理です」と言ってたんです。

ところが、2011年3月に事故が起こった。その日から2013年9月まで動いていた原発は、たった2機。2013年9月から2015年9月までの丸2年は原発ゼロ。2015年9月から現在まで、1機、2機、今ちょうど3機になって再稼働を認めた。原発3機の電力というのは、推進論者が軽視していた自然エネルギーの2パーセント以下ですよ。

今すでに、太陽光発電だけで原発10機分以上の電力を供給している。この6年間、原発ゼロで、北海道から九州まで、日本は1日も停電したことはない。電気は余っている。たまに停電するのは、台風で電線が壊れたとか、そういうとき。

電力が足りなくて停電したことは、この6年間、原発の電力0か2パーセント以下の状況でも、ほかのエネルギーによる電力不足は1日も起こっていないんです。証明しちゃってる。原発ゼロでやっていけるということを。

ドイツは、あの福島の事故を見てから原発ゼロに変えた。与党も野党も。ところがまだ原発が何機か動いている。

「ドイツはいいよ」「フランスが原発の国だから。フランスから買えるから」。ドイツのシュレーダー元首相が来た時にその話をしたら笑ってましたよ、「よく聞かれる」「とんでもない」と。

「ドイツは今、原発ゼロ宣言をして、フランスなど近隣諸国から安くで買ってるんですが、ほかの国に輸出している。すでに原発以外の自然エネルギーで、30パーセントの電力を供給している」「輸出してるぐらいだ。そんな嘘言わないでくれよ」と言われましたけどね。

現にドイツもフランスもスペインも、自然エネルギーをどんどんやっていて、デンマークでも、すべて自然エネルギーでやっちゃおうということになっている。

日本だったら、すでにゼロでやっているから、100年、200年かからないです。今、原発に金を与えていた政府が、自然エネルギーに切り替えて奨励・支援をしたら、10年か20年で原発が供給してる30パーセント程度のエネルギーは、自然エネルギーで十分賄えると思います。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 大企業の意思決定スピードがすごく早くなっている 今日本の経営者が変わってきている3つの要因

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!