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パネルディスカッション(全4記事)

社員数万人の大企業でダイバーシティ実現せよ––変革のリーダーが苦悩を語る

2016年10月5日、株式会社チェンジウェーブ主催のセミナー「Why Diversity2」が開催されました。今回は、セミナーにて行われた講演やパネルディスカッションのうち、「企業事例 多様な変革リーダー人材を生み出す企業の施策とは」をお届けします。本パートでは、各社の具体的な取り組みについて言及。企業文化に左右されるダイバーシティの現状を語りました。

自己実現するには、自分で考えなければいけない

佐々木裕子氏(以下、佐々木):なるほど。うかがっていると、もう「こういうのが成功ですよ」というレールもなくなってきて。リーダーになっていくのならば、自分で自己実現をしていくのならば、自分でそこを考えなきゃいけないというフェーズに今、なってきているし、期待もされ始めている。でも、「方法論がないですよね」というのが1個と。

でも、(やりたいことを)言わないとチャンスがこないので蓄積が出てこなくて、今度はやりたいと思った時に、今おっしゃったスキルみたいなものが足りないと。この辺のジレンマが起き始めているのかなということを、私自身もいろんなダイバーシティ推進やリーダー育成をしていて、思うんです。

そういうことが如実に上がっているのは、例えば、女性とか、外国人とか、属性の違いによってのチャンスの差とか、意思を表示するという「Will」の差とか、情報の流入が違うとか。そういうことが起きているだけのような気がしています。構造的には全員に、共通の問題が起きているのかなという気がするんです。

そこを打破しようとか、例えばNPOの人たちと話をしにいこうとか、いろんな情報をどんどん入れていこうとか、自分でレールを決めていこうみたいな施策は各社さんでされていらっしゃるんですか? いかがですか、源田さん。

ソフトバンクで必須の研修は2回だけ

源田泰之氏(以下、源田):まずは前段の自立というか、自分自身で自分自身のキャリア、生き方をどう考えるかみたいなことなんですけど、ソフトバンクの人事制度は、基本的には全部本人が選ぶということを大事にしています。

例えば、研修1つとっても、集合研修で年間1万人ぐらい受けてもらえるようなものを提供しているんですけれど、必須の研修は新入社員研修と新任の課長になったタイミングだけなんです。新入社員研修はまとめてやったほうが効率がいいと。そして新任の課長は、評価とかコンプライアンスとか人事周りについてはちゃんとやらなきゃいけないので。

要は、自分がどうなりたいかという研修も自分で選ぶし、異動もFA制度というのがあります。ジョブポスというのはよくあると思うんですけど、FAなので自分自身で「この部署で活躍したい」と、勝手に自分でその部署にアプライして異動する。今、だいたい1万7,700人ぐらい社員がいるんですけど、昨年で1パーセント、170名以上の人がFAで異動しました。

さっきのソフトバンクアカデミアという孫正義の後継者育成・発掘機関もそうですが、後継者は普通上層部が選ぶじゃないですか。それも自分で手を挙げてですし、新規事業も全部手を挙げてもらってです。強制はまったくなくて、いかに自分で考えてもらうか、自主性をどう育むかというのは人事制度としてすごく大事にしているポイントではありますね。

その後に、佐々木さんにご質問いただいた……。異業種というか、他のものをどう入れるかみたいなことなんですけど、まずソフトバンクアカデミア自体がもう外部の人にすごく入ってきていただいています。

佐々木:そこ自身がもう、多様なコミュニティなんですね。

挑戦できる企業文化

源田:そうですね。孫正義の後継者を発掘すると言ってるのに、政治家とか官僚の方とか、医者とかミュージシャンとか。そこはかなり多様化していますね。外国語しか話せない方もいらっしゃいますし。

佐々木:そうですか。想像すると、それだけ自立性もあってマイペースに自分で選んでいく方々が増えてくると、結果として中長期は確かにいろんなイノベーションが起きると思うんですけれど、短期でいうと「けっこうマネジメントコストがかかりますよね」というのを想像してしまいます。そこについては、折り合いはどうつけていらっしゃいますか?

源田:折り合いはあまりつけてないですね。というのは、現業の中だと、もちろんなかなか合わないとか……。それだけ多様な方達に入社していただいているので、合わない人は当然出てくるんですけど。

ただ、さっき申し上げたような、新規事業起こすとか「ソフトバンクアカデミアで後継者にチャレンジするぞ」みたいなことは、ぜんぜん別なんですよね。ふだんの業務をやりながら、新しい自分のやりたいことにも挑戦できるという環境。そこでチャレンジしてものになれば、もちろんそこを本業としてもらえる環境にしていますので。

佐々木:そういう仕組みがあるので、それに乗れば自動的にできるようになっているということですよね。

源田:そうですね。もちろん、前提として「足元の」というか、今やっている業務でガチッと「1人分の成果を出してやるのが当たり前」という発想なので。そこをしっかりやったうえで「新しいことにもどんどんチャレンジしよう」という、そういうメッセージなんですよね。

ダイバーシティは波がないと進まない

佐々木:小嶋さんは、「ダイバーシティ推進室の解散も視野に入れて、新たな施策を考えている」という噂を聞いたので、本意はどういうことなのかを、今の話と関連性があれば教えていただきたいんですけれど。

小嶋美代子氏(以下、小嶋):半年かけてクロージングを、ということで動き出しているんですけれど、そういう話をするとたいてい「なんてダイバーシティとインクルージョンが進んだ会社なんでしょう」と言われますが、まさかそんなはずはなくて。先ほどご質問されたみなさんの会社のほうが、よほど進んでいると思うんですね。ただ、やっぱり戦略的にはある程度の変化と波がないといけないし、立ち上げたものを誰が収束させるのか。

やはり次の波を、チェンジウェーブさんの名前のとおりですけど、次の波を持ってくるということは、1つ先の波はやはり終わっていくと思うので。だとしたら、そこを終焉させやすいのは、現役でダイバーシティ推進をやっている人が終わらせやすい。

ただ、課題がやはり山積みで。そのうちの1つ、私が一番問題意識を持っているのは、何度も話に出ている多様な人との接点を(持つ)。あるいは、多様な「人」とは限らないと思っていて。

先ほども先生のお話に出てきたような、経験とか専門分野というところを、隣の分野でもいいし、そのまた隣の分野でもいいんだけれど、広く浅くというよりは、違うところに1回飛び出す。そうすると、いかに今までいた場所での当たり前が小さかったか、そして不文律な当たり前を世の中の常識と思い込んでいたかということに気が付くと思うので、そこは知識ではなく経験がすごく重要だと思います。

ソフトバンクさんみたいに会社の中の仕組みで多様性にふれる経験が作れればよかったんですけど、なかなか私の今の力量とポジションでは作りきれないというのもあって。

だったら、さっさと外に出ていく。そして、ある時には強制力を持って(外に)行かなければいけない。そして、どこに行くかも自分では選べないというような仕組みを作らなければ動かないかなというのが、「ザ・日立」な……。

(会場笑)

日立には日立の考えがあるということだったので、まさに本当にそれは感じています。だったら、ちょっと強制力かけようかなと。そっちにシフトしようとしています。

佐々木:大仕掛けにして、人事のプロセスの一環で「いったん外に出てもらいますよ」というのを入れちゃうということですね?

小嶋:そうですね。出るという仕掛けを作るのか、出た人をいかにしてインセンティブ化していくということなのか、そのへんは思案しているところですね。

1人の中に多様性の経験をどれだけ蓄積するか

佐々木:そこにいったほうが早いと思われたのはなぜですか? いろんなダイバーシティ推進の方法論があったはずで、いろいろチャレンジもされていたと思うんですけど。

小嶋:私も変わっているので(笑)、同じことをしたくないというのもありました。

佐々木:同じことをしたくない?

小嶋:ほかの会社でうまくいっているセオリーどおりに、何年か遅れでやっていくということに疑問もありました。世の中が変わっていくのに、3年前の成功事例をもらって、「うまくいきます」というのは「本当かよ?」みたいな(笑)。

そこに猜疑的だったというのと、やっぱり会社の中で息苦しさを感じることは正直あります。馴染めないというか。とくにダイバーシティをやるようになって、摩擦まではいかないんですけれど、「どこで息継ぎしよう?」みたいな時に、外のほうが生きた心地がするというか(笑)。大きくうなずいていらっしゃる方がいますが(笑)。

(会場笑)

佐々木:自分らしく生きられる。

小嶋:先ほど4つあった因子の1つで、やはり自分らしさをどこで発揮するのかという。私はそれを「逃げ道」と、社内でもよく言うんですけれど、逃げ道を用意しておくということは、自分が個人として幸せでいられるということだと思っています。今、私はネパール人の女の子をサポートしているんですけど、本当にまるっきり常識が違うので。「トイレの紙をどれぐらい使うか」とか(笑)。

そういう話から始まって、あまりの違いに自分の無知を知るということもありますし。やはりやってみなければその違いを受け入れられないし。「自分にもこういう面があったんだ」という、自分自身の開発になるなと。自分の実体験から「こんなに楽しかったから、みんなやろうよ」ということが、今後のモチベーションです。

佐々木:そういう意味では、1人の中に多様性の経験をどれだけ蓄積するかという意味でのダイバーシティとイノベーション・チェンジというのを目指されているということですね。

小嶋:そうですね。

多様性を見つける「Will Can Mustシート」

佐々木:リクルートさんはそういう意味でいうと、すごく多様なチェンジ・リーダーを輩出することに長けていると有名な企業さんでいらっしゃるいます。そうは言っても、いろいろなトライアンドエラーをされてこられたんじゃないかと思うんですけど、学びというか、どんなことを感じてらっしゃいますか?

伊藤綾氏:組織は、ややもすると画一化していきがちですよね。ミッションがあってチームで取り組んでいく時に、思考が画一化していくことがある。もしくは前の成功体験を踏襲しようとする。その時に、メンバーに多様な視点を学んでもらうということももちろん大切なんですけれど。

もう1つは、ここにいるそれぞれは、まったく画一的ではないと信じることができるかどうか。それができなかった時はやっぱり私自身も失敗しましたし、できる時はきっと彼ら・彼女らがリーダーになっていくのかなと思うんですね。

それを全体的に、どういう仕組みでやっていくかという1つの事例として、リクルートでは、「Will Can Mustシート」という仕組みがあります。

「Will」「Can」「Must」というのは、「Will」欄には、短期的/中長期的な自分のありたい姿を書き込みます。それを半年に1度見直して、上司と面談をするんです。メンバーの「Will」を、見るとやっぱり、1人として同じ「Will」に出会ったことがないんですよね。

要は、最初はリクルートの中で期待されている「Will」を書こうとするのですが、必ずしもそうではなくて、人生の「Will」を書く人もいるんですよ。長期的な「Will」と短期的な「Will」を書くんです。なので、私も一生懸命書いて、来週自分の上司に見せるんですけど、すごく恥ずかしいけど書くところもあるし、それも書くものだと思うので書いています。

そうすると、「この仕事でこうなりたい」というメンバーもいれば、20年後は、例えば「アーティストになりたい」とか、「リクルートをこういう会社にしたい」とか、いろんな視点が(ある)。「Will」は多様なんですよね。

「Can」欄では、自分の強み・弱みをきちんと認識するために、スキルが優れている点、克服すべき点を、上司も一緒に書き込みます。強み・弱みをきちんと認識するんですね。「Must」欄では、そんな「Can」と「Can not」を持ったあなたが、あなたの「Will」を実現するために、リクルートのどのミッションと接続して、その半期に具体的に何に取り組むのかを上司と握ります。この「Will Can Mustシート」の運用によって、半年間のミッションが決まり、そこに基づいた評価がされます。

そうすると、例えば「20年後にこうなりたい」というメンバーがいたら、その「Will」を実現するために、会社・組織の持つ「○○という商品を作る」といったミッションを、どういう切り口で彼女に任せれば、彼女の20年後の「Will」とつながることを彼女が発見するだろうか、と考えるんですね。それをほぼ全員に対して丁寧にやっているということが、特徴的かなと思います。

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