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テレビとネット番組のこれから(全6記事)

これからのテレビが勝ち残るには? フジテレビ大多氏「カニバリを恐れては、永遠に伸びない」

テレビにはカニバって(他サービスを侵食して)きた歴史がある――。2016年12月6日に開催された「IVS 2016 Fall Kyoto」のなかで、テレビ業界とネット業界を代表する4名によるセッション「テレビとネット番組のこれから」が行われました。これからのテレビが勝ち残るために必要なこととは? フジテレビ大多氏がテレビのメディアとしての歴史とともに、そのヒントを語りました。

優先順位を上げるきっかけは、インターネット

大多亮氏(以下、大多):テレビ、とくにマスメディアは、常に「その時代のコンプライアンスや規制の中でがんばる、そして、番組を当てる」に知恵を絞るしかないと思っているんです。

だから、秋元さんの先ほど話していた「きっかけ」ですよね。テレビの優先順位が下がっているかもしれないけれど、少しでも上げるためのきっかけとはなにか。「やはり、インターネットとの親和性は強烈にあるな」が1つありますよね。

あとは、秋元さんや村本さんの話を聞いていて思ったのは、自分はつくづくドラマ屋だなと。だから、意外と真面目なんですよ(笑)。いい脚本をしっかり作って、いい芝居をして、いい演出をしてくれれば、人はかならず来る。そんな理想的なところを、まだちょっと考えちゃうんですよね。

やはり、おもしろければ最終回まで見てくれる。前以上にSNSが発達しているんだから大丈夫などと理想的な事を言ってると「甘い」と、いつもお話されますよね(笑)。

秋元康氏(以下、秋元):それは、最終的には料理の味が美味しくなければテレビを見にいかないわけじゃないですか。ネットの時代に来て大きく変わったのは、昔はちょっと山奥のレストランをオープンして、どんなに味が良くてもみんなに伝わるまでに時間がかかったんですよ。雑誌で取り上げられたり、そこに行った人がクチコミで伝わって、5〜10年かかって名店があるんだとわかる。でも、ネットだと一瞬じゃないですか。

AKB48劇場を作ったときに、普及するまでに3年か5年はかかるだろうなと思ったんですよ。初めに7人しかお客さんいなかったんだけど、その7人がネットに上げてくれた。「すごいのができた」と。これから広がったんですよ。

だから、結局どんなにいいものを作っても、ドラマがいいものであっても、なにかきっかけがあって見てくれなければいけないし、一方でつまらないもので話題性だけだと、シビアな目でつまらないと判断されてしまう。

村本大輔氏(以下、村本):なるほど。テレビとネットは互いに愛し合っているのでしょうか?

僕、福井県小浜市の出身なんです。そこには商店街がわーっとあるんですが、シャッター商店街状態で、どこもガラガラなんです。でも、そこでなんとか食えている人はいっぱいいるんです。

東京の人からすると、福井県小浜市は「え、なにこれ」「こんな店、まだやってんの?」と言うんです。地元の人達に聞いたら、イオンの開店の話が一度あったそうなんですが、断ったらしいんです。商店街のお店が潰れてしまうから、こないでくれと言ったそうです。店同士が一緒に協力しているんですね。……この話、テレビ的なことではまた違う例えですか? 

藤田晋氏(以下、藤田):もちろん、そういう面がもともとあったと思うんですよね。テレビはメディアの王様だからね。

秋元:福井県出身同士だからね。

(会場笑)

大多氏「カニバリを恐れては、テレビは永遠に伸びない」

藤田:僕の感覚では今年はターニングポイントだと思っているんです。民放連のみなさまも、本気でネット配信をやろうと思い始めている。先日、総務省がネット同時配信をNHKに求めたニュースが流れました。ちょっと変わってきたかな、という感覚ありますよね。

大多:同時再送信の話については微妙なんで、僕はちょっと発言しにくいんですけど。いずれにせよ、今のテレビの中で「ネットが出てきたからテレビが見られないじゃないか」「AbemaTVを見ちゃったらフジテレビ見ないじゃないか」「困った困った」と本気で言っている人はそんなにいないと思うんだよね。

ただ、そうは言っても視聴率が奪われる。しかし、僕がずっと思っているのは、テレビはカニバって(他サービスを侵食して)きた歴史なんですよね。

それでいうと、フジテレビはテレビ局で初めて映画事業を始めた。そんなの、映画館へ行ってる間、テレビなんて見ないですよね。でも、それを始めた。イベント事業もやった。今、シルク・ドゥ・ソレイユなんか呼んでますよね。イベントや映画館へ行ってしまったら、テレビなんて見ないのに。

では、なぜやっているのか。「常にカニバるなかで本放送は強いんだ」という矜持でずっとやってきちゃってるんです。

今、ネットがきちゃう。今度、ネットでスマートテレビになったら、まさに本画面とられちゃう。またやられちゃって、テレビは大変だと思うけど、このカニバリを恐れていたら、テレビは永遠にもう僕は伸びないと思っているんですよ。

だから、うまくいくにはなにがいいのか。コンテンツなのか、どういう融合が一番いいのか。少なくともテレビとネットの融合はいい方向にしか、僕には見えないんですけどね。

藤田:この流れで次の質問にいっていいですか? というか、モデレーターの仕事がとくにないことが途中からわかってきたんですけど(笑)。一応いろんな質問を準備してきましたが、あまりいらなかった(笑)。

(会場笑)

先ほど、スマートテレビでテレビ本画面がとられるという話ありました。今年、AbemaTVのコンテンツ調達をしていてよくわかったことが、映画や過去のドラマなど、そういったものがちょっとしたバブル状態になっているくらい、各社が買いに来ている。NetflixやHuluもそうなのかもしれないんですけど。過去の作品の価値が上がっているという現象があったりするんですね。

あと、スポーツ放映権です。例えば、Jリーグがパフォーム・グループでDAZN(ダ・ゾーン)というサービスをやっているイギリスの会社と2,000億円で5年間契約を結んだりしています。Bリーグ、バスケリーグをソフトバンクが125億円で契約するなど、スポーツの放映権の価格は上がっているし、過去の映画やドラマの作品の価値も上がるという新しい傾向が見られたんです。

今後、どのようなコンテンツが持っていれば価値が上がる。逆にこういったものはあまり意味がなくなっていくのか。どうですかね。

コンテンツがありすぎて選べない問題

秋元:例えば、僕はワインにくわしくない。レストランへ行って何千本、何万本と載っている分厚いワインリストを見せられてもわからないんです。「だから、なにを飲めばいいのかをソムリエに聞くのが一番いいと思うんですよ。

今、これだけコンテンツがあって、オンデマンドで見られたりなんなりする時代だと、結局は「なにを見ればいいの」が問われていると思うんですよ。AmazonもHuluもNetflixも、いろんな映画やアメリカのテレビドラマがある。メニューがたくさんある。

その中で「なにを見るか」というと、やはり知り合いの「あれ絶対見て」なんです。『ブラック・ミラー』がすっごいおもしろいよ、とか言われて初めて見るわけですよね。

昔は、コンテンツを集めた方が勝ちという時代があったんですよ。それはなぜかというと、例えば、秋葉原が栄えたのは電気屋さんがあれだけ集まったからです。ここの空き地に電気屋さんが1店舗では、みんなが来ない。

だからコンテンツがいっぱい集まって映画やスポーツやいろんなものがあれば、みんなそこに来ます。会員になります。ただ、今度は逆の現象が起こっているんです。あまりにもありすぎて選べない。この中のどれを見ればいいの、と。

今、一般の人がなにを指針に、なにを道しるべに選んでいるかというと「ヒットした」なんですよ。だから『君の名は。』がヒットしたというと、みんなが見に行くわけじゃないですか。

その初めのヒットはなにかというと、新海(誠)さんの昔の作品から見ていた大ファンで、本当の最小公倍数の人たちなんですよ。この人たちが支えていた「おもしろい」と言ったものを、大衆が追いかけてくる現象になっている。

たぶん、これから高いお金でスポーツを買ったり、高いお金でなにかコンテンツを買うのは意味がないと思う。それだったら、例えばAbemaTVは今からもうカバティだけを追いかけるほうがいい。「5年後には日本でカバティブームがくる」と言いつつ、そう信じてやるしかないと思う。

藤田:そこまで悠長にやっている余裕がないんですけどね(笑)。

(会場笑)

旗幟鮮明なブランディングを作らないと勝ち残れない

AbemaTVやって身に染みてわかったのは、日本は少なくとも国内の優良動画コンテンツは基本的にすべてテレビ局に集まっていることです。オリンピックのようなものにしても、ドラマにしても。そういうコンテンツの価値がテレビ局の今後の活路なんじゃないかなと、うっすらとは感じているんです。

そのあたりどうですか、大多さん?

大多:秋元さんが話したこととほとんど同じですね。これだけみんな、いろんなコンテンツを集めて、なんでも見られる。アメリカのヒットドラマは全部にあるわけですよね。

そこで差別化できないから、オリジナルコンテンツなど、新しい視聴者サービスみたいなところで差別化してなんとか勝ち残ろうとしている。当然、藤田さんもなんか考えていると思いますけど。それがお金かというのは……ただ、Netflixは『ハウス・オブ・カード』に100億かけたから、あれだけヒットしたとも思ってますが。

今思い出しましたけど、彼らとの交渉のとき『テラスハウス』を僕は推薦したんですが、あまり乗らないんですよね。「もっとすごいリッチなドラマやリッチなコンテンツが欲しいんだ」と。でも今や、『テラスハウス』はかなりNetflixの中でも人気のはずなんですよ。本当のことは聞いてませんけど。

例えばFOD(フジテレビオンデマンド)というサービスはなんなんだと。これは圧倒的にドラマ、それもラブストーリーしかない。そういう旗幟鮮明な色やブランディングを強烈に作っていかないと勝ち残れないと思っているんです。

秋元さんも話しているように「幕の内弁当の中に印象に残る幕の内弁当はない」は本当にその通りで。そこの勝負だと思うんですけどね。

藤田:『テラスハウス』のためにNetflixに入ってるみたいな人、かなりいますよね。

大多:そうみたいですね。

藤田:うちの奥さんもそうですけど。

大多:(笑)。でも、アメリカではああいうリアリティショーは、地位が低いのかな? なんかよくわかんないけど、そうらしいんですよね。

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