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近未来社会予測 ~AI、ロボット~(全3記事)

映画『ひるね姫』は3世代の物語 神山監督が作品に込めた、東日本大震災での心境の変化とは?

グローバル時代のメディア・コンテンツビジネス、AI、VRなど未来を切り開くビジネスパーソンに必要な最旬テーマを語るイベント「SENSORS IGNITION」。その中で行われたセッション「近未来社会予測 ~AI、ロボット~」では、アニメーション映画監督の神山健治氏とメディアアーティストの落合陽一氏が登壇しました。モデレーターはSENSORS.jp 編集長の西村真里子氏。本パートでは、神山監督の大ファンであるという落合氏が映画『ひるね姫』について質問。そこには、神山監督のある心境の変化がありました。

中学生時代から神山監督の超ファンだった

西村真里子(以下、西村):では、よろしくお願いいたします。

神山健治(以下、神山):よろしくお願いします。

落合陽一(以下、落合):よろしくお願いします。

西村:おかけくださいませ。実は我々、事前の打合せから盛り上がってしまってたんですけれど。

落合:中学生のときだった僕が泣いてるって感じです。

西村:あははは。

落合:2002年、僕は中学2年生だったんです。

西村:あっ、そっか!

神山:最初の『攻殻機動隊』の時。

西村:あれですよね、このお2人の組み合わせは初というところで。

神山、落合:はい。

西村:落合さんは今おっしゃていた通り、中学時代というか昔から神山映画監督のファンなんですよね。

落合:もう「超」好きです(笑)。

西村:ははは。

神山:ありがとう。

西村:なので、今日はこの45分で、余すことなく落合さんの愛を伝えていただきながら。神山監督にも、近未来の社会予測、AI、ロボットについて語っていただきたいなと思っております。

2人の魔法使いは、過去・現在・未来をどう見ているのか

では、こちらのスライドいただけますでしょうか? これがタイトルでございます。

落合陽一さんは「現代の魔法使い」と言われることが多いです。神山健治監督もですね、作品によって中身とか伝え方を変えてらっしゃていて「アニメ界の魔法使い」なんじゃないかなあと思っておりまして。

今日はこの2人の魔法使いに対して、過去・現在・未来、どういうものを見ながらモノを作っていらっしゃるのか。もしくは生活していらっしゃるのか。そういったところをいろいろと、根掘り葉掘り聞きながら、2人の類似点を、もしくは違うところを探っていきたいなと思っております。

神山、落合:はい。

西村:それでは、よろしくお願いします。

神山:よろしくおねがいします。

西村:では最初に、自己紹介というか神山さん、ちょうど3月18日ですよね。

神山:そうですね、先週末から新作『ひるね姫』という映画が公開されています。

西村:ええ、ちょっとそちらの方をみんなで改めて見てみたいと思います。

落合:『ひるね姫』、ヤバいっすよ。僕、試写会へ行ったのに、普通にもう1回見にいっているんです。なので、2回見てます。

西村:もう2回見てるんですよね。では始まります。

(スクリーン『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』の紹介版上映)

神山:はい、ありがとうございます。かけていただいて。

6歳から「なぜこのテーマを選んだのですか?」と質問された

西村:この前「ニューヨーク国際子ども映画祭」にも行ってらっしゃいましたよね。

神山:はい、先日ですね。昨日帰ってきたところなんですけど。「ニューヨーク国際子ども映画祭」という、子供向けのアニメーションの映画祭なんですけれども、そこで上映させていただきまして。

西村:どんな反応でした?

神山:えっとねえ、お子さんだけじゃなくて、連れてきているご両親とか、けっこう年の方がいて。500人ぐらいの席がいっぱいだったんです。6歳ぐらいの子どもから「なんでテーマを、こういったものに選んだんですか?」みたいな鋭い質問があって。

西村:すごいですね、6歳で。

神山:映画リテラシーの高さというか、ちょっと気圧(けお)されるぐらい。あの子どもさんでも、こう前のめりでみてくれていたのが、とてもうれしかったですね。

落合:そういった子どもは、なんと言ったら納得してくれるんですか?

西村:ねえ。で、なんて?

落合:なんて答えたんですか?

神山:うーんとねえ、これはネタばれになっちゃうけど、まあここはいいかな。自動運転というのが、1つテーマというか出てくるんですけど。なんて言ったかなあ。

なぜそういうことをテーマに選んだかということに対して、経済事情とか、そういうことをかいつまみつつ話しながら、今日本がぶつかっている問題に対して、その先まで取り入れている。みたいな話をして、一応納得してもらったというか。

落合:スゲー、6歳ヤベー。

神山:どこまで理解してくれたのかなと思いつつ、そんな質問があったのがうれしかったなあと思いましたけどね。

日常空間をすべてアートに含めていく

西村:このセッションでは29歳とウンッ歳が(笑)。いろいろところで6歳児に負けない感じで話を聞いていきたいと思うんですが。

今ちょうどキーワードでました自動運転とか、神山監督の作品は常に新しいテクノロジーがその中に。『攻殻機動隊』しかり『東のエデン』しかり、あるんですけれども。

あれですよね、落合さんの自己紹介にいくんですけど。落合さんもその『ひるね姫』に含まれているようなテーマを今。

落合:最近はよくやっていますね。まあいいや、とりあえず出してもらえます?

西村:(スライドを出して)ちょっとこちらの。落合さん、お願いします。

落合:はい。うちのラボって、今4つやっていることがあって。1つは「デジタリゼーションとファブリケーション」。なにかというと、人間をどうデジタル化するか。そしてそれをファブリケーションするか。まあロボットを作るとか、ロボットをデータ化するとかいうこと。

もう1つが、「人間の視聴覚機能というのを環境に付けるか、もしくは人間に付けるか」というVR(仮想現実)とかAR(拡張現実)と組み合わせて、人間を筋肉ロボットにするか、もしくは環境を賢くするか。ということをやってるんですよ。

そのもう1つ進んだ感じが「人間のカラダをどう補完するか」ということ。例えば、介護とかリハビリとか自動運転とかどうやってやっていくか。最後は「メディアアートとエンタメ」。この4つでやっていて、ちょっとクリックしてもらうと。

(スクリーン上でリンク先の動画を再生する)

最近、六本木ヒルズで展示してるアート作品なんですけど。普通に浮いているものとか、光っているものとか、物理空間でどうやってアートをするかというのをコンピューター使ってやっているというのが、仕事ですね。それをけっこう意識的にやっていて。

近頃のテーマは、作家としては鏡とか透明体が好きで。環境を映し取る、色のないインスタレーションみたいのが好きなんです。

これは、空を貼り付けたかったんです。盤面に。空を貼り付けるって(ルネ・)マルグリットの絵みたいな見え方をして、キレイだなと思って。日中は日中ぽく光るし、夕方になってくると夕方っぽく光る装置の作品。まあこれ面白いと思うんで、やったりします。

西村:日常空間をすべてアートに含めていくみたいなところですかね。

落合:あとは、見ている人の体の存在感を、どうやって芸術装置の一部にしていくか。これ、浮いていることが最初は面白いんですけど、でも近くでみていると全天球のカメラの映像が回っているように見えるんですよ。

ほら、鏡にピタッと周囲が張り付いているじゃないですか。それに慣れ始めてくるとすごく良くて。日が落ちてくると夕焼け空が張り付いていたりとか、非常に面白い。なんか意外と、海外からの評価も高かった作品でした。

デジタルでモノを動かす

次のそれをお願いしたいんですけど。

西村:はい。

落合:今日、フランスでラバル・バーチャルという賞があって、それをもらったんですけど。

西村:おめでとうございます!

落合:一応、学生さんと僕と、あとアイシン精機さんていうトヨタ系の車の会社。こんなロゴ(スクリーン映像を指して)なんですけど。ここでやってる自動運転とVRの車椅子を作ってまして。

Telewheelchair(テレ・ホイール・チェア)。これの面白いところは、自動運転が入ってくるのはパーソナル・ビークル(個人の乗り物)からだろうと。人間を介護するときに人が乗ってて、後ろから押しているのが普通なんです。

じゃあ後ろの人を外して、存在感だけ残るようにするには、バーチャル・リアリティであそこ(スクリーン映像を指して)に入れるようにする事が大切。

遠くからVRであそこに入ると、人間って、残りの風とかよんだり触覚とかなくなっちゃう。それはある程度、半自動運転にしてあげないと、注意能力が足りないんですよ。

つまり、通信遅延とかもあるので、自動運転能力がそもそもないと、テレプレゼンス(遠隔操作)で介護ってなかなかできなくて。その2つを使う。

だから、環境を遠くの人が見守りながら運転できるようにはするんですが、それ事態はディープラーニングとSpark(ビッグデータの分散処理技術)を使って知能化されてて。周囲の人も認識しながら動けるようにするものとかを研究している。

前から人が来たら、止まったりするみたいなものを、うちのラボでは最近車のメーカーとやっている。実は、車メーカーがうちのラボのスポンサーをしてくれるというのは非常に多くてですね。ここ6年間ぐらいスポンサーしてもらっています。

YOLOという海外のディープラーニングのライバルがいて、これとかよく使っているんですけど。あとSparkで空間認識をしていて。フォローレンズが出る前だったんで、最近は「フォローレンズとかいいなあ」と思ってやっていたりします。こんな感じです。

コンピューター・グラフィックス、ファブリケーション、デジタルでモノを動かす、とかが専門の人間です。

西村:神山監督はけっこう作品の中で、新しいテクノロジーを活かすことがあると思うんですけど。落合さんが今お見せくださったような、……なんでしょう、企業さんなり、学校のラボとかにお話を聞きにいくことって多いんですか?

神山:そうですね、作品を創るときはちょっと取材に行かせてもらったりはしていますけどね。

西村:もしかしたら、今落合さんの作品を観ていて……。

神山:興味深いですね。ぜひ今度。

落合:いつでも遊びに来てくださいよ。全学生が全学的に喜ぶと思います。

(会場笑)

神山:はい。

映画『ひるね姫』は3世代の物語

落合:そうなんですけど。ちょっと僕、『ひるね姫』をみていて思ったことがあって…。

西村:じゃあ、そっちいっちゃいましょうか。

落合:僕ずっと車メーカーと共同研究やってきて、ひと言で言うと、余りにリアルだと。僕、あのネタバレにならない範囲で……。(映画の中に)取締役会の様子とか、社員さんの様子とか、工場の様子とかが出てくるんですよ。

もうなんかね「あっ、これ俺行ったことある」「俺ここでプレゼンして同じこと言われたことある」みたいな。そういうような世界観があって、もう「ザ・ニホン」みたいな映画。「ザ・ニホン」ていつから始まったんだろうな? みたいなことが気になってて……

神山:『ひるね姫』でですか?

落合:あの神山監督の映画って、すごくうまく日本の現状を切り取っている。

西村:うまいですよね。

落合:もうあの今の日本ってまさしくあの印象で。自動運転はたぶんこの世界、この日本の今の感じ、あれがコケたら僕は海外に行こうと思ってるんですよ。

僕は今、教員してるんですけど。なんで日本で教員やっているかと言うと、自動運転まではこの国、面白いと思う。ただ、それがコケたらもうダメだと思っているんですよ。だから自分もコミットしようと思って、自分のラボで研究しているんです。なんかそのタイミングって、うまいなあと思って。

神山:はい。やっぱり作品を創るときに、これは人それぞれなんでしょうけど、今社会で起きている一番大きな問題と、切り結んだ作品を創るというのが、僕のドラマトゥルギー(演出論)としての基本的なスタイルなんですよね。

ただ今回の『ひるね姫』は、僕の中の心境の変化もあったんですけど。今生きている若い、社会とあまりコミットしていないぐらいの若い世代から物語をスタートさせて、最終的に社会と切り結んだ時に、どういう反応が起きるかな? と。

今までとはちょっと、逆のアプローチをしたんですね。その中で、今回の社会問題としては、やっぱり日本の産業、特に成功体験。日本の最大の成功体験である「自動車」と「オリンピック」を絡めてみたんですね。

『ひるね姫』っておそらく3世代の話なんですけど。「自動車」と「オリンピック」を成功体験として、人生を送ってきた世代と。

落合:おじいちゃんの世代ですね。

神山:おじいちゃんの世代ですね。それを受けてその成功体験を追体験しつつ、行き詰まりを感じて打破しようとしている世代。さらにはそういうことと一切関わり合いのない若い世代。というのを3つ描いてます。

「なにが見えてくるかな?」という、自分自身でも今回は割と実験的作品でもあるんですよね。

世代ごとに、起きている事象の切り取り方が違う

落合:あれって、子どもが見たときとおじちゃんが見たときと、あと僕。僕はけっこう微妙な立場で、上司とのいさかいがないんです。ラボのボスなんで。

だから僕は若い世代に分類されちゃうんですけど……。僕と同じぐらいの世代だと、微妙なんですよ。だからどちらか。20代後半になってくると、いわゆる上に圧迫される真ん中の世代か、好きなことやっているかのどっちかなんですけど。あれは本当に、人によって見方も違って超面白い。

神山:そのようですね。

西村:それは狙ってなんですか? 世代ごとにテクノロジーとか、なにが起きているかということに対する切り取り方が違うというのは。

神山:普通というか今までは、僕の世代の目線というのを中軸において作品を創ってきたんですけれども……。今回はともかくいったん目線を一番下に下げるということ。

でも、そこから見えてくることとは別に、派生してくるものってあるんですよね。だから本来映画では、1つのテーマしか入れられないところを、今回は2.5ぐらい入れるという……。ちょっとそういう冒険をしてる作品ではあるんですよね。

西村:世代感と現実と夢とそんな感じですか?

神山:そうですね。テクノロジーのことと、世代の対立というのが大きな2つですよね。

落合:神山監督にとっては、いつもと逆アプローチですね。

神山:そうですね。

落合:要は、人間世代感をテクノロジーで味付けして作ってきたと思うんですけど、テクノロジーを真ん中に持ってきたらぜんぜん違う結果になったみたいな。

西村:そうですね。今までの神山監督ファンだと、新しいテイストを受けた感じがあって。落合さんの作品に対しても、常に1つのポリシーがあるかも知れないけど、創り生み出すものが毎回変わっていて。

神山監督「3.11の影響が大きい」

2人ともどういうカタチで現在とか未来とか過去をとらえているのかなというところで、ちょっとスライドにいきたいなと思うんです。

今いろいろなことを複雑化している世界なんですけども……。お2人は今現在の2017年をどうとらえているのか? 現在ストーリー・物語、どういうものがすごく求められているな、どういうふうに考えてモノを作っているのかを聞きたいんです。

神山:今回は、やっぱり3.11(東日本大震災)の影響が自分の中でもすごくあって。もう6年経っているんですけど、まだ自分の中では完全に消化できない。当たり前なんですけど、まだ被害に遭われた方とかね。その状況はまだ続いているリアルタイムなわけですから、それを総括することはまったくできないんですけど。

自分自身も作品をどう創っていったらいいかということで、やっぱりあれを機会に天地がひっくり返るというか、右と左が入れ替わっちゃうぐらい価値観が変わったと思っていて。これを創っちゃったときに言ったのが、なにも起きない日常というのが、もっとも得難いファンタジーになってしまったと。

それまでの日本というのは、閉塞していると言いつつもけっこう幸せだったんですよね。でも永遠に続く日常がもう幸せではないと感じるぐらいの状況から、一気になにも起きなかったことの方が、得難いファンタジーになってしまったときに、どういう作品を創るべきかってところからまずスタートしたんですよね。

落合:スゲー! あの映画を見た後でわかります。あの映画を見た人?

(会場に問う)

西村:見た方!

落合:おい、見てねえじゃねーか! ちょっと!

西村:じゃあ今週末見にいこうと思っている方。

落合:今週末、絶対に見てください。

西村:ちょっとネタバレになっちゃうかもしれないけど、2回見ているんですよね。

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