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近未来社会予測 ~AI、ロボット~(全3記事)

社会にコミットしていない主人公から見えるものは? 神山監督が『ひるね姫』に込めた希望を語る

グローバル時代のメディア・コンテンツビジネス、AI、VRなど未来を切り開くビジネスパーソンに必要な最旬テーマを語るイベント「SENSORS IGNITION」。その中で行われたセッション「近未来社会予測 ~AI、ロボット~」では、アニメーション映画監督の神山健治氏とメディアアーティストの落合陽一氏が登壇しました。モデレーターはSENSORS.jp 編集長の西村真里子氏。3.11で大きく価値観が変わり、映画『ひるね姫』が誕生したと語る神山監督。作品にはどういった希望を込めていたのでしょうか。

社会にコミットしていない主人公から見えてくるもの

落合陽一(以下、落合):あの映画、主人公が昼寝していくファンタジーの世界と、戻ってくるアニメの中の現実と、僕らが今いる現実と三部構成になっておりまして。3本のトラックが頭の中で「えっ、これどういう意味なんだろう?」ってすごい頭を使うんですけど。めっちゃ大好きなんですよね。

西村真里子(以下、西村):でも3.11をきっかけに、なにもないことがファンタジーであるという思いで創られたということで。現在求められている物語は、逆にヒーローがバシッと助けるものではなくなってきているということですか?

神山健治(以下、神山):今現実に起きていることに目をつぶっていれば、まだまだハッピーなんですよ。

西村:起きているけど目をつぶってた。

落合:安心していればいい。

神山:なのでまず、社会にコミットしていない主人公を描いていくことで、なにが見えてくるだろうと。

落合:あー、それ。わかっちゃった。そうだよ。僕、2011年の時ってあまりこの感情って覚えなかったんです。つまり大人たちはみんな画面の向こう側の方が本当っぽくて、こっち(現実の世界)がフィクションぽくて、どっちかわかんなくなってきた。3.11みたいなこと言ってたんですけど。

僕は実際のとこぜんぜん思えなくて。なぜなら大学4年生だったからなんですよ。なんだけど、この前トランプが大統領になったりとか、イギリスがEU離脱決めたりしたときの方が、僕はグッときて。

「あっ、これヤバい!」「現実がフィクションになっちゃった! どうしよう!」みたいな感じだったんだけど。たぶんあのとき社会に出ていた人は、「こう思ったんだろうな」って思ったんですよ。

僕らの世代、今社会で働く20代にとっての、ブレグジット(イギリスがEUを脱退すること)とか。トランプ大統領当選とかは、まさしく3.11的なインパクトがあって。それは現代としては6年遅れてなんですけど。僕らには今やってきたんですよね。まだ学生でしたらわかんないかもしれないですね。

西村:なるほどね。

モチベイティブなモノを作ってくれるのが若い人の仕事

面白いなあと思うのは、神山監督はいろんなことが起きているものとか3.11も含めて、ここでちゃんと昼寝をするような、ある意味ボーっとしている主人公をもとにしていて。

落合さんの宣伝じゃないですけど。落合さんは今、この本とかもそうですけど、意識をもって今起きてる変化を、ちゃんと理解しながら、意志を持ちながら動くべきだみたいなことを落合さんおっしゃっていて……。

落合:それ、僕の本ですね。

西村:だからこの本の話をしたんですけど。ココネちゃん(『ひるね姫』主人公)みたいに、なにか起きることをフワッとみている方が今の時代いいのか、それとも自分の意志を持ちながら変化というものをちゃんと意志を持っていった方がいいのか。どっちがいいんでしょうね? それこそ、AI・ロボットがくる時代に対して。

落合:僕から言わせてもらえば、現実を舐めながらコミットするところは、大人の仕事なんですよ。

現実って、しょっぱいじゃないですか。それをコミットしなくても、ちゃんとモチベイティブなモノを作ってくれるのが若い人の仕事だと思っていて。僕が若いか若くないかはほっておいて。でも僕が受け持っている学生とかにはそれをしてほしいですね。

つまり今って、研究費がとても集めにくくなっていて。もう本当にやりにくいんですけど。ただウチのラボは潤沢にお金があるように、わりと塩をふるようにしていて。

それには先ほどの企業に、スポンサーについていただいたんですけど。協力してくれる企業の方が不可欠です。でもそういうところは僕ががんばって働くんで。逆にいうと実際にモノを作ったりする若い世代は、あまり現実を見ないでモノを作ってほしいなというところがあります。

無自覚のまま戦力になってもらうのが必要

西村:神山監督はその辺りどう思います? 次の世代とかには、その、あまり問題意識とかを持つよりは。

神山:どうなっていくのかな。希望を込めて今回は作品を作っていて、やっぱり全員にこうなにか、「意識をもって動け」と言うのがなかなか現実的には難しいんじゃないかというのがね……。今までやっぱり、僕が体験してきた事実なんですよね。

でもそういう人たちが……。基本的にはそんなに問題意識を持たない人が多い中で、そういう人たちも戦力になっていってもらう。無自覚で。だから一億総なんたらってのがあったと思うんですけど。

旗を振ったところで、そんなに人の心って実際的には動かないから……。むしろ無自覚のまま戦力になってもらうのが、やっぱり必要なんじゃないかなと思うんですよね。

西村:なので神山監督はアニメの手法でより広く……。それは無自覚って意味ではないですけど、広くみんなに伝えるためにアニメという手法を使われているってことですか?

神山:そうですね。だからなんだろう……感じてもらうしかないし。それはいくら制作で決めたところで、なかなか人の気持ちって動かないと思うよね。

落合:本当にそうです。僕はアートを創ったりとか、優しい本書いたりとか、テレビに出たりしているのとかも、それも本当に感じてもらうしかないんですよね。テクニカルには作れるんですよ。

ただそれは意識が高ければ到達できるんだけど、意識高くて到達するヤツはなにもしなくても到達するから。なるべく感じてもらうしかなということは、あると思います。確かに、その通りだと思うな。

西村:なるべく、みんなが感じてもらえるようなエッセンス、メディアを使うとか使ってやってゆくというところが、今現在求められているこれからの変化の激しい時代は必要なのかな……という感じですかね。

神山:そうですね。だからお説教臭くなってしまう難しさもあるしね。物語を使ってそれを啓蒙しているように思われてしまうことも難しいしね。

西村:今までの神山監督はそういうメッセージを、社会派として、伝えられていたんじゃないかなと思うんですけど。

神山:今回はなるべくそういうことはしないようにして、作品を創ったんですよね。

海外からじゃないとわからない「日本らしさ」とは?

西村:落合さんの作品に対しても聞きたいんですけど。出してみて、これは意外な反応を受けたみたいなことってありました?

落合:僕?

西村:神山監督に聞いて、次は落合さんじゃないですか。自分が作品を出した中で自分が想定しなかったコメントって受けられるものなのかなって。

落合:僕の作品で、想定しなかったコメントを受けるってことは、だいたい海外で展示することが多いんで。フォローディスプレイという、シャボンが変わるディスプレイなんですけど、シャボンってよく壊れるんで、よくぶつけるんですよ。

それをみた外国人が「オー、シシオドシ?」って言ってるんですよ。「ししおどしなわけねえだろう」って言ってたんですけど。

西村:はははは。

落合:でもやっぱりししおどしにしか感じないと言うから。なんか、そういうの僕、めっちゃある。僕は全部、メタリックなフィニッシュでモノをつくるんだけど、全部ジャパニーズ・ライク(日本的)だって言われるんですよ。

僕の意識としてはすごくヨーロッパ・ライク(欧州的)な見た目に思えるんだけど。海外の人から見たらこんなにジャパニーズなモノはないと。なんか緻密で、正確で、テクノロジーで、かつおぼろげで、あやふやなメディアを使った液体とか、あと植物とか、そういうところはすごく、盆栽とかの感じにしか見えないらしくて。

西村:あ、面白い!

落合:僕のは、モチーフとかまったくないんですよ。だから、幽霊とか書いてないし、柳も書いてないし、桜も映さないんだけど。でも日本にしか感じないと言われて。意外な反応しか海外で展示すると返ってこないですね。

西村:でもなにか今の面白いなーと思ったの。今日の基調講演のライゾマティックスリサーチの真鍋(大度)さんとかも、海外でリオオリンピックの閉会式とかやっている中で、日本らしいと言われるところが実は緻密さとか、正確さのとこらしく。彼らの緻密さが「ジャパニーズ・ライクだよね」「日本っぽい」と言われると聞いたので。

どっちかと言うと今、桜に富士山とかよりも、緻密にいいモノをつくるというのがすごく日本らしいと思われているのは、けっこうポジティブにとっていいのかなと。

落合:日本人はみんな緻密だから、ビジュアルのモチーフで日本らしいということに気が付かないんですかね。見た目とか絵の形とかであらわれていないと、日本だとわかんないんですけど、そういうもんじゃないじゃないですか。「なんとからしさ」って。

そのらしさを、自覚するんと思うんですね。自動運転とかで走ると。だってあれ稠密(ちゅうみつ)な人たちとか緻密じゃない人たちがつくったら絶対にヤバいよ!

西村:確かにね。

落合:それはヤバいと思う。

見た人の意見が作品に影響を与えている

西村:神山監督、この間のニューヨークにもあるかも知れないんですけど、海外も国内でも意外な反応……。反応というか『ひるね姫』を見たコメントとかございます?

神山:そうですね……今回感じたのは、映画って本当は一方通行のメディアだったんですけど、インタラクティブ性が生まれてきたなあ、という感覚なんですよね。

西村:どういうところで感じるんですか?

神山:やっぱりSNSとかが発達してきたおかげで、見た人の意見というものが、逆に作品に影響を与えてくるような気がしているんです。僕の作品に関わらず。だから最終的には作品の価値だったり、品格というものをファンの人たちが創っているなあと、感じるようになったんですね。

ゲームって、プレーヤーがいて成立するものだと思うんで。最初からゲームはそうだったと思うんですけど、それをプレイしている人が増えたせいだと思うんですけど。作品に対してもダイレクトに反応が返ってくるんですよね。いい反応もあれば、悪い反応も。

落合:ソーシャル・ネットワーク・サービスを使ってダイレクトに反応が返ってくるということですね。

神山:それを受けとって。今までは受け取るだけだったんですよ、映画って。どうしてもそういうジャンルだったんで。でもそれは自分なりの解釈をぶつけて、それを世に問うと、それに対しての反応が出てくるようになったんです。

西村:面白い! では、完パケのパッケージをつくるというよりも、ある程度、余白を残すというか、議論を残すみたいな方法を。

神山:必要になってきたような気がしますね。

作り手がすべて理解できているわけじゃない

落合:『ひるね姫』、2回目を見にいったときに、嫁とタイトルロールの最中にコソコソっとしゃべってたんですよ。

「これ絶対にじーちゃんの話だって」で、こっちが「いや、父ちゃんと母ちゃんの話だって」って。僕が時間的な未来を語ったら、映画が終わった後、両隣に座っていた人が、Twitterを見てきた人で、「落合さんですか? その感想、めっちゃ面白いですね!」と。「なんで僕がインタラクティブになってるんだろう?」と思ったんですけど。

西村:あ、面白いですね。

落合:もはやそういう感じなんです。他人のフィルターを一回みてから映画を見にいくと、ぜんぜん違うじゃないですか。それがめっちゃ入ってくる世界観なんですよね。

神山:もうそれを込みで作品というものを解釈していかないといけない。これ作り手の方もね、「来たな!」ってものすごく感じるんですよね、最近ね。

西村:それは脅威なのか、それともワクワクするのかどちらなんですか?

神山:ワクワクする部分ですね。だから作り手も、全部を理解していない部分はあると思うんです。特に映画なんかはそうなんです。テレビシリーズとかだともうちょっと最初からお客さんの反応も受けつつ話数を重ねていくという部分があるんですけど。映画というのはつくり上げたモノを「ぼん!」と提示するという部分があるので。

でも明らかに映画が完成するのは、昔から言われていたファンの人のところへ届けて、見る人が見て初めて映画は完成すると言われてましたけど。それの速度みたいなものがたぶん、速くなったんだと思うんだよね。

西村:しかも今勝手に妄想したのが、もちろんファンに対するコメントのところもそうだし、いろんなところが落合さんの研究所もそうだし。

映画の作品に活かせそうな研究とか行われているというところで、つくるところからも一緒にできる仲間が増えたりとか。もちろん「観客も一緒になれる時代になるのかな」みたいなのが、ちょっと今。

落合:でも未来予測って、精度がめっちゃ上がってますよね。

神山:上がっていると思いますね。

人もネットもロボットも並列化していく

落合:最近の映画をみるとねえ、本当に思って。この年代でこの感じだろうなあ、みたいなのにすごくリアリティがあって。今回の『ひるね姫』はめっちゃリアルなんですよ。「あーわかるわかる!」みたいな。

その感じとかは、人と人とのネットワークが強くなったということと、これはよくないんだけど、テクノロジーによる未来予測が当たりやすくなったというのは、イノベーションが起きてないってことなんですよね。

神山:それもありますね。

落合:だって自動運転になるって言われて、もう15年ぐらい経っているんですよ。それでなんなかったら「お前ら、なにやってんだよ」って話なんですが、その予測可能な未来というのは、予測不能な未来よりもよくないんですよね。

神山:SF作品なんかまさにそうで。「未来予測みたいなのが当たりましたね」と言われると、嬉しくもあるんだけど、僕なんかは今を書いているような体感なんですよね。

SF作品が本来担わなくてはいけなかったことは、文系の人間がまずは、むちゃくちゃな夢を放り投げて、それが実現可能かどうかというのは、あとから検証されるはずだったのが、それがもう少なくともできなくなってきたというかね。

落合:逆にテクノロジーサイドの方が、インパクトのあるビジュアルのものとか発想のものが出てくるようになって。そういう意味ではちょっと社会が変わったなと、思うようになったのが……僕が前に『魔法の世紀』って本を書いたときに思ってたことで。

映画の中に実装しなくても、もしくはSFとして書かなくても、フィジカルに出てくるものがそもそも意味がわかんないものが出てくるというのが増えてくるようになって。

昔だったら「SF書いたりとか映画撮ってる人たちが、テクノロジー業界に来たのかな?」と単純に思ったりするわけなんですけど。そこの人材が流動してきたというのはあるかもしれないですね。

西村:今までフィクションを書いてきていた人と、テクノロジーデザインして追いかけていた人が、今フラットになってきている、と言えるのかもしれないですね。

神山:フラットになってきたし、あと知識のアベレージが均一になってしまったというのもあるかもしれないですね。

西村:ちょっと関係ないかもしれない……。今日、展示ブースにタチコマ(『攻殻機動隊』に出てくる情報共有装置)が展示されているんですけど、タチコマみたいに並列でみんなが同じことを、人間もそうだし、ネットもそうだし、ロボットも並列化していくというのが。

神谷:それは間違いなくあると思いますよね。

西村:ちょっと楽しくてどうしましょう。今過去を話したから。

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