CLOSE

パネルディスカッション(全4記事)

「コンテンツに責任を持つこと」が前提にある--All Aboutが17年続けてきたメディア作りの極意

2017年1月27日、オウンドメディアやコンテンツのマーケティングについてディスカッションする「次世代マーケティングプラットフォーム研究会」が行われました。このパネルディスカッションでは、オールアバウト江幡氏やインフォバーン小林氏、ノオト宮脇氏、トランジットデザイン石村氏が登壇しました。モデレーターは、フライシュマン・ヒラード・ジャパン馬淵氏。本パートでは石村氏と江幡氏が自身のコンテンツ作りやマーケティングの考えを展開。江幡氏については、All Aboutのこれまでのメディア作りを語りました。

数字を見ながら、お客さんの文脈を見る

馬渕邦美氏(以下、馬渕):ありがとうございます。次は石村さんお願い致します。

石村浩延氏(以下、石村):株式会社トランジットデザインの石村と申します。お2人の流れからちょっと変わって、僕はコンテンツよりもマーケティングの文脈のほうで「コンテンツマーケティングとは?」について話します。

僕はデジタルマーケティングをかれこれ10年くらいやってるんですけど、実はその前は飲食業界にいたんですね。そのころちょうどiモードとかがすごく普及してきて、携帯電話でWebが楽しめたり、メールも顔文字や写メールなどが登場したこともあり、デジタルなコミュニケーションが注目されてきた時代でした。

そのときに飲食業の運営ではあったんですけど、店舗接客もやってく中で、お客様の反応を見た範囲でしかわからない部分にすごく疑問を感じたんですよね。「直接は見えない反応をデジタル文脈で見ることはできないのか?」「オンラインでも接客をできるのではないか?」と考えてデジタルの会社に入りました。

その中で、最初にデジタルマーケティングの会社に入社したとき、図の上のほうの集客とコンバージョン。この2つの部分をやらせていただいて、キャリアでいうと、リスティング広告を売るところから入りました。そのときに、リスティング広告で見える数字だけを追っかけているのは、なんだか変だと思ったんですね。

みなさんも経験あるかもしれないんですが、デジタルに入って数字を見てしまうと数字ばかりを見てしまい、どうしてもお客様を見なくなっちゃうことがあるなと思ってました。なので、そういったところから、いろんなものを脱却していきながら、CRMやデジタルコミュニケーションを駆使しながら、お客様の文脈がちゃんと見えるように作ることを、自分で心掛けてきました。

その後は……3年前に独立したのですが、BtoBマーケティングのほうでマーケティングオートメーションとかリードナーチャリングが注目されてた時代に、そういった領域に関係した戦略コンサルをする会社に勤めてました。

そういうわけで、お客様とのコミュニケーションに関わる経験を積んできたんですね。今回のWELQ問題で、コンテンツマーケティングにおけるSEOの部分とかコンテンツとか、注目されている方々も多いと思うんですけど。そういった、SEOに関するご依頼を請けることもあります。

あとは、IA(注:情報アーキテクチャ)やUX。要は、リードナーチャリングに関係してくるところがご依頼としては多いところです。

(スライド内の)括弧にしてるところは、基本的にまったく請けてないんでスルーしますが、CRM、マーケティングオートメーションのシナリオ、定着化や組織コンサルみたいなこともさせていただいてます。

メール文面も1つのコンテンツ

基本的には紹介でやっていて、この中ではみなさんの立派なWebサイト持ってるのに、僕だけWebサイトすらない、というような状態です(笑)。弊社の事業としては、デジタルマーケティングのコンサル、あとはWeb制作、コンテンツ制作もさせていただいています。

「コンテンツマーケティングとはなにか?」についてなんですけども。これはまさに文脈に寄り添い育むことなのではないかと思っています、マーケティング観点ですけど。その中で、まずは顧客の理解、そして商品やブランドを理解すること。あとは、時間軸、事業の文脈があるかと思います。

先ほどの文脈の話なんですが、例えば顧客理解のところで、20代、30代、40代、50代に向けてそれぞれ、A、B、C、Dと違う商品を用意するとします。

例えば化粧品会社さんが、とくにわかりやすいかもしれないですね。20代、30代、40代、50代で、買われる商品は違うと思うんですね。なので、それぞれの年代に対して合う商品を用意していくんですけれども。

では、AからBにスイッチするところ、BからCにスイッチするところに、ちゃんと気づくことができていれば、Bが先行して、Aのところのお客さんをBに持ってくることができると思うんですね。そこが、時間軸の文脈の理解というところになります。

昔って、ここらへんのことをやろうと思うと、生のログをひっくり返して見るとか、けっこうゴリゴリやらなきゃいけなかったんです。

最近はしっかりとIA設計されてるサイト、しっかりと分析しているところは、事前の兆候がわかるようになってきました。なので、Bの時点で(スライドの)色がついている部分に対しての予兆を発見できるようになりました。

ここの部分で「どういうコンテンツを見た人にBの予兆があるのか」「どういう商品を買う傾向が表れてきたら、Bを売るスイッチになるのか」というデータの分析だったりコンサルをさせていただいていて、必要なコンテンツやコミュニケーションの定義をさせていただいたりしています。

コンテンツといっても、Webサイト上のコンテンツだけではなくて。CRMなのでメールもコンテンツに含みます。

メールの文章1つとってもコンテンツだと思うんですね。そういったものを活用しながら、分析やコンサルをさせていただいてます。あとは、事業の文脈という話もあると思います。ここはWELQの問題もあると思うんですけど、要は経費の効率化の部分とかですね。

例えばコストに見合わない場合だと、結局、左にある顧客獲得と優良顧客の育成、継続取引の3つに対しては、コストを割り当てられないんですね。なので、そういうバランスも考慮しながら、実現可能な施策をやっていくのが現状だと思います。もちろん、WELQのような問題あるコンテンツは作らない前提で。

Googleが日本で最初に提携したメディア

馬渕:ありがとうございました。では最後は江幡さん、よろしくお願い致します。

江幡哲也氏(以下、江幡):みなさんこんばんは。オールアバウト代表の江幡です。小林さんのようなかっこいいプレゼンを用意できていないので、今日はコンテンツマーケティングに失敗してしまいました(笑)。

IMJの江端(浩人)さんと僕。もう1人、インターネット業界ではKDDIの江幡(智広)さんっていらっしゃって、いつも「エバタ会」をやろうというお話をしている中で、今日ここで話してくれと言われまして。

年末のDeNAの一件もあって、「オールアバウトは、コンテンツメディアとして昔からちゃんとやってるよね」というご評価をいただいております。「オールアバウトがやってるコンテンツマーケティングってどんなの?」みたいな話をしてほしいというリクエストでしたので、オールアバウトのご紹介からさせていただきます。紹介といっても、裏側の話をします。

その前に僕の紹介です。昭和62年にリクルートに入りまして、ビジネスマン歴30年ですね。2000年に独立して、今の会社をやっております。リクルートの最後は経営企画のリーダーとしての全社のインターネット戦略と中期事業戦略の責任者をやっておりました。

僕がインターネットビジネスに初めて関わったのは93年です。ですから、ずいぶん経ったなぁと。All Aboutというサイトは、2001年2月にローンチしているんですけど、実は日本最大のハウツーサイトですね。今でも。

月によって違いますが、今の月間ユニークユーザーが3,400〜3,500万人、多いときで3,800万人くらいの人にコンスタントにご利用いただいています。アメリカには、about.comというパートナーが運営するサイトがありまして僕らがやってることと同じことを99年から英語圏でやっていまして、月間ユニークユーザー数は6,500万人で、両社合わせて世界最大のナレッジサイトと自負しています。

種明かしをしますと、USでGoogleが立ち上がったときに、Aboutがちょうど注目されていたんです。Googleとの二人三脚で検索ロジックを共有して、上位表示をするという構造をもとにコンテンツを作り出したのがabout.comです。

当時はまだまだいいコンテンツ不足してたんですね。いかに検索エンジンを極めても検索先のコンテンツが不足していると意味がない時代で、ネットの検索とその先のコンテンツというのを一緒に作り上げていこうということで、2001年2月に日本にGoogleが来たとき最初に提携したのがAll Aboutです。そして日本でも一緒にユーザー数を拡大していきまして、約3年で月間ユニークユーザー数が1,000万を超えました。

当時はSEOなんて言葉すらなくて、ユーザーがどうやってインターネットを使って幸せになっていくかということに愚直に向かい合おうと始めたサイトです。現在は約1,300のテーマを展開していまして月間ユニークユーザー数は約3,500万人、「専門家がガイドする国内最大級のハウツーサイト」としてまだ成長しています。

非金銭報酬型での構造化

この前のDeNAさんの件でいうと、各分野ごとにバーティカルで検索キーワードにあてるコンテンツを非常に低単価に大量作成することで検索の上位表示を取っていくというのが基本的なメディア構造だと思うのですが、All Aboutは基本的には同じ構造を2000年からやっていますね。

違いは“メディア”としてコンテンツの信頼性に責任を持つことを前提に、巨大なサイトを創ることにこだわった点です。薬機法や著作権法違反をしないことは当たり前として、コンテンツのクオリティに責任を持つことが前提です。あとは、バーティカルではなくて生活分野全般を扱う構造ということですね。ちなみにSEO観点から言うと今はバーティカルでメディア展開する方が良い点が多いです。

All Aboutは生活情報メディアなので、ニュースメディアではない。だから基本的にユーザーには「必要な時に来ていただく」サイトなので、毎日使うサイトではないんですね。またハウツーサイトは基本的にその構造なので検索対応がとても重要で多くの流入は検索から直接該当コンテンツに入ってきます。

やりたかったのは「知らないことで損することを無くす」ですね。仰々しいビジョンですからかなりでかいサイトにしなくちゃいけないと考えつつ、2000年に設計しました。

そして先に述べた通り、巨大なサイトをエコノミクス的に成り立たせるためにコンテンツの生成コストを下げながらもクオリティを下げないというのを、どう両立するかが最大の課題でした。そして、この後説明するガイドモデルに行き着きました。

ガイドモデルというのはなにかというと、我々のコンテンツを生成している専門家たち……All About上の専門家をガイドと呼んでいるんですが、ここに今4名のガイドの例が出ています。今1,000名近くいますけれども、例えば左上のパンのガイドの清水さんですね。

この方、All Aboutデビューする前はパン好きの主婦という方でしたが、All Aboutガイドとなられて活躍されたことで、今は日本で代表的なブレッドジャーナリストになられています。こうやって各分野のプロとして活躍されるポジションを提供するサイトでもあるんですね。

オールアバウトグループでは、そういう人たちを「スキルワーカー」といってます。我々の提供するプラットフォーム上でデビューしていただいて、いろんな活躍機会を提供をする。

例えば多くのユーザーと接点を提供したり、名刺も提供します。一方、サイト上では顔出し名前だしでコンテンツを展開していきますので、自ずとコンテンツの信頼性がご自身にも跳ね返ってくる責任を持ってもらう形になっています。

それで企業の新商品発表会とかにも呼ばれますし、あとはテレビのワイドショーとか情報番組のネタ元として年間2,000~3,000件くらい情報連動やガイドとしてのテレビ出演機会を創出したり、出版社との間で本の出版コーディネートなどサポートしたりなど、情報の拡散だけでなくガイド自身の活躍を構造化してます。

このように、All Aboutのガイドになることにいろいろなメリットが生まれる構造を作っておりまして、それによって直接的な金額ではない……非金銭報酬と言っているんですけど。そういうものを提供することで、コンテンツコストを下げる仕組みを構造化しているビジネスになってます。

網羅感、俯瞰、おすすめ、イチオシ

併せて、先ほど申し上げたSEOの構造とか、この後申し上げるような広告のマネタイズの仕組みとか、そういったものも構造化してビジネスとして成り立つエコシステムを創ってきています。でもガイドになるのは大変で。いろんな審査過程を、アナログでいっぱいやっているんです。

ちなみに僕も自分でガイドでやらなきゃいけないと思ってやったんですが、落とされました。編集長に「他にやることあるでしょ」と言われまして、未だにガイドになれてないんですが……。

こういう人たちがいるとすごく便利で、僕、ネットを使わずに彼らに電話して、すべて事が済む、非常にありがたい存在になっています。なので信頼していますね、とにかく。

今回のような問題は、絶対起こさないようにしないといけないと、「やっぱりインターネットメディアって信頼できない、その程度なの」と思われる。それが嫌なので、創業以来17年、メディアの矜持を持ってずっとそこにこだわっているのがうちのスタイルですね。

ガイドさんは実名で顔出し。システム的には例えば禁止用語とか、いろんなものを自動的にチェックしたり、SEO構造にマッチしたファイルを生成するようなCMSを提供したりしていますね。

コンテンツのクオリティには、エビデンスやパクらないといった基本品質に加えて、編集的なクオリティも当然必要です。なので、単純に好き勝手に書けばいいってことじゃなく「今こういう切り口が科学的に求められている」というデータを提供する仕組みをもとに網羅感、俯瞰、おすすめ、イチオシ、4つのポイントを満たすコンテンツ生成をガイドのみなさんと一緒に取組んでいます。

そしていいコンテンツを創ればユーザーが増えるわけではないので、ユーザーリーチがすごく重要なんですけど、先ほど申し上げたように、検索が最大のリーチで。今でも6割から7割ぐらいかな、リーチの構造化がとても重要。

今でいう分散型(メディア)っていう形式に最初からなっておりまして、SNSを通し分散構造や、各ニュースアプリへのコンテンツフィード、あとは先ほどいったようなマスメディアへの情報提供や人の提供、構造ということで、さまざまな利用接点で影響範囲が広がるような構造になっています。盛りだくさんですね。

態度変容効果という価値提供

ビジネス面に話を移しますと、今まで申し上げたような構造を、実は各企業様に切り売りしてるビジネスをやっています。

コンテンツマーケについては、先ほど小林さんがおっしゃった通り非常に広いので。あえて狭義の意味で、インターネットの宣伝・広告におけるコンテンツマーケティングに絞っていくと、結論一言でいえば、我々が提供する価値は態度変容効果です。

ここにあるのは、いわゆる通常のコンテンツタイアップ型の広告コミュニケーションですが、創業時の2000年の頃って、タイアップ広告に特化してインターネットでやってるメディアは誰もいなかったんです。

バナーがほとんどの時代に、面倒臭いこの広告のフォーマットというか構造を作りまして、累計でおそらく今5,000本以上いろんな商材でやらせていただいています。

ハウツーなので、ある目的を持って記事を読みにくるユーザーがいますから、そのユーザーに(役立つ)情報として広告をお届けするという構造にこだわり続けています。

一応、態度変容のサーベイ(アンケート)を毎回共通でとってます。「知らなかったことを知ることができた」「知って興味を持った」などを全部データとして取得しながら、次に活かしていくことを地道にやっている。いろんなタイプがあるんですけど、そういうことをやり続けています。

昨今ですと、「そういった構造をオウンドメディアに提供してくれ」という話が非常に多くて。自社でオウンドをやっても、コンテンツが続かない、作れたとしてもリーチ構造を作ることができないなどのご相談が増えています。特にコストが合わないと。

「ずっとやり続けられない」とか「メディアチームなんて社内にアセットがない」とか、いろんな問題点をご相談いただくんですが、基本的に我々は制作ではなくメディア社として編集価値を提供しますので、リーチの構造とコンテンツの編集のセットで、オウンドメディアの運用も含めてご提供するパターンが増えています。

この文脈で話は出てませんが、社内でもう1つ、「Facebook navi」というサイトがあります。

これが約500万人のファンを持つ、日本最大級のFacebookに関するサイトですが、こちらでソーシャル上のオーガニックポストも支援できますので、記事によっては、オーガニックで200万リーチの40万クリック出せたりします。そういったものも併せてリーチしていく。ソーシャル、検索、オウンドサイト等を組み合わせて、コンテンツによって態度変容を起こすお手伝いをしています。

ちなみにオールアバウトグループにおけるメディア事業の売上は約4分の1なので、これ以外の事業いっぱいあるんですけども、グループ各事業への貢献含めて、まだまだメディアが中心の会社です。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 大企業の意思決定スピードがすごく早くなっている 今日本の経営者が変わってきている3つの要因

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!