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スペシャル対談 土屋雅史×玉乃淳(全2記事)

Jリーグが2倍楽しくなる裏話--解説者・玉乃淳を大抜擢したPの苦悩と決断

サッカー解説者の玉乃淳がスポーツ・ビジネス界の第一線で活躍するキーマンの半生をたどる「スペシャル対談」。今回は、TVプロデューサー・土屋雅史氏のインタビュー後編を紹介します。※このログはTAMAJUN Journalの記事を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

玉乃淳を解説者に抜擢した理由

土屋雅史氏(以下、土屋):でも、なんで僕が玉乃くんに仕事をお願いしているか知ってる? 「なんだ、あの解説!」っていう意見もあるのは承知しているんですけど。この対談が決まったときに、このことを伝えたいなと思って今日ここに来たんです。

僕は31歳でJリーグ中継のプロデューサーになったんですけど、それまで視聴者側で試合を見ていて、思うところはいくつかあったんですが、いざ自分が制作の責任を負う立場に立った時に思ったんです。「あれ? 中継の内容自体に手を加えることは何ひとつないな」って。

先ほども言いましたけど、制作チームのテレテックさんはすでに日本一の制作チームだったんです。とにかくクオリティもモチベーションも高くて、100パーセント信頼できる方たちだとすぐにわかりました。

そこで、「何を加えたらより良い中継になるかな?」と考えて、自分が当時若くしてこのポジションに抜擢してもらったということもあり、今度は逆に自分が若い解説者を発掘して、新しいサッカーの見方を世の中に伝えることができたらなって思ったんです。

玉乃淳氏(以下、玉乃):なんかドキドキしてきました。起用する側とされる側の前代未聞の対談となっていることに今更ながら気づきました。なんか怖いです(笑)。

土屋:若くして引退して、いきなりカナダに留学して、外国人の友達をたくさん作ってとか、バイタリティがあるなとは思って見ていたんです。

当然現役時代の玉乃淳も知っていたわけで。高校からスペインに行っていて、26歳という異常な若さではありましたけれど、なにか新しいことが生まれるんじゃないかなって思ったんですね。本当に未知数の塊ではありましたけど。

玉乃:お話をいただいたときには本当に驚きました。実績もない、イケメンでもない僕が「嘘でしょ!?」って。

土屋:未知数過ぎたけど、一つ確信していたのは、玉乃くんが「サッカーが本当に好きであること」だったのね。これは仕事を一緒にさせていただく上で僕の唯一にして最大の条件なんです。だから玉乃くんが「サッカーが大好き」である以上、どう転んでもいいやって、思い切って抜擢してみたんです。

玉乃:まさか今日こんな話になるとは夢にも思ってもいませんでした。恥ずかしさと怖さが入り乱れています。

土屋:まあ、玉乃論を語れる人は僕しかいないんだからいいじゃない。だってほかの局のどのプロデューサーもこれまで怖くて誰も使ってこなかったんだから(笑)。

玉乃:(笑)。

解説者にとっての“中立性”

土屋:玉乃くんが今のような注目のされ方をするとは思ってもいませんでした。今でこそ、少しずつ評価されてきて、なにか独特の感性だとか、「おもしろい!」とか世間から思われ始めているようですけど、「おもしろい」とかは僕にとってはどうでもいい部分なんです。確かに僕も中継していて、笑っちゃうこともありますよ、「こいつバカだなぁ」って。

玉乃:……。

土屋:でもね、玉乃くんが「解説者として、この部分は日本で一番かな」と思うところもあるわけです。

玉乃:……。

土屋:僕は玉乃くんが日本で一番「中立」な解説者だと思っているんです。僕が考える「中立」というのは、目の前にあるゲームの熱とか、そのゲームの意味などを見たまま感じて、そして伝えることだと思っています。

目の前にあるゲームとどれだけシンクロできるかが重要だと思っていて、そういう意味ではピッチで起こったことに対する反応の速さや熱量は、玉乃くんはすごいんですよ。

だから聞く方によっては、片方に肩入れしているように聞こえることもあるし、肩入れされていないと思われる方も当然出てくるとも思うので、厳しいクレームが来ることもあると覚悟していました。

ただおそらく、スタジアムで実際に見ている人は玉乃くんと同じような感覚で見ているはずなんですよ。スタジアムの空気を的確に画面に伝えるという意味では日本一の解説者と言って、間違いないと思います。ちょっぴりおバカだけれど(笑)。

玉乃:最後(笑)。せっかくうれしくて泣きそうな話でしたのに。

土屋:『マツコ&有吉の怒り新党』で第2の松木安太郎さんって言われていたけれど、松木さんと玉乃くんの決定的な差は、松木さんはたぶんすごく頭が良くて、確信犯的な部分もあるはずだけど。玉乃くんは……ねえ?(笑)。

玉乃:僕の話はもう置いておきませんか?(笑)。

放送形態が変わるJリーグの未来

僕の話なんかより、来年以降Jリーグの放映権元が変わり、目まぐるしく放送形態が変わりそうですね。土屋さんはどう観察されていますでしょうか?

土屋:メディアの人間としては、思ったよりテレビからネットに移行するのが早かったなと思っています。もう少しテレビの時代が続くのかなと思っていましたから。

ただ、1人のサッカーファンという視点で見ると、安く試合がいっぱい見られるようになるわけですから、とても良いことだと思います。カメラ台数もこれまでより数台増えるみたいですし、お金もさらに掛けられるようになるわけですから期待は当然できますよね。

ただ、中継の質はカメラの台数で決まるわけではないですからね。中継の質という意味では未知数なところもあるかと思います。作る側がサッカーを好きでないといけないと思うんですね。

このゲームにはこう意味があって、こういう背景があって、だからこのタイミングでこの選手を映す、みたいなものが必要だと思っています。そうでないと普段からサッカーを愛して、お金を払って、いつも観てくださっている方に満足いただけないと思いますから。

僕のようなプロデューサー職の人も含めて、制作スタッフ、実況、解説者全員がサッカーが大好きだという前提がなければ、中継の制作費にどれだけお金を掛けたとしても、必ずしも良い中継になるとは限らないと思います。

夢は「サッカー好きを1人でも増やすこと」

玉乃:土屋さんの人脈とか、サッカーへの造詣の深さを考えると、例えば指導者とか、チームのスカウトとかGM(ゼネラルマネージャー)、この先ありとあらゆる可能性が考えられるかと思うのですが、ご自身では考えられたことはありますでしょうか?

土屋:確かに、単にサッカーが好きというだけでは絶対に会えないような人たちに、これまでたくさん会えてこられたので、その多くの出会いを活かして、夢ある子供たちにサッカーを楽しめる機会を作ってみたりできないかな、なんて考えたことはあります。

ほかにも「これができたらおもしろそうだな」と思ったりすることはありますが、今は現在の仕事に全力で向き合っています。

玉乃:サッカーが大好き、サッカーに恩返しがしたい気持ちが溢れ出ていますよね。今現在、恩返し率で言ったらどれくらいなのでしょうか?

土屋:さっきも言いましたけど、サッカーのどこがいいかって、絶対終わりがないんです。「サッカー好きを1人でも増やすこと」が僕の夢なんですけど、その目標って達成することは絶対ないので、だから一生サッカーに関わっていくことができるんですよ。

終わりのない夢があって本当にラッキーだと思っています。当然玉乃くんを起用させていただいているのもその夢の実現のための手段の1つです。たぶん玉乃くんを通じてサッカーを好きになった人が増えたとも思いますし。

玉乃:もしそうでしたらうれしいです。

土屋:しかも表に出る人ってリスクを背負って、僕も含めた会社のために矢面に立ってくれているわけですからね。僕らの仕事は万全に矢面に立っていただける状況を作ることです。

当たり前ですけどそこは絶対に手を抜いていないです。僕らのミスで出演していただく方になんらかの影響が出ることは、絶対にあってはならないですから。

玉乃:土屋さんのその想いが、今後何十年、何百年、すべてのサッカー中継に引き継がれていくことを祈ります。

土屋:まあ実際は、想いがなくても仕事はできるんですけどね。時は流れていくので。想いはお金にならないから、時に軽視されがちになりますよね。でも、僕はサッカーへの想いや小さなこだわりを、感謝の気持ちを、自分ができる範囲でどのようなかたちであっても伝え続けられればと思っています。

玉乃:今日もラフな格好をされていて、いつもまったく飾らない人柄ですが、最後にテレビマンとして、そしてプロデューサーとしての顔を見ることができました。やっぱり土屋さんはハンパじゃないです。

土屋:「プロデューサー」って言われたり、思われたりしてもぜんぜんうれしくないなぁ。改めて、この対談を通してでも「お! Jリーグそんなおもしろいの? じゃあ、1回見てみようかな!」って思う人が1人でも多く現れてくれたらこの上ない喜びです。

【土屋雅史(つちや・まさし) プロフィール】群馬県立高崎高校を卒業し、早稲田大学法学部を経て、2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。「FOOT!」のディレクターを務めたのち、プロデューサーとしてJリーグの中継を担当する。国内外カテゴリー問わず、サッカーに関する見識は、業界内有数で、「ツチペディア」などの異名も。多忙な業務をこなす傍らで複数媒体にコラムを寄稿する随一の愛サッカー家。

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