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「日本初の遺品整理屋が見た、急増する事故物件」 超高齢化社会における賃貸経営のリスク対策(全2記事)

日本初の“遺品整理専門会社”が語る、事故物件の実情

賃貸物件をはじめとする不動産のオーナーを対象に、賃貸経営に関する情報提供をテーマとしたエイブル主催のイベント「全国賃貸オーナーズフェスタ 」。キーパーズ有限会社の吉田太一氏が登壇したセッション「『日本初の遺品整理屋が見た、急増する事故物件』 超高齢化社会における賃貸経営のリスク対策」では、吉田氏の実体験やデータに基づいて、賃貸経営における大きなリスクとなる“事故物件”について、大家が知っておくべき準備や対処法について語りました。

日本で初めての遺品整理専門会社

吉田太一氏:みなさまこんにちは、吉田でございます。遺品整理専門会社を全国直営で行っております。

全国で年間1,700件ほどの遺品整理をしていますが、そのうち約半数くらいは賃貸物件での依頼です。

賃貸物件でお一人住まいの方が亡くなったというケースがほとんどですが、亡くなった方の身内がまったくいない場合の仕事というのはほとんどありません。

一人住まいであったとしても、ほとんど遺族がいらっしゃるので、遺族からの依頼で受けている仕事が99パーセントです。

そのなかで、みなさんがイメージされているような、死後何日もたっても発見されないような孤立死現場が、うちの会社の場合、年間で300~400件あるんです。

私の経験では、一番長いもので、死後3年で発見されたというケースもありました。社員から聞いた話では、死後5年というのもありましたが、「よく死後5年も発見されなかったよな……」って感じですね。

5年間、なぜ発見されなかったのでしょうか? 家賃が全部引き落としで、ちゃんと通帳にお金があったのでずっと滞納がなかったということも要因の1つだと思います。

ある死後2年の場合は、オーナーがすでに死んでいて誰にも気づかれず、オーナーに身内がいなくてそのままになってしまっていたケースです。

オーナーの死を入居者は知らずにずっと家賃を振り込んで住んでいた。また、滞納していたけど催促が無くて、タダで住めるなと思っていた人もいたと聞いたこともあります。

こういう話をはじめにすると、「部屋で亡くなった方(孤立死)専門の会社かな」と思われるのですが、70パーセントは病院で亡くなられたり、自宅で看取られながら亡くなったり、死後24時間以内にヘルパーさんなどに発見された方の遺品整理です。

オーナーさんたちが、他の孤立死や自死物件の話を聞いて、「いや、うちはそんな経験がないから大丈夫」って言うんですけど、そうじゃなくてこれからは、このような事に対する事前の対策を立てておかないといけないと時代になるのです。

冒頭で言ったように、一人住まいの方が亡くなったときに、必ず遺品整理が発生するわけですが、時間が無くて遺品整理ができない方や、兄弟が少なく高齢で出来ない遺族などがたくさんおられるのです。

そういうときがあればゴミ屋さんや便利屋さんではなくじゃなくて、遺品整理専門の会社もあるんですよということを、オーナーが遺族に提案できるようにしていただければと思っています。

生活スタイルの変化、一人住まいの増加

そもそも私が17年前に日本初の遺品整理専門会社を創ったのですが、もっと昔からあっても、おかしくないと思いませんか?

私の年齢が、52歳ですから。まだ52歳なのに「えっ? まだ若いね、お父さんの会社?」って言われることも多いくらいです。

昔の日本では、先祖からの土地を守り、親と子が同居する家制度っていうのがしっかりしていて、なかなか一人ぼっちになる年寄りっていうのが少なかったんですね。

ところが最近は、一緒に住む家族のほうが少なくなっています。そして不動産価値の下落によって地元に対するこだわりも薄れ、賃貸マンションとか賃貸アパートに、高齢者がこれからどんどん1人で住むようになります。

賃貸経営をしている側からすると、高齢者を入れないと、どんどん空室率も上がってしまうので。高齢者だからダメだとか、外人だからダメだとか、母子家庭だからダメだとか言っていられないのです。人口が減少するのですからそういう人でも入居していただき、部屋を埋めていかない限り、経営が成り立たなくなるのです。

このような生活スタイルの変化に伴い家族がバラバラになり、ますます単身世帯がたくさん増え、1人で住んでいてもテレビも冷蔵庫も一通りに家財道具は揃っていますので、その身内が亡くなった時には誰かがその遺品整理をしなくてはいけなくなる。

それを同居していない身内が片付けに行くのも大変だし、分別や曜日指定などが煩雑すぎて、自分たちでは整理することができないなどという事情が発生してきたのです。

逆に、同居している方の遺品整理は基本的には少量ですし、おじいちゃんが死んだから、みんな捨てて新しいのに買い換えようというのはないわけですから、専門業者の手を借りる必要はありません。

要するに、家財道具が共有の財産だったのが、単身世帯者1人の専有の財産に変わってきたということなんです。

遺品整理会社を創ったわけ

昔、私は大阪で、日本初の「ひっこしやさんのリサイクルショップ」というのをやっていました。引っ越しと同時に、ものを買い取ってあげます。そうすると引っ越しする人も、出費が抑えられるので、喜んでくれるのではないかと考えたのです。当時は、非常に便利で器用な引っ越しセンターだと言われテレビにもよく出てたんです。

そういうときに、たまたま1件の見積もりに行きました。依頼内容は、東京の自分の家と横浜の妹の家まで家財を運んでほしいとのことでした。もちろん、引越センターですから、わたしはその仕事を受けました。

しかし部屋の中をずっと見渡すと、まだ95パーセントくらいの荷物が残ってるわけですよ。うちの会社は買い取りもできるし、なんでもできるんで、一応念のために「あの荷物どうされますか?」と聞きました。するとタウンページとかを持ってきて、「今からリサイクルショップとか便利屋さんを探すのよ」と言われたので、「僕全部できるんで、やりましょうか」って言いました。

するとその方がびっくりして。「全部やってくれるの!」ってすごい喜びようだったんで、ちょっと冗談半分に、「全部やるけど金かかりまっせ」って言ったんです。そしたら、「そんなこと分かってるわよ! お金は払うわよ!」って怒られたんです。しまった、しょうもないこと言わんかったらよかったなって思ったんです。

しかし、そのあとすぐにその方が、僕に「でも全部やってくれる人は神様に見えるわよ」って言ったんです。

いま怒られたのに、すぐに神様に見えると言われて一瞬意味がわからなかったのですが、よく部屋の中を見直したときに、これは遺品の整理だということに気づいたんです。

この姉妹のお父さんがこのマンションに1人で住んでいて亡くなったようでした。そして、お葬儀をあげに大阪まで帰ってきたんだけど、その後に大量の荷物(遺品)を片付けないといけないことに、葬儀を終えるまで気づかなかったわけで困っていたようでした。ましてや、住まいが関東ですから、頻繁に通える距離ではないですからね。

今月中に片付けないと、また家賃もかかってしまいます。いろんな業種に頼まないといけないと思っていた、そんな時に私が「全部お受けしましょうか」と言ったことが、その方々にとってみたら驚きだったらしくて。

私と会う前は、そのまま2~3日滞在して、いろんな業者を呼んで、見積もりとらなあかんと思っていたようですが、私が全部やりましょうと言ったことによって、することが無くなり、その日中に東京に帰ることができたというわけです。その時に、私はこういう人たちが世の中に、これからどんどん増えるだろうなと思いました。

その後会社で調べたところ、そういう遺品整理専門の会社がなかったので、17年前に遺品整理サービスというのを始めました。それがもう今では、年間で1,700件も受注するようになっています。

最近は身内の死をあまり公表せず、お葬儀があってもご近所に黙ってるケースも多く。家族だけでお葬儀を挙げて、後で報告するみたいなかたちも増えてきました。

それなのに、「実家の荷物の片付けを手伝って」って、近所に言えないですしね。昔はお引っ越しもお葬儀も近所の人が集まって、みんなでやってたんです。でも最近は、そういった慣習も無くなってきたということなんです。

はじめに言いましたように、やっぱり一人住まいの方が亡くなった方から、それを片付ける必要があり、また片づけられない事情のある遺族が増えているということです。

孤立死や事故による心理的瑕疵物件の増加

それから、最近賃貸物件で発生している、孤立死が非常に多いように思われます。うちの会社でお手伝いする遺品整理の中で、部屋で亡くなっただけのケースは、1,000件以上あるかもしれません。

しかし24時間以内に見つかったか、最後に看取られたかで事故扱いになるようなケースではありません。

そのうちの、年間に300件から400件は、部屋で亡くなられて発見が遅れた、事故物件であるとか心理的瑕疵物件といわれてしまうケースだといいましたが。この300件~400件っていうのは、吐血の後があるとか、シミが付いてるとか、虫が湧いている、死臭が漂っている。「あ、ここやな」っていうのがわかるようなかたち。そういった現場だけでもそれだけあるということです。

発見が遅れた遺体は、だいたい10日~1ヶ月くらい経ってくると、一番臭いも酷いですね。なかには、夏場に日の当たってる所だったら、3日でもう蛆虫が湧く人もいるんです。

現状は7~8割って言ってもいいくらいに男性が多く、社会から孤立しやすく、友達が少なく、入居者のアパートの近くにほとんど友達がいない。そういうケースが多いんです。

また、みなさんが想像するのは65歳以上の高齢者が多いと思うでしょうが、うちの会社の経験で言えば、月によっては高齢者よりも65歳以下の人が多いときがけっこうあります。孤立死と言われるような死が月に12件あったら、8件が64歳以下、65歳以上の方が意外に少ないなんて月が多いのです。

なぜかというと、65歳以上になると“高齢者”だと自分も自覚しますし、周りも、うちの親も高齢者になったんだから、ちょっとくらい意識しないといけないなっていう気持ちにもなってくる。そこのちょっと下の年齢の方が、意外に危険で、けっこう部屋で亡くなってなかなか発見されない人が多いように思います。

ちょっと次(のスライド)に行きますね。これはお風呂場で亡くなってたケースや、絨毯の上で亡くなっていたケースです。絨毯をめくっても、畳にシミが付いていますよね。これがアパートで2階だった場合には、体液が床までいってシミついて、下の部屋までポトポトとか……。

1階の人にはホテルにしばらく滞在していただいて、ホテル代やその部屋のリフォーム代もすべて、オーナーが負担しないといけないというケースも多い。亡くなった方とかその親族の方とかが、お金があればいいんですけど、なかったら、オーナーさんの負担になるケースがほとんどで、国や自治体などが負担してくれるケースっていうのはほとんどありません。だいたいこれで1階までいってしまうと、リフォーム代だけでも100万は下らないのです。

また後ほど言いますけど、最近はこういったケースのたびに、少額短期保険で、家賃保証と現状回復費用で約300万とか。そういった保険が出てきていますので調べておくことをお勧めします。

これからの時代は、はじめから遺族のいない1人ぼっちの入居者でも入れないといけないので、そういった保険に加入し、なにかしら自分の物件を守るためのリスク対策を講じないといけない。

遺族との交渉についても、あまりこっちが強引にキツイ請求をしても、遺族に「じゃあ相続放棄します」といわれて手続きされると、一切の費用負担もしてもらえなくなります。

遺族に払う意志があるうちにできるだけ妥協点を見出して、いくらかでも払ってもらうという考え方が早く片付けてリフォームして貸し出せる最良な方法だと思います。

相続放棄っていうのは、これからとてもたくさん増えますので、遺族がいるからどうこうっていうのは関係ない。

保証人に関しては、一応保証人としての債務があるので。保証人が亡くなっても、最後保証人の子供が引き継ぐっていうことになりますから、一応その気があれば追っかけていくことができます。でもあくまでも、相手にお金があったらの話。相手にお金がなかったら、取り戻せないわけですからね。

心理的瑕疵物件はますます厳しい状況に

実際に、孤立死が発生したときに、どういった負担発生するのかというと。現状回復にかかる費用に引っ越し費用、宿泊費用の負担、最終的にとれても、一時的にはまず建て替えないといけない。隣の部屋の入居者が、気持ち悪いからもう退去するとか。もちろん家賃の価格にも影響はのこります。

もう10年くらい前ですけど、8室しかないアパートの入り口横の部屋で、入居者が死後1ヶ月で発見されたケースがありました。

気持ち悪いと、ほかの入居者は全員転居してしまって、入居者が空になってしまったのです。バブルのときに数億で買った収益物件ですのでただでさえ返済のめどが立たないのに家賃収入が0になり、「孤立死どころか私が死にたいわ」っておっしゃっていたオーナーがおられました。

心理的瑕疵物件とされる場合は、告知義務があります。これには何年経ったら告知しなくていいのかという決まりは、ありません。法律とかでも決まってなくて、弁護士さんとかでもたまに適当なこと言っている人がいて大丈夫かなと思いますけど。

県によっては、10年経ったら言わなくていいだろうとか、20年経ったら言わなくてもいいだろうとかいうようなことを言いますが。

あくまでも裁判の判例を見る限り、バラバラ。だから絶対大丈夫じゃなくて、絶対言うしかないっていうことです。それによって、やはり物件的な価値というのは、非常に下がります。

ただ殺人とか自殺と、死後何日で発見された孤立死とは違って、2~3日で見つかった腐乱せずに綺麗な状態の孤立死だったら気にしないという人もいます。

自殺っていうのを最近は自死って言いますが、考えてみたら「自分が死にたい人が亡くなったんだから、入居者を恨むことはないやろう」っていうのは私の考え方なんですけれども。いずれにしてもそういうことになってしまうと、賃貸の場合でも売買の場合でも、絶対に次の入居者に事前に言わないとダメなんです。

とくに売買の場合は、12階のマンションで12階の1室でそういうことがあったとしても、1階を購入する人に、12階の1室に2~3年前にこういうことがありましたよって言っておかないと、1階買った人でも裁判するとか、これはいらんとか、お金を返してくださいって言う人も出てくる。それほど“告知義務”っていうのは、シビアに考えないといけないんです。

そういうふうに告知すると、当然家賃を下げないとなかなか入居者が決まらないのは当然ですね。

さらに、現在、空き家が820万戸と言われている時代です。これも4~5年前の話ですから、今は空き家が900万戸を超えているのではないかと思われます、このような現状の中で心理的瑕疵物件となった物件はますます、厳しい状況に置かれることになります。

10年以上前の話では、大学の近くだったら、学生の女性でもそんなこと気にしませんって言う人も多かったとかで、少し家賃を下げるだけでも、けっこうすぐに次の入居者が決まっていましたなんてこともありましたが。

でも最近は空き家、空室っていう言葉が毎日毎日あちこちで耳にするようになり、ユーザーも知っていて、空き家いっぱいあるんだからちょっと値段下げてよって言いやすい時代になってきたとも言えます。

需要と供給のバランスで入居者の立場が強くなってきているわけです。そういうときに、部屋で亡くなった人がいたとなると、「え?」っていうことになります。当然ですよね。

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